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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第一話「淫魔さん、人里に下りる」
7/92

07-滞在三日目-

 三日目は他の冒険者達も連れて町の外へ。

 勿論討伐クエストを請けて貰ってからだ。

「道具屋行って驚いたぜ。緑ポーションが安くなってるのな」

「しかもあれから更に割引だろ?」

「アイラさんにゃ出て行って欲しくねえなあ。他にも美味しい事が有りそうだし、何より超美人」

「搾り取られるのは勘弁だが、一緒に居る分にゃ目の保養になって良いよな」

「「ははははははっ!」」

 ポーションのおかげで冒険者達からも覚えが良くなってた。一部微妙な意見もあるけど。ほらアレスにフレキ、変に笑うんじゃない。

「ここまで大勢を導入となると、本格的にポーションの量産か?」

「いや、別の材料確保。名産品になりそうな作物が他にないか探そうと思ってね。それにただ付き合わせるのは悪いから討伐クエストも請けて貰ったんだ」

 あれから町長さんに聞いたけど、この辺りは胡椒の産地でもあるらしい。だからこそ製粉所では期待されてて、他所に出荷すればかなりの利益になるだろうとの事。

 そこで別の香辛料でもあれば、と考えたわけ。

 それを話したエアリから面白い話も聞けた。

「甘い香りの森が近くに有るって聞いたんだけどアレス知ってる?」

「ああ、それならあの森だね。まだその季節ではないんだけど」

 季節になると甘い香りがする森が有る。そこには甘い香りの草が生えてて、季節になると町の女が嗜好品として欲しがるらしい。食べても美味しくないから香料としてのみ使われてるそうだけど、エアリから乾燥したその草を見せて貰って確信したよ。

 その確信は、森に到着して喜びに変わる。

「イキシア儲かるぞー。お宝の山だ」

「「なにぃ!?」」

「本当かい!?」

 ボクとしても大助かりな物を発見。

 昔見た事が有る物だ。

「やっぱりバニラだよ。こいつは売れる」

「「うおおおっ!?」」

 使い方を知らない場所だと単なる草。でも加工次第でかなり稼げる。

 季節外れだから例の試作薬を活用しよう。

「これが甘い香りの草。季節になって種が発酵や乾燥しないと香りがしない。逆に言えば、ちゃんと加工してやる事で香りが強くなる」

「何でそんな事まで知っているんだ…」

「「うんうんうん」」

 これは趣味と実益を兼ねた知識かな。

 ボクにとっては馬鹿に出来ない。

「これ使ったデザートは女に喜ばれるんだ」

「ぷくっ!?」

「納得した…っ!」

「「はあ?」」

 アレスとフレキだけ納得。他は首を傾げたけど無視しよう。

 とにかく使える様になるまで試作薬を使う。

「採取に時間が掛かるから討伐クエストを始めちゃって。証拠品と前に指定した材料、それから毛皮なんかもお願い。残りは半分焼却」

「「おう!」」

 その間に皆には稼いで貰おう。焼却による数の調整は道中で話してある。毛皮の事もだ。

 アレスとフレキは討伐クエストを請けてないんで手伝って貰う。と言うか、ボクを手伝う為に請けないでいたみたい。

「デザートの材料とは恐れ入ったよ」

「しかも女にウケるってんだからな」

「馬鹿に出来ないぞー?珍しい味な上に美味しいから、大抵の子猫ちゃんは喜んでくれる」

「「ぷふっ!」」

 なんて軽口を叩きながら急速栽培。加工法を確立させた場所が少ないおかげで良いお金になる。ボクとしても美味しく精を吸えるから覚えた。

 んー、こんなとこかな。

「ここではここまで。この工程でもう少し収穫しよう」

「「よし」」


 イキシアは確実に儲かると確信した。

 帰り道に幾つかの香辛料を見つけられたんだ。

「本当に何でも知ってるなあ」

「魔族の土地って基本的に痩せてるからさ。そのくせ誰も何とかしようと考えないから、色々と知識を集めてきたんだよ」

 おかげで今はホクホク。知識は偉大。今日まで頑張ったボク自身に乾杯。

 皆もしっかり討伐出来たし、全員で満足しながら帰還したよ。

「アイラ!お帰り!どうだった!?」

「ただいま、エアリ。エアリのおかげでばっちりだった。ファリスは?」

「大丈夫!準備も出来てるよ!」

 出てる間にエアリとファリスに準備を頼んでたけど整ったか。

 それじゃ冒険者達を巻き込んで町民を全員集めよう。

「おおお。良く戻ってきた。どうだったね?」

「色々と見つけてきました。ここは良い場所ですね。目当ての物以外にも香辛料を幾つか見つけましたよ。後で見せますね」

「ありがたい!」

 町長さんにも報告。集まって貰った広間には色々な調理器具。

 始める前に冒険者達に声を掛けよう。

「はい、冒険者諸君。町民の皆さんをボクから守る様に陣取って武器を構えなさい」

「「はあ!?」」

「くくく…っ!どこまでも面白い…っ!」

「ほら、アイラの言う通りにしろ。折角の誠意を無駄にすんな」

「「お、おお…」」

 宜しい。

 ちゃんと構えていなさい。

 それでは始めよう。

「さっき甘い香りの草、バニラの実を収穫してきた。季節外れだけど、急速成長する魔法肥料を使ってね。女性ならこれを見た事が有るんじゃないかと思う」

「「うんうん」」

 少しずつだけど興味を引けてる。

 後は実際に加工すべし。

 お湯を沸かし、それに軽く漬けて取り出し、水分を拭き取る。そしたらファリスの出番。

「"ドライ"」

 乾燥魔法で急速乾燥。乾燥したらまたお湯に軽く漬け、水分を拭き取って乾燥。

 そう繰り返していく内にファリスが気付いた。

「甘い香りがしてきた!」

「「え!?」」

 繰り返す事で強くなっていく甘い香り。

 次第に町民にも香りが届いていく。

「なにこれ!こんなに濃くなるの!?」

「うん。これを油かアルコールに溶かして香料を作るんだ。美味しいデザートになるよ」

「凄い凄い!」

「「うわぁ♪」」

 ほら、子猫ちゃん達のハートを掴めてきた。

 アレスとフレキが苦笑いするくらい。

「じゃあ、エアリにはデザート作りを手伝って貰おうかな」

「はいはーい!」

 バニラの加工はファリスに頼み、ボクはエアリと料理教室。分量とかを書き留めておいたよー。

「家でも作れる美味しいデザート。定食屋で出しても売れると思うよ。後でレシピも書くから気に入ったヒトは持っていって」

 教えながら作るのはプリンってデザート。

 似た様なデザートなら都なんかで食べられる様だけど、バニラを使ったプリンはバニラの加工法を知ってる地でもそう多くない。

 つまり、ここの大きな名産品になる。

「アイラ、こんなとこ?」

「うん。じゃあ、油に溶かして。ポーション調合と同じ様に溶かせば良い」

「解ったわ」

 バニラオイルも完成。出来たら町民の方に持っていって貰って香りを嗅いで貰おう。

「うわ!凄い濃い!」

「こんなに甘くなるのね!」

「これで美味しいデザート…。楽しみ…」

 よし、子猫ちゃん達のハートをゲット!

 もうボクを恐がる様子は無く、ただただ楽しみに待つと言った様子。

 ファリスが戻ってきたらプリンに一滴。

「それだけで良いの?」

「十分十分。後は小さく器に分けて。カラメルからね。カラメルは薄くで良い」

「はーい!」

 器に分けたらお湯を張ったトレイに入れてオーブンへ。

 ボクも久しぶりに食べるし、楽しみに待とう。


「「おおおおおっ!!」」

 んー♪美味しいー♪

「こんなに美味しいデザート初めて食べた!」

「でしょ。バニラも使った物は凄い珍しいから名物デザートとしては良いと思うよ」

「絶対良いよ!ほんと美味しい!」

 美味しい食べ物もまた強い武器。

 町民達もすっかり喜んでくれたよ。特に女性陣の喜び様は気持ちいい。美味しいデザート万歳。

「いや、参った。本当に美味しいよ」

「お宝でしょ。他にもバニラオイルを使ったデザートが有るんだけど、どれも美味しいんだ」

「確かにお宝だね」

 珍しい甘さに男性陣も喜んでる。特に町長さんや定食屋さんが大喜び。

「本当に博識だ。料理もとは」

「魔族の国は土地が痩せてて美味しい物って貴重なんですよ。恐がらせる様で申し訳無いですが、そもそも魔族はヒトと食料が異なるので、痩せたままでも気にしないでいました。だからと言って美味しい食べ物が嫌いな訳ではありませんからね。魔族からすれば殆ど趣味になりますけど、それで農業や調理の研究をしていたんです」

「「おおお…」」

 最初は変わり種の変わった趣味と影で笑われてたけど、今はわりと見直されてるらしい。

 特にインキュバス、男淫魔は大注目。子猫ちゃんを引っ掛けやすいと評価が上がってるよ。

「アーティファクトを活用した美味しいデザートなんかもあります。ファリスに作り方を教えておくので、良かったら広めて下さい」

「アーティファクトでデザートだと!?」

「教えて!美味しいデザートなら大歓迎!」

 冷えたデザート、アイスクリームなんかもかなり喜ばれる。親友が甘党なんで良くせがまれた。

それも言い寄ってくる理由だと思う。

 …さて。

「仕立屋さん、居ます?」

「「はい」」

「気味が悪いかもしれませんが、魔物の毛皮を集めてきたので幾つか仕立てて貰えません?魔物の毛皮だと魔法を刻印出来て魔法の服を作れるんです」

「「おおおっ!?」」

 折角全員来てくれたんだし、追加宣伝を。

 食べ物の次は衣服。衣食住は鉄則。住はアーティファクトで補おう。

「どのような服になるんだろうか!」

「良質な防寒具とか、力を強くする手袋とか。ボクが使ってる魔法の鞄もそうですね」

「「おおおおおっ!!」」

 皮製品は加工に時間が掛かるから、教えるだけ教えるって形で終わりそう。

 防寒具と魔法の鞄は何としても残したい。絶対に売れる。

「…皆、どうだろう。まだ三日だが、アイラさんは様々な物を私達に齎してくれた。更に多くの物を残そうとも考えてくれている。これまでアイラさんが見せてくれた誠意も踏まえ、イキシアで受け入れても良いと私は思うのだが」

「「……」」

「いえ、まだ早いですよ。ちゃんと一週間の期限を過ぎてからでも遅くありません。お気持ちは嬉しいのですが、答えは一週間後で」

「ううむ。ヒトでもそこまで誠意を見せる者は少ないだろうに」

 どちらかと言えば気長だからこそ。ヒトよりずっと長く生きてきたからこそだ。

 そして一番の目的もまた気長に考えてる。一週間待つくらいどうって事は無い。

「それに、郊外か近くの森で暮らせる許可を貰えれば良いとも思っています。仮にイキシアの皆さんから認めて貰えたとしても、他所から来た旅人や引っ越してくる住人は別ですからね。ご迷惑にならない場所で暮らす許可を頂ければ」

「解った。皆、聞いての通りだ。アイラさんの姿勢や配慮も踏まえて考えて欲しい」

「「はい」」

 これで良し。三日目でここまでこぎ着ければ十分過ぎる。

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