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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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17/86

17・帰還。そして晩ご飯

「ほうほう。それで二人でサンドスパイダーを倒してしまったんですか?」


 カスペルさんがニコニコとしながら、私の話に耳を傾けてくれている。


「そうなのよ。まあ私は氷魔法で補助していただけなんだけどね。ほとんどアシュトンがやってくれたわ。アシュトンって、本当に強いのね」

「いや、ノーラがいなかったらもっと戦闘は長引いていただろう。こうして無事に帰ってこれているのは、彼女のおかげでもある」


 私の言葉を謙遜と受け取ったのか、アシュトンが横からそう口を挟む。

 別に謙遜のつもりで言ったわけじゃないんだけどね。

 


 屋敷に戻ると、既にカスペルさんは晩ご飯の支度を済ませていたようであった。

 しかも丁度ピッタリの時間に。


 だから「何時に帰るって伝えてなかったんだけど」と少し不思議になった。なんなら当初の予定より、大分遅くなってからの帰宅だったからだ。

 それなのにカスペルさんは「全てお見通しですよ」とばかりに優しげな表情をするばかりであった。

 やっぱりカスペルさんはタダモノじゃないわ。私からしたら、彼が一番すごいように思う。


 そして食堂に行くと、豪勢な料理がテーブルに並べられていた。

 どうやらアシュトンと私の婚約祝いというわけで、いつもより料理に腕を振るってくれたらしい。


 というわけで私たちは今、カスペルさん特製の料理を食べながら、今日のことについて談笑していたわけ。



「カスペルさん。やっぱり料理がお上手ね」


 私はステーキを口に運ぶ。

 一噛みするごとに口内が肉汁で満たされる。しかも肉はとても柔らかく、噛まなくても飲み込めそうなくらいだった。


 それだけではない。


 温かいスープは体の芯まで染み渡っていったし、チーズ入りハンバーグも天まで昇るような美味しさ。


 ありがとうございます、ありがとうございます……美味にそう舌鼓を打ち、カスペルさんに感謝しながら食事を続けていく。

 これだけご飯が美味しいと、自然と話も弾むというものよ。


「いえいえ。これくらい、執事として当然のことです」


 カスペルさんは表情を変えずに、そう口にする。


 当然とは言っているけど、そうとは思えない。

 少なくても私の実家では、こんなに美味しい料理は滅多に食べられなかったしね。


 エナンセア公爵家のコックの腕が悪かったというわけではないが、カスペルさんが別格なのだ。

 これだけ美味しい料理を作るのに、カスペルさんの本業は執事。一体何者なのよ。


「ますますあなたに対する謎が深まるばかりだわ」


 気付いたら、本音が溢れてしまった。


 ちなみに……カスペルさんに対しても、私はざっくばらんな話し方になっている。

 私がアシュトンに敬語を使っていないのを見て、カスペルさんが「なら私も」と申し出たのだ。

 屋敷の主人には敬語じゃなくて、一執事には敬語……というのはおかしいと思ったし、私もカスペルさんと仲良くなりたいので、彼の提案に乗ったわけ。


「ありがとうございます。謎が多い男はモテると言いますからね。褒め言葉として受け取っておきます」


 カスペルさんはさらりと言ってのけた。こういうことも言えるのね。彼の新たな一面が見れた気分。


「……アシュトン。どうして私の顔をジロジロ見てるのよ」


 アシュトンに問う。


 先ほどから彼は自分の料理に手を付けず、黙って私たちのやり取りを眺めていたのだ。

 言い方は悪いけど……なんだか不気味だわ。


「くくく。なに。美味しそうに食べるものだと思ってな。そういうお前を見ているだけでも楽しい」

「変なことを言わないでよ」

「変なことでもないぞ。そう無防備なお前を見ていたら……そうだな。食べちゃいたくなる」

「食べちゃいたく……? だったら、あなたも早く食べなさいよ。お腹、空いていないの?」


 私が言うと、アシュトンは何故だか一瞬きょとん顔。


「ん……あ、ああ。そうだな。俺も食べるか」


 そしてようやくフォークとナイフに手を付け、料理を食べ出した。


 この方の考えていることがよく分からない。

 今日一日彼と出かけて、少しは仲良くなったと思うけど……まだまだ彼を完全に理解出来るのは先のようね。



 そういうわけで私たちは楽しく晩ご飯を共にした。



「ごちそうさま。美味しかったわ」


 私はナプキンで口元を拭きつつ言う。


 ふう……満足だわ。ついつい食べ過ぎちゃったくらい。

 そのせいでまぶたが重くなってきた。


「どうした、ノーラ。やけに眠そうだな」


 それに気付いたのか、アシュトンが私に訊ねる。


「いえいえ、そんなことはない……わ。でも今日はちょっと疲れたみたいだから、部屋に帰らせてもらうわね」


 実際、疲れたのは本当の話だ。

 初めて来る街中を一日中歩き回って、魔物退治なんかもしちゃったからね。体力には自信はある方だけど、それでもさすがにきつい。


 あー……このまま机に突っ伏して寝ちゃいたい。


 でもダメよね。

 公爵令嬢がそんなはしたない真似を……アシュトンに嫌われ……。


 眠さのせいで意識が途切れ途切れになる。


「部屋は二階だぞ。そんな調子でまともに部屋にも戻れないに違いない。仕方ないな」


 とアシュトンは私の前に立つ。


 え、え? なにをするつもり?

 疑問に思っている私の体を、アシュトンはひょいっとお嬢様抱っこで持ち上げたのだ。


「ア、アシュトン!?」

「このまま部屋まで連れて行ってやろう。それくらいはやらせろ」


 殿方に抱っこされて、部屋まで連れて行かれる? 有り難いけど、果たしてそれだけで終わるかしら?

 今日一日でアシュトンが優しい人だということが分かったけど、彼も良い歳した男性なのよ?

 当然、それだけではなく……。


「そ、それはいけない……まだひゃやい……」


 ああ、ダメだ。眠すぎて抗えない。

 それにアシュトンにこうされていると、不思議と安心感に包まれるのよ。母親に抱っこされた赤子の気持ちというか。


 もうこうなったらなるようになれよ。どちらにせよ、今の状態じゃアシュトンが手を出してきても抵抗出来ない。

 そのまま私の意識は夢の中へ……。

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