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淫魔さんの人間暮らし  作者: 仲田悠
第二話「淫魔さん、町興しを頑張る」
14/92

05-鉄を掘ってみよう-

 この際だからと町長さんにおねだり。

「これだ」

「助かります。お酒の事もそうですけど、ちゃんとこの国の法を確かめておくべきだと思いましてね」

 町長さんにこの国の法典を見せて貰った。

 流石に町長ともなれば持っていて然るべき。

 結構な厚さだけど全く気にならない。

「これ仕入れる事って出来ますかね?」

「結構掛かるが出来るぞ。発注しようか?」

「お願いします。ボクの事で問題が起こった時にも理論武装出来る様にしたいですから」

 買えるなら欲しい。高くても後で取り戻せる自信がある。

 さて、産業関連法はと。

 …ふっ、ふふっ、ふはははははっ!

「町長さん。ステンレスの事は聞きました?」

「勿論聞いたし、実際にアレスからステンレスの剣を見せて貰ったよ。本当に素晴らしい金属だ」

「どうやらステンレスを値下げ出来そうです」

「なんだと!?どう言う事だね!?」

 アレスにも来て貰おうか。

 次期町長に決まってると聞いたし、今からこう言う事を覚えても良い。

 ギルドで地図を貰ってあるから広げよう。

「ギルドからこの山でアイアンホークが出たと言う話を聞きました。こいつの羽は魔法を刻みやすく、敵を追尾する矢を作れます」

「エアリ達が凄い騒いでたよ。しかもアイアンホークが居る山は必ず鉄鉱山なんだって?」

「そうなのか!?」

「ええ。あいつ等は鉄も主食の内なんです。だからアイアンホークなんですけどね」

 鍛冶屋のおじさんから仕入れてる鉄の産地を聞いたけど、全く違う山だった。近隣じゃどこもその山から仕入れてるとも聞いてる。

 そこでこの法典だよ。該当ページを開こう。

「鉄鉱山の所有権は王国に帰属する物だが、採掘権は第一発見者か第一発見者が許可した者が持つものとする。採掘権を入手しません?」

「「おおおっ!」」

 アイアンホーク万歳。あいつほんと好き。美味しいなんてものじゃない。だって鉄鉱山を見付けられるだけじゃないんだもん。

「近隣の町にも許可を出してあげましょう。今までの流通ルートだと少し高いですからね。それにアイアンホークが居る以上は頻繁に行けません。周囲に貸しを作りながらも殆ど独占状態に持っていける訳です」

「なんと…」

「凄いな。そこまで狙えるのか」

 アイアンホークは飛んでるから倒すのは大変。

 でもボク達には追尾矢がある。他は敬遠し、ボク達は大量に発掘。殆ど独占状態。

 魔法使いが居れば話は変わるけど、そもそも他に掘られたところで困る訳じゃない。

 何しろこっちにはステンレスって言う強い武器があるんだから。

「町長さん、すみませんが町で採掘用荷馬車の費用を持って頂けませんか?二頭馬車で、魔法を駆使した大型の物にします。二台以上用意すれば近隣に鉄を売ることだって出来ますよ」

「喜んで出そうじゃないか。なら三台にしよう。両隣は贔屓したい」

 よし、これで問題解決。

 魔法の技術料は抜きにしても、大型の荷台や馬の費用は必要だからね。

 他所への出荷を考えれば簡単に取り戻せる。

「アレス、悪いけど鍛冶屋のおじさんにステンレスで採掘道具を作って貰う様に頼んできて。ツルハシとスコップが有れば一先ず平気」

「解った!」

「ボクは大工に坑道の支えと荷台を発注する。アーティファクトのカンテラなんかも必要だな」

「その全てで領収書を受け取ってくれ。それも町で持とう」

 助かるー。

 初期投資だけが問題だった。

 新しい事業に乗り出すとしよう。


 イキシアにまた新しい活気。

「アイラさん!道具が安くなるって本当!?」

「鉄を掘れる様になるってアレスが!」

「これから探す事になるけど、まあ見つかるよ。鉄を自分達で掘れれば鉄の値段が下がるからね。金属製品は殆どが値下げ出来るはず」

「「わあああああっ!!」」

 物の値下げはやっぱり嬉しいもので。

 特に主婦や農家は大きいはずだ。

「こんな感じかな。頑丈なのをお願い」

「任せろ任せろ!」

「また面白くなってきたぜ!」

 大工にも話が通ってて、荷台や採掘用の支えなんかの発生を快く引き受けてくれた。

 あ、大工にとっても金属製品の値下げは大きかったね。大工道具も金属だ。

「酒の次は鉄!アイラさんが来てくれてからは良い事ばかりだ!」

「ああ!ほんと良いヒトだぜ!」

「あはは、ありがとう。ヒト手次第でまた色々と提案するから、その時は頼むね」

「「おう!」」

 次はギルド。

 こっちはもう解ってる。

「アイラさん!通ったか!?」

「通ったぞ!ツルハシが揃ったら先遣隊を出す!レンジャーは追尾矢をしこたま用意しとけ!」

「「よっしゃあ!」」

 先遣隊にはボクも参加する。

 鉄鉱山の見極めは冒険者じゃ無理だし、魔物が居る以上は鍛冶屋のおじさんを出せない。

「暫く稼ぎ時だ!鉄鉱山が見つかったら採掘!デカい荷馬車を三台用意する事になったから、採掘の度に護衛依頼が発生する!」

「「うおおおおおおおっ!!」」

 護衛に採掘、やる事は沢山。

 一回目の採掘次第では空間魔法で作ったスペースに隠れてて貰う形で町のヒトを乗せられる。

 何なら他の町のギルドにも依頼を出せば良い。

「準備が整うまでは訓練!ただし内容は魔法の授業だ!支援魔法を教えてやるから死なない様に力をつけろ!」

「「うおおおおおおおおおおおっ!!」」

 後は彼等次第。

 町の為に頑張って貰おうじゃないか。


「本当に凄いわ。王都でもここまで学べないんじゃないかしら」

 ボクの研究記録を見せてからと言うもの、ファリスはエアリの家で寝泊まりして記録を読み耽ってる。

 賑やかになるからエアリは喜んでるし、ファリスは人間側の親戚の家で暮らしてたらしく外泊は問題無いらしい。

 ボクとしても研究成果を誰かに見て貰うのは嬉しいものだしね。

 ちなみにサーディスも昼間時間が有る時に読みに来てるよ。

「出発が凄い楽しみ。試したい攻撃魔法が一杯あるのよ」

「あたしも楽しみー。追尾矢試したい」

 二人も、と言うかアレスのパーティも先遣隊に参加する。イキシアの町を拠点とするパーティの中で一番強いのがアレス達らしい。

 どれくらいアイアンホークが居るか解らないからファリスが居てくれるのは心強いよ。

「んーと、あった。エアリ、この魔法も覚えておきな。レンジャー向け」

「どれどれ!?…凄い!遠くまで見える魔法なんてのも有るんだ!」

 望遠魔法は役に立つ。特に今回はそう。

 飛ぶ魔物を相手にする時、遠くから確認したり狙える方が楽だからだ。

 これも訓練でレンジャー達に教えるつもり。

「それからこれ。夜目が利く魔法」

「すごーい!」

 暗視魔法も便利だね。

 夜に狩猟しなきゃいけない場合は絶対に必要。

 アイアンホークに夜襲を掛ける事まで出来る。鳥だから夜に弱い。

「幾ら読んでも飽きない。本当に色んな魔法があるんだもの」

「剣士用とかレンジャー用とか結構使えるんだよねー。あと重戦士。魔法が有ると段違い」

「「重戦士?」」

 ヒトの感覚で言えば重装兵になるのかな?

 魔族側では重戦士で通ってるんだけど。

「重装備と盾で敵を引きつける職業さ。魔法で防御力を高めたり、敵の意識を撹乱させて注意を自分に引きつけたり。大型の魔物を相手にする時とか一人居るだけで凄い変わる」

「「へええ」」

 魔法が無いとヒトや魔族の相手をするのは少し大変だけど、威嚇魔法を掛ければヒトや魔族であっても注意を引きつけられる。

 仲間の重戦士とか凄かったもんなー。

「親友の側近に一人重戦士が居てね。親友以上の脳筋馬鹿なんだけど、凄かったよ。アルゴニアの側近四天王から集中攻撃を受けても笑う余裕があった」

「「うわあ」」

 度胸の有る奴を重戦士に育ててみるかな。

 装備にお金が掛かるのが難点なんだけど。

 余裕が出来たらボク持ちでやってみようか。

「神官を助けられないのが痛い。光魔法はほんとどうしようも無い」

「あたしそこ解らないんだけど、何で駄目なの?相性が悪すぎるってどう言う事?」

「四属性だと相性の問題が緩い。火は水に弱いけど、両方覚える事が出来る。でも光魔法と闇魔法は完全に反発してて、互いに互いの弱点になるんだ。アンデッドが光魔法で浄化されるのと同じ。魔族は先天的に闇属性だから、浄化まではいかなくても使う事が出来ないんだよ」

「それでかー」

 使えなきゃ研究も出来ない。

 理論的にはどの属性も同じだと思うんだけど、使えないから確かめられない。

 サーディスから話を聞く限りは同じっぽい。

「ねえアイラ。ヒトは闇魔法って覚えられる?と言うか、闇魔法ってどんな魔法?」

「厳密に闇魔法と言うと呪いやアンデッド魔法になるかな。アンデッドを生んだり従えたり。相手に毒なんかの状態異常を与えたりね。魔族の魔法は四属性魔法であっても闇魔法になる。ヒトと違って持ってる魔力が完全に闇属性だから。魔法発動の時点でちゃんと四属性魔法になるんだけど」

「成る程ね。それは聞かない訳だわ」

 魔族専用なのも知らない理由。

 先天的に闇属性の魔力を持ってないと使えないって研究結果が出てる。

「ああ、あと召喚魔法があった」

「「召喚魔法?」」

 読んで字の如しな魔法。

「契約した魔物を召喚して従える魔法だよ」

「それも初めて聞いたわ」

「あたしも。あ、ねえねえ。素材になる魔物を沢山召喚して稼げたりしない?」

 あー、それボクも昔思ったわー。

 でも駄目なんだー。

「それやると契約が破棄されて、二度とその魔物の種類と契約出来なくなる。そう言う呪いを掛けられちゃうんだ」

「残念ー」

「ねー。ボクもそれ考えて契約した魔物に聞いた事があってさ。すっごい嫌そうな声でそう教えてくれたよ。魔物からすれば当然なんだけど」

 契約した魔物は意思の疎通が可能になる。

 知性が無い魔物でも、契約主の知性に合わせて賢くなるんだ。

「普通に遭遇した奴を倒すのは大丈夫。あくまで召喚魔法で呼び出した奴を倒すのが駄目ってだけみたい」

「アイラはどんな魔物と契約してるの?」

「んー。一番強いのはグレーターエビルだね」

「「うあ」」

 魔物の中では最強最悪と名高いグレーターエビルが一番強いけど、それだけにあまり出番が無いね。消費も酷いし。貯蓄必須。

「良く呼ぶのはインビジブルエア。この辺りだと出ないかな?透明になれる小さなコウモリ」

「初めて聞いたわ。偵察用とか?」

「そうそう。感覚を繋げる事も出来るから諜報にも役立ってる。後はケルベロス。追跡に」

「地獄の門番に追跡をやらせるとか無駄遣いも良いところじゃ…」

 それ良く言われる。

 と言うか本人からも言われた。

「呼んだ魔物ってちゃんと言う事聞く?」

「聞くよ。呼ぼうか?」

「うん!見てみたい!」

「安全なら見たいわ!」

 なら呼ぼうか。

 場所を確保してインビジブルエアとケルベロスを呼んでみる。

【あら?あらあらあら?】

【ぬお。久しぶりの召喚と思えば、まさかヒトの家でとは】

「「うわあ」」

 念話っぽい感じだけど他人とも意思の疎通が出来るでしょ。

 女の子なのがインビジブルエアで、男なのがケルベロスだ。

 面倒だから事情を全部念話で叩き込もう。

【成る程ね。私はインビジブルエアのイルル】

【私はケルベロスのケロスだ】

「あたしはエアリ!宜しく!」

「ファリスよ。何だか不思議。魔物と会話する日が来るなんて夢にも思わなかった」

【ふふ。風変わりなご主人様だからこそね】

【うむ。もう少しまともな扱いをしてくれれば更に良いのだが】

 うるさいぞケロス。

「さっきアイラが言ってたけど、追跡役をさせられてるんですって?」

【そうなのだ。それならガルム辺りを使えと思うのに、首が三つあるんだから匂いを逃さないだろうなどと言われた。三頭ならともかく、一頭である事に変わりないのだから意味はないのにな。まったく困った主だ】

「ほんと変わってるわね」

 良いじゃない、強いんだし。

 犬型の魔物の中では最強なのがケルベロスだ。

 追跡してそのまま襲撃、と考えたらケルベロスしか無い。消費も最強な割りに軽いし。

「あー、イルル。近々大仕事を頼むかも。ちと同族を集める準備しておいて」

「「え?」」

【良いわよ。となると、この国の国勢調査あたりかしら】

「うん。ここに対する関心が気になる。イルルには王都を頼む事になりそう」

【任せて】

 召喚魔法で一度契約すると、同じ生息地に居る同族なら魔力を消費するだけ召喚出来る。

 インビジブルエアの消費は少なめだし、諜報役としては優秀なんで、良く敵情調査を頼むんだ。

「ケロスもかな。まだ不透明だけど、ボクの討伐に軍隊とか差し向けられたら頼む事になる」

【承知。普通に使って貰えるなら喜んで主殿の役に立とう】

 根に持ってるな。ちなみに殺したらどうなるかと確かめたのもケロス。すっごい嫌がった。

 十分確かめられたし、ケロスとかデカくて邪魔だから帰って貰おう。

「うん。素材目的で呼んじゃ駄目だね」

「そうね。ああも普通に会話出来るとなると殺せないわ」

「ケルベロスの毛皮は魔物の毛皮では一番なんだけどねぇ」

「「えぇー…」」

 だからケルベロスと契約したのに。

 その腹いせって言うのも追跡役にしてる理由。

「あ、ねえアイラ。ケロスがケルベロスの相手をするのは有りなの?」

「有りだよ。気は進まないらしいけど」

「って事は、相手のケルベロスと戦わないで済む様にケロスに頼む事も出来る?」

 …ふむ。

 それは確かめた事が無かったな。

 もう一度イルルを呼んで聞いてみよう。

【ああ、それなら簡単よ】

「ほんと!?他の魔物もそうかな!?あと倒したい時に倒すのは!?例えばイルルの仲間と戦いたい時はイルルに出ないで貰うとか!」

【それも可能よ。さっきご主人様が同族を集めてと頼んだのも同じ感じね】

 ふむふむ、成る程。

 インビジブルエアは相手にするの面倒だし、素材にもならないから次からイルルを呼ぼう。

「アイラアイラ!アイアンホーク!」

「あ!」

 そうか、それで!

【アイアンホーク?あの偏食鳥?】

「そうそう。あいつ鉄鉱山にしか暮らさないじゃん。近くの山に居るらしくて、近々調査に行こうって話になってたんだ」

「イルルが調査に行けるって事はアイラから離れても良いって事だよね!?」

【ええ。あ、成る程ね。安全に採掘出来るって事だわ】

 エアリ頭良い!

 それは契約するべきだ!

 結構な大きさだけど、荷馬車の中で待ってて貰えば良いし。掘った鉄を餌にやれば協力してくれるだろう。

 それに、そうだよ。

「いっそ普通に毎回連れて行って、抜け落ちた羽を貰ってくれば安全じゃない?」

「あああ!それも良いね!」

【あー、それで戦いたい時はって話なのね。そう言えばあいつの羽は良質な素材なんだっけ】

 巣とまでは言わないけど、良く集まる場所に案内して貰って羽を貰えば更にお得。

 そのあたりも契約して確かめよう。

 鷹だから、目印なんかを作れば襲わない相手と覚えてくれるかもしれない。鷹は頭が良い。

【ご主人様が加勢するなら面白い事になるだろうと思ってたけど、ほんと面白そうね。その山に偵察してきましょうか?】

「んあ。じゃあ頼もうかな。大雑把にどれくらい居るかで良いよ。あ、それとボク達より先に鉄を掘ってる奴が居ないかもだ」

【解った。行ってくるわね】

「お願い!」

「気をつけてね!」

 ある程度したら町の皆にも紹介してみるか。

 ケロスはともかく、イルルは紹介しておいても良いと思う。インビジブルエアは基本無害だし。

「お礼とか用意した方が良いかしら」

「あ、そうだよね。餌とか?」

「あはは。召喚した魔物は召喚主の魔力が餌になるからあげなくても大丈夫だけど、イルルだとプリンかな。昔試しにあげたら気に入ってさ」

「幾らでも用意するわよ。まともに偵察するより絶対助かるもの」

 それはイルルも喜ぶだろうね。

 こう言うところもここのヒトが良いと思う。

 イルルも気に入るんじゃないかな。

第二話了

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