キャンプの一幕
茜色に染まった空に灰色の煙がモクモクと舞い上がり、白い湯気が勢いよく立ち昇る……
僕はキャンプで飯盒炊爨をする時の、この瞬間を見る時が一番好きだ。
煙と湯気が混じりあい、風に揺れて流される……ご飯が炊けるまでの期待が一層高まる瞬間だろう。
そこに予め作っておいた豚汁の湯気と、レトルトカレーを暖めているお湯の湯気が合わさり……僕の胃袋が早く飯を食わせろと音を立てる。
でもまだ食べる訳にはいかない。
吹き零れなくなった飯盒は火から下ろした後、ひっくり返して蒸らさなくては米に芯が残って美味しくならない。
下ろしたばかりの飯盒の底からはゆらゆらと陽炎が上がり、同時に米の甘い香りも漂ってくる。
この香りが空きっ腹に響いて、今すぐにでも食べたい衝動に駆られてしまうけどまだ我慢だ。
「パパ、まだ出来ないの?」
「もう少しで炊けるから、後ちょっとだけ我慢だぞ」
蒸らした飯盒を再びひっくり返し、蓋を開ければ炊きたてのご飯から一斉に湯気が昇る。
それを皿に盛り、暖めたレトルトカレーを掛ければ湯気が待ってましたと言わんばかりに……まるで踊っているかの様に揺れている。
更に熱々の豚汁をよそれば湯気と香りが空という舞台の上でワルツを踊っているかの様に揺れ動き、焚き火の煙がそれを邪魔する事なく、むしろ引き立てている。
この瞬間は家の中では見る事が出来ない、まさにキャンプの醍醐味という奴だ。
本当ならカレーも自分で作りたかった所だけど今回は子供が一緒だったから我慢した。
自分で作ると辛口になってしまい子供が食べられなくなるからね。
「よし、それじゃ食べようか」
「うん!」
「「頂きます!」」
惜しむらくは嫁が出産を控えて入院しているから来れなかった事だが……次こそは全員が揃うといいな。
帰ったら名前を考えないと……
「……パパ、この味噌汁が凄くしょっぱいよ」
「……確かにこれは味噌を入れ過ぎたな、すまない」
やはり豚汁は嫁が作った方が美味しいな……うん。
豚汁に限らず味噌汁は煮詰めると塩辛くなる、という教訓