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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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40/86

40・私が前を歩いてあげる!

「くっ……!」


 アシュトンに触れると、黒い魔力の一部が私に乗り移ってくる。

 今すぐ悲鳴を上げたくなるくらいの激痛。


 だけど私は喉元でそれを我慢して、必死に黒い魔力をコントロールしようとした。


「アシュトン! もう少しだからね! もう少しでこんな邪魔な魔力、私が払ってあげるから!」

「な、なにをしにきた……ノーラ……」

「え?」


 予想だにしないことがアシュトンの口から吐かれ、一瞬思考が停止してしまう。


「逃げろ……と言ったはず、だ。このままじゃ……お前、もろとも……」

「アシュトンを放って逃げられるわけがないじゃない!」


 全くもう! 

 アシュトンはいきなりなにを言い出すのよ!


 きっと魔神の魔力に当てられて、ネガティブになっているのね。これだけ濃厚な魔力だ。

 さすがのアシュトンでも正気を保つのは難しいらしい。


「私、アシュトンに助けられてばっかりだから」


 魔力を制御しながら、アシュトンに話しかける。


 レオナルトと婚約中は本当の自分を押し込めてきた。

 大好きな剣や魔法もろくに練習出来ず、ロマンス小説を読むのすらレオナルトに禁じられてきた。


 だけどアシュトンはそんな私を「面白い」と好意的に見てくれた。

 だから私はここに来て、好き放題やらせてもらって幸せだった。


「なにを言う……俺の方こそ、お前に助けられている。お前がいたから……俺は笑顔で、いられる……」


 絞り出すように言葉を紡ぐアシュトン。


 助けられている? 

 そんなことした覚えなんてないのだけど?


 あっ、もしかしてサンドスパイダーのことかしら。

 確かに、あの時の私は我ながら大活躍だったわね! 一戦力として私を大きく見ているということか。なら納得。


「そんなこと、言われなくても分かっているわ。これが終わってから話は聞きましょ」


 む……この魔力、なかなか厄介ね。

 エリーザの時とは比べものにならなくらい、量も多いし質も段違いだわ。

 これはもう少しかかりそう。


 でも焦っちゃダメ。

 冷静に進めましょう。


「ノーラ……俺はお前の隣を歩く権利なんてない……」


 まだアシュトンはそんなことを言い出した。


「俺は……なにも掴めない男なんだ。王族の責務を放り出し……カスペルも付いてこさせてしまった。カスペルも……俺といない方が幸せに決まって、いる……だからお前も……」


 黙って耳を傾けていたが、そろそろ我慢の限界だ。


 私はアシュトンの目をじっと見つめ。


「私の隣を歩く権利なんてない? なにを言い出すのよ」

「……?」


 私は自分の胸を叩き、



「隣を歩く自信がないなら、それでいいのよ! 私があなたの前を歩いてあげるから!」



 と言葉を放った。


 それに対して、アシュトンは目を丸くする。


「あなたを……って、これ以上時間をかけるのも危ないわね。ちょっと失礼するわ」

「!!」


 私はアシュトンにそう言葉をかけ、彼を強く抱きしめたのだ。


 魔力の操作は相手との密着度が高くなればなるほど、しやすくなる。

 きっとこうすれば魔力を制御下におけるはず……!


 私の予想通り、魔力の制御が上手く回り出す。

 頭の中がクリアになって、魔力の流れが完璧に掴めるようになった。


「ねえ、アシュトン。あなた、ちょっと色々と背負いすぎよ」

「俺が……?」

「うん。なんでそんなに罪を感じているのかわからないけど、あなた一人で全部抱え込む必要はないわ」


 だってアシュトンも人間だもの。

 強がってはいるけど、彼も私たちと同じように悩み苦しみ、時には道を間違えてしまう生き物だ。

 昔、レオナルトに剣を振るった事件も理由は知らないけど──アシュトンにとってもしかしたらその時がそうだったのかもしれない。


「間違ってもやり直せばいいわ」


 それを出来るのが人生のいいところだもんね。


「私も昔から間違ってきた。お父様が大事にしていたお菓子を間違って食べちゃったこともあるし、魔法が暴発して前髪が黒焦げになってしまったり……」


 あれ? 振り返ってみたら、ちょっと違うような? 

 まあいっか。


「だけど私はそのことをうじうじ悩んだりしないわ。だってそんなことをしてもしょうがないもの」


 お父様にはいっぱい謝ったし、前髪は放っておけばまたいずれ生えてくる。

 後ろを振り向くほど、私も暇じゃない。


 だって……人生はこんなに楽しいものなんだからね!


「だからね、アシュトン。あなたがもし道に迷っていたら、私があなたを引っ張ってあげるわ。隣なんて歩かなくてもいい……ただ私の傍にいなさい!」


 強く言葉を放つ。


 するとアシュトンは「ふっ」と表情を柔らかくし、


「そうだな……俺は愚かだったかもしれ、ない。お前が引っ張ってくれるなら……人生も楽しいものになるだろう。俺はまだ……死ねない」


 と言ったのだ。


 ふう、やっとアシュトンも前を向いてくれるようになったわね。

 あとはこの魔力をどうにかするだけだわ。


「もうちょっとよ! アシュトンも呑み込まれないように頑張って!」

「ああ」


 返事をするアシュトン。


 黒い魔力がだんだんと力をなくしていき、完全に制御出来そう──そう思った時であった。


〈邪魔をするな!〉


 私の頭に声が雪崩れ込んできた。


「あら。もしかしてあなたが魔神さん?」


 その声の不気味さから察し、私は問いかける。


 それに対して声……魔神は答えず。


〈我はこのくだらない世界に鉄槌を下さねばならぬ。貴様も人間は愚かだとは思わぬか?〉


「え? 全然」


 思ってもいなかったことを聞かれ、ついそう即答してしまう。


 しかし魔神は怯まずに、


〈……貴様の頭の中を読ませてもらった。貴様は一方的に婚約破棄を告げられ、不幸のどん底にいるのだな? 貴様を下に見ていた者に憎悪はないのか? 今だったら許してやる。我と一緒にそいつらに復讐をしよう〉


 と続けた。


 あまりにバカげたことだったので、私は「はっ!」と吹き出してしまう。


「なにを言っているのかしら。復讐? そんな暇なんてないわ。だって明日はまたカスペルさんの朝ご飯を食べないといけない! ライマーの決闘にも付き合ってあげなくちゃいけないわ。それにアシュトンの冒険者の依頼をこなさなくちゃいけないからね。あなたみたいに暇じゃないのよ、私」


 全く……人を暇人みたいな言い方をするなんて、この魔神はなかなか失礼だわ。


 すると魔神は驚いたように、


〈なっ……? 我の邪念が通用しない? 貴様は一体何者なのだ! もしや聖──〉


 となにかを言いかけた時であった。


「これで終わり!」


 魔神のくだらない戯言に、いつまでも付き合うわけにはいかないわね。


 トドメと言わんばかりに、私はさらに魔力を魔神に注ぎ込んだ。




 次の瞬間──周囲にある黒い魔力が霧散し、完全に消滅してしまった。




 私やアシュトンに纏わりついていた魔力もなくなり、傷も癒されていく。残ったのはちょっとした火傷くらいだ。


「ふう……なかなかしつこかったわね」


 額の汗を腕で拭う。


 それにしても……案外呆気なかったわね。

 この程度の魔神、昔のジョセフさんが封印することしか出来なかったことに違和感を覚えたが……まあ昔とは状況も違うから、仕方ないわよね。


 それにしても最後ごちゃごちゃなにかを言ってたけど、なにをしたかったのかしら? 

「聖……」となにか大事なことを言いかけいたように思えるけど……。

 まあもう魔神はいないんだし、別にいっか。


「ノーラ……大丈夫か?」


 アシュトンも無事みたい。よかった。


「ええ。ちょっと火傷はあるけど、これくらいなら治癒薬でもぶっかけておけば治るわ」

「そうか……それならよかった」


 アシュトンが安堵の息を吐いた。


 あっ……私、まだアシュトンに抱きついたままだったわね。

 魔神の魔力をコントロールするために仕方なくとはいえ、さすがにそろそろ恥ずかしさが臨界点を超えそう。

 アシュトンも嫌な気持ちになっているかもしれないしね。


「ごめんなさい、アシュトン。すぐに……」


 と体を離そうとした時であった。


 そんな私の体をアシュトンは強く抱きしめたのだ。


「ア、アシュトン……!?」

「本当によかった……お前になにかあれば、俺はどうなってしまうか分からない。もう二度と無茶な真似はしないでくれ」


 私を抱きしめる力が弱まるどころか、だんだんと強くなっていく。


 ちょ、ちょっと!?

 なんか二人だけの世界って感じだけど、ここにはカスペルさんとか、他に捕らえた人たちもいるんだからね!

 それなのにこんな情熱的なことをするなんて……!


「アシュトン! こういうのはあまり褒められたことではないわ! 悪戯が過ぎるわよ!」

「関係ない。今はお前を離したくないんだ」


 噛み締めるように口にするアシュトン。


 そんなアシュトンの声は子どもっぽくて、なんだか可愛く思えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖女だったのか! 氷の魔力を持つ聖女 治癒力もないようだけど 初パターンだわ この2人が次代の国王夫妻よね とりあえず早く王様に誤解が解けて欲しい
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