02-冒険者との出会い-
「うん。知ってた」
魔王城から自前の翼で空を飛び、魔族の勢力圏から遠く離れる。適当な街道に下りたら徒歩。
そうなると当然ヒトに見つかり、逃げられる。
ヒトの姿に変わる事も出来るけどやらない。
それじゃ意味が無いからだ。
「だよね。知ってた」
暫くすれば、今度は冒険者と呼ばれるヒト達に遭遇する。冒険者と言うのは何でも屋の事。主に魔物退治が仕事、と言うのがボク達魔族の認識だけど、実際の所は雑用もやると調べがついてる。
「魔族が白昼堂々散歩とはね」
「どう言う風の吹き回しだ?」
実のところ、彼等に会うのも目的の一つ。
だって一般人じゃボクを怖がる。さっきだって全力で逃げられたし。
「君達冒険者に用が有るんだ。あー、でも、冒険者狩りとかじゃなくてね。ちょっと案内を頼みたいって言うか。いや、それは後にしよう。」
「「はあ?」」
うん、まあ、そう言う反応になるよね。
魔族と冒険者なんて宿敵も良いところだし。
「ボクはアイラ。自他共に認める変わり種のサキュバスだ。ポーションとか持ってるんだけど、買ってくれないかな。ヒトのお金を持ってないもんだから、買ってくれそうなヒトを探してるんだ」
「「はああ?」」
いきなり斬りつけて来なかったのは重畳。
道端に寄って座り、布を敷いて持ってきたアイテムを色々と出してみる。
どれも魔王城に攻め込んで返り討ちにあった冒険者達が持ってた物だ。
…あ、いけない。
「サキュバスのボクが出した物だと怪しいか。うーん、そこが抜けてたな。誰か鑑定スキル持ってるヒト居る?」
「え、と、一応あたしが…」
怪しまれるのも解っていたけど、ここは敢えて間抜けなフリ。
冒険者達の中に鑑定スキル、アイテムの知識が高いヒトが認定される資格みたいな物を持ってるヒトが居てくれたのは良かった。
「ど、どうだい…?」
「…凄い。どれも最高級品。赤いのしか無いよ」
「魔王城に攻め込んできた冒険者達の遺品なんだよ。相場の半値で良いから買ってくれないかな」
「「半値!?」」
それこそ勇者とか英雄とか呼ばれる様な冒険者達の遺品だもの。どれも高級品だし、もしかしたら半値でも彼等には苦しいかもしれない。
それも見越して武装は見ずに道具だけ持ち出してる。
「え、えーと。なんで金が必要なんだい?」
「当面の生活費が欲しいんだ。最優先は服かな。いい加減まともな服を着たい。今まではサキュバスらしく、とこんな風に露出度が高い服を着てきたけど、趣味じゃなくてね」
「「……」」
よしよし、少しずつ警戒が解けてきてる。本当の事しか話してないけど。性同一性障害のボクにとって、お色気たっぷりなサキュバスの衣装はかなり恥ずかしい。
「もしくは仲介でも良いよ。適当な町でボクの代わりに道具屋で売り捌いて貰うの。仲介料で三割出そう」
「おいおい。町に連れて行けと言うのかい?」
「持ち逃げするとか考えないの?」
「どの道手頃な町の近くで暮らすつもりだし、もし持ち逃げされたら追いかけて取り戻せば良い。飛べるから追いかけるのは楽だ」
どう取り返すかについては言わないでおく。
魔王の親友、と言うか右腕だったりするんで結構強いと自負してるしね。
「確かに変わり種だね。どうする?」
「仲介料を貰う方が良いかも。どれもあたし達じゃ半値でもきついよ」
「それはそれで都とか行かないと買い取って貰えないんじゃないだろうか」
あ、いけない、それは本当に頭に無かった。
そうだよね、道具屋の大きさにもよるよ。
「都はまずいなあ。ひっそり暮らせなくなる。町くらいなら言いくるめてと考えてたのに」
「ヒトの姿に変わるとか出来ないのかい?」
「出来るけど駄目だ。サキュバスのまま暮らさないと意味が無い。ヒトを騙してまでお金が欲しいとも思わないし」
そこは譲れない。
ひっそり暮らすのと騙すのとは違う。
「どうにも調子が狂うな。なんだって僕達冒険者がサキュバスの相談に乗っているんだ?」
「あはは。悪いねえ。あ、折角こうして話を聞いてくれたんだ。一人一つ好きなアイテムをあげるよ。高そうなのを選ぶと良い」
これもボクが選んだ道。まずは彼等からの信頼を得ようじゃないか。
一先ず彼等に着いていく事にした。
「僕はリーダーのアレス。剣士だ」
最初にボクに話し掛けて来た彼、物腰が柔らかい好青年って感じの人間がアレス。
アレスをリーダーとした五人パーティ。パーティ構成はバランスが良く、男剣士二人に女レンジャー、女魔法使い、男僧侶。
鑑定スキルを持ってるのは女レンジャー。女二人は中々に可愛い。二人とも金髪だし。他のメンバーやさっき逃げて行った一般人なんかは黒髪ばかりだったんだけど。まあ、色んな髪色のヒトを知ってるから気にしない。
「いやあ、ついてた。手錠を着けてればそれなりに落ち着いて貰える」
「アイラってほんと変わってるね。なんでそこまでしてヒト里で暮らしたいの?」
「変わってるだけに魔族の間だと肩身が狭くてねえ」
レンジャーの子が捕獲用の手錠を持ってたから着けて貰った。頼りない手錠だけど無いよりはマシだろう。彼等に捕まったと言うところから始めれば彼等を立てられるし、町民との接触の足掛かりにもなる。
もう少しアレス達からの信頼を得ておきたいかな。確かめてみよう。
「もしかしてクエストを片付けた後?」
「いや。これからってトコで魔族が出たと旅人から聞いてね」
よしよし、好都合。だから着いてきた。
「なんならクエスト手伝うよ。このまま帰ったんじゃ赤字でしょ」
「どうしようか。確かにその通りなんだけど」
「仲介出来れば金は問題無さそうだが、クエストを破棄するのもまずいしな。頼もうぜ」
なら決まりだね。
近くの森に出現したオークやゴブリンを討伐するつもりだったらしい。
ヒトからすれば魔族や魔物と一括りにして仲間扱いだけど、生憎ボク達からすれば仲間でも何でも無い。
「そう言うものなのかい?」
「うん。オークやゴブリン程度だと、頭悪いから仲間意識は同族にしか湧かないね。オークがゴブリンを力尽くで従えてるか、ゴブリンがオークに媚を売ってるかのどっちか。正直、連中はボク達魔族からすれば単なる魔物だよ」
クエストの内容次第で楽に片付く。元々弱いから尚更だね。
「ただ討伐するだけ?それとも根絶?」
「オーク五匹のゴブリン十匹がノルマ。と言うか根絶なんか出来るのかい?」
「周辺に寄り付かなくする事なら楽だよ。オークが五匹は居ると解ってるなら巣が有ると思うし、その巣を潰して細工すれば良い」
「「細工?」」
頭も力も弱い連中だ。一度徹底的に潰せば周辺に近寄らなくなるし、他から来ても長居しない。
あいつ等にもあいつ等なりの情報網が有って、少し生き残りを作って情報網にこの近辺は強すぎる奴が居ると触れ回させれば良い。
「ごめん、ヒトの姿になるから手錠外して貰って良い?クエストが終わったらまた着けて貰うからさ」
「あ、うん」
見たところ、その細工が出来そうなのはボクだけみたい。ヒトの姿に変装して手伝おう。
「本当に調子が狂うなあ」
「ね。でも何だか面白くなってきた」
「あはは。そう言って貰えると助かるよ」
まずはクエストを片付ける。ここはクエストを請けたアレス達に任せよう。手こずる様なら援護すれば良いし。
森に到着し、少し進むだけで遭遇出来た。
「居たぞ!陣形を組め!」
「「おう!」」
うん、やっぱり中々のパーティ。統率もしっかりとれてるね。手並みも中々。
前衛二人が敵を倒しつつせき止め、レンジャーや魔法使いが援護。僧侶が支援魔法。
これならボクが出るまでもない。
まだ目標には足りないけど、あれ?
「なんで耳を?」
アレス達が倒したオークやゴブリンの耳を切り取り始めた。って、そっか。
「それが証拠って事?」
「うん。討伐系は指定された部分を切り取るのが普通だよ。角とかの場合もあるね」
証拠が必要だもんね。成る程なあ。んー、そうなると。
「指定より多いと追加報酬とか?」
「うん。オークやゴブリン程度だと大した稼ぎにはならないけどね」
やっぱり追加報酬。これは貢献出来そう。
指定数までは任せて、そこからは手を出そう。
でも、その前に。
「アイラ、何をしているんだい?」
「脳みそから巣の場所を吸い取ってる」
「「はあ!?」」
死体から情報収集っと。
エナジードレインの応用みたいな物で、ボク達淫魔や、夢魔なんかが得意な技。
どうやら森の奥にある丘に穴を掘って暮らしてるらしい。
「いやほら、直接搾り取るだけじゃなくて、エロい夢を見せる事も有るんだよ。お客さんの好みを知る為にこう言う事も出来るわけ」
「納得したけど、お客さんって…」
「やっぱ調子狂うな…。娼館かよ…」
「娼婦もサキュバスも大差無いってー。貰うのがお金か精かの違いってだけでー」
生きる為に必要な物と言い換えれば同じ同じ。
気を取り直して次に行こう。