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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第三話「淫魔さん、人助けをする」
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02-奴隷を町民に-

 イキシアのヒト達はやっぱり良いヒトばかりで、元奴隷達を温かく迎えてくれた。

 皆町長さんと同じ考えだったんだ。

 男達は全員仕事先を見つけられたし、子猫ちゃん達も働く気にはなってる。売られる先での用途が用途だから、まだ外は恐いらしい。

 仕事先が見つかったとしても最初の一日は町長さんの家に泊まって貰う事にしたよ。

 ここで住むにあたり、ボクから話があるからだ。ボクの事情もそうだし、魔法の事もある。

「え。女性が相手…?」

「辛い思いをした直後だろうに、こんな変な話をして悪いとは思うけどさ。ボクは相手の合意を得ないと抱かない主義だから安心して」

「「は、はい」」

 事情が事情だから殆どに怯えられたけどね。

 あの金髪の子猫ちゃんは落ち着いてる。これはかなり嬉しい。

 ボクは紳士だから安心しなさい。ほんとに。

「この町のヒトにはボクの研究を手伝って貰ってる。魔力についての研究だ。平たく言うと、誰でも魔法使いや神官になれるって研究」

「「えっ!?」」

 こっちが本題。はい、各種用紙。

 魔力測定用紙、属性感知用紙、魔力感知用紙。

 全員に試して貰おう。…ってえ!?

「おおおっ!?」

「ど、どうでしょう…?」

「うーあ、凄い素質だ。魔法使いにも神官にもなれるとか初めて見た」

「そうなんですか!?」

 あの金髪の子猫ちゃんが大当たり。魔法使いと神官の判定が同時に出たよ。

 刻印し損ねたかと思ったけど、他のヒトは普通に発動したり、魔力無しだったり。

 方向性が定まってるヒトは金髪の子猫ちゃんだけだった。

 続いて属性感知用紙と魔力感知用紙。

「光った!凄い!」

「私にも魔力!信じられない!」

「あ、ありがとうございます!魔法が使える様になるなんて!」

 魔力を得たヒトは改めて魔力測定用紙。

 やっぱり正常に発動してる。

「詳しい事は明日からにするけど、ここでの生活で魔法使いや神官になれるだけの魔力に成長する事が出来る。将来的にボクや先輩魔法使い、先輩神官が魔法を教える予定だし、ポーションなんかの魔法薬を調合する仕事でも優遇されるから楽しみにしてて。既に仕事が決まったヒトでも仕事先で魔法を使う事になるはずだ」

「「はい!」」

 これでよし。

 金髪の子猫ちゃん、フィーナにはもう少し話をしよう。

「フィーナの可能性はとにかく広い。頑張ればどんな仕事でも活躍出来る。これまで大変だっただろうけど、頑張って」

「ありがとうございます!」

「皆もだ。頑張った分だけ報われるからね」

「「はい!」」

 買い取って良かったー。良い例を見れた。

 フィーナだけでも得る物があったよ。

「あ、あの!アイラ様!」

 …様?

 フィーナから妙な呼び方が…。

「その!私が凄い素質を持っているなら、アイラ様の研究をお手伝いさせて頂けませんか!?何か少しでもアイラ様のお役に立ちたいんです!」

 おおぅ。

 恩を感じてくれるのは良いけど、様付けはちょっと。そう言うのは苦手。

「んー。手伝ってくれるのはありがたいけど様付けは嫌だなー」

「で、でも、恩人を気安く呼ぶなんて…」

「じゃあ、弟子にするから師匠で。それならまだ慣れてる」

「はい!師匠!」

 師匠ならまだ良し。弟子なら一杯居るし。でも好みな子猫ちゃんの弟子は初めて。

 まずい。我慢するのが辛そう。恩を感じて体を差し出すとか冗談じゃない。

「弟子が居たのかね?」

「故郷で活躍してる各産業の第一任者は殆どがボクの弟子ですよ」

「「えええっ!?」」

「そこまでだったのか!?」

「元々魔族が産業に興味を持たなかっただけですって。生産性に乏しい連中ですからね」

 うん、やっぱり好みな子猫ちゃんはフィーナが初めてだ。女の弟子は結構居た。キワモノばかりだったけど。見てくれが良い子猫ちゃんは基本的に怠惰な魔族だし。

 さて、それはそれでどうしたもんか。

「町長さん。フィーナはボクの家が出来るまで預かって頂けませんか?」

「構わない。エアリの家で三人は苦しいだろう」

「それ以上にボクが辛いです」

「ぶっ!」

「「え?」」

 さっき話したでしょー?

 ボクの中身は男だってー。

「それは、それで、家が出来ても、変わらないのでは…っ?」

「そこは諦めますよ。ボクの弟子になると暫く収入を見込めません。フィーナが家を持つまではボクが養う事になるでしょう。娘が出来たとでも考えます」

「く、くく…っ!性同一性障害のサキュバスと言うのは本当に大変だな…っ!」

「「あ」」

 大変なんだよ。ほんと大変。恋人が出来るまで独り身が一番。寂しいけど気楽。

「あ、あの、そう言う事でしたら私を…」

「ストーップ!そう言うの無しー!女の子なんだから恋愛抜きでそう言う事考えない!」

「あうっ」

 そう言い出すと思ったから辛いの!解って!

 ボクは紳士なんだからね!


 数日すると凄い事に。

「嘆かわしい事だ」

「この国ほんと大丈夫なのかなー」

 あの奴隷商人が奴隷を抱えてるだけ連れて来たんだけど、奴隷馬車の数がかなり多い。

 どんだけ抱えてたんだと呆れるばかりだ。

「お待たせ致しました!三百八人になります!」

「「はあ!?」」

 おいおい…。

 隣で町長さんが唸ってるよ。すぐ解放すると解ってなかったら殴り掛かってそう。

 周囲からも大顰蹙。

「エリクシールは本物だったでしょ?」

「はい!早速買い手がつきまして!」

 あー、そりゃ良かったねー。

 ほら、さっさと全員下ろせ。鬱陶しい。

 町のヒトにも手伝って貰ってさっさと下ろす。

 流石に三百人ともなるも時間が掛かり、馬車も三十台近く。ぎゅうぎゅう詰めだし。最悪。子猫ちゃんも多い。ほんと最悪。

 イルルを呼んで、あいつが帰ってから毒殺してやろうか。

「ありがとうございました!」

「おーう。二度とここら辺に近寄るなよー」

「はい!」

 全員下ろしたところで退散。流石にボクを怯えてか全速力。二度と来るな。来たら殺す。エナジードレインを使わず闇魔法でいたぶり殺す。

「んじゃ、皆を解放しよう。手が空いてるヒトは手伝ってー。安全に枷を壊すアーティファクトを用意したー」

「「わあああああああああっ!」」

 三百人は流石に予想外だったけど、それでも大変だろうとは思ってたんで鉄だけ融解するアーティファクトを用意しておいた。

 二十本用意したからすぐ終わるだろう。

「ありがとうございます…っ!」

「礼ならそこのアイラさんにしな。サキュバスだが良いヒトだ」

「ああ…っ!枷が…っ!」

「辛かったな。俺もアイラさんに助けて貰ったんだ。自分の翼を売ってまで俺を買ってくれてさ」

 奴隷だったヒト達も是非と加勢してくれてる。

 恩着せがましい事も言ってるけど、受け入れて貰う為に我慢しよう。

「アイラさん!ありがとうございます!」

「本当に翼が片方無い!俺達の為にありがとうございます!」

「良いの良いの。翼はまた生やせば良いんだ。それより、着いてきて。食事と服を用意してある」

「「おおお…っ!」」

 今日までに受け入れの準備をしておいた。

 古着を分けて貰ったり、食料を他所からも買い集めたり。部屋を提供するってヒトも居る。

 最近の盛り上がりで少し余裕が出てるのが大きかったね。

 大通りから外れた広間で料理を作ってくれてるよ。奴隷馬車を見かけたらすぐ取り掛かる様にしてあったんだ。

 暖かい料理と、古着であってもまともな服。

 皆して泣いてるし、町のヒトも暖かく迎えてくれてる。

 そんな様子を見ながら翼の再生だ。

「よっと。よしよし」

「おおお…。本当に再生した」

「いやー。対アルゴニアの予算練りに結構切ってるんですよ。と言うか、軍資金の半分はボクの翼です。おかげで故郷じゃ媚薬が安い」

「ううむ。それはなんとも」

 並のサキュバスじゃ届かない威力の媚薬なんで淫魔も買ってくれた。ボクは知識だけでなく体も金の成る木。親友からはそう呆れられた。

 媚薬の暴落は目に見えてたから、買い手を割り出して一気に売り捌いてる。翼の量産とか切なかった。もうやりたくない。

「それにしても、大きな声では言えませんが、ここの王様大丈夫なんですかね。奴隷の売買とか無駄も良いところなのに」

「ふむ。無駄と言う考えはなかったな。アイラさんは奴隷制度をどう見ている?」

「前にも話しましたけど、ヒトの精を糧に生きている以上はヒトを物扱いする事に何も言う資格が有りません。ただ、理屈としては無駄と考えています」

 慰み者としてってのは、まあ解らなくもない。

 それこそ淫魔のボクが何を言っても無駄で、度外視させて貰う。

 労働力としてってのは本気で無駄。得をするのは楽が出来る奴のみ。それ以上でも以下でも無い事だ。支配欲も満たせるかな?やっぱ無駄。

「国益を考えるなら奴隷にして扱き使わせるより普通の労働者として働かせるべきですよ。だって税金が増えるんですから」

「うお。そう、か。確かにその通りだ」

「奴隷商人からの税金は一時的にこそ高くなるでしょうけど、長期的に考えれば正規の労働者を増やした方が良い。反感も買いません。どう考えても下策です」

 そのあたりの計算が出来ないのかなー。

 それで大丈夫なんだろうか。いや、家臣が袖の下を貰ってるって可能性も有るんだけど。

 そうした不正を見抜けないって考えても大丈夫なのかと思う。ボクならそんなヘマしない。

「まあ、ボクとしてはどうでも良いですけどね。町長さんには申し訳ないですが、恩を売る形で町民が増えるのは気楽なので。もし他の奴隷商人が来てしまったら呼んで下さい。エリクシールはまだ有りますから町民にしますよ。あいつがボクの脅しに従わなかったらですけど」

「解った。そう言ってくれるなら甘えさせて貰おう。私としても人口が増えるのはありがたいし」

 ここはギブアンドテイクで。

 こう言う事にならまた翼を切っても良い。程々にしないとこの国も媚薬漬けになるけども。

「師匠!各種用紙を持ってきました!」

「お、ありがとう。皆が落ち着いたら手分けしてやらせてくれる?」

「はい!…でも、凄いですね。こんなに居たなんて」

「ねー。ほんと無駄な産業。とは言え平和主義者の魔族としては好都合だ。こう言う形で助けてやればボクを受け入れてくれるからね」

 フィーナが各種用紙を持ってきてくれた。

 これも予定していた事で、やっぱり二十枚ずつ用意してある。

「神官判定が多いと助かるなー」

「ああ。もう少し神官が欲しい」

「回復魔法ですか?」

「ううん。回復薬の調合と相性が良いんだ。ここは魔法薬が大きな目玉になってて、冒険者も増えてきてるんだよね」

 フィーナにもその内手伝って貰う。

 光魔法はボクの下じゃ伸びないし、むしろハーディスと一緒に開拓して貰おうとも考えてる。

「じゃあ、神官の修行を優先した方が良いでしょうか」

「それが、光魔法はボクじゃ教えられないんだ。魔族なんで光魔法は天敵。そっちは別の奴と研究して貰うつもり」

「あう」

「むしろ魔法使いを優先して。ボクが教えられるのもあるけど、アーティファクトを作れる。アーティファクトもここの目玉」

「アーティファクト!?私も作れるようになるんですか!?」

 作れるどころじゃない。

 正直、フィーナこそ今後のアーティファクト工房を引っ張る存在だと考えてる。

 はっきり言って一番の稼ぎ頭。

「フィーナのアーティファクトは絶対にヒトを呼ぶよ。断言する」

「ええ!?」

「ふむ。そこまでの素質と言う事か」

「だって治療アーティファクトを作れる様になるんですよ?需要は絶対に尽きない」

「成る程!」

 回復魔法も刻印出来るとか稼ぎ頭になるに決まってるから。見た事無いもん。

 他にも有るぞー。とっておきの奴。

「その気になれば聖剣も作れます。浄化魔法を刻印すればアンデッドや魔族に効果覿面」

「おおお!」

「はわわわ…」

 おとぎ話でしか存在しない聖剣だって作れる。

 そりゃヒトも集まるって。国から依頼が来ても不思議じゃない。

「聖剣と言えば、アイラさんは魔法の武器を作らないのだな」

「昔嫌って程作りましたし、今は平和主義者で通してますからね。金属までならともかく、魔法の武器の作り方は封印ですよ。だから聖剣もその気になればって言ったんです」

「成る程。その方が良い。私も賛成だ」

 まあ、必要に迫られたら作るとは思う。

 追尾矢とかコンポジットボウなんかはそうだしね。あれは本当に役立った。アイアンホークとも無事に契約出来たし。狩猟も楽ちん。

「私も出来れば武器はちょっと」

「うん。それで良い。ヒトの役に立つ物を作っていこう。武器は精々生活に必要なレベルまで」

「はい!」

 良い子だ。良い子なんだよ。可愛いし。素直で物覚えもかなり良いし。くそぅ、生殺し。

 あー、そう言えば。

 フィーナで気になる点が有るんだ。

 デリケートな話になりそうなんで、まだ皆が盛り上がってる今の内にこっそり聞こう。

「フィーナ。言いづらかったら言わなくて良い。その耳はどうしたの?」

「あ…」

「む?…ふむ。少し形が変わっているな。いや、これは…」

 フィーナの耳は左右の大きさが違う上に形が歪なんだ。

 恐らく奴隷になった事と関係が有る。

「言いたくなかったら良いよ」

「…いえ。奴隷商人に追い掛けられている最中に自分で切り落としました。私、ハイエルフなもので。人間に見せれば逃げられるかなと」

「ぬお!?」

 うあっ、ちゃあ…っ!

 大体そんなところだろうとは思ってたけど、ハイエルフだったか…っ!

 エルフの上位種で、殆ど精霊じみた長さ、それこそ不老不死並の寿命をもってる希少な種族だ。

 エルフでもこのあたりじゃ珍しいから、高値で売る為に追い掛けるだろうと考えてたし、少しでも逃げられる様にって耳を切ったんだろうとまでは察しがついてたんだけど。

 まさかまさかのハイエルフ。

 でも、だからこその素質か。

 ハーフのファリスが魔法使いだったり、エアリが魔力を持っていた様に、エルフですら魔法の適正が結構な高さ。

 その上位種たるハイエルフならフィーナの適正にも納得出来る。

「そか。解った。もう怯える必要は無いからね。ここのヒト達は魔族のボクを受け入れてくれたくらい良いヒトばかりだし、何かあってもボクが守ってやる。これでも最強のサキュバスだ」

「ありがとうございます!やっぱり師匠は凄い方だったんですね!」

 ちゃんと守ってやらないとな。

 やっぱり娘が出来た様に考えよう。

 それよりもだ。

「じっとしてて」

「は、はい」

 光魔法に属する回復魔法は使えないけど、ボクにはエリクシールが有る。こう言う時こそエリクシールだ。

「おおお!再生していく!」

「え?え?し、師匠!?それって!」

「この程度なら少量で済むから問題ない。…再生しきったね。触ってごらん」

「はい!あ、あああっ!私の耳…っ!ありがとうございます…っ!」

 女の子に傷を残したままとか有り得ないから。

 ちゃんと再生してくれて良かった。

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