14・子供騙しの魔法
「……お前はなにを言っているんだ?」
アシュトン様は私の言っていることが本気で理解出来ていないみたい。
私は彼の顔を真っ直ぐ見て、話を続けた。
「サンドスパイダーというのは危険な魔物なんでしょう? ならばアシュトン様一人だけでは心配ですわ」
「ますますなにを言っているか分からない」
プライドが傷つけられたのか、一瞬アシュトン様は不快そうな表情を作る。
だけど私は怯まない。
「決して足は引っ張りません。それだけ困っている方がいて、私だけ帰るつもりはありませんわ。いくらアシュトン様といえども、サンドスパイダー相手は手こずるでしょう?」
「舐めるな。サンドスパイダーごとき、俺が血祭りに上げてくれる」
「でも不測の事態というのは、常に起こり得るものです。アシュトン様も言っていたではないですか」
──実戦ではなにが起こるか分からない。
私がアシュトン様と決闘した時、彼が言っていた言葉だ。
「…………」
彼はじっと私の目を見る。
一瞬臆してしまいそうなくらいの厳しい眼差しだったけど、私も彼から視線を逸らさなかった。
小さい頃から、お父様に「貴族は民を守る義務がある」と教わってきた。だからこそ、平民に比べて贅沢な暮らしが出来るのだと。
ここで逃げるのは、私の貴族としてのプライドが許されないわ。
アシュトン様はひとしきり考えていたようだが……。
「……分かった。まあ剣も魔法も一流のお前にとやかく言うのも変な話か。しかし俺から決して離れるなよ」
と呆れたように溜め息を吐いた。
やったわ!
そう私は心の中で指を鳴らす。はしたないので本当にはしないが……。
話はついた。
早速アシュトン様と子どもを助けに行こうとした時。
「む、無茶ですよ!」
と受付嬢が慌てたように口を挟んできた。
「そうだそうだ! お嬢ちゃんには無理だ。アシュトン様の足を引っ張るだけだ」
「それだったらオレが行った方がマシだ」
「おいおい、お前が行っても足を引っ張るだけだろうが」
「しかし……」
周りの冒険者も私を見て、必死に止めようとしてくる。
まあ当然の反応よね。
受付の前で、ざわざわと人が騒ぎ出す。
だけど。
「皆の者、心配するな」
アシュトン様がそう言った瞬間、まるで魔法にかけられたかのようにギルド内の雑音がやむ。
「紹介は帰ってからにするが、こいつは王都で冒険者をやっていたんだ。その時のランクは──S。つまり俺と一緒だな。だからそう気にしなくていい」
「え、Sランク冒険者だと!? アシュトンさん、いくらなんでもそれは無理がありますよ。どっかのいいとこのお嬢ちゃんにしか見えません」
「嘘……ですよね?」
アシュトン様の言ったことに、冒険者の方々は疑いの目線。
冒険者じゃないけど……きっとそう言った方が、アシュトン様はみんなを納得させることが出来ると思ったんでしょ。
でも実際に嘘なんだし、みなさんはまだ私に疑いを持っているようだった。
仕方がない。
「アイス──」
そう魔法名を呟き、手の平に氷魔法を顕現する。
それは小さな氷の塊に見えた。
だけどそれは形を変え、やがて小さな竜を形取る。
「私はこのように魔法も使えます。みなさん、心配は無用ですわ」
「な、なに言ってんだ。いくら魔法が使えるからといって、そんな子ども騙しな……」
冒険者の一人がそう口にしようとした矢先、私が作った氷の竜が一人でに羽ばたいた。
「「「「ええええ!?」」」」
ギルド内を自由に飛び回る小さな氷の竜を見て、みなさんが驚きの声を上げる。
「どうでしょうか? これでもまだ子ども騙しとでも言うおつもりで?」
氷の竜は私の手元まで戻ってきて、そして消滅した。
「す、すげえ……まさか今のは召喚魔法っていうヤツか?」
「まあ似たようなものですわね」
召喚魔法というのは使い魔を自由自在に呼び出し、そして使役することが出来る魔法である。
かなり難易度が高い魔法で、少しでも召喚魔法を行使するだけでも、その魔法使いは重宝されるという。
「これで分かったか? こいつはSランクの冒険者だ。お前らが心配する必要はない」
すかさずアシュトン様が言い放つ。
アシュトン様の言ったことに、今度のみなさんはぐうの音が出ないようであった。
「よし、行くぞ。ノーラ」
他に声が出ない前に、アシュトン様は私の腕を引く。
「はい」
私たちはギルドをあとにして、街中を駆ける。
そして十分ギルドから離れると、アシュトン様はこう口を開いた。
「……さっきの魔法。召喚魔法ではないよな?」
「あら、アシュトン様は気付いてらっしゃったんですか」
私が可愛く言うと、彼はさも当然とばかりにこう続ける。
「俺に子ども騙しは通用せん。竜を形取った氷を作り、それを魔法で遠隔から操作していた。おそらく、あれ以上の動きも出来ないし長時間は保たないに違いない。ましてやあれで戦うことなんて不可能だ」
「その通りです。私がやったことはただの手品です。でも……おかげでみなさんを納得させることは出来たでしょう?」
「まあな」
さすがの私でも召喚魔法を使うことは出来ない。
召喚魔法は才能の部分にかなり引っ張られる分野だからね。生まれが魔法使いの一家でもない私に、そんな高度な魔法は使えないのだ。
「ペテン師の才能もあるみたいだな」
「そんな才能はいりません!」
否定すると、アシュトン様は楽しそうに笑った。
「まあその話は追々するとして……急ぐぞ。あれだけカッコつけたのだから『子どもは死んでました』じゃ済まされん」
「はい」
子どもとサンドスパイダーがいる森は街の外れにあるらしい。急げば、そこまで一時間もかからないで着けるということも、走りながら彼に聞いた。
私たちは子どもの無事を祈りながら、森まで急ぐのであった。
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