妄想短編2「妄想未来」
2125年、日本はある一人の青年を犠牲に高度経済成長を迎えた。その主たる産業となったのは機械工業、特にアンドロイドだった。
工場で大量生産されたアンドロイドたちにはあるものが搭載され日本中や海外にまで出荷される。
今や、一家に一体、単純作業はアンドロイドに。そんな事が当たり前になっている。少なくとも、日本では。
アンドロイドたちは見た目はほとんど人間と変わらず、一体一体性格も違う。ただ、一つだけ人間と違うところは、充電用の尻尾が生えている事だ。
アンドロイド反対派はその尻尾を類人猿だなんだと揶揄したが、今ではすっかりアンドロイドのお世話になっているか地の下にいる。
アンドロイドには生活補助用、警備用、仕事用などたくさんの種類があるが、装甲を付けていたり力持ちだったりする以外にそれぞれに差異はほとんどない。それは、搭載されたAIもだった。
中央制御型多機能AI。通称、CCMAI。
日本中、海外にまで広がるAIを全て制御するのが、その青年だった。
一億を優に超える数のAIを操るその青年を当初マスコミは可哀想だと国を叩いた。そんな折、一人の青年の秘書をしているというアンドロイドがある一つの新聞社にだけインタビューを受けるとのメールを送った。
「えっと、何とお呼びすればいいですか?」
「アンドロイドワン、とお呼びください」
「それでは、ワンさん、○○さんは軟禁状態にあると噂されていますが、○○さんの様子はどうでしょうか?」
「野原を走り回っています」
「え?」
インタビューをした記者は意味が全く分からなかったという。
「アンドロイドがすでに数体世に出ていることは知っていますか?」
「はい、わかっています」
街中でもアンドロイドを見かけ始めていた時期だ、人間には無い尻尾を持っていれば視界の端に入るというものだろう。
「ご主人様は、野原を駆けまわり、工場で仕事をし、警備をして悪者を捕まえ、子どもを笑顔にします。自分も笑顔を浮かべながら」
同じく笑顔を浮かべながらアンドロイドワンは答えた。
「あなた達は全員○○さんだということですか?」
「そういう事です」
当初の質問に答えが貰えていたのかはわからなかったが、そんなことより気になったことがあり記者は首を傾げた。
「あなたは?」
「理解が遅い方なのですね。私もですよ。いえ、俺もです、と答えた方がよろしいでしょうか?」
突如低くなった声は女性型のアンドロイドに似合わず記者を委縮させる。
「偏向報道、お疲れ様です。これで生放送は終わりです。お疲れ様でした」
その言葉を聞いた瞬間記者は慌てて立ち上がり周囲を見回す。カメラらしきものは見当たらなかった。安堵して胸をなでおろす。しかし、最後に記者はアンドロイドワンの方を向いて戦慄した。
常に数百数千、今では一億を超える全アンドロイドと常時繋がった青年は恐らく一番この状況を楽しんでいた。
まるで、新世界の神になったかのような気分で、野原を駆けまわり、悪者を捕まえて、子どもを笑顔にする。
アンドロイドはアンドロイドによって増えていく。
今やその青年がどこにいるのか分かる人間がいない世界で青年は今日も生きる。
今日の晩御飯は電気かな?
青年は寝るときにちゃんと羊の数を数えている。