妄想短編1「およそ15万」
いつだったか、私は不思議な二人組に出会った。自分たちは二人で一人だ、なんていうセリフをよく聞くが、その二人ほどその言葉が合う組み合わせはいなかったと思う。少なくとも、私が生きてきた中では見たことも聞いたこともない。
それで、その二人というのが、表現が悪くなってしまって申し訳ないが、人を殺せば殺すほど強くなる能力者と殺されれば殺されるほど強くなるという能力者だった。
あぁ、すまない。
これは私がいわゆる異世界と呼ばれる世界に行った時の話だ。もうすでに私はとうの昔に死んでしまっているがね。異世界の細かい話は省かせてくれ。そうしないと、私が異世界転移したその瞬間からその二人組に会うまでの数か月を順繰りに説明しないといけなくなってしまう。
さて、その二人組だが、さっきも言った通り、死ねば強くなる能力者と殺せば強くなる能力者、聞けば特段に親しい関係ではなかったそうだ。街でたまたま同じ依頼に目を付け何かの縁だ、と一緒に依頼を遂行しただけの仲だった、と。
そう、二人は冒険者というやつだったよ。私もね。
冒険者がわからない。そうか、派遣のアルバイトだと思えばいい。街の掃除や害虫駆除なんかもやる。私も駆け出しのころはやったよ。
そんなことはまぁどうでもよかったね。
それで、その二人だが、もちろんそれぞれ過去や思うところはあったんだが、それも省くとして、どうしたと思う。お互いの能力を知って。
いや、予想は出来ていると思うし、おそらくその通りだ。
殺して強くなる能力者が、死んで強くなる能力者を殺した。その数、12万とおよそ8千。
そのあまりにも強すぎる血の匂いに野生動物も魔物も近づかなかったらしい。
魔物は……怪物とか、化け物とかの類だ。あまり深く考えなくていい。
その後、二人は12万と8千の経験値で強くなった体で冒険者の最高ランクを手に入れそれから、王国騎士になった。
やがて、二人は王国騎士団の団長と副団長になった。
寿命で死ぬまでそのままの関係でいられれば良かったんだが、人の世はいつも無常だろう。
副団長、死の能力者の方なんだが、王国の闇の部分に気付いてしまった。その内容も省かせてくれ。
そこで死の能力者は、騎士団を抜けだし田舎の村で隠居生活を始めた。
しかし、もちろん王国は死の能力者を野放しには出来なかった。告発されても、他国に情報が流れても困るからだろうね。
そして、予想は出来るだろう。殺の能力者、団長がその征伐に駆り出された。
殺の能力者は、死の能力者に会いこう言った。
「まだ間に合う。やり直そう」
もう王国は間に合わないところまで来ていたというのに。
「明日、朝、答えを聞かせてくれ」
そう言って、苦虫を噛みつぶしたような彼は12万と8千の兵を村を囲むように待機させた。
この続きは、彼が書いてくれるだろうか。
死の能力者と、殺の能力者は次の日、一対一で対峙した。周りには無数の、そう十二万と八千の兵士が囲んではいたが。
それが死の能力者にプレッシャーを与えていたかもしれないが、俺にはそんなことは関係なかった。
お前にも事情や正義があったのと同じく、俺にも正義があった。
決闘において、殺の能力者は死の能力者を殺して、殺して、殺して、殺して、殺した。その数、およそ二万。
そして、死の能力者は、死のリミットを迎えて、死んだ。15万の命を持った男は、15万の刃を持った男に殺され、もう二度と生き返ってはこなかった。
今日、俺は最後の一本で王を殺しに行く。