04-冒険者を助けよう-
酒造に精を出しながら動く。
空間魔法の調整が終わったんで、冒険者ギルドに寄ってみた。
馴染みの冒険者のみなのを確認し、集めてから役員に交渉しよう。
「悪いんだけど、一室貸してくれないかな。魔法で訓練場を作って冒険者を鍛えたいんだ」
「えええっ!?」
「「うおおおおおおっ!?」」
パーティ用の会議室が有るのは確認済み。
即席でパーティを組んだ時に相談するのに使うらしいけど、イキシアでは今のところ馴染みの冒険者が殆どだから殆ど使われてないらしい。
ギルドの方針として何室か用意してはいるとも聞いたから、一室くらいはと踏んでる。
「ちょ、俺からも頼む!」
「アイラさんに鍛えて貰えるとか最高!」
「アイラさん強えんだよ!」
馴染みの冒険者はボクが戦えると知ってる。
首輪を外してから何度か材料集めで共闘してるからだ。どこまで強いのかは別だけど。
「わ、解りました!使って下さい!」
「「よっしゃあ!」」
「悪いね。奥の一室を借りるよ」
ギルドとしても冒険者が強くなるのは大きいだろうし、その点でも通ると思ってた。
許可を貰えたんで一番奥の会議室に行き、空間魔法で広い訓練場を作成。
「ほんと凄え…」
「滅茶苦茶広え…」
「おい見ろ。あっちは射撃場だぞ」
「魔法実験用のも用意した。別にボクを待たなくても使って良いからね。模擬武器は悪いけど各自で用意して」
「「おう!」」
訓練場が出来たら訓練、とはいかない。
受付に戻って別の相談。
「空間魔法を掛けたから後で確認して。新参者は通さないように。魔族に鍛えられるなんて外聞が良くないから」
「は、はい!」
「で、ちょっと確認させて。討伐クエストの証拠品って、ギルドはどう処分してる?」
「「うお?」」
いきなりの妙な確認に冒険者達が首を傾げたけど、これって場合に依ってはかなり大きい。
幾つか良い物が有るんだよね。
もし捨ててるなら引き取りたいんだ。
「えっと、受け取ったギルドが処分する事になってます。それがどうかしました?」
よし、捨ててる!勿体無い!
「幾つか捨てずに取っておいて欲しい物が有るんだ。すり潰すと良い金属の素材になる」
「えええっ!?」
「「なにぃいいっ!?」」
町に成り立てって規模なだけあって、ここの武器はあまり質が高くない。他所から仕入れた物の方が売れるくらいだ。
だからと言って武器を作る鍛冶屋の質が悪いかって言うとそうでもない。農具や日常で使う刃物を作ったるから腕は確か。
欲しい素材でまだ捨ててない物が有ったようなんで全て引き取ったよ。
そのまま冒険者達を引き連れて鍛冶屋へ。前以て話してあったんでアレスのパーティが来てた。
「お疲れ様。その様子だと訓練場も無事に設置出来たみたいだね」
「うん。良いのが出来たから、後で見に行くと良いよ。それよりそっちはどう?」
「ちょうど鉄を仕入れたところだったよ」
よしよし。鉄の仕入れ具合を確かめて貰う為に先行して貰っていたのだ。
「良い金属を教えてくれるってマジか?」
「うん。その分おじさんにゃ気合を入れて貰う事になるけど、増力手袋を使ってる様だし何とかなるでしょ。下手な鋼より強靭だ」
「「うおおおおおおっ!!」」
金属の知識もかなり有ると自負しよう。
アルゴニアとの決戦で大活躍してる。
ここで作れる金属はその中でも中堅ってとこだけど、ヒトの主力は鋼らしいから十分だろう。
ちなみに武器以外でも需要が高い。
「これは一角狼の角と犬歯大猫の牙。これを粉末状にして、融解させた鉄に混ぜて。ステンレス鋼って金属になる。頑丈だし錆びにくいから武器以外にも使えるよ」
「マジかよ!?」
「「うおおおおおおっ!!」」
包丁や鍋、フライパンにも最適。かなり万能。
欠点は鋳造にかなりの火力が必要なのと研ぐのが大変って点で、ここの窯じゃ厳しいからボクが手を加える。
少し形を変えて魔法を刻印するだけだからすぐに出来る。
その間に角や牙を砕いて貰っておく。
「アイラさん、出来たぜ」
「こっちも出来た。早速作ろう」
材料を超高温で融解させれば良い。
しっかり融解して混ざるのを待つ必要があるから少し掛かる。
「知ってるから言える事だけど、今まで全部捨ててたんだってさ。勿体無いよねー」
「「うんうん」」
安値で引き取れるようにもしたんで、おじさんには後でギルドに行って貰おう。
捨てる物だからタダでも良いってのは無し。ギルドの副収入になるし、そう高くない値段を設定しておいたから、製品の質を考えればおじさんも納得するはずだ。
「そろそろかな。型に流して」
「よし」
これで冶金は終了。ステンレス鋼の完成。
問題はここからだ。
「くあ!?こいつあ凄え!確かに下手な鋼より頑丈だ!こんな手応え初めてだぞ!」
「「うおおおおおおっ!!」」
そうだろうそうだろう。増力手袋万歳。
おじさんが頑張って叩いてる間に、今度は研磨する器具のグラインダーを確認する。
「おじさん。グラインダーも改良するよ。これじゃグラインダーが負ける」
「あ、ああ!頼む!そうだよ、これだとウチのじゃ研げねえ!」
前に魔法を刻んで自動で動く様にして喜んで貰えてるんだけど、研ぐ部分を強化しないと話にならない。
ステンレス鋼相手なら新調したいくらい。応急処置って事で強化魔法を刻印しよう。
「後で作り替えよう。それから道具も全部ステンレスにしな。特に金槌。それじゃ何時か砕ける」
「間違い無え!ほんと凄えよこれ!」
ボクも手伝うとするかね。
おじさんは知ってるけど、ボクも鍛冶仕事が出来たりする。
「え。アイラも鍛冶仕事が出来たのかい?」
「合金研究で覚えたんだ。研磨は苦手なんだけど叩くくらいは出来るよ」
反乱軍の武器を開発したのもボク。魔法の武器も作れる。もう作らないけど。だからボクが作るのは鍛冶道具だ。
ヒトより力が有るからトンテン叩こう。
「あー、皆。一角狼と犬歯大猫をもう少し狩ってきてよ。出来るまで時間掛かるしさ。それと毛皮も剥いできて。良い弓の作り方も知ってて、その材料になる」
「「うおおおおおおっ!?」」
「あたしも行く!良い弓欲しい!」
それじゃ、頼むねー♪
皆が戻ってくる頃には剣が二本出来てた。
まだまだ必要だから、おじさんは今も武器を作ってる。
出来た二本でアレスとフレキに試し斬りして貰おう。大工に木材を売って貰っておいた。
――ザシュッ
「「うおおおおおおっ!!」」
「これは凄い!今までよりずっと良い!」
「ああ!切れ味が段違いだぜ!」
他の皆も試して良いぞー。
木材程度ならさほど刃毀れもしないし。
そっちは放っておいて、ボクはエアリを始めとするレンジャーを集める。
「前にエアリの弓を見せて貰ったけど、あれが主流?」
「うん。違うのは大きさくらい?あたしは背丈とか力で小さいけど」
「だな。俺なんかは見ての通り大振りだ」
ふむふむ、成る程。まだその程度か。
地域によるけど、遊牧民族なんかだともっと良質な弓を作ってる。
毛皮が材料になる事を驚いただけあって、この近辺はその程度の認識だ。
「おじさん、場所借りるよ。後で教えるから」
「好きに使ってくれ!」
丸太を買いに出た時に弓の材料も確保した。
でも最初にやる事は狩ってきてくれた毛皮を煮詰める事。
「そうするとどうなるの?」
「接着剤が出来るんだ。薄い素材をそれで何枚も重ねて弓を作るの。コンポジットボウって言う弓になる」
「「うおおおおおおっ!?」」
ここで使われてる弓より強力で、大きさを落とす事まで可能にする。
最初はエアリ用に、今使ってる物より若干小さく作っていこう。
魔法を活用すれば接着剤が早く渇くから楽。
出来たら表面を手早く磨き、今度は弦を用意。
ここでまたギルドで貰った素材を使う。
「これグリーンスパイダーの脚。女冒険者には不人気なアレ」
「う、うん。あたしもアレ苦手」
「こいつの表面を剥いで筋肉を煮詰めると良い弦が出来るんだ。蜘蛛だけに」
「「うおおおおおおっ!?」」
狼くらいの大きさな蜘蛛、グリーンスパイダーの筋肉は煮詰めると腹から吐き出す糸より良質な繊維が出来る。
加工がちょっと手間なんだけど、ここにはグラインダーが有るから何とかなる。
グラインダーは研磨部分が回転するからね。
まずは煮詰め、グズグズになるまで溶かす。
「それは?」
「蜘蛛弦を作る時に使う漏斗。普通の漏斗より穴が凄く小さいでしょ」
「あ、ほんとだ。漏斗に見えなかったよ」
溶かした物を穴が凄く小さい漏斗に入れて、グラインダーを回転させる。
後はグラインダーに漏斗の先を軽く当てれば良い。
――シュルルルルッ
「「おおおっ!」」
先端が軽く削れると同時に煮詰めた金属が張り付き、グラインダーが勢いよく引き延ばして絡め取っていく。出来れば回転するだけの物の方が良いんだけどね。穴が削れ過ぎると弦が太くなっちゃうから。
煮詰めた筋肉が全て弦になったらグラインダーから外してエアリ達に渡そう。
「うわ、何これ!今までと違う!」
「表面は固めなのに麻みてぇな伸びだ!」
「弓に着けてごらん。それだけで質が解る」
「うん!…嘘ぉ!?凄い固い!」
これで完成。乾燥魔法が使えれば自分で作れるから経済的。集まったレンジャーは皆魔法使いの素質を得てるから教えてあげればすぐ使える。
エアリ達を連れてギルドに戻り、射撃訓練所で試し撃ちして貰おう。
「凄い凄い!ちょっとキツいけど今までの弓より威力がある!」
「マジで!?ちと貸してくれ!」
中々の出来だね。
小さいけど今までの弓より強いって声ばかり。
「コンポジットボウの利点は張り合わせる素材次第で威力が上がるって事。こいつは買うより自作の方が良い。一先ずはこれと同じ素材で作って、次からは模索すると良いよ」
「そうする!これでも十分だけど!」
「ああ。これで何時もの大きさとなると相当だろうしな」
いやいやいや。
威力だけでは無いのだよ。ここ重要。
「頑丈な弓にもなるってのが大きい。同じしなやかさで丈夫な素材を見つけたら代えられる」
「「あっ!」」
大きいでしょ?
魔物の素材、例えば大型の腱なんかはしなやかなクセにかなり丈夫だし。そう言うので作るとかなり長持ちする。
「弦は今のところ蜘蛛弦が最上かなー。ボクが知る限りだと中級蜘蛛のレッドスパイダーの筋肉だね。あれはかなり丈夫。蜘蛛弦は全般的に幾ら引っ張っても切れないって性質を持ってるんだけど、赤蜘蛛弦は更に切れにくい性質を持ってる」
「うわー。苦手意識がどっか飛んでいっちゃいそうだよー」
「ちと遠出してみても良いな。確か二つ隣の町で出てるって話だし」
脚一本で証拠になるなら、残り七本は素材として確保出来る。冒険者的に考えると美味しい敵。
魔物素材は知ってると稼げるのだ。
冒険者ギルドも活気付いた。
ボクが稽古をつけたり、ギルドに頼んで色々と情報を流して貰ったり。
主に魔物の情報で、これくらいなら機密漏洩にはならない。倒してくれる事に繋がるから当然と言えば当然だ。
でも、冒険者達も役員も解ってる。
「私も楽しくなってきました。魔物の出現も悪い事ばかりじゃ無いんですね」
「うん。使える物は何でも使うべきだ。…お、こいつも出るのか。確か解毒薬の材料だったな」
「解毒薬!ここじゃ高いです!」
ボクが魔物の事を調べるのは、何かしらの材料を探す為だって。だから腕を上げた冒険者が腕試しに出てくれる。
討伐クエストの有無までは流れて来ないけど、出没情報だけでもクエストが有りそうか解るし、無くても美味しい。
「そうそう。滅多に無いだろうけど、ゴーレムやガーゴイルが出たって聞いたら教えてくれる?ヒトに変装して狩りに行くから」
「本当ですか!?」
「ガーゴイルも良質な素材になるし、ゴーレムも素材次第じゃ美味しいからね。強敵だからボクも出る。ゴーレムは優先したいなー。ゴーレムマスターを捕まえれば一財産」
中級から上級の討伐対象となるガーゴイルやゴーレムは金づる。特にゴーレム。ゴーレムマスターと呼ばれる錬金術師によって生み出される魔法生物で、体を構成する素材は基本的に鉱物。
鉱物によって強さが変わるけど、強ければ強いほど金づるだ。ゴーレムマスターを捕獲して研究所の場所を吐かせられれば予備の素材もせしめられて更に美味しい。
「この辺りは長閑だから難しいけど、オリハルコンゴーレムとか出たら速攻で行くし。あんなん金貨の山にしか思えない」
「うわあ。オリハルコンゴーレムと言えば軍隊が出る程の強さでしょう?」
「魔族側から見ても強敵だね。でもボクなんかからすればカモだよ。コアをエナジードレインするだけで壊れるんだから」
「成る程!」
反乱軍の予算稼ぎには最適だったー。
最高の金属であるオリハルコンなら売っても武器にしても良い。
「逆に面倒なのがオークとかゴブリンとか。素材にならない魔物は邪魔でしかない。もう少しオツムが足りてれば農業仕込んで労働力にするんだけど、暴れて繁殖する事しか頭にないからなー」
ヒト型の魔物は基本的に美味しくない。
それと半数以上のアンデッド。あいつらほんと邪魔。害しか無い。
例外はデュラハンとかリビングアーマーみたいな憑依系アンデッドくらい。
「おおっとお?アイアンホークが居るじゃん」
「アイアンホークは何の素材になるんです?」
一番近い山にアイアンホークが居る。
固すぎる爪と嘴を持った中型の鷹で、こいつはかなり大きい情報だ。
この地方の地図も出して貰おう。
「良いね。他の町とも離れてる。この山にヒトが出入りしてるとかは知らないかな」
「すみません。そこまでは流石に」
「いや、無理もないさ。アイアンホークの生息域って必ず鉄鉱山なんだ。鉄も餌だから」
「えええ!?」
ヒトの出入りが無ければ未発見の鉄鉱山って事になる。所有権の問題が付きまとうけど、採掘して良いなら冒険者を向かわせたい。
アイアンホーク自体も美味しい。
「こいつの羽は魔法を刻印しやすい。追尾矢が作れる」
「凄いですね!」
飛んでるだけに厄介なのが難点。
エアリ達レンジャー勢を呼ぼうか。
「ほんと!?魔法の矢!?」
「鉄鉱山まで!?」
「うん。まず鏃に追尾効果を刻印しよう。それでアイアンホークを落とすんだ。アイアンホークの羽の方が強く刻印出来るし、コストも落とせるから次からはそれで。羽の為に視察程度に留めて、羽が揃ってから本格的な調査と採掘かな。あ、忘れてた。弓の握りに魔物の毛皮を使いなよ。増力魔法を刻印すれば楽に引けるよ」
「「あああっ!」」
知識は偉大。ほんと偉大。
もっと学者の地位を上げても良いんじゃないかとすら思う。どこも城仕えくらいしか重用されてないし。まぁ、稼げる職業じゃないから城仕えでもしないと食べていけないだろうけど。
「もうちょっと頑丈な荷台を作って貰おう。空間魔法も使って積載量を高めて、しこたま鉄を掘る。町長さんとも相談しないとなー。鉄鉱山の採掘権利とか、この国でどうなってるか確認しておかないと」
「ほんとアイラ凄い。何でも知ってる」
「凄く頼れますよね」
「「うんうんうん」」
色々と学んでおいて良かったー。
自分の為の町興しってなんて楽しいんだろう。
故郷に居た頃でも行き着くところは自分の為になるんだけど、町くらいの規模だと手応えを強く感じるから楽しい。