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3:誰かこの状況を説明してください!

 山田は、さきほどまでこの箱の中に意識を失って横たわっていた。その時に足がすこしはみ出ていたが、それほど窮屈きゅうくつな体勢ではなかった。しかし立ち上がるとおりの天井面に頭が触れそうで、空間的に少々圧迫感がある。


 山田が座っている箱の横には、粒状の砂が入った蓋の無い平たい箱が置かれている。山田が座っている箱より小さいが、意匠いしょう(訳者注:デザイン)は同じである。


(これって、でっかい猫ベッドと猫トイレにしか見えないんだが……もしそこの箱で俺が用を足したら、あとの掃除は誰がするんだ? 汚れ処理担当がいるのか? この感じだとむしろ飼育係?

 動物園では大型ネコ科の強臭物と大型草食獣の物量と、どちらが飼育係にとって大変なのだろう……などと余計な事を考えている場合ではない)


 寝台と箱以外には檻の中には何も無い。水入れも食器も無い。


 檻の金属格子は見るからに頑丈そうである。山田は試しに手で握ってゆさぶってみたが、振動制御の術式が付与されているため微動すらしない。


 実際のところ、普及品の檻でも「中型の座敷魔獣が狂化状態になって暴れた時でも壊れない」というのが王国工業規格で規定されている販売認可条件である。すなわち王女親衛隊に所属する上位騎士でもない限り、物理的に破壊する事は不可能であった。


(現時点での持ち物は……何も無い。アパートの鍵と財布、眼鏡、スマホと腕時計は森に立っていた時点ですでに無くなっていた。安物の社畜スーツとワイシャツ、ネクタイ、シャツ、靴下と靴……トランクス以外はネバネバした奴に溶かされたらしい)


 自前の半股引トランクス、その上に誰かが着せてくれた、薄緑色で右前合わせの浴衣に似た「布の服(ウイムン)」。左手首には見慣れない黄色い腕輪が装着されている。


(どうやら誰かに助けてもらえたようだ……いや、助けられたと思うのは早い。だって檻の中だぞ?

これから絶対に何か特殊イベントがおきるだろ、常識的に考えて。


 そう、たとえば……


 いつのまにか外国に売られていて、このあと移植用臓器を抜かれるスプラッタシーンが展開されていく。


……いや、中年男のくたびれた臓器に商品価値があるとも思えない。


あるいは、国際テロ組織に誘拐拉致されていて日本政府に身代金要求。


このあと新型ウイルスの感染実験材料にされる。


怪しい人物が現れて謎のデスゲームに強制参加。


変態手術をされて人の尊厳をふみにじるム○デ人間に大改造。(訳者注:検索非推奨)


地下闘技場に連れていかれ、猛獣の晩御飯にされるまでの一部始終が全世界配信。


……もしかして、さっきのネバネバが対戦相手だったとか?

 半裸のおっさんとネバネバ生物のからみ。ネバネバが責めで自分は受け。そのシーンにはどれぐらい需要があるのだろうか)


 山田のひたいに脂汗が浮く。楽観的な考えは髪の毛一筋ほども浮かんでこない。


 逃げようとしてもかごの鳥、というか檻の山田である。自力で脱出できない以上、誰かにここから出してもらうしか方法がない。直接的に命を奪われなくても水と食事を与えてもらえなければ、いずれは詰みである。


 山田は怖い考えが次々に浮かんできて、頭の毛が抜けそうな気分になってきた。やがて彼は大声で助けを求めてみることを考えはじめた。


(悩んで禿げるより、当たって砕けるほうが前向きだろう……いやまて、砕けたら駄目だろ結果として。少年マンガの主人公なら前向きになれば必ず道が開けるけど、現実だと前向きのほうがむしろ不正解という事もあるわけで……。


 そもそもゲームと違って、必ずしも正解が用意されているとは限らない。何か行動したらそれが原因で即アウト、という可能性もある……


 誰かを呼んだら怖い人が出てきて、口に出せないような行為をされるかもしれない。その時に人を呼んだ事を後悔してもリセットボタンは無い。

……あーどうすればいいんだろう、ええい、もうなるようになれ)


 余談だが、近年の転生者からの情報によれば、地球の遊戯にはリセットという操作が無くなりつつあるという。したがって「リセットボタンは無い」という言い回しに違和感を感じない地球人は山田と同世代だと考えられる。


 ちなみに「絶望の迷宮」の第5層において発見された「リセットについて」と題された碑文には次のような記述がある。


〈最近の若者にはリスタートと言わなければ意味が通じなかったりするが、いずれにしてもこの世界では、人生というクソゲーにそのようなシステムは残念ながら存在していなかった。

 失敗しても『死に戻り』はできないし、『強くてニューゲーム』のボタンも無い。だがご親切なことに、押すと終了するボタンだけは用意されていた。

ほれ、ポチっとな〉


「すいませーん……どなたかいませんかー?誰かー……」


 山田が呼ぶと、部屋の出入り口の向こうから、パタパタと足音が聞こえてきた。


 誰かが近づいてくる。この部屋に入ってくるようだ。

さて鬼人オーガが出るか蛇娘ラーミアが出るか、それ以外の魔物が出てくる可能性も当然ある。


 入口の戸が横に動いた。


「え?」


 今度は山田が状況を理解できずに困惑する場面である。


 その時、姿を見せたのは清楚で整った顔立ちの、体操服を着た女子高校生であった。

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