23・急なお誘い
とある朝。
私はアシュトンに呼び出され、こんなことを言われた。
「パーティー?」
聞き返すと、アシュトンは首を縦に振った。
「ああ。この地の領主、フリードリヒから招待された。そこにノーラ……そしてライマーも付いてきてもらおうと思ってな」
とアシュトンが淡々と口にする。
当たり前だが、辺境の街ジョレットにも領主がいる。アシュトン自体が王子だから忘れそうになるけどね。
その領主の名前がフリードリヒ。
しがない領主貴族の一人で、名前くらいは知っているレベルだ。
「はあ……」
いきなりそんなことを言われるものだから、そんな間の抜けた返事をしてしまった。
「なんだ。あまり嬉しくなさそうだな」
「パーティー……嫌いではないけど、乗り気がしないのよね。しかも主宰は領主様なんでしょ? 堅苦しいパーティーになりそうで……」
「まあお前はそうだろうな。しかし安心しろ。フリードリヒは誰にでも気さくな領主だ。お前はいつも通りにしてもらえればいい」
とはいっても、そういうわけにはいかないだろう。
億劫な気分になっていると、隣でライマーが口を開く。
「お、おれも付いていっていいんですか? おれ、パーティーの作法とか、あまり知らないんっすよ?」
「無論だ。あまりお堅いパーティーでもないからな。まあそれでも一応、最低限のマナーは知っておくのが無難だろう。しかしその辺りはカスペルに任せるから、あいつから教えてもらえ」
私はこれでも公爵令嬢だから、パーティーの作法は一通り知っている。苦手ではあるが、出来ないわけではないのだ。
しかしライマーはそうじゃないんだろう。
彼にしては珍しく、一瞬不安げな表情を作った。
「ライマー。そんなに肩肘張らなくて大丈夫だわ。あなたなら、すぐに覚えられると思うから」
「……っ! お前に言われなくても、やってみせる! なんせおれはアシュトンさんの優秀な弟子なんだからな!」
ライマーが気丈に胸を張る。
自分で自分のことを『優秀な弟子』というところがなんとも……まあそれがライマーの可愛いところだけどね。
「俺もそんなに心配はしていない。ライマー、確かにお前は俺の優秀な弟子だからな。なにも問題はない」
「アシュトンさん……っ!」
不意にアシュトンに褒められたせいなのか、ライマーが目をキラキラと輝かす。
まるで犬みたいね。彼に尻尾があったら、嬉しそうに左右に振っていたでしょう。
でも実際、ライマーが優秀な弟子というのは間違いない。
それはここ何日か、彼を観察していた私も分かる。
ライマーは元々ジョレットの一住民であった。
剣や体術は昔から習っていたようだが、特段優秀だったというわけでもないらしい。
だけど彼は誰よりも諦めが悪く、そして努力の出来る男だった。
どんなに難しいことをアシュトンに言われようが、彼は不屈の精神で何度も何度もトライ出来た。
その結果、ライマーはメキメキと実力を伸ばし、今となってはBランク冒険者まで昇り詰めた。
ライマーの歳でBランクに至るのは、なかなか珍しいことらしい。
あまり弟子とか取りそうにないアシュトンが、なんだかんだでライマーに目をかけているのは、きっとそういうところでしょう。
……ん?
「アシュトン。そのパーティーというのはいつ頃、開催されるの?」
「一週間後だ!」
一週間!? 近すぎよ!
私が詰め寄ろうとするよりも早く、アシュトンは口を動かす。
「くくく。なーに、大丈夫だ。それにこう言ったら、お前らがビックリするかと思ってな。俺からのサプライズだ。喜べ」
「喜べないわよ!」
私は文句を口にするが、アシュトンはニヤニヤするばかりである。
百歩譲って私はいいけど、ライマーは大丈夫かしら? いくら基礎的なことだけとはいえ、一週間でパーティーの作法を覚えるなんて……。
でも。
「はっ! 障壁は高ければ高いほど、燃えるというものだ! アシュトンさん。おれならきっと、一週間でパーティーの作法なんて簡単に覚えられると思ってくださっているんですよね!?」
「ん。まあそういうところだ」
アシュトンの適当な返事を聞くに、あまり深くは考えてなさそう。
しかし単純なライマーは「うおおおおお!」と一人勝手にやる気を滾らせていた。
アシュトンもライマーの扱い方が上手いわね。
「というかどうして、私たちなの? 本当にパーティーに出席していいのかしら」
アシュトンが招待されるのは分かる。
後から聞いた話だけど、アシュトンはこの街唯一のSランク冒険者らしい。
彼じゃないと達成出来ない依頼も多い……と聞いた。
そうやって街に貢献してくれるアシュトンを、領主のフリードリヒ様がもてなすのはまだ納得が出来る。
そもそもアシュトンもこの国の第七王子だからね。立場的にはアシュトンの方が上とも言えるのだし。
だけど私とライマーは違う。
そういうところに違和感を覚え、アシュトンに聞くと……。
「フリードリヒに許可は取っている。それに、ヤツに一度くらいは婚約者を紹介したかったからな。ライマーも良い経験になるだろう……と。不服か?」
「不服……と答えても、パーティーをサボらせてくれることは出来ないんでしょ?」
「その通りだ。諦めろ」
手をヒラヒラと動かすアシュトン。
彼の婚約者になって、そこそこの日数が経った。
こういう時のアシュトンにいくら反論しても覆らないことは、さすがに理解出来ているわ。
「……分かったわ。気が進まないけど、パーティーに参加してあげる」
「それはなによりだ」
ライマーは……言わずもがなね。彼がアシュトンの指示に逆らうことは、万が一にでも有り得ない。
それから一週間、カスペルさんによる作法レッスンが始まった。
カスペルさんはなかなか厳しかったんだけど、ライマーはなんとか付いていった。
見かねて私も、ライマーに教えてあげようと思ったんだけど……彼には「女に教えられるなんて、死んでも嫌だ!」と断られてしまった。
まあそんなこんながありながら、ライマーもなんとか作法の形くらいは仕上がったみたい。
そしてとうとうパーティー当日を迎えたのであった。
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