47・ミニマムボア、いざ実食
私たちは移動し続け、夜になったところで野宿をすることになった。
そしてお楽しみの晩ご飯タイムだ。
「美味しいわ!」
ミニマムボアの肉に舌鼓を打つ。
もちろん、このミニマムボアは昼間に倒した魔物である。
野宿ということもあって、本格的な調理は出来ない。
解体したミニマムボアを、魔法で起こした火で焼く。
あらかじめ持ってきていた香辛料をさっとかけて、途中で摘んだ薬草を添える。
こんなシンプルな料理なのに、どうしてこんなに美味しいのかしら。
「くくく、美味しいか。やはりノーラは面白いな」
アシュトンもミニマムボア肉を食べながら、私の顔をジロジロと見る。
「なにが面白いのよ? アシュトンは美味しくないってわけ?」
「美味しいぞ。ただ……普通は魔物食っていうのは、独特な臭みもあって好き嫌いが分かれるところだ。しかも本来なら時間をかけて血抜きするところを、ちゃんとやっていないから余計に臭い。それなのに美味しいなんて言うとはな」
「はって、おいひいから、ひかたないじゃない」
もぐもぐもぐ。
「食べながら喋るんじゃない! 行儀が悪いぞ!」
ライマーは相変わらず、学校の先生みたいなことを言う。彼は私はなんなのかしら?
確かに、ミニマムボアの肉は独特の臭みがあった。
けどそれを我慢すれば、ろくに味付けしていなのに美味しいし、脂っこくなくて意外とさっぱりしているというのが所感だ。
それに慣れると、この臭みがやけに癖になる。
お腹が減っているというのもあるかもしれないけど……これならいくらでも食べられそう。
「でもどうせなら、ちゃんとしたところでこれを調理したかったわね。ハンバーグがいいかしら? それともシチューに入れてみる……? またジョレットに帰ったら、カスペルさんに料理してもらうのもいいかもしれないわね……」
夢が広がるわ。
そしてミニマムボアの肉もおおかた食べ終わり、私たちは今後のことについて話し合うことになった。
「というわけで──おい、ノーラ。随分と眠そうだな。ちゃんと聞いているか?」
「だ、大丈夫よ。心配しないで……」
とは返すものの、眠気がすごい。
調子に乗って、食べすぎちゃったみたいね。
「アシュトンさん、もうこいつは馬車の中で寝かせて、オレたちだけで喋りましょうよ。こいつは役に立たん」
「まあそう言うな、ライマー。ノーラも大事な旅のお供だ。ノーラとだけ情報を共有していないのも、後々まずいだろう?」
「アシュトンさんはノーラに甘すぎます」
ライマーが非難の声を上げる。
しかも彼は私のことを、まるで牛を見るかのような目で見ている。
もしかして私、公爵令嬢うんぬんより人間として見られていない?
普段の私なら、ライマーに怒ってたんだけど、なにせ眠いのでそれをする気は起こらなかった。
「眠いけど、話は聞いてるわ。私たちが向かう場所はクロゴッズ。そこで各地から冒険者が続々と集まってきているのよね?」
「そうだ」
アシュトンが首を縦に振る。
「作戦決行はおよそ三日後までに迫っている。まあ、このペースで進めば十分クロゴッズには間に合うだろう」
「ふうん、急ぐ必要はないわけね。それで明日は橋を渡るって聞いたけど?」
「ちゃんと聞いていたようだな」
アシュトンは広げた地図に視線を移し、私にこう説明する。
「まずここに崖があるだろう? この崖の向こう岸に渡るためには、橋を渡らなければならないんだ」
地図を指差しながら、説明を続けるアシュトン。
「ここを渡れば、クロコッズまでもう少しだ。一日も馬車を走らせば到着する」
「なにか注意点はないのかしら?」
「ないな。平和な道のりだ。お前が期待する──ドラゴンなんて出てこないぞ」
「そう……それはちょっと残念ね」
「まあ、そう言うな。安全が一番だ」
肩を落とす私を、アシュトンが慰める。
でも安全が一番なのは同意。私だけならともかく、アシュトンやライマーが危ない目に遭ってしまうのはダメだわ。
……まあ、そんなことがあっても私が助けにいくけどね!
そうしたら、ライマーの私を見る目も変わるだろう。多分。
「となると、遅くても明後日にはクロゴッズに辿り着けそうですね」
「だな」
アシュトンとライマーの声が遠く聞こえる。
「よし、じゃあ今日のところは早く寝て、明日に備え……ってノーラ!? お前、まさかここで寝る気か?」
話が終わったのを見届け、私は適当な地面で横になっていた。
「うん。だって野宿でしょ? なにが悪いのかしら」
「お前は女なんだぞ? しかも公爵令嬢だ。お前は馬車の中で寝ていろ。オレとアシュトンさんは、そのへんで寝るから……」
「あら、心配してくれてるの。ありがとう」
「だ、誰がお前を心配なんてするか! アシュトンさんからもなにか言ってやってください!」
「まあいいじゃないか。星を眺めながら寝るというのも、それはそれで風情があるぞ。寝ずの番は俺がするから、お前も寝ていろ」
「なに言ってんですか! それくらい、オレが──」
アシュトンとライマーがなにやら喋っていたが、当の私はもう限界だ。
「ごめんね……アシュトン。二時間くらいしたら起こして……交代、するわ……」
「お前は朝まで寝ていろ。お姫様を守るのは俺の役目だ」
アシュトンの大きな手が私の頭を撫でる……感触がした。
お姫様? それって私のことかしら。
問いかけようとしたけど、もう意識は半分夢の中。アシュトンの手の感触が心地よかった。
そこからは真っ逆さま。
完全に寝入ってしまったのだった。




