43・非の打ちどころのない公爵令嬢
第二章開始です。
私──ノーラはエナンセア公爵家の令嬢だ。
小さい頃からダンスや淑女としてのマナーも叩きこまれ、今ではそれも一通り出来るようになった。
さらに学生時代の成績はいつもトップ。この国の(元)第一王子と婚約してたこともあったのよ?
そんな非の打ちどころのない公爵令嬢──のはずなんだけど……。
「はあっ!」
──訳あって、今は魔物と戦っている。
迫りくる魔物のゴブリンを、私は一刀で斬り伏せた。
「いっちょあがりよっ! ……あっ、ライマー! そっち、行ったわ!」
「お前に言われなくても分かっている!」
ライマーがすかさず反応し、魔物の攻撃を剣で受け止める。さすが! こんなので遅れを取るほど柔じゃなさそうね。
彼はちょっと小柄な体型をしているけど、剣を器用に使いこなして魔物と戦っている。
金色の髪はまるで貴族みたいで、太陽の光で反射してキラキラ輝いていた。
その見た目通り、彼は子どもっぽい一面も持ち合わせている。
だけどこうして戦っている姿を見ると、やっぱり冒険者。
それに正装をきっちり着こなしている時の彼は、ちょっぴり大人びて見えるのも私は知っている。
「ノーラ! なにをよそ見している!」
ライマーの戦いっぷりを見ていると──突如、一人の男が私と魔物の間に割って入った。
彼はあっという間に魔物を斬り伏せ、私の方へ顔を向ける。
「ありがとう、アシュトン。助かったわ」
「全く……お前にはいつも冷や冷やさせられる。目が離せない」
ニヤリと彼──アシュトンは口角を上げた。
漆黒の髪は今日もふわっとしていて、つい触ってしまいたくなるほど。切れ長の瞳に、整った鼻筋。左目下にある泣きぼくろも、大人の色気を醸し出していた。
相変わらず顔が──いい。
まあ、だからなんなのだという話なんだけど。
「おい、来るぞ!」
アシュトンが私から視線を外し、再び剣を構える。
私たちを追い詰めるように、大量の魔物──ミニマムボアがじりじりと距離を詰めてきたのだ。
アシュトンと背中合わせになって、私もミニマムボアと向き合う。
「ノーラ、やれるか? 怖かったら、どこかに隠れておいてもいいぞ」
「なにを言ってんのよ。こんくらい、お茶の子さいさいだわ。それに……アシュトンと一緒なら、誰にも負けないわよ」
「ふっ、相変わらず面白い女だ」
アシュトンが笑みを零す。
「とても公爵家の令嬢だとは思えない度胸だな。しかし──俺もノーラとなら、なにも怖いものはないっ!」
それが合図だった。
私たちは同時に地面を蹴り、踊るように剣を振るう。
魔物の血飛沫が上がり、頬に付着したけど……こんなのはもう慣れっこ。今更、気にしてられないわ。
さて──。
どうして非の打ちどころがない公爵令嬢のはずの私が、こんな風に魔物と戦っているのか。
事態はおよそ五日前に遡る──。




