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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第三話「淫魔さん、人助けをする」
17/92

03-少しだけ手の内を-

 フィーナを連れて建築中のボクの家へ。

 既に話は通ってて、フィーナの部屋を追加する為に完成が少し遅れてる。

「お、大きいですね」

「予算の問題でここまで。最終的にはもっと大きくなる予定だよ。それにあのあたりは学校の校舎だし」

「学校!将来的に教えて下さるって、学校を開いてなんですか!?」

「一時的な話。イキシアのヒト限定だし、本物の学校より授業が少ない。皆が卒業したらボクの研究室になる」

「それでも凄いですよ!」

 学校の開設は既にイキシアのヒト達にも伝わってて、皆もかなり期待してくれてる。

 工事を請け負ってくれた大工達も同様でかなり頑張ってくれてるよ。

「フィーナちゃんもそう思うだろ?しかも学費は要らねえってんだ」

「えええ!?」

「これ建てるのが学費だよ。皆の税金から積み立ててるんだからお互い様」

「これだよ。そりゃ俺達も気合入れるって」

「解ります!師匠は本当に素敵ですもの!」

 それは嬉しいけど辛い!可愛いから辛い!好みだから辛い!我慢我慢我慢!

「そういや、新しく来たヒトはどうすんだ?」

「そこまでは面倒を見るよ。ボクが買って集めた事になる訳だし、筋を通すなら教えないと」

 奴隷だったヒトまで教える事にした。

 それ以上は無理なんで、もし人口が更に増える様なら教師を育てて新しく学校をとも考えてる。

 その場合は教科書なんかも用意したい。

「いけない。忘れてた」

「お?どうした?」

「雑貨屋に行って勉強に必要な物を仕入れて貰う様に頼んでくる。筆記具とかノートとか」

「おおおっ!使ってみてえ!」

 イキシアには学校が無いからね。

 このヒトみたいに使ってみたいってヒトは他にも居ると思う。

「親方。どれくらいで研究室出来そう?」

「来月には出来るぜ」

「なら間に合うな。行ってくるよ」

「ああ!」


 雑貨屋に入った途端に思い切り歓迎された。

 ボクが来ると大抵美味しい話があるからね。

 普通に買い物に来ても何かしらの情報が入るからいつもこう。

「筆記具とノートを大量に入荷してくれる?来月には研究室が出来るらしくてさ」

「おおお!解った!人数分は確保する!」

 今回も稼ぎ時だと快諾してくれたよ。

 他にも有るぞー。

「筆記具は何が良いかね?」

「鉛筆が有れば鉛筆で。最悪木炭。それと修正用のパンかな」

「何とかして鉛筆を掻き集めよう。私としても木炭は使いたくない」

 木炭だと手が汚れるし、上手く書けなかったりもする。鉛筆は良い物だ。

 少し在庫が有るからフィーナの為に買ってあげよう。あ、ノートも有るな。羽ペンとインクも必要か。

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 そろそろ教え始めても良いね。

 エアリの家に案内しよう。

 ファリスとサーディスも来てる。

「おお。フィーナも今日からか」

「いや、今日は案内。本格的に教えるのは明日からにする。光魔法の基礎は頼むね」

「任せよ。両立は大変だと思うが、頑張るのじゃぞ」

「はい!」

 フィーナには四属性魔法の基礎の記録を見せてあげよう。ファリスは色々な魔法を記録した魔道書の段階まで来てるし、サーディスも構築理論を読みながら光魔法を開発してる。

 エアリがちょこちょこ見てはいるけど、基礎は卒業してるからフィーナが独占出来るよ。

「凄い…。これも師匠が?」

「うん。知識を得たり研究するのが好きでね。魔族にとっては不要なんだけど、今こうして役立ってるのはボクとしても嬉しい」

 うーん、本当に優秀。さくさく読んでる。

 あ、また思い出した。これ確認必要。

「サーディス。イキシアのヒトの中で読み書き出来ないヒトってどれくらい居る?」

「他ではともかく、イキシアにはおらんよ。町長が各家庭に自作の読み書き教本を配っておる」

 うーあ、ほんと町長さん良いヒトだ。

 場所によっては町の規模でも読み書き出来ないヒトの方が多かったりするのに。

 となると、新しく来たヒトの分も用意してたのかもしれない。

「あ、私もそれ聞きました。私と一緒に助けて貰った女性が二人受け取ってましたよ。凄く立派な方ですよね」

「うむ。町長の家は昔からそうらしい。故にイキシアの者は代々の町長を慕っておるのじゃ」

 そう言う家ってのも珍しいなー。

 魔族の名家に爪の垢を煎じて飲ませたい。

 ボンクラしかいないし。半数をボク達が叩き潰したくらいだし。

「ねえねえアイラ。魔法以外の研究記録って有ったりする?」

「有るよ。何を見たい?」

「うーん。取り敢えず今イキシアでやってる事のかなー。ちょっとでも知ってると手伝いやすいかなって」

 成る程成る程、確かにエアリの言う通り。

 一先ず簡単に手伝えるデザート関連の記録を引っ張り出そうか。

「え。ちょ」

「嘘。これ全部デザート?」

「デザートも作れるんですか!?」

「甘い物は好きだし、子猫ちゃんが喜んでくれるからね。えーと、これとこれもで…」

 レシピだけで分厚い本が五冊。食材の記録に至っては八冊。世界中から情報を集め、気に入った物は試行錯誤もしてる。

「ぐぬぅ。それはほいほい新しいデザートが出てくる訳じゃ。これだけで生涯暮らせるぞい」

「ほんとよ。私も見てみよ」

「すっごおい!絵まで描いてある!どれも美味しそうだし!」

 料理とか材料の記録は基本的に挿絵付き。

 特に植物なんかは見た目を残さないと解らない物が多い。料理の場合は完成後を知らないと作りづらいし盛り付けしづらい。

「アイラや。まさか酒もこれくらい有るとか言わないじゃろうな」

「お酒!?師匠はお酒も!?」

「酒のはー…」

 うん、お酒は八冊。実際に作ってるし、料理より時間が掛かる上に完成するかも不透明だからデータが多い。昔は良く失敗した。

 お酒の記録は酒造に使う道具の挿絵かな。失敗した記録も残してあるけど、それはそれで解りやすいように記録してる。

「と言う事は。魔法薬も?」

「有るよー」

「魔法薬も師匠なんですかぁ!?」

 魔法薬は四冊で済んでる。そこまで種類が多くないし、殆どが失敗記録だから。勿論解りやすくしてある。見易さは正義。

「ちょっ!?嘘でしょ!?エリクシールも有るじゃない!」

「「えええっ!?」」

「有るよー。材料集めが死ぬほど大変だけど」

 作れはするけど材料がないんで遺品を持ち出してる。あれ殆ど世界一周しろってレシピ。無理。

 貴重な素材も必要だから尚更無理。ドラゴン族最強と名高いエンシェントドラゴンの血とか面倒にも程がある。

「で、では、金属の記録もか?」

「金属ぅ!?」

「有るよー」

 金属は結構多い。ほら十二冊。試行錯誤の回数がかなり多かったから。余りにも多いんで、一冊はレシピだけ集めた物にしてる。

「関連して魔物の素材の記録も有るよ。すっごい嵩張るけど。二十冊以上は有る」

「はいいっ!?」

「世界中の魔物を調べてそうな量じゃな…っ!」

「世界中の魔物を調べたよ?」

「「うあぁ…っ!」」

 だからほいほい素材の使い道を教えられるんだって。流石に全部を覚えてる訳じゃないけど、使用頻度が高い物なんかは覚えてる。

 後は魔物の名前から引き出すと楽に思い出せるかなー。

「え、これ全部書斎に?」

「うん。全部収まる広さは確保した。将来的には追加出来る広さになる。読みたくなったら何時でも来て良いよ」

「むしろ住みたいくらいよ…っ!」

 あはは。ファリスならそう言うと思った。

 客間も広めに用意してあるし、泊まるくらいは全然問題ない。

「ちょっとアレスとフレキを連れて近くを散策するよ。これ見てるとまだ何か出来そうな気がしてきた」

「出来る出来る。貸し出しはちょっと出来ないから、葉っぱとか少しずつ集めて比べてごらん。慣れてくると使えそうか解ってくるし、レンジャーにとって無駄な経験にならないと思う」

「そうする。ほんとアイラ凄いよ」

「もはや生きる百科事典じゃ」

 生きる百科事典は良いね。んー、それならこっちも出してみようか。

「え。また出てきた。これは何?」

「料理レシピ。世界中の」

「「えええっ!?」」

 料理のレシピも必要でしょ。

 これも活用すれば無駄が無くなる。

「料理も出来るなんて師匠凄すぎます…っ!」

「料理の方は作るの苦手。あんまり上手いと子猫ちゃんが逆に拗ねると知ったから」

「「ぶふっ!」」

 手料理を食べて貰いたいって子猫ちゃんは結構居るんで料理は練習してない。レシピを見せるのは凄い喜ばれるけど。

 デザートはまた別。美味しく作ってもちゃんと喜んでくれる。

「それにしても、この魔法の鞄は凄いですね。これだけの厚さの本をこんなに入れられるなんて」

「まだ入ってるよ。まだ十分の一も出してない」

「「え」」

 記録用の鞄はかなりの広さに拡張してる。そうでもしないと入りきらないんだもん。全部出したらこの部屋が埋まる。

「何をどれだけ研究したらそこまで記録が溜まるのじゃ」

「んー。産業と呼べる物の殆どは大なり小なり研究してるかなー。あと政治経済」

「「はあ!?」」

 今故郷で政治を取り仕切ってる仲間は全員揃ってボクが仕込んでる。基本的に魔族は勉強しないもんだし。政治とかどうでも良いって考えだし。

 アルゴニアの施政だって力主義万歳の一辺倒だったもんな。強い奴が正義。これだけ。

 それで何とかなるから魔族っていい加減。

「裁縫や細工は駄目って言ってなかった?」

「うん。でも繊維の研究や宝石なんかの貴金属についての研究はしてるよ。ここが綿とか麻の産地だったら染め物を広めてたし」

「ヌシは全知全能の神か何かか?」

「あはは。親友にもそれ言われたよ。あいつの場合は全知全能のエロ女神だったけど」

「「ぶっ!」」

 女神じゃなくて神と呼べ、なんて調子こいて返したんだけど。エロ神じゃ語呂が悪いと言われて思わず黙る事になった。確かに語呂が悪い。

 逆にそれが親友の記憶力を落としたんじゃないかと思う時すらある。だって解らなかったら絶対ボクに聞くんだもん。今どうしてるのか少し気になるな。あいつがと言うより、聞かれる羽目になる周囲が。

「ふむ。アレスに政治の記録を見せてやるのは駄目かの?」

「あ。見せよう見せよう。町長さんにも見て貰った方が良いかな。この先イキシアは大きくなっていくだろうし、役に立つだろ」

 それは良い考えだ。


 この際だから、と翌日の夜に情報が必要そうなヒトをギルドの訓練場に集めてみた。

「何だここ…」

「噂には聞いてたけど凄い…」

 ここに来るのが初めてなヒトが多いんで、まずここに驚いた。冒険者から聞いてたヒトも居る。

 ちなみにイキシアの冒険者も呼んだよ。

「貸し出し出来ないのは申し訳無いんだけど、ボクが研究してきた事の記録を見て貰おうと思って集まって貰った。どれも有益な情報になるはずだから、一先ずどんな感じか見て。家が建ったら読みに来て良いから」

「「おおおっ」」

 最初は期待顔。

 でも次第に静まる。

「あ、アイラさん。まだ出てくるのか?」

「これで半分ってトコですかね」

「何冊有るんだ…っ!」

 んー、三百は有るかな?

 一応ジャンル分けして出してる。

「あ、もう見て良いよ。必要そうな記録から先に出してるし」

「「おおおっ」」

 多少手荒でも大丈夫。魔法で強化してある。

 えーと、有った。使用頻度が少ないから一番奥に有ったよ。

「町長さん。それからアレス。これ政治の研究記録」

「政治も有るのかい!?」

「うあ、見たい!凄い気になる!」

 政治の記録は二冊かな。片方が各国の政治形態で、もう片方がそこから研究したボクの政治論。

 領や町村規模の記録も有るから役立つ程。

「博識なのにも納得した…っ!なんと素晴らしい記録か…っ!」

「それに解りやすいよ!本当に凄い!」

 よしよし、好感触。

 これは貸し出しても良いかも。お世話になってるし、これを写本するだけでも勉強になる。使用頻度も少ない。

「一応こっちも。経済の記録です」

「経済もとは!」

「それも見せてくれ!」

 経済の記録も二冊でどっちも記録だ。

 政治の方もそうだけど、要点は解りやすくしてあるからそこだけ写本するのも手。

 さて、残りを出してしまおう。

「ほんとアイラさん凄え。こんだけ記録してるなら国の要職にも就けるんじゃねえか?」

「「うんうんうん」」

「あー。これ秘密ね。実は元要職」

「「うあぁ…」」

 魔王の右腕は伊達じゃない。

 もう丸投げしたけど。

「じゃ、じゃあ、魔王の側近とかか?」

「ううん。これもまだ秘密なんだけど、アルゴニアは数年前に死んだ。ボクとボクの親友が結成した反乱軍によってね。今の魔王はボクの親友で、魔族の国の大改革は殆どボクが片付けてる」

「「えええっ!?」」

 こうなったら話して良いかな。

 ここまでだけど。

「凄えどころじゃねえ…っ!」

「王様の次に偉かったのか…っ!」

「いや、役職的には裏方の一番偉いヒトかな。宰相は別の仲間が就いてる。政治以外はボクだったんで、流石に疲れてここに来たわけよ」

 政治以外の一言で括れるけど、それだけに激務で大変だった。後任を育てながらだったから尚更だ。ほんと戻りたくない。平穏最高。

「それでもこうして私達を助けてくれているのだから頭が上がらん」

「「うんうんうん」」

「折角居心地の良い場所に巡り会えたんです。そこを栄えさせる手伝いをして、不自由無くぐーたら過ごせる様にしたいだけですよ」

 イキシアが気に入ったのも勿論有る。

 ここは初めて手に入れた平穏の地だから。

 肩身の狭い故郷で上り詰めたは良いけど、待っていたのは窮屈な生活だったし。

 のびのびやれるのはほんと良い。

 むさ苦しい男所帯で激務続きとかもう沢山だ。

「ねえねえ。これならここでも作れるんじゃない?」

「どれどれ?あ、ほんとだ。」

「うおお…。こんなに金属の種類があるのか…」

「あれ。こいつ確か近くに生息してなかったっけか?」

「居た居た。今度狩りに行くか」

 うん、やっぱり見せて良かった。

 皆の役に立ちそうだ。

「アイラさん。役員も呼んできて良いか?」

「あ、だね。この近辺の魔物の情報を書き写すくらいは今やっても良い」

「すまねえ。ちと呼んでくる」

 ここだけの情報にして欲しいけど、今やった方が良いよね。

 子猫ちゃんが多いし、子猫ちゃんに休暇を返上させるのは忍びない。それは駄目だ。

「アイラさん!魔物の情報を見せてくれるって本当ですか!?」

 お、すっ飛んで来た。

「ここのがそう。この近辺だとこれかな。世界中の魔物を記録してるよ」

「世界中!?ちょ、失礼します!」

「素材情報だけでも写しておくと良い。ボクの家が出来たら何時でも見に来て良いから」

「ありがとうございます!」

 楽な倒し方なんかも記録したけど、それは出来れば冒険者自ら見出して欲しいところ。聞かれたら教えちゃうけどね。

 ここのギルドで欲しいのは素材情報だ。

 特に討伐の証拠となる部分。取っておいた方が良いかどうかは覚えておくべき。

「あ、このギルドだけの情報でお願い」

「はい。それにしても凄いですね」

「同族からは笑われてたけどねー。魔族には不要な情報だから」

 故郷で暮らしてるヒト達からは喜ばれてる。

 弟子の何人かは写本してるくらい。

「こうなるなら裁縫とか細工にも手を出せば良かったかなー」

「これでも十分過ぎますって!」

「「うんうんうん」」

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