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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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24/86

24・パーティーは美味しい料理があって楽しい

 そういうわけで私、アシュトン、ライマーの三人は領主のフリードリヒさんの家に招かれることになった。


 フリードリヒさんの屋敷の庭でパーティーが開かれていた。


「アシュトン……ちょっと私の予想とは違っていたんだけど?」

「どういうことだ?」

「もっと簡素なものだと思っていたわ」


 馬車に乗りフリードリヒさんの家について、すぐに私はアシュトンを問い詰めた。


 パーティーには着飾った人々が出席していて、みんなは思い思いに会話を楽しんでいる。

 三、四十人くらいはいるのじゃないかしら?

 アシュトンから話を聞くに、近隣の名のある貴族の方たちも多く出席しているらしい。

 アシュトンやライマーといった冒険者の方々がいるのが、かなり珍しいくらい。


 そのことから、いかにアシュトンが領主のフリードリヒさんから特別視されているのかが分かった。


「そうか? この程度の規模のパーティー、ノーラなら慣れているだろう?」

「それはそうかもしれないけど……」


 アシュトンは私の言葉をそう受け流し、こう続ける。


「フリードリヒに挨拶に行くぞ。ライマーもいいな?」

「は、はいっ。も、もちろん、ですっ」


 ライマーが明らかに緊張して、体が固くなっていた。

 それも仕方がない。


 私は幼い頃から(無理やり)パーティーに出席されられていたから慣れているけど、ライマーはそうじゃないもんね。

 彼の心労が窺える。



 そして私たちはアシュトンのあとを付いていき、フリードリヒさんと対面することになった。



「ほお、その方がアシュトンの婚約者ですね。お話は伺っております」


 フリードリヒさんはワイングラスを片手に、私を興味深げに観察する。


「初めまして、フリードリヒ様。ノーラと申します。今日はこのような楽しいパーティーにお招きいただき、ありがとうございます」


 スカートの裾を軽く持ち上げて、フリードリヒさんに感謝を伝える。


 すると彼は「ほお」と自分の顎を撫で、


「とてもおキレイな方なので驚きました。さすがはアシュトンの婚約者。お似合いですね」


 と感心したように口にした。


 フリードリヒさんは、予想に反して若く見えた。とはいっても四十代くらいだと思うけどね。

 正装をきっちり着こなしていて、大人の魅力が感じられる素敵なお方ね。


「それからノーラ様。そう、私に気を使わなくても結構ですよ。領主とはいえ、私はしがない一伯爵。公爵家であるあなたにとっては、そうへりくだる相手でもないでしょう」

「いえいえ、とんでもございませんわ」


 本当はこんな丁寧な喋り方は今すぐにでもやめたかったが、アシュトンに恥をかかすわけにもいかない。ぐっと我慢をする。


「もしなにかお困りごとがあれば、どうか私にお申し付けくださいませ。出来る限り力になりましょう」

「ありがとうございます」


 そんな感じでフリードリヒさんの対面も、無難に終わった。


 フリードリヒさんの前から立ち去り。


「アシュトン。私、自由に動き回っていいかしら? だって美味しそうなものがいっぱいあるんですもの」

「くくく。美味しそうなご飯に目がいくとはな。さすがはノーラ。あまり公爵令嬢らしくない──もちろん、自由にしてもらっていい。面倒臭いが、俺は俺で色々と挨拶せねばならぬからな」

「どうもー」


 なんかバカにされた気もしたけど、アシュトンのこういうところは今更なので、あえて突っ込まなかった。




 そして私は一人、パーティーで出されている料理に舌鼓を打っていた。


 特に他の方と会話を交わすこともない。

 ただ一心不乱に料理を食べ続ける!


 そのせいですぐにお腹がいっぱいになってしまって、なんだか眠くなってしまったほどだ。


「パーティーって、こういうところだけは楽しいわよね。レオナルトと婚約していた頃とは大違い」


 こんなことをしていたら「勝手なことをするな!」とレオナルトに怒られていたからね……。


 というわけで、私は私なりにパーティーを楽しんでいると……。


「ノーラ」

「あら、どうしたの。ライマー」


 疲れた顔をしたライマーが、私の前にやって来た。


「楽しんでる?」

「……楽しめるわけがないだろう。おれはこんなところに来るなんて初めてだからな。緊張で料理もろくに喉を通りやしない」


 とライマーが溜め息を吐く。


 カスペルさんの教育によって一通り作法は覚えたものの、やっぱりなかなか辛いものがあるんだろう。

 いつも自信満々に尊大な態度をしているライマーだけど、今日ばかりは肩を縮こませて大人しくしていた。


「ノーラはさすが腐っても公爵家だな。緊張している様子が一切ない」

「緊張するだけ損だもの」

「まさか料理のお皿で両手が塞がっているとは思っていなかった。この中でそんな姿なのは、お前くらいだぞ」


 確かに……周りを見渡しても、料理を食べまくっている方は一人も見当たらない。どちらかというと、みんなは会話を楽しんでいる感じ。せいぜいお酒で片手が塞がっているくらいだ。


 私がアシュトンの婚約者ってことは、みんなに知れ渡っているのだろうか……妙に距離感があるのよね。

 まるで腫れ物に触らないようにしているかのよう。


 ただ単に食事に夢中になっている私を見て、ドン引いているだけのような気もするが……きっと気のせいね。


「ライマーもじきに慣れるわよ。もっと肩の力を抜きなさい」

「そうとは思えないんだがな……それにさっきからジロジロ見られて、余計に疲れる」

「見られている? 誰に?」

「主に女の視線が多いような気がするな」


 言われてみれば……。


 こうして話している間も、周りの令嬢たちがチラチラとライマーに視線をやっている。

 中にはぽっと頬を赤らめている女性も。


 ははーん、これはライマーに見惚れているだけね。

 ライマーは少々子供っぽいところもあるけれど、文句なしにイケメンであることには異論はない。

 金色のふさふさの髪は思わず触ってみたくなるくらいだし、黙っていれば育ちのいい貴族にも見える。

 しかも今日は正装に身を包んでいるせいか、いつもより数倍カッコよく見えた。


「どうしたものか……いつ後ろから刺されるかと思ったら、気が気がじゃない」


 頭を抱えるライマー。


 どうやらライマーは自分に受ける視線を勘違いして、敵意あるものだと思っているみたい。

 その勘違いを正してもいいのだけど……。


「気をつけなさい。令嬢といったら、懐に刃物の最低一つは隠しているものなんだから」

「な、なんだと!? そうなのか?」

「ええ。ほら、みなさん。動きにくそうな服装をしているでしょ? あれは武器を隠すのに最適だからよ」


 ちょっと悪戯がしたくなって、ライマーにそう嘘を伝える。


「い、今までおれは貴族というものを甘く見ていたのかもしれない。まさかそんなことがあろうとは……」


 バレバレの嘘だと思ったけど、今の疲れ切っているライマーには効果的面だったのか、真剣に悩み出した。


 アシュトンが私のことを弟子だと嘘を吐いた時もだったけど、この子って騙されやすいのよね。

 ライマーをからかおうアシュトンの気持ちがよく分かった。


「あっ、ライマー。ちょっとこのお皿、持っていてくれるかしら」


 私は彼に両手で持っていたお皿を預ける。


「お、おい! これはどういうことだ!?」


 そう言いながら、受け入れてくれるライマーはなんだかんだで優しいと思った。


「ちょっと行ってくるわ」

「ど、どこにだ?」

「あら。女性にそんなことを言うなんて、あなたもまだまだね」

「?」


 ライマーが首をひねった。


 お花を摘みに行きたくなったのだ。

 ちょっと食べ過ぎちゃったかもしれないわね。


「すぐに戻るわ」

「ま、待て! これを持ったら、おれの両手が塞がるだろうが! 襲われたらどうする──だから待てと言っているだろ!」


 ライマーが止めるのも聞かず、私は早足でトイレに向かうのであった。



 ◆ ◆



「ふう、すっきりしたわね……」


 無事に用もたし、中庭に戻る道を歩いていた。


 公爵令嬢がパーティーの場で漏らしたりなんかしたら、洒落で済まないからね。

 間に合ってよかったわ。


「さて。早くライマーのところに戻ってあげなくちゃ。少しかわいそうだし……」


 と呟きながら、急ごうとした時であった。



「あんたがどうして、こんなところに来てるのよ。どうせまた、アシュトン様に色目を使うつもりでしょ!?」



 のっぴきならない声が聞こえ、思わず私は足を止めてしまう。


 なに……?


 私は近くの木陰で姿を隠しつつ、こっそりとその様子を眺めた。


「わ、わたしはそんなつもりじゃ……」


 そこには三人のご令嬢が、一人の女の子を取り囲んでいた。


 その中央にいるのは銀髪の美少女。

 体を縮こませて、周囲のご令嬢に萎縮しているよう。見ていてかわいそうになってくるほどだった。


 彼女を取り囲んでいる人たちは、罵声を浴びせ続けている。


「……少なくとも、平和的な光景じゃないわね」


 なにが発端で、彼女がこういう目に遭っているのかは分からない。それに他人の事情に顔を突っ込みすぎるのも、よくないことだろう。

 だけど一人の少女を、寄ってたかってイジめているように見えるのも、見ていて気分のいいものでもないわ。


「話を聞くくらいならいいわよね」


 私は意を決して、その人たちの前に姿を現した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] とんでもないは、『とんでもな』までが語幹。 とんでもないですとか、 とんでもない事ですとかにした方がいいです もしくは、滅相もございませんとした方がいいでしょう。
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