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4:異世界少女は体操服とともに

 体操服。


 白い上衣の胸に縫い付けられた大きな名札。半袖の袖口に紺の縁取り。若い汗を吸い込んでほんのり湿った布地に(削除)


 などという情景を想像するのは年配者だけである。この時代、この世界に異世界から渡来したブルマーという装備はすでに絶滅状態となっており、成人向けの企画娯楽作品の中で生き残っているにすぎない。


 余談であるが、かつて聖教会に所属していた聖騎士ジークフリード・リオンハートは、彼が著述した「異世界女学生制服図鑑」の中で

「聖女ラームーンの最強装備として知られるブルマーは、初代勇者の故郷において女性解放運動家アメリア・ジェンクス・ブルーマーが女性を拘束する旧弊な服飾を打破すべく世に広めたもので、異界の女学生はその偉業を称えるため公式運動着として着用することが推奨されている」

と記した。


 この記述が虚偽の流布に当たるとしてリオンハートは聖教会の審問会にかけられたが、彼は内容の修正を受け入れず

「嘘だと思うならば、自分で検索して調べてみるがいい!!」

と言い残し、毅然きぜんとして火刑に処されたと伝えられている。


 余談はさておき、そもそもこの世界の女学生は、日本の体操服とは似ても似つかない体術服を武術修練の時間に着用している。

 それがどのようなものであるかは割愛する。重要なのは、この部屋の住人である錬金術師ファナ・コサンの姿が、日本人である山田の目に


「体操服の女子高校生」


 として認識される様相であった、という事実である。


 しかし言うまでもなく、それは誤認であった。


 過酷な労働のために住人の老化が早い山田の世界の基準から見れば、錬金術師は未成年にしか見えなかったという。しかし当時、錬金術師はすでに王立学院を卒業しており、王室魔術管理局に就職して数年が経過していた。


 王国では女生徒のほとんどが卒業と同時に輿入こしいれ(訳者注:結婚のこと)してしまうので、卒業どころか元服式を過ぎても付き合っている異性すらいない彼女は、すでに「とつぎ遅れ」と揶揄やゆされ、変人扱いされる年代にさしかかっていた。


 この時に彼女が着用していた装束しょうぞくは、室内用の作業(はかま)である。右前にえりを合わせた上衣、筒袖は手首まである。上衣のすそは足首まである脚衣の中に入れて帯を締め、白い足袋たびを履いている。


 作業袴の色は上下ともに臙脂えんじ色。手足の側面には白い二本の線が縦に走っている。配色の関係で、見た目の印象が日本の学生が体操の時間に着用する装束を連想させた。


 つまり、山田が所属する文化圏において


「芋ジャージ」


 という俗称で呼ばれている衣服に非常に良く似ていた。


 その時、山田の眼前に現れたのは、芋ジャージを着た嫁ぎ遅れの女性であった。


 「体操服を着た女子高生」とは印象が多少異なるが、言い方が異なるだけで実体としては同一である。地球で言うところの「裸エプロンの人妻」と「ムーミ○ママ」の違いのようなものである。叙述じょじゅつ詐欺さぎではない。


 彼女は腰まである長い濃褐色の髪の毛を無造作に後ろでたばね、からまった毛があちこちから飛び出していた。化粧はしておらず、爪も短く切りそろえただけで色は塗られていない。


 だが、お手入れの行き届いていないその姿が、山田の目には天使のように見えたという。この場に救い主が現れたという意味ではない。容姿に対する審美しんび的な感想である


 髪の毛と同系色の澄んだ大きな瞳。つややかな唇。その容貌ようぼうには染み一つ無く、回復魔法によって最上の状態に保たれている肌は地球人の子供と同じぐらいきめ細かく滑らかである。


 乱れてはいるものの、浄化魔法で清められたさらさらで細くつやのある髪の毛。長身というほどではないが、すらりと伸びた肢体。柔らかそうな女性らしい肉付きでありつつも、ほっそりした長い手足。

 身体各所の大きさ(サイズ)に関してはさまざまな嗜好しこうがあるので評論は避けるが、各部が大きすぎず小さすぎず、ほどよく均整がとれている。


(……すごく綺麗だ……)


 山田は彼女から目が離せない。言葉を発することもなく口を開け、そのまま硬直していた。


 だがその芋ジャージの女性がどのような性格をしていて、これから山田にいかなる運命が待っているか、その時の彼には知る占術すべもなかった。

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