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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第四話「淫魔さん、家族を養う」
21/92

01-美味しい物探し-

 秋口になるとイキシアの光景が少し変わった。

 色んなヒトが花壇で作業をしてるんだ。それもかなり本格的で、種蒔きどころか土の入れ替えまでしてる。

「凄いね。何を植えてるの?」

「おや、アイラさん。イキシアの球根だよ。町の名前の由来になった花さ」

 成る程、それは皆も頑張る訳だ。

 花の知識はあまり無い。魔族の国じゃ観賞用の花なんて珍しい物だし、そんな少数の花言葉を子猫ちゃん向けに覚えたくらい。

「どんな花?」

「これくらいの花が幾つか固まって咲くんだ。色は豊富だね。白とか赤、桃色、緑なんかもある」

 おー、鮮やかだなー。

 それはかなり見てみたい。

「花言葉とかある?」

「有るとも。団結とか強調とか。誇り高いってのも有ったね」

「へええ。この町のヒト達にぴったりだ」

 良い花だね。ますます楽しみ。

「何時頃咲くの?」

「春先だよ。でも同じ土を嫌う変わり者でね。だから毎年この季節に花壇を掘り返してるのさ」

 そう言う花もあるのか。

 球根って呼んでたけど、ボクが知ってる種より大きい。野菜みたい。

「アイラー!」

 おおお?

 エアリ達が帰って来た。

 表情から察するに成功したらしい。

 ボクの家まで来て貰おう。




 先月の半ばから隣国への出荷作戦が始まった。

 アーティファクトの他にも魔法薬やコンポジットボウ、ステンレス武器なんかも用意。

 結果を聞いて、ご馳走を色々と買い込んでから帰ったよ。

「皆の頑張りと最高の結果に!乾杯!」

「「乾杯!」」

 成功も成功、大成功だった。

 商品は全部完売したし、フレキが値段交渉を頑張って予想金額を大きく上回る売り上げになったんだ。

「アレス達だけで十分な稼ぎになったよー。これでローン返済も増築も出来る」

「ははは。日頃のお返しが出来て良かったよ」

「ああ。おまけに良い素材も入ったしな」

「そうそう!レッドスパイダー!」

「おおお!?そりゃまた大収穫だ!」

 お金以外でも収穫有りか。

 赤蜘蛛弦はかなり大きい。

「アイラ、他にも朗報が有るぞい。筋肉疲労回復魔法を買えた」

「やったじゃん!他の冒険者にも頼んでたけど収穫が無かったんだよ!」

「他にも光魔法を買ってきた。明日からフィーナに教えるつもりじゃ」

「うあっ!ありがとうございます!」

 しかも欲しかった魔法まで。

 そろそろお風呂屋が出来上がるから丁度良かった。後は筋肉疲労回復魔法だけだったんだ。

「いやー。どこも飛び付いてくれたぜ。魔法の鞄なんか三百万で売れたのも有ってさ」

「え。そんなに?」

「一件目で二百万って言ったら即決でよ。もっと吹っ掛けてみるかと試しに三百万って言ったら買ってくれるトコが出たんだ」

「笑いが止まらなかったよね。流石に三百万は一件だけだったんだけど、殆どが二百二十万から二百五十万なんだもの」

 うわー。ほんと今の内だなー。

 これ以上はやれないけど、もう少し作っても良かったか。

「水筒も凄かったよねー。最高で二百万だったっけ?」

 え。

「おう。二百万スタートで即決だ。ライターやカンテラは設定通りだったんだけどな。殆ど値切り無しで完売してる」

 アーティファクトの需要高いなー。

 元の道具と魔法一回で数十万とかボロ儲けだ。

 工房が始まったら一気にヒトが集まるぞ。

「魔法薬はどうだったの?」

「ネクタル馬鹿売れ!高値ついたよ!」

「きゃーっ♪」

 ネクタルは割高でも売れると見てた。

 青まで行ければ需要は高い。

 これなら魔法薬工房も完璧に軌道に乗るね。今の段階でも十分なくらいだし。

「コンポジットボウも高く売れたの!一本五十万で即売れ!」

「おおおっ。やったね!一財産だ!」

「ステンレス武器も二百万前後だ。鍛冶屋の親父も喜ぶだろうぜ」

 ここの倍になるから喜ぶって。

 やっぱり良い素材はお金になる。

「僕達が先かな?」

「うん。あいつ等の分で木を植えるかな。鉄鉱山を調査した時、途中で良い木を見つけてさ」

「「おおお?」」

 余裕が出来たら冒険者を雇って植え替えようって考えてた木がある。

 この季節になると解りやすくなる木。

「秋になるとあの山の方が赤くなるでしょ」

「うん。その木?」

「そそ。カエデって種類の木なんだけど、その中でもあそこのカエデはサトウカエデって奴だ。樹液が独特の甘さで美味しいんだよ」

「デザートに使えたりする!?」

 甘いと聞いてエアリが飛び付いた。

 勿論使えるから楽しみにしていなさい。

「町長さんと相談して沢山植え替えようか。シロップとしては高級品だし」

「賛成賛成ー!」

「また甘い物が増えるなんて最高よぉ♪」

 良いよねー、甘い物。

 あいつらも戻ってきたら、ボク持ちでやっちゃうか。まだ仕事を見つけられてない子猫ちゃんが結構居たと思うし。


 別の出荷班もかなりの売り上げで戻ってきた。

 やっぱりレッドスパイダーを狩り倒してきたらしい。エアリに蜘蛛弦を作る道具を作ってあげてるから使わせてやったよ。

「皆を待ってたんだ。帰って早々で悪いんだけど、ボクの依頼を請けてくれないかな。報酬は弾むよ」

「やるやる。今回のでかなり貰えちまったし、何でもやるぜ」

 依頼交渉も即決。

 他の冒険者にも既に話をしてあるんで、ギルドに行って依頼を発行しよう。

 個人的な依頼でもギルドを通した方が面倒も無いし、ギルドの利益にもなる。何より冒険者としての格に影響するんだ。

 冒険者レベルってのが有って、稼いだ額が設定数に到達するとレベルアップ。上がる度に必要金額が上がるんで少しでも稼がせたい。

「お、戻ってきたか!」

「となると明日出発か!?」

「いや、大丈夫っぽいからすぐ出る」

「「よっしゃ!」」

 準備はばっちり。

 荷台も農家に頼んでかき集めておいた。

 空間魔法と自重緩和魔法で普通の荷台でも木を運べるのだ。

「で、何をすりゃ良いんだ?」

「鉄鉱山への道の途中に有る木をこっちに植え替えるんだ。力仕事だし魔物も出るから冒険者にしか頼めなくてさ」

「そいつあ初めての依頼だな。アイラさんが選んだ木となると、何か使い道があると見た」

「正解。極上のシロップが採れる」

 町長さんからは是非と言われた。

 まだ仕事を見つけてない子猫ちゃんも全員就職決定。中身が男であってもボクの側ならって。後続の出荷班の売り上げ次第で集合住宅もと考えてたし、この売り上げなら建てても余裕が有る。

 とにかく出発しよう。


 道中の魔物を狩りながら皆で遠征。

 危険だけど回復魔法が欲しいんでフィーナも連れてきてる。

「怖くねえか?」

「大丈夫です。師匠のお手伝いが出来ますし、私も師匠の考えに賛成ですから」

「アイラさんの考え?」

 冒険者達には雇用や集合住宅の事を話してなかった。ひけらかすつもりは無いし。

 でも話が出たんで話そう。

「ほんと良いヒトだ…っ!」

「そこらの金持ちに見習わせてえ…っ!」

「子猫ちゃんの為なら幾らでも肌を脱ぐともさ。まだ男が怖いみたいだし」

 買い出しとか考えると、もう少し頑張って欲しいとは思うんだけどね。

 既に犯されてる子猫ちゃんも多いんで急かす事は論外。当面はボクとフィーナが付き添う。

 あの空飛ぶ乗り物、フラッパーと名付けたけど、フラッパーも何個か作るつもりだよ。

「ねえアイラ。そう言う事ならあたしも集合住宅に引っ越すよ?」

「あ、私も。アイラの家の近くでしょ?」

「それは助かるよ。出来るだけ近くにと考えてるからボクの家に来やすいはず」

 エアリとファリスも来てくれるなら安心だ。女同士の方が安心するだろうし。

 ボクの精神衛生的にも助かる。たたでさえフィーナだけで一杯一杯なのに。フィーナ可愛いんだもん。辛い。

「ほら、あの赤みがかった木」

「あれか。見た目も良いな」

 んー、家の周りに十本。畑に二十本かな。

 かなり広いから三十本でも大丈夫そう。

「どんな味かな…♪」

「楽しみよね…♪」

「アイラさんが考えたデザートは何でも美味いもんな。初めてアイス食った時とか凄え感動した」

「俺も俺も。すっかりイキシアから離れられなくなったぜ。飯も全部美味いし」

「「うんうんうん」」

 食の町として大分板についてきたよね。

 外から来るヒトがかなり増えてて、定食屋とか凄い大変そうだもん。

 既に他所から来て定食屋を開いたヒトも出てるくらいで、ボクに慣れてから情報を流してる。

「何より酒だよ酒」

「それな。ビール最高」

 お酒も狙い通りヒトを呼んでる。

 酒蔵じゃ両隣に出荷する分まで作り始めてるくらいだ。近々酒造量の追加申請をする事になってるよ。

「ふっふっふ。今回は皆の為に、ボクがこっそり作ってた酒を持ってきた。木を荷台に積み終わったら皆で飲もう」

「「うおおおおおおっ!」」

 樽でミードを作ったぞー。

 少し甘めに作ったんだけど、良い物で薄めるから丁度良い味になる。


 木の植え替えは慎重に。

 植林に関してもサトウカエデの事を知った時についでに覚えてある。

「まずはこれを木にあてて縄で縛って。自重緩和のアーティファクトだ」

「「おう!」」

 最初は引き抜き安くする為の処置。

 クッションをあて、その上にアーティファクト化した鉄板。それを縄で縛る。

 植える時にも使うからそのまま。

「スコップで根本、これくらいの範囲で掘って。土ごと持ってくから」

「「よっしゃ」」

 抜く時は根本の土も一緒に。

 彫ったら持ち上げ、大きな麻袋に入れて荷台に立てて積む。そんなに太くない木だからわりと楽かな。

 荷台一台でなんとか二本積めたよ。これなら往復しないで済む。

「ねえねえ。何か甘い香りがしない?」

「私も思った。ねえアイラ。これがそのシロップの香り?」

「そう。メープルシロップってシロップだ。ちょっと一本剥いじゃうかね」

 この香りからして、かなりの上物。

 残ってる一本にナイフを突き立て、斜めに表面を切って皮を剥ぐ。

「うっわあああっ♪凄い甘い香り!」

「砂糖と違う甘さって感じね!」

「上物だなー。表面を掬って舐めてごらん」

「「…んんんんっ♪」」

 ボクも一舐め。…やっぱり上物。

 これも名産品になる。

「んんっ♪美味しいです!こんな甘さは初めてですよ!」

「うおお!マジだ!美味え!」

「これのデザートが楽しみだな!」

 何かしらのデザートに掛けるって使い方だけどね。これのアイスとか人気出そう。と言うか食べたい。

 斜めに皮を剥ぐ事でシロップを集めやすくするんだけど、垂れる先に器を置くだけで良いから採取は楽。手入れをちょこちょこするくらい。

 一応魔法肥料は用意した。手入れは殆どそれで終わる。

「よーし。皆、お疲れー」

「「お疲れー!」」

 無事に積載終了。

 今日はここで野営する事にして、アレを出そうじゃないか。ボク特性のミード。

「カップの三分の一入れて。この水筒から出る水で割るんだ」

「「おおー」」

 濃いめのミードを割るのは皆も知ってる感じの水。

「おおおっ!?ビールみてえに泡立ってる!」

「マジだ!アイラさん、これ何だ!?」

「炭酸水って水でね。特殊な気体を魔法で混ぜた水なんだ。冷たくもあるから美味しいよ」

「「うおおおおおおっ!」」

 炭酸水もかなり珍しい部類。

 色んなお酒に合うから重宝する。

 リキュールとの相性も良いから、皆の反応を見て酒場に流すつもりだ。

「それじゃ、今日の頑張りと新しいイキシアの名産品に!乾杯!」

「「乾杯!」」

 さて、皆の反応は如何に。

「「うおおおおおおっ!!」」

 よし!行ける!

「おぉいぃしぃいいいいっ♪」

「やっぱりミード…♪これ良い…♪」

「ミードってのか!マジ美味え!」

「ちと甘いが気にならねえな!」

 炭酸水が喉ごしを良くしてくれるんで、少し甘い程度なら甘いのが苦手なヒトでも結構いける。

 あ、ミードと言えばだ。

「メープルシロップでもリキュール作れたな」

「ほんと!?」

「それは作るわよ!」

「いや、メープルリキュールは普通のリキュールと作り方が違ったはず。まともな酒造になるから駄目だ」

「「あうー」」

 メープルシロップでもお酒が作れる。

 メープルシロップで蒸留酒を作り、そこに更にメープルシロップを溶かすって感じだと思った。

「で、アイラさん。ミードって何の酒だ?」

「蜂蜜だよ。場所によってはハニーワインなんて呼ばれてる」

「蜂蜜かよ。ほんと何でも知ってんな」

「魔法を活用するとすぐ出来るから子猫ちゃんウケがかなり良い」

「「ぶっ!」」

 アルゴニアが生きてた頃は酒造の法律が無かったんで作り放題だった。今は違うけど無理矢理ねじ込んで酒造免許をとったから問題無し。

 ちなみにこれにはちょっとした逸話が有る。

「普通にお酒を造ってると親友が奪いに来やがるんだよ。しかも甘党だから子猫ちゃん向けのお酒から持っていきやがるの。だからこいつにはお世話になったー」

「「ははははははははっ!」」

 お酒を造る魔族なんか居ないし、故郷のヒトが造るお酒は美味くないってのが親友の談。

 せめて材料費くらいは置いていけと思うのに、問答無用で強奪しやがる。

「女を引っ掛ける為に酒造るってのはアイラさんらしいっつーか…っ!」

「甘い酒は良いぞー?特にリキュールとミード。お酒飲んでるって感じがしないから、結構あっさり潰れてくれる。押し倒しやすい」

「「ははははははははっ!」」

 彼女出来たら一日の締め括りにやってみ。

 結構な確率で良い夜を過ごせるから。やり過ぎると倒れてそれどころじゃなくなるけど。


 無事に帰還して植林開始。

 働く予定の子猫ちゃん達も来てくれた。

「アイラさん!ありがとうございます!」

「「ありがとうございます!」」

「ボクんちに植えるついでだから問題ないよ。家も建てられそうだから楽しみにしてて」

「「うわぁっ」」

 子猫ちゃん達には魔法肥料を撒いて貰う。

 まずは植える為に穴掘り。掘ったら肥料。

「ちゃんと採れるのは冬だ。それまでに手入れの仕方を教えるから覚えてね」

「「はい!」」

 向こうで舐めた時も美味しかったけど、季節になるともっと良くなる。確実に上物。

 この近辺で見つかったのも珍しいかな。寒い地方に良く見かける木だ。気温調整のアーティファクトを用意した方が良い。

 そうそう、味見用に少し確保してあったんだ。

「美味しい!こんなの初めて!」

「コクがあって美味しい!」

「これ絶対売れるよ!」

「季節になるともっと美味しくなると思う。皆の手入れ次第で量が変わるから頑張って」

「「はい!」」

 一本は子猫ちゃん達用にしても良い。

 これだけあればかなりの量になるはず。

「おお…」

 おっと、町長さんも来てくれたか。

 町長さんの家にお邪魔してる子猫ちゃん、フィーナと一緒に助けた子も来てるもんね。

「これがサトウカエデか」

「ええ。これをどうぞ。季節外れですが少し採ってきました」

「ありがとう。…こ、これは!」

 美味しいし使い勝手も良い。

 上品な甘さなんで高級感も感じる。

「冬が旬なんですけどね。気温調整アーティファクトを使えば秋の半ば辺りからでも採れると思います。彼女達が手入れを覚える頃には採れますよ。絶対に売れます」

「私も売れると思う。実に良い甘さだ」

 採れたらまた定食屋と相談かな。

 雑貨屋にも納品したい。

「あ、フィーナ。彼女達に教える時にフィーナも覚えて。ウチでも採るから」

「はい!自家製なんて最高ですよ!」

 十本だからねー。ここの半分って考えるとお裾分けも余裕。町長さんには絶対渡す。

 それからメープルリキュール。絶対作る。

 下手に買うと高いから自家製は最高。

 あ、ウチの木の半分を子猫ちゃん達に分けるのも良いな。管理をお願いする代わりに五本分。そうすれば畑の二十本を全部出荷用に出来る。

 うん、それでいこう。

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