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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第一話「淫魔さん、人里に下りる」
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04-封魔の首輪-

 出来るだけ使いたくなかったんだけど、備え有れば憂い無しと持ってきた物を使う。

 先ずは町長さんに頼んで町民を召集。

「サキュバスのアイラだ。ちょっと縁が有ってオークとゴブリンの討伐に手を貸してくれた。数年は近寄らなくなる手も教えてくれてね。数年は安心して良いし、同じ手を使えばまた数年安心出来るとも教えてくれたよ。で、一泊だけエアリの家に泊まって貰う事になった。その挨拶をしたいから皆を呼んで欲しいと頼まれたんだ」

 流石に不安そうな町民。ギルドの役員や他の冒険者なんかは事情をギルドで聞いてるからそうでもなさそうだけど。

 安心させる為にアレを出そう。

「アレス。この首輪をボクに着けて」

「「うお?」」

「おいおい。今度は首輪かい?しかもこれ、もしかしてアーティファクトか?」

 魔法が込められた道具、アーティファクト。

 この首輪はその中でも強力な奴で、呪いの道具と言っても良いレベル。

「対魔族用の奴。魔法や能力の一切を封じ込め、身体能力も大幅に下げる」

「「はあ!?」」

「君は本当に面白い奴だね…。そこまでするのか…」

 封魔の首輪ってアーティファクトだ。

 これを着けられたら魔王であってもヒトの子供並まで落ちる。…と言うか、先代魔王を殺す為にボクが作って実際に殺した物なんで効果は折り紙付き。

 試しにアレスのパーティの魔法使いに着けて貰う。女の子に試すのは申し訳ないけど。

「うあ、凄い…。本当に魔力が封じられる。体も凄く重い」

「んじゃボクに着けて。ここに居る間は着けてる。それなら安心出来るんじゃない?」

「ええ。皆、大丈夫。これかなり強力よ」

「「おお…」」

 そう言う訳で着用。うあー、我ながら強烈なの作ったなー…。全身がとにかく重い。

「大丈夫かい?」

「しんどいわー…。実はボクが作ったんだけどさ。良い仕事しちゃったよ」

 それは先代魔王も殺されるって。こんなの着けられたらまともに動けない。

 丁度良いから道具屋を呼んで貰おう。

「ひっそり暮らそうとヒト里に下りてきたんだけど、先立つ物が無くてね。魔王城から持ち出したアイテムを売りたいんだ。もし買い取れそうなら買い取ってくれないかな。相場の半値で良いからさ」

「うお。見せてくれ」

 首輪のせいで億劫だけど全部出そう。空間魔法を活用した魔法の鞄に詰め込めるだけ詰め込んできたから量はかなり有る。

 アレス達にも手伝って貰って展開だ。

「凄いな。魔法の鞄じゃないか」

「これもアイラが作ったの?」

「うん。店を構えられたらこれも売る予定」

 アーティファクト制作も錬金術の一環。他にも便利な道具を作れるのだ。

 それはそうと、出した物はどうだろう?

「ううむ。どれも最高級品だ。買い取りたいところではあるが…」

「やっぱ厳しい?あたしもそうじゃないかと思って、都まで行こうって話になっててさ」

「買い取ったとしても買い手がつかんよ。どれもこの辺りの冒険者では手が出んだろう」

 あ、それは頭に無かった。となると都でも厳しいか?王都まで行かないと駄目かも。

 流石に王都には行けないな。

「魔王城から持ち出したと言っていたが、そもそもこれは非売品じゃないか?冒険者か軍が抱えている錬金術師が特注で作ったのでは?」

「う。それも頭に無かった。どうしよう、参ったな」

 そうか、その可能性もあった。お世話になる事が無い物ばかりだから解らなかったよ。

 良い物とは解ったから元手としては十分だと思ってたのに、まさか良すぎて駄目だとは。

「ねえ父さん。こんな首輪まで自分から着けるようなヒトだよ?滞在させて良いんじゃないか?父さんが鍵を預かれば問題無いだろう」

「私もそう思った」

 え。それはありがたいけど困る。

「首輪着けたままだと錬金術使えない」

「う。それはまずいか」

 魔法を封じ込めるアーティファクトは勿論、調合にも魔力を必要とするからね。あくまで首輪は滞在の為の保険。

「僕としてはアイラを信用したいんだけど」

「ここまでくると私もだ。とは言え皆がな」

「ウチとしてはアイラさんの商品が気になる」

 んー、これはこれで好機と考えよう。どの道どこの町でもこうなると思うし、経験って事で。

「一週間程時間を貰えません?その間に皆さんの役に立つような物を用意します。何か問題を起こしたら蹴り出して構いません。監視にアレス達を同行させてくれれば皆さんも安心出来るのでは」

「ふむ。それなら私は構わない。皆はどうだ?」

「「……」」

 よしよし、許可を貰えた。ここからは腕の見せ所だね。

 問題はエアリ、レンジャーの子の家にお邪魔するって事くらいか。


 これまでの姿勢もそうだけど、対人関係を築き上げるには誠意を見せる必要が有るとボクは考えている。

 だからエアリの家にお邪魔して、真っ先に事情を話す事にしたよ。ボクがどう変わり者なのか。

「首輪が着いてる今の内に話しておくよ。ボクはサキュバスの中で一番の変わり者だ。ヒト側にもたまに有るらしいけど、性同一性障害って奴でね」

「せいどういつせいしょうがい?それ何?」

「平たく言えば体は女でも中身が男って事」

「へえ。確かに変わってるね」

 もう少し危機感を持って欲しい。ボクが指摘するのも変な話なんだけど。サキュバスのボクが性同一性障害って言うのはエアリにとって危険極まることなんだからね。

「サキュバスってのは男から精を搾り取る。でもボクにとって、それはヒトで言うホモとかヤヲイとかって呼ばれる形になるわけ」

「え」

 解ってきた?

 危ないでしょ?

「だから野宿って言ったんだよ…。ボクの対象は女の子なんだから…。今は首輪の効果でエナジードレインを使えないから無害って言えると思うけどさ…」

「あは、あははは…。そう言う事…」

 そう言う事なの。エナジードレインが使えなくてもムラっとくるのはどうしようもないし。

 一応、節度は持ってるつもりだけどさ。

「でも、それはそれで今までどうしてきたの?精を吸わなきゃ死んじゃうんじゃない?」

「普通の食事でも何とか生きられるし、触るだけでもエナジードレインは可能だからね。そう言う行為に及ばなければ男からでも平気。体はサキュバスだから男の精の方が馴染むし。今はかなり貯蓄が有るから余裕も有るよ。まあ、その、ムラっとくるのはどうしようもないんだけど。首輪で力が抑えられててエアリでも張り倒せるから安心して」

「ほんと面白いなあ。普通そう言う事って言わないと思う。紳士みたい」

 これは性根もある。女の子から精を吸う時は必ず合意を得てからだし。

 そう言う趣味の相手だと見極める事も出来るくらい昔からこうだった。…多少奥手なのもある。

「泊めて貰う恩義に応えたいから、ある程度の事情も話すよ。実は魔王が代替わりした」

「え?」

 これもまた誠意。もう少し理解を深めて貰いたいからね。

 ある程度までは話そう。

「魔王アルゴニアは死んだ。ボクとボクの親友が殺して、今はその親友が魔王。この首輪をアルゴニアに嵌めて蘇生出来ない状態にして消滅させた。だから当面は魔王軍は動かない」

「それほんと?」

「信じるかどうかはエアリに任せる。アルゴニアと違って、親友は能動的にヒトを襲おうとは考えてなくてね。ボクものんびり過ごしたいから、それを機に抜けてきたって訳」

 今はここまでかな。どうせその内に親友から手を回すだろうし、もうボクの役目は終わり。

 いや、正確には魔王城での役目は終わりだ。

「変わり者なだけに向こうじゃ肩身が狭い。親友を手伝った事で少しはマシになったけど、落ち着きを見せた事でサキュバスとしての食事も無理を通す事が出来なくなってる。普通のサキュバスならともかく、ボクは無理だ。だからダークエルフ辺りを口説ければと思ってる」

「成る程ねー。ダークエルフは同性趣味が多いって話だっけ」

 これも本音の一つかな。長寿でそう言う趣味の相手を見つけるのも目的。

 少しずつ吸う分にはお互いに困らない。

 それはそうと、明日からの予定。

「さて。明日からなんだけど」

「あ、うん。何を作るの?」

「まずは荷台の確保だ。調合に必要な物を採取しないといけない。ファリスにも手伝いを頼まないといけないかな。荷台をアーティファクトにしたいし、調合も今のボクじゃ出来ない」

「いきなりアーティファクト!?すぐ出来ちゃうの!?」

 アレスのパーティの魔法使いがファリス。

 エアリより少し背が高く、女らしさもエアリより上かな。賢そうだけど理知的って程でも無い。良いバランスだ。

 オークの巣を潰した時、ボクの魔法に興味を示してたから、教えると言えば手伝ってくれるはず

 魔法使いなら少し教えれば作れる。

「良いなー。魔法って何か憧れちゃう。魔力が弱くて魔法使いになれなかったんだよね」

「弱くても魔力が有るなら簡単な調合くらいは出来るんじゃないかなあ。試しにやってみて、出来たら手伝ってよ」

「ほんと!?やるやる!教えて!」

 まずはボクの知識と技術を披露。そこから信頼を得ていく方向で。その段取りも考えてある。

 と言うか、親友の手伝いをしていた時の事をそのまま使えば良い。

 色んな技術を伝授する事で仲間を増やしてきてるんだ。


「何でも言って。幾らでも手伝うわ。」

 翌日、アレス達が来てファリスに頼んでみた。

 即答で協力を快諾してくれたんで、まずは農家にお邪魔する。怯えられたけど仕方ない。

「荷台を借りたいんだ。そのお礼に他の荷台も含めてアーティファクトにする」

「「え!?」」

 これで少しは話を聞いてくれる様になったと思う。後は実際に改良すれば良し。

 その為に、まずは紙に魔法の構想を記す。

「これは自重緩和の魔法。荷台の底に封じ込めれば荷台の重さが無くなるんだ。封じ込める物次第で強さとか封じ込められる期間とか変わるんで、車軸の穴に封じ込めた方が長持ちするかな。まずは覚えてくれる?」

「解ったわ!」

 応急処置的な改良だけど、普通の荷台よりはずっと良くなる。馬の負担が激減するし、ヒトが引く事だって出来る。

 ファリスが覚えている間、アレス達には荷台を全てひっくり返して貰おう。

「面白くなってきたね」

「ああ。アーティファクトって言ったら冒険に使う物って印象だったんだが、まさかの荷台だぜ。まあ、冒険にも荷台が必要な時も有るけどよ」

 結構大変な作業だけど、そう楽しんでくれてるのは良かった。

 全部ひっくり返して貰ったところでファリスも覚えてくれたらしい。ボクも次の魔法を教えてあげよう。

「これが刻印魔法。これを構想した後に封じ込めたい魔法の構想を想像しながら対象物に掛けるんだ」

「やってみるわね」

 自重緩和魔法も刻印魔法も難易度は低めだから一発で成功。他の荷台に封じ込めて貰ってる間に出来た荷台を元に戻して色々と載せてみる。

「うおおお!凄え!積んでねえみてえだ!」

「本当かい!?ちょ、引かせておくれ!」

 成功したね。

 農家が喜んでくれたし、アレス達も面白がって引っ張り始めたよ。

「一台借りても良いかな。出来れば一週間。近隣で採取出来る物から魔法薬を作ろうと思ってるんだけど、良いの出来たら最初の一つはあげるからさ」

「全然良いよ!全部改良してくれただけでも御の字さね!」

 よしよし、荷台確保。馬まで借りる事が出来たし、他の農家の荷台も改良すると言っておこう。

 全部改良出来たら、今度はギルド。

「「うお…」」

 冒険者達を驚かせたんで軽く謝っておく。

 ここに来たのはイキシア周辺に居る魔物の種類を確認する為だ。

「んー。結構良いの揃ってるな。これなら安いポーションを作れそう。魔物の体も色んな物の材料になるんだ」

「本当かい!?」

「「おおおっ!?」」

 薬草次第だけど、薬草以外の材料は揃いそう。

 ここで売られているポーションの質は昨夜の内にエアリから見せて貰ってる。

「あれ。ネクタルもいけそうか?」

「それ凄く助かるわ!」

「「おおおっ!?」」

 魔力回復薬のネクタルもいけそう。結構値が張るんだけど、作る難易度が少し高めだからであって、技術料を抑えれば安く提供出来る。

 ファリスも飛びついたし頑張ってみよう。

「ねえ。討伐クエストの証拠になる物を教えて貰えないかな。調合の材料じゃなければ、皆に確保して貰ってポーションとか割引するってのも有りだと思うんだ」

「「おおおおっ!」」

「今リストを出します!」

 これ結構喜ばれる。親友の手伝いをしてた時にやったらすぐ材料が集まった。

 やっぱり喜んで貰えて、すぐリストを出してくれたよ。

「…よし、問題ない。皆、調合に成功したら材料のリストを用意するよ。ボクが滞在している間は受け付けるから、討伐クエストのついでに取っておいて。道具屋にも話をつけておく」

「「ああ!」」

 よしよし。掴みは上々。回復薬はどこであっても喜ばれる。

 確認したら討伐クエストを請けて出発だ。

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