08-滞在四日目-
四日目も冒険者達に来て貰った。
今日一日で荷台の改良が片付くみたいだから、数人にファリスを手伝って貰う。
「で、俺達は何をすれば良いんだ?」
「町民の護衛。ちょっと町民に確認したい事が有るんで、昨日みたいにボクから町民を守って」
「…いや、ほんと、魔族とは思えねえよ。自分から守れとか普通言わねえぞ」
「「うんうん」」
まだちゃんと受け入れて貰えてない以上は気を遣うべきだ。子猫ちゃんが相手なら特に。
町長さんにも頼んで広間に集まって貰おう。
「昨日の今日で申し訳無い。皆の中で魔法の素質を持ってるヒトが居ないか確認させて欲しい」
「「えっ!?」」
「どう言う事だろうか」
「ポーション産業を支えるのが三人だけと言うのは流石に無理があります。ポーションやネクタルは需要が一定なのでまだ何とかと言った具合ですけど、魔法肥料となると確実に他所からも要求されますからね。そちらは多少の素質と練習で作れますから、魔法肥料だけでも調合出来るヒトを増やした方が良いと思うんです」
「成る程、確かにそうだ」
絶対に生産が追いつかない。増やした方が良いじゃない。増やさないと駄目だ。
冒険者用は神官や魔法使いが必要としても、魔法肥料は魔力を多少持っている程度でも作れる。
だからファリスに頼んで測定器を用意した。
「この紙に触れて意識を集中して下さい。魔力を持っていれば魔法陣が浮かびます。強ければ強い程魔法陣が複数出てきますし、魔法陣の形で魔法使い寄りか神官寄りかが解る様にもなってます。もしどちらかの素質があれば魔法肥料でなくポーションやネクタル、その他の薬の調合が可能となり、その分儲けも大きくなるでしょう。調合に関われと強制するつもりはありませんから、気軽に試してみて下さい」
「「はい」」
測定器と言うよりは測定紙。魔力測定用紙と名付けてみた。
結構な難易度の魔法構成だけど、ファリスが頑張ってくれたおかげで完成出来た。
「あ!魔法陣!」
「くう。やっぱり駄目か」
「うおお!俺も出た!」
うん、作って正解。結構居てくれる。
魔法の素質の有無は、まず魔法を使おうと考えない限り解らないものと見てた。
魔族は生まれながらに魔力を持っている為に関係無い事だけど、ヒトは別だ。でもエアリは弱いながらも魔力を持っていると知っていた。
恐らく魔法使いや神官、もっと言えば冒険者になろうと考えない限り魔力の有無を確かめようとしないんだろう。
「あっ!あっ!皆と違う!」
「神官の素質が有るね。回復薬の調合と相性が良いよ。ボクが教えるので良ければ覚えてみる?」
「覚えてみたいです!」
どうやら予想通りらしい。魔法使い寄りも神官寄りも何人か出てくれた。
どちらの素質が無くても魔力を持ったヒトからやってみたいと言うヒトも出てくれたよ。
「本当にありがたい」
「これくらいはしておかないと後味が悪いってだけですよ。折角名産品が出来ても続かなければ意味が無いですから」
ボクに教わるのでも良いと言ってくれたし、後顧の憂いは断っておくべし。
後は、もう一つ助言を。
「大きな工房を用意した方が良いかもしれませんね。出来ればちゃんとした調合器具も。軌道に乗ってからでも良いので」
「そうしよう。流石にこの人数をエアリの家でと言うのは無理が有る」
工房は欲しい。
アーティファクト工房も有ると良いけど、それはまた別の話。…と、それもあった。
「アーティファクト作りも覚えてみる?魔法使い寄りだと勉強すれば作れる様になるけど」
「覚えたいです!」
「教えて下さい!」
基本的な事を教えれば、後はファリスが他の魔法を教える事でアーティファクトを作れる。
それに関しても相談していかないとね。
一気に賑やかになったエアリの家。軒先も使っての調合が始まった。
「ありがたい。三人では足りんと話しておったところじゃ」
「足りない足りない。悪いけど神官寄りのヒト達の面倒を見てやって。サーディスでも十分教えられるから」
「よし。町の為にもう一頑張りじゃ」
ここはサーディスに頑張って貰いたい。
もう少しで青ポーションだし、ここで集まる材料なら今のサーディスでも教えられる。
「エアリも頼むね。一番人数が多いけど、難易度は低いから」
「任せて!大分慣れてきたから!」
魔法肥料は簡単だからエアリに任せる。
既に複数の種類のレシピを残してあるから、それを作りつつ農家に配って試して貰う予定。
それだけに量が必要だけど、魔法肥料担当はかなり増えたから何とかなるだろう。
問題は魔法使い寄り。
「ファリス。これが今日までにボクが残そうと考えてたアーティファクト用の魔法のレシピ。まずはファリスが覚えて。ボクは皆に魔法を教えるから」
「解ったわ。こんなに用意してくれたの…」
あまり時間が無いんで、ボクは魔法の基礎と刻印魔法を教えていく。
その間にファリスには刻印する魔法を覚えて貰い、ファリスから教えて貰う事にした。
教える際に必要な物も前以て用意してある。
「さっきと同じ様に、この紙に意識を集中させてみて。魔力を操る感覚が解る様になる」
「「はい」」
ヒトがどう魔法を学んでるか知らないんで、魔族の様に感覚的に魔力を知る事から始める事にした。どうやら問題無い様で、その為の紙を作って貰った時にファリスから感心されたよ。
予想より集まったんで追加で作って貰おう。
「これほんと凄いのよ。私が魔法を学んでた時より早くコツを掴めるわ」
「へええ。あ、面白い。これが火の魔力かあ」
火、水、風、土の四元素を操るのが魔法使い。
この紙は感覚的に各属性の魔力を感知できる様になる優れ物で、これに慣れれば魔法構築もすぐ出来る様になる。属性感知用紙と名付けた。
魔法とはその属性の魔力を生み出しながら構想を構築し、効果を意味付けた発動言語によって発動する力。
だから各属性の魔力を感知する事から始まる。
魔族の場合は最初から各属性の魔力を理解してるんで、その感覚を元にこの紙を開発した。
「土属性は最優先で覚えて。物質に魔法を込める刻印魔法は土属性だから」
「「はい」」
意気込みは十分だし、この調子なら今日中に感覚を掴めると思う。後は魔法構想構築で一日。ファリスも居るし間に合うはず。
「ねえねえアイラ。後であたしもそれやってみて良い?」
「構わないよ。その前に魔力測定かな。ちゃんと確かめておいた方が良い」
「あ、うん。そっちも気になってた」
簡単なんでエアリも興味津々。
ボクとしても後から素質が生まれるか気になる。
才能が開花して伸ばせるのなら、他の町民だって戦力になり得るんだから。
夜になって皆が帰ってもボクは忙しい。
ここを去る事を前提に、残りの日数や去った後の指針を残さないといけないからだ。
「アーティファクト万歳ー。毎日お風呂に入れる日が来るなんてー」
…は、良いんだけど。
「エアリ。お願いだからちゃんと服着て。生殺しだから」
ファリスに教えてお湯を生むアーティファクトを作ったのが良かったのか悪かったのか。お風呂から上がったエアリがタオル一枚で目の前に。
だから、ボクの中身は男なんだってば。
「ごめんごめん。今度は何を書いてるの?」
「ポーション工房とアーティファクト工房の計画書。十年先くらいまでの予算案とか助言とか」
「そんな事までしてくれるの!?」
ここまでやるのが筋かなーと。
せめて十年は保たせたいし、十年保たせれば後は本人達だけで何とかやっていける。
ポーション工房は更に上質なレシピ。アーティファクト工房は簡単なアーティファクトの例や開発方法。
「凄い。細かい」
「ほら、ボクと親友でアルゴニアを倒したって話したじゃない?それって言うなれば反乱で、反乱軍を組織しての事だったんだ。でも親友は脳筋馬鹿で、難しい事はボクや他の仲間に丸投げ。政治なんかは他の仲間が請け負ったけど、反乱軍の運営は殆どボクがやってたんだ。その経験でね」
「へええ。って、アイラってもしかして魔族の偉いヒト?」
「元偉いヒト。一応反乱軍の元副官で技術主任やら総務主任やら兼任してた。皆には秘密ね」
それだけ親友に頼られてたと言うのは嬉しい事なんだけど、流石に疲れた。もうやりたくない。
親友の方もボクに苦労させてきたと理解してるから抜ける事に強く反対してこなかったくらい。
止めようとしたのはあくまで口説いてたせい。
「そんな凄いヒトがひっそりとヒトの暮らし?」
「だって疲れたんだもん。淫魔は基本的に怠惰な存在だからね。働き尽くめは性に合わない」
「こんなに頑張ってくれてるのに?」
それは返す言葉が無いなー。穏やかな暮らしの為と割り切れるけど。それが保証されてない点には苦笑いするしか無い。
それに、これでも城に残るよりはずっと楽。
「自分の為ならまだ頑張れるからねえ。城で書類の山に目を通しても平穏無事な生活が近付く訳じゃないし」
親友の為に、と言うには度が過ぎる。
ボクはもう十分親友に尽くした。親友もそう納得してくれてる。何人かの家臣には泣きつかれたけど無視。平穏な生活万歳。
「争いとは無縁の場所でさー。適度にお金稼いでさー。可愛い子猫ちゃん達を大勢侍らせてぐーたら生活したいのよー」
「ぷっ!?あはははははははははっ!」
爛れた夢を持ったって良いじゃない?ボクサキュバスなんだし。中身男だけど。
むしろ爛れてないサキュバスの方が有り得ないし。会った事ないし。
「そんな悪い狼に襲われたくなかったら服を着なさい」
「は、はーい…。も、おかし…。ほんとアイラ面白い…」
平和主義者な淫魔ってこうなると思うんだけどどうだろう。普通なら誰彼構わず夜這いを掛けて搾り取るもんだし。でもボク紳士だから。
「ああ、あと、言い寄ってくる親友から逃げるって目的も有る」
「えええっ!?魔王に口説かれたの!?」
「口説きやがった。あの野郎、ボクの事情を知ってるのにクソ真面目な顔で俺の物になれとか言いやがったよ。ボクはホモじゃないってのに」
「あはははははははははっ!」
女の趣味は結構近いだけに、尚更それが腹立つって言うか。そう言う趣味も有ったのかと疑っちゃうじゃないか。あいつの目にはボクがどう映ってるんだろう。
…考えない様にしとこ。
計画書の作成に区切りがつく頃には随分と遅くなってたけど、もう少しやる事が有る。
エアリの素質を改めて見てあげるんだ。
「ね!?新しく来たヒト達と違うでしょ!?」
「全然違うね。面白い事になってきたぞ」
結論から言うと、エアリは成長してる。
魔法肥料の手伝いを決めてくれたヒトより魔力が有ると判定が出たけど、最初にボクが感じた感覚より強い判定なんだ。
そして更に先が有るかの様に浮かび上がった魔法陣が揺れてる。
「魔力の扱いに慣れると成長するのかもね。この揺れ方は魔法使いと神官のどちらに寄るか定まる前みたいに感じる」
「凄い凄い!じゃあ、あたしでもアーティファクトを作れる様になるかもしれないんだ!」
その可能性が出てきた。出来ればちゃんと研究したいところだけど、時間が足りないかな。
どうすれば方向性が定まるのかってだけでも解ると助かるのに。
「魔力量は恐らく魔力を扱うごとに少しずつ伸びるんだと思う。魔族もそうだからね。調合を続けるだけでも魔力は増えるはず」
「一杯調合するし!」
うーん、欲が出てくるなー。ちゃんと研究したい。魔族にとっては無駄な研究だけど、そう言う研究は大好き。イキシアの皆にとって大きいし。
あ、そうだ。
「魔法使い用の属性感知用紙をやってみて。意識を集中させると解る」
「うん!えーと、あ、出た!火の魔力!」
属性の感覚を掴ませてみよう。
これで変わる様なら神官用の属性感知用紙を用意しても良い。
「四属性を全部掴めたらまた魔力測定用紙ね。これで魔法使い寄りの結果が出るなら、また町民に集まって貰おう」
「解った!」
町民にもう少し選択肢を与えられる。それは雇用枠を増やせる事でもある。産業が軌道に乗れば自然と他所からヒトが集まるし、今の町民が産業に携わる余裕も出来るだろう。
「あ!あ!これも変わった!これ魔法使い!?」
「お。魔法使いの判定だ。やっぱこれだね」
「やったー!アーティファクト作れる!」
これでほぼ確定。残す問題は後一つ。それについても考えつつ、町長さんと相談しよう。