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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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45/86

45・お留守番だなんて……我慢できないわ!

「楽しそう! 私も連れていって!」 


残念ながら、そうは問屋は卸さない。

 私は前のめりになって、アシュトンに詰め寄った。


「……はあ」


 一方、アシュトンは額に手を当てて溜め息を吐く。


「お前のことだから、どうせそんなことを言い出すと思っていたがな……予想通りすぎる」

「予想通りすぎて、逆に驚きませんよね。おい、ノーラ! お前を連れていくはずないだろうが! ちょっとは慎め!」


 アシュトンには呆れられ、ライマーには止められたけど──もう、この胸の高鳴りは止められない!


 遠征先で巻き起こるトラブル。ドラゴンなんか出てきて、戦うかもしれないわね。

 それに旅といったら美味しい食べ物。どんな食べ物が、私の胃袋を満足させてくれるのかしら?

 そのことを想像するだけで、心が踊った。


「まあ……私もワガママを言っていると自覚しているわ。でも!」


 私は自分の胸に手を当て、さらにぐいっと前に出る。


「アシュトンもライマーも、私の実力は知ってるわよね? 決して二人の足を引っ張らない。というか、二人がピンチになったら、私が颯爽と助けに入る! ──どう?」

「普通、こう言う時に助けられるのは、女であるお前の方だと思うがな……」


 呆れたようにアシュトンがそう言った。


 一方、ライマーはガミガミと私にこう詰め寄る。


「とにかくダメだ! 新参者のお前がアシュトンさんと一緒に旅をするなんて、生意気すぎるんだ! オレだって、今回が初めてだっていうのに……」

「あら、嫉妬してるのかしら?」

「し、嫉妬なんかしてないぞ!」

「でも私、ライマーより強いわよね? それなのにライマーは連れていってもらって、私はお留守番だなんて納得出来ないわ」

「うっ……!」


 ライマーは反論したいようだけど、ぐうの音も出ないよう。


「アシュトンさん! なんか言ってやってくださいよ! ノーラはここで留守番──」

「仕方ない。ノーラも付いてこい」

「ア、アシュトンさん!?」

「やったわ!」


 と私は指を鳴らした。


「正気ですか!?」

「こうなったこいつを止めることは俺にも不可能だ。それに……なんとなくこうなることは分かっていたから、覚悟も出来ていた。それに──」


 アシュトンは不敵な笑みを浮かべ、私の顎を指でくいっと上げた。


「俺も二週間以上、ノーラと会えないのは寂しい。旅にお前が付いてくるなら、道中も退屈しないだろう」

「う、嬉しいこと言ってくれるじゃない」


 そう言って、私はアシュトンの手をどかす。


 うーん……こうされて、別に不快な気持ちにならないけど、不意打ちでやってくるからつい驚いちゃうのよね。


 黒曜石のような色をした瞳。こんなキレイな目で見つめられると、なにもかも見透かされているような気分になる。

 それにこの甘いマスク。さすがの私だってたじたじになっちゃうわ。

 まあ最初の頃に比べたら、慣れてきたけどね。


「……まあ、一度こうして環境を変えてみるのもいいだろう。良薬となると劇薬となるかは、不明だが……」

「アシュトン、なんか言った?」

「いや、なんでもない」


 とアシュトンが首を左右に振る。


 うーん、煮え切らない返答ね。内容はちょっと聞こえてたけど、意味がよく分かんないし。


 ……あっ、そうだ!


「カスペルさんも、やっぱり来ない? 四人での旅。楽しいことになると思うわ」

「お誘い、ありがとうございます。ですが、この家を二週間以上も空けるわけにはいきませんからね。お気持ちだけ受け取っておきます」

「そう……」


 残念。


 でも執事としての仕事を全うするカスペルさんも素敵だわ。お土産、いっぱい買ってきてあげよう。


「ああ、そうだ」


 肩を落とす私の右手に、カスペルさんはとあるものを握らせる。

 それは掌サイズの魔導具だった。


「これは確か……」

「ええ。遠くでも会話することが出来る魔導具ですね。とはいえ離れすぎたり、中に含まれる魔力がなくなったらガラクタ同然になりますが……もしなにかありましたら、これで連絡くださいませ。私の方からも連絡することがあるかもしれませんし」


 それを聞いて、私はパッと気持ちが明るくなった。


「よかった! これで遠征中でも、カスペルさんと話すことが出来るわけね。いーっぱい、ドラゴンと戦った時の話を聞かせてあげるわ!」

「お前はなにと戦うつもりでいるんだ」


 アシュトンが後ろから、私の頭をポンと叩く。


「カスペル……お前もノーラが二週間以上もいないことは、耐えられないということか」

「なんのことですか?」

「ふっ、とぼけるつもりか。まあノーラの魅力が他人に伝わるのは嬉しいことだが……惚れるなよ? ノーラは俺のものだ」

「ええ、それはもちろん」


 アシュトンとカスペルさんがコソコソと話をしている。

 でも私の位置からよく聞こえなくて、首をひねるしかない。

 なんだか二人して、内緒話が多いわね。まあ、アシュトンとカスペルさんも年頃の男だ。秘密の一つや二つは抱えているのだろう。多分。


「じゃあライマー。今回も遠征でもよろしくね」

「アシュトンさんが決めたことだから、文句は言わないが──あまり調子に乗るなよ? なにせ、冒険者としてはオレの方が先輩なんだからな! お前に旅の心得を……ってちゃんと聞いているのか!?」


 ライマーのお説教は長くてつまらないので、私はさっと顔を逸らした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「……まあ、一度こうして環境を変えてみるのもいいだろう。良薬となると劇薬となるかは、不明だが……」 「良薬となると劇薬となるかは→良薬となるか劇薬となるかは」のような気がしますがどうでしょ…
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