35・ゆえに失敗した
深夜。
レオナルトはとうとうアシュトンの屋敷に辿り着いた。
「なかなか立派な屋敷を構えているんだな。アシュトンのくせに、生意気なヤツだ」
屋敷の近くでレオナルト一行は身を隠し、最後の打ち合わせをしていた。
(どうせこの屋敷も民を虐げて、無理やり建てさせたものだろう……全く、我が弟ながら許せない)
ギリッとレオナルトは奥歯を噛んだ。
ここに来るまでの調査で、エリーザは今はあの屋敷の地下に閉じ込められていることは知っている。
おそらく、アシュトンもエリーザの内に潜む魔神の力に気が付いたのだろう。レオナルトはそう決め付けていた。
「レオナルト様。いつでも攻撃出来る準備は整っています」
「へっへ。坊ちゃん、早くやっちまいましょうよ」
レオナルトの近くにいた二人の男がいた。
エリーザの父、ダグラスに私兵を借りている。しかしそれだけでは心許ないので、何人かの冒険者も雇っていたのだ。
しかし彼らは冒険者の中でも素行が悪く、ギルド内でも立場が悪いらしい。
そういう彼らだからこそ、こんな怪しい依頼でも、すぐに受けてもらえたともいえた。
「みなの者。今日は僕のために集まってくれて礼を言う」
レオナルトはみんなに向けて、最後の演説を行う。
こうしていると、まるで自分が民のトップ……国王陛下になったかのような錯覚を感じた。
「今、囚われの姫はあの屋敷の中にいる。僕たちは姫を救い出し、そして世界を救済するのだ。いわば僕たちは勇者。これが終われば、お前たちも僕の臣下として重宝してやろう!」
気付かれてはいけないので歓声は上がらなかったが、集まった者たちは喜色をあらわにした。
「よし……では行くぞ! 僕に付いてこい!」
レオナルトは剣を屋敷に向けて宣言する。
今ならなんでも出来そうな気がした。
気分が高揚していて、周りのことが見えないくらいだ。
ゆえに──失敗した。
レオナルトたちが屋敷に侵入する。
「出てこい! アシュトン! さっさとエリーザを出せ!」
そしてレオナルトが高らかに声を上げる。
後ろに控える者たちの間で「そんな目立つようなことを……」と動揺が広がったが、レオナルトはすぐに視線で「大丈夫」と伝える。
これだけの数だ。
たとえアシュトンがなんとかしようにも、ここまでくればどうしようも出来ない。
エリーザを返すことでしか、アシュトンの未来はないのだ。
「おい、早くしろ! こんなところで時間をかける場合じゃ……」
とレオナルトが言葉を続けようとした時であった。
「兄上よ。正気か? まさかここまでバカだったとは思っていなかったぞ」
背後から声。
レオナルトはすぐに振り返ろうとする。しかしそれは出来ない。
彼の首筋に剣が突きつけられていたからだ。
「ア、アシュト──」
声を聞き、数テンポ遅れてレオナルトは気が付いた。
しかしもう遅い。
「うおっ!」
「なんだ!? なにが起こっている!」
「暗すぎてなにも見えやしねえ!」
「一体……ぐほっ!」
耳をつんざくような悲鳴。
そして少し遅れて、バタバタと人が倒れていく音が聞こえた。
咄嗟のことでレオナルトはなにが起こったか分からない。
「ア、アシュトン、お前なにをした!?」
「決まっている。不躾な訪問者に少し眠ってもらっただけだ」
アシュトンはレオナルトに剣を近付けるだけで、あとはなにもしている様子がない。
他に人がいる?
執事などの住み込みの家臣がいることは掴んでいたが、彼らにそんなことは出来るはずが……。
「うおおおおおおお!」
そんな中。
闇夜の混乱に乗じて、一人の冒険者が飛び出す。
そして彼は剣を振り上げ、アシュトンを斬り裂こうとしていたのだ。
シャキイイイイン!
だが、もう少しで冒険者の剣がアシュトンの胸元を一閃しようとした時。
床から氷の華が咲き誇る。
それによって彼は上に突き上げられ、やがて落下に転じて床に激突した。
「な、なんだ? なにが……」
レオナルトは最早そんな間抜けな声しか上げることが出来ない。
やがて人の倒れる音が聞こえなくなったかと思うと、屋敷の明かりが灯された。
彼の眼下に広がっていたのは、床に倒れ伏せるダグラスの私兵や冒険者。
皆、死んではいないようだが気を失っているようである。
そしてその先には……。
「ノ、ノーラ!?」
元婚約者ノーラが腕を組み、鋭い眼光でレオナルトを見据えていたのである。
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