表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/86

21・仲直りの握手

「アシュトンさん! 嘘を吐かないでくださいよ!」


 夜になって。

 アシュトンが屋敷に戻って本当のことを告げると、ライマーは彼に詰め寄った。


「くくく。信じる方が悪いのだ。それにいつも『疑う心を持て』と言っているだろう。お前は魔物に対して『騙し討ちなんて卑怯だ!』とでも言うつもりか?」

「そ、それは……」


 ライマーは一瞬怯むが、すぐに首をブンブンと振って。


「それとこれとはまた話が違います! おかげで恥をかいたじゃないですか!」

「これくらいで済んだなら早いものだろう。戦場で恥をかいたら、後戻りが出来ないからな」


 当のアシュトンはライマーの言うことを、のらりくらりとかわしつつ、どこか楽しげであった。


 私とカスペルさんは、そんな二人のやり取りを微笑ましく眺めていた。



 私の予想通り、今回の件はアシュトンが嘘を吐いていたらしい。

 彼は遠征でとある村に宿泊しているライマーに対して、こういう手紙を出していた。


『お前がいないうちに弟子が増えた。女だが、なかなか見所のあるヤツだ。ライマーが帰ってきたら、また紹介しよう』


 文面は短い。

 しかしライマーはそれを受け取ると、怒りのあまり手紙を握り潰してしまったみたい。


 弟子!? 弟子はオレ一人で十分だろう!

 しかも女? アシュトンさんはなにを考えているんだ!


 ……と。


 そして悶々としながらもライマーは無事に遠征を終え、屋敷に戻ってきた。

 帰ってくるなり、庭にそれらしい女を見つけた。おそらく、あれがアシュトンの言っていた弟子だろう。ライマーはそう算段を付けた。


 そこから先は知っての通り。

 彼は結局、私に二度も決闘を挑み、二回ともボロ負けしたというわけだ。



「……どうしてライマーは、あんなに怒っているんでしょうか?」


 二人が言い争……というか、一方的にライマーが文句を言い、アシュトンが適当に聞き流している光景を見ながら。

 私はカスペルさんに質問する。

 嘘を吐かれただけで、あんなに怒るとは思えないからだ。


「まあ元々怒りっぽい性格ということもありますが……」


 苦笑するカスペルさん。


「アシュトン様がライマーを弟子だと認める際、かなり難航したんですよ。アシュトン様は俺に弟子など必要ない……と言い張って」

「ああ。なんとなく分かるわ」


 アシュトンは優しいんだけど、そうやって積極的に弟子を取るタイプではなさそうだしね。


 Sランク冒険者といったら、普通は他の人とパーティーを組んでもおかしくないという。

 だけどアシュトンは今まで、ソロで活動してきた。

 それなのに弟子がいるなんて、おかしいと思っていたのよ。


「なのにどうしてアシュトンはライマーを弟子に?」

「ライマーがしつこかったんです。アシュトン様が何度も何度も断っても、しつこく弟子にしてくださいと言ってきて……」


 その後、カスペルさんから話の続きを聞く。


 ライマーはアシュトンの弟子になる前から、冒険者として活動してきたらしい。

 そして自分の身の丈に合わない依頼を受け、ダンジョンに出かけた際……自分が想定していたよりも強力な魔物に出会ってしまった。


 絶体絶命。

 そんな時、アシュトンが颯爽と現れ、華麗にライマーを助け出した。


「それにライマーは感動したらしく……アシュトン様の弟子になろうとしました。そして何日も何日も通い詰め、最終的にはアシュトン様の気が滅入ってしまって……というのが流れです」

「なるほどね」


 アシュトンもなかなか頑固ね。


 でも弟子なんか取ったら面倒臭そうだし、なによりライマーの人生を背負わなければいけない。

 安易に弟子を取って、やっぱりダメでしたーじゃ済まされないのだ。

 そう考えると、アシュトンの判断は妥当だった気がする。


「弟子……というのは違うけど、私が婚約者として認められる時は一瞬だったのに。そういうところが、ライマーは気に食わないわけね」


 私の言ったことに、カスペルさんが首肯する。


「おい、女!」


 ライマーはこれ以上アシュトンに言っても埒が明かないと悟ったのか、今度は私に敵意を向ける。


「婚約者だかなんだか知らないが、オレはお前を認めるつもりはないからな! たまたま勝っただけで良い気になるな!」

「あら、私の名前はノーラっていうのよ? 女、女……って言わないで」

「ん、分かった。だったらノーラ!」


 怒っているくせに、物分かりのいい少年だ。


「お前の剣さばきは確かに素晴らしかった! しかも魔法なんて使える! オレは魔法が使えないから、羨ましいばかりだぞ! それに結構キレイな見た目もしているんだな。最初見た時は驚いたぞ!」


 ……ん?

 なんか喧嘩腰に話しているが、これって私を褒めてるのかしら?


 この子……なんだかんだで悪い子じゃない気がする。


「……だが! それでもダメだ! オレはお前を認めない!」

「どうして? 弟子というのが気に食わないなら、それは誤解だと分かったでしょ?」

「それは……その、なんだ。アシュトンさんは別格として、この屋敷でオレはナンバー2の実力者だったんだ! お前が来ると、それが崩れるじゃないか!」


 いや、悪い子じゃないけど器がちっちゃ!

 それに誇らしげにナンバー2って言ってるけど、この屋敷、私を含めて四人しかいないのに!


 カスペルさんはどうするんだろう? カスペルさんも戦ったら強そうだし、ライマーと良い勝負をすると思うけど……今は黙っておこう。

 喋ってもこの子の怒りを増長させるだけだ。


「おい、ライマー。あまりそう言うな。俺の婚約者だぞ? 失礼な態度は許さん」

「は、はい。分かりました! 失礼な態度は取りません! すみませんでした!」


 ……やっぱり物分かりはいいのね。

 アシュトンの弟子だけあって、どうやら彼の言うことはちゃんと聞くらしい。


「よし。ここで仲直りの握手といこうじゃないか」


 私とライマーの間に立つアシュトン。


「同じ屋敷に住む者たちだ。仲良くして損はない」

「まあ私はどっちでもいいけど……」


 というか私はライマーと喧嘩をしているつもりはない。握手でこの場をおさめられるなら、いくらでもしよう。


 私はさっと彼に手を差し出す。

 しかしライマーはそうでもないみたいで……。


「う、う……」


 私の手を見て、何故だか頬を朱色に染めて……。



「な、仲直りなんて出来るか! おれは部屋に帰らせてもらう!」



 と踵を返して、風のように走り去ってしまったのだ。


 それを見ても、アシュトンはどこか愉快そうだった。


「はっはっは。やっぱり無理だったか」


 続けて笑う。


「彼は私と仲良くしたくないみたいね」

「いや、そうじゃないと思うぞ? ライマーはああいうヤツだが、実力がある者だけは認めるたちだ。決闘で二回も負かしてやったんだぞ? ああは言っているが、心の中ではお前のことを認めているはずだ」

「そうなの? でも握手を拒否したじゃない」

「ヤツはあまり女への耐性がないからな。大方、お前みたいなキレイな女に触れるのが嫌だったんだろう」


 なによ、それ。

 また個性豊かな男性が現れたものね……もうお腹いっぱいだ。


 だけど。


「退屈しそうになくていいわ」


 ライマーが走り去った方を見ながら、私はそう呟くのだった。





 ◆ ◆



 ノーラもいなくなり、アシュトンはカスペルと二人だけで秘密の話し合いをしていた。


「カスペル。エリーザについて、なにか分かったか?」


 問いかけるが、カスペルの表情は渋い。


「いえ……なかなか巧妙に隠されています。確証には至りませんでした」

「そうか。だが、お前でも分からないとなるとタダごとじゃないな。まあ簡単に分かるなら、あのバカな陛下でもレオナルトと婚約させないか」

「もしくはなにか企んでいるか……ですね。まあその可能性は低いと思いますが」

「お前の予想はどうだ? エリーザ……いやブノワーズ伯爵は……」

「ええ。おそらくアシュトン様の予想通りだと思います。調査は続けるので、またなにか分かり次第、お伝えします」

「そうか。頼んだぞ。しかし……危ないと感じたら、深入りしなくていいからな。俺の予想通りだと、いくらお前でもこの件は手に余る」

「承知しました」


 彼らの声は、誰にも聞かれることはなかった。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1653
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000366895

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新2巻が発売中
jb6a64403lndg8zj4n5jjf1r6poi_maa_13z_1kw_a74q.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ