表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第一話「淫魔さん、人里に下りる」
5/92

05-滞在初日-

 町を出たからと言っても首輪はそのまま。

 アレスからは外しても良いって言われたけど、一週間の期限中は着けてるつもりだ。

「義理堅いと言うか、なんと言うか」

「な。ヒトでもここまで言える奴は少ねえだろ」

「紳士だよねー。昨日の夜とか驚いたもん」

 こう言う誠意はちゃんと伝わるもの。

 エアリが少し零しちゃったんで、皆にも伝えておこう。ボクは変わり者のサキュバスなんだよと。

「えっと。確かに変わり者なんけど、それ以上に良いヒトだね」

「それで野宿って言ってたのか」

「そりゃ野宿でしょ…。一応これでもサキュバスの中じゃ上物に分類される見てくれなんで、男所帯の中だと相手に悪いし。女所帯の中だとボクが辛いし。首輪がエナジードレインを封じてると言っても、溜まるものは溜まるんだから」

「「ぶっ!」」

 ボクとしては切実だけど、意外にこの話はウケが良かったりする。特に男は解ってくれるね。

「せめて服が欲しい。薬が売れたら真っ先に服を買う。折角向こうを抜けてきたんだから地味な服を着たい。女装してる気分」

「はははははははっ!女装も何も…っ!」

「アレスもこれ着てみる?ボクの気持ちが痛い程に解るよ?」

「「ぶっ!?」」

 これもウケが良い話かな。大抵笑ってくれる。いや、ボクとしては本当に切実だけど。

 今着てる服は知り合いが仕立ててくれた物で、ボクの意見を完全に無視してサキュバスらしさを前面に出してくれちゃった服。

 ボクの事を知ってるくせに、それでもこんな際どい服を用意したのは悪意しか感じない。いや、悪魔族の仕立屋だから性質的には正しいんだろうけども。あの野郎、ハイレグを基盤にした服ばかり押し付けてきやがる。いつかシメよう。

 そんな話で盛り上がりながら薬草探し。

 これにはエアリがかなり助けてくれてる。レンジャーなだけあって、こう言うのは得意。鑑定スキルがあるのも助かるね。

「どうどう?」

「うん、どれも集めよう。これならポーションもネクタルも作れる。皆、これと同じ葉っぱを集めて。用意した籠に入るだけ」

「「おう!」」

 すぐに見つけてくれたんで、周囲を警戒しながら草むしり。魔物の気配を感じたら中断。

 ボクは戦えないから戦闘中に薬草の仕分けだ。

「上質だなー。やっぱ向こうとは違う」

 ヒト里の方が草花の質は良い。これは魔族の性質から土地が痩せやすいからだ。魔力を使う際に周辺からも魔力を吸い上げるんだよね。

 最近はそれをボクが指摘した事で抑えられ、魔法肥料の使用もあって落ち着いてるけども。

「倒したよ。確かこいつは爪だったよね?」

「うん。あ、毛皮も剥いでくれる?そいつの毛皮は魔法を刻みやすいんだ。良質な防寒具を作れるよ」

「え。それは良い事を聞いたな」

 逆に魔物の質は良くない。それでも使える物は使えるから無駄無く回収すべし。

 毛皮製品も喜ばれる。

「温める魔法を刻むのかしら」

「ううん。熱を遮断する魔法を刻むんだ。内側の熱を逃がさない形にした方がのぼせない」

「色んな事を知ってるのね。感心するわ」

 これでもそれなりに長生きだからね。知識を増やす事が好きなのもあるし。これも親友を良く助けられた理由だ。

「残骸は消し炭になるまで燃やして。食べても美味しくないし、残すと下級の魔物がよってきちゃう。材料確保の為に一定数は居た方が良いかもしれないけど、冒険者ギルドに居た冒険者の人数からしてもう少し減らした方が良いと思う」

「それで今まで減らなかったのか。ありがたい話ばかりだよ」

「「うんうん」」

 魔物の生態を把握する者は魔族側でもそう多くない。覚えておいたのは正解だった。知識はかなりの武器になる。

 クエスト分を討伐したら戻ろう。帰り道で遭遇するかもしれないし、今でも十分な程に材料が揃った。


 町に戻ったらエアリの家へ。

 全員揃って調合の様子が気になったし、エアリとファリス、そして神官のサーディスにも調合を教えるつもりだからだ。

 サーディスは中背だけどがっしりとした体の中年男。白髪混じりの黒髪だから人間だろう。パーティのご意見番みたいな存在感で、何故か老人口調。そして神官のクセに打撲武器で良く前衛に立つ。大丈夫かなこの神官。神官ってこんな職業だったっけ?

「ワシにも出来るのか?」

「魔力を持ってれば出来るよ。回復薬の調合とも相性が良い」

「ふむ?相性?」

 普段使ってる魔法から調合の得手不得手が生まれるとボクは発見した。

 回復魔法や支援魔法を扱う神官なら回復薬や補助薬。攻撃魔法を扱う魔法使いなら爆発とか凍らせたりとかの攻撃薬。

 普段から慣れ親しんでる魔力の流れが得手不得手を生んでるんだ。

「じゃあ、あたしは?」

「エアリはまだ相性が生まれるって程じゃない。でも、それは逆にどんな薬でも作れるかもしれないって事。努力次第で何でも作れる。後は魔法肥料とかの生活支援薬。不慣れな物が無い今だからこそすんなりいける」

 逆にエアリみたいな魔力はあっても普段から魔法を使ってないヒトは色んな物を作りやすい。

 特化した薬までは遠くても、すぐに色んな種類を作れるんだ。

 調合用の道具が無いから、雑貨屋で調理器具を売って貰う。代金はアレス達から。後でペイ出来るし、そう話さなくても快く出してくれた。大分信頼して貰えてる。

「ドキドキしてきた!」

「私も。苦手でもネクタルくらいは作れる様になりたいわ」

「ポーションを自給自足出来る日が来るとは夢にも思わなかったわい」

「お金になるから、どこの錬金術師も製法を広めようとしないだろうしね。なんならイキシアの名産品にしなよ。薬草を自給自足したりさ」

「「おお!」」

 これくらい貢献すれば、後は他の町民次第で郊外に暮らす許しを貰えるかも。

 その為にも三人には覚えて貰おう。

 まずはポーションから。

「おおお。色が変わったぞ」

「面白えな。こう作るのか」

「緑から青、紫、赤になる程に質が高くなる。材料次第で限界が変わって、次に製作者の魔力が関わる。最初だから緑で良いよ。慣れてきたら青を目指そう」

 種族的にも得手不得手、と言うか魔力量が違うから出来が変わるけども。人間っぽい三人でも最低ランクのポーションくらいはすぐ出来る。

 あ、サーディスのポーションが青緑になった。

「おお…。これが相性か」

「そうそう。初めてでその色なら十分だ」

 エアリとファリスは緑で止まったね。それでも出来たのは二人にとって大きい。

「出来た…♪」

「感動したわ…。初めて魔法を使った時みたい」

「おめでとう。あとは冷める前に小瓶に移そう。冷める前に密封しないと質が落ちる。密封した状態で冷めれば後は幾ら開封しても平気」

 何事も初めての成功は嬉しいもの。それが魔力を用いた事なら尚更で、ボクも初めて調合を成功させた時は嬉しかった。

 魔族の場合はヒトと違って魔力をそのまま事象に変換するから、魔法を使う喜びとは無縁なんだけども。だからこそ調合って工程には感動した。

 用意した小瓶にポーションを移し、次はネクタルを調合してみる。

「ちょっと父さんと道具屋のおじさんを呼んでくるよ」

「あ、うん」

 その間にアレスが気を利かせてくれたよ。

 実物を見て貰った方が良いもんね。

「うお。本当だ」

「昨日の今日でもうとは…」

「そろそろネクタルが出来ます。ポーションは出来たので、見て貰えます?」

「「おお!」」

 安いポーションだけど、イキシアからすれば大きな商品。ここの冒険者達にとっては生命線。

「ど、どうだ?」

「良いですね。安物ですが、ウチの主力商品と全く遜色が無い」

「おお…」

 よしよし。主力になるなら十分。

 サーディスのはどうだろう。

「実に良い。これも主力になる」

「おおお。それは良かった。どうもワシは回復薬と相性が良いらしくてな。練習次第で青ポーションに届くらしい」

「青ポーション!もし出来るなら新たな主力になるぞ!」

 青ポーションが主力になるとまた変わるはず。

 冒険者の活動範囲が広くなると思う。

「で、町長さん。折角ですから薬草畑を用意しません?材料になる魔物の量を上手く調整すれば良い名産品になると思うんです」

「本当かね!?」

「町長!有り得ますよ!青ポーションの値段次第では他所に出荷だって出来ます!」

「おおお!検討させてくれ!」

 かなりの手応え。ある程度の助言をすればボクが居なくてもやっていけるし、これを理由に他の町民からも理解を得られればボクとしても大きい。

 とは言え、ここは焦らずに事を進めるべし。

「ネクタル出来たー!」

「私も出来たわ!」

「ワシもじゃ!青緑じゃぞ!」

「「おおお!」」

 ネクタルも完成。ポーションとは違う形の小瓶に入れよう。本当に出来たか試したいから、これは実際に使うとして、ポーションとネクタルをもう少し作って貰う。

 ただし、エアリには別の薬を。

「エアリ。魔法の肥料を教えるから作って。こっちは緑のままでも十分な効果が有る」

「解ったー!」

 荷台を貸してくれた農家にお礼をしたい。

 魔法肥料は安価でもそれなりの効果が有る物の方が喜ばれる。最初はボクが考えた即効性が高く栄養価を高め成長を促進する魔法肥料。

「そんな物も出来てしまうのか」

「どちらかと言えば失敗作なんですけどね。即効性が有る代わりに長持ちしなくなるので、収穫直前に投与してすぐ食べないといけない。単純にボクが魔法肥料を作れると見せる為の試作薬です。製品は普通の肥料の効果を高め、長持ちさせる薬を主力にしようと考えていますよ。費用対効果を考えるとこれが現状で最上なので」

「成る程、試作薬」

「素晴らしい。魔法肥料と言うだけでも珍しいのに、そんなに素晴らしい効果なら幾らでも売れるぞ」

 これのおかげで向こうの農家から絶大な支持を得る事が出来た。痩せた土地が多い向こう側でも普通に農耕が可能になってる。元から肥沃なこちら側なら更に効果を見込めるはず。

「出来た!どうどう!?」

「うん。良く出来てる。ファリスとサーディスは続けて。ボク達は荷台を貸してくれた農家のとこに行くから」


 何だか賑やかになってきた。荷台を貸してくれた農家のところへ向かう途中、町民が気になって集まりだしたからだ。

「今度は魔法の肥料だってさ」

「魔法の荷台にも驚いたのにね」

「どんな効果なんだろうな」

 どうやら改良した荷台が知られたらしい。そんなに大きな町じゃないから無理も無い。他の農家も期待顔で集まってきてるよ。勿論、その期待には応えるつもりだ。

「ファリス次第だけど、ボクが滞在してる間に皆の荷台も改良するよ。ポーション作りでファリスの手が塞がってるから、もう少し待ってて」

「「おおおっ!」」

 ファリスも協力すると快諾してくれてるし、一週間以内に片付けたい。

 それはともかく、試作薬の披露だ。

「荷台ありがとう。おかげで一週間分は持ちそうだよ」

「そうかいそうかい。私達こそありがとね。おかげで凄く楽になった」

 喜んで貰えたようで何より。

 手応えを感じつつ、もう少しで収穫出来ると言う畑まで案内して貰った。

 トウモロコシだったのは好都合。

「これは試作薬。ボクが魔法肥料を作れると信じて貰う為に用意した物で、即効性が高い代わりに長持ちしなくなる。効果は栄養価の向上と成長促進だ。これを投与して美味しいトウモロコシが収穫出来たら成功ね」

「ここからすぐ収穫出来るのかい!?」

「出来たらボクが魔法肥料を作れるって信じられるでしょ?」

「「うんうんうん」」

 納得して貰ったら少し投与。見る見るうちにトウモロコシが成長してくれた。呆然とする周囲の前で農家に収穫するよう促してみる。

「出来ちまってる…っ!」

「安全性の確認って事で、家畜にあげてくれないかな。毒になって家畜が死んだら弁償する。鶏あたりが良いね」

「あ、ああ!」

 家畜の餌にも使われるトウモロコシなのは本当に運が良かった。実を落として貰って餌にする。

 …うん、物凄い勢いで食べてるね。鶏も美味しいと感じてくれたらしい。

 毒じゃないと理解して貰ったところで残りの魔法肥料を投与。今度は蒸かして皆で分けて食べてみよう。

「やだ、嘘!?美味しい!」

「おおおっ!こんなに甘いトウモロコシは初めて食べた!」

「凄い凄い!あたしが作った薬がこんなに美味しいトウモロコシにしちゃった!」

 副作用が強いだけあって効果が高く、かなり甘いトウモロコシの出来上がり。

 これなら十分に信じて貰えたはず。

「製品はこれほど劇的でなくても良質な作物が出来る様になる。従来の肥料の効果を高めて長持ちさせる薬だ。安く出来るから大した負担にもならないはずだよ」

「「おおおっ!」」

 魔法肥料に関しては効果を実感するまで時間が掛かるからね。失敗作でも用途が有る訳だ。

「その薬の最大の利点は薬草だけで出来る事。町長さん次第で安定供給が可能ですよ」

「素晴らしい!これは畑を作るべきだ!」

「「わあああああっ!!」」

 それじゃ、製品の作り方をエアリに教えよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ