01-プロローグ-
自分が随分な変わり者だと言う自覚は十分に有り、仲間達からも良く言われて来た。
最初は偏見の目で見られたし、未だにボクを馬鹿にする者も少なからず居る。
それでも今、周囲から苦笑いで済まされる程度に収まっているのは名を上げた親友のおかげだろう。
「なあ。本当に行くのか?」
「お前のおかげでボクの立場も良くなったからね。お前の理想を手伝えるし、少し落ち着いて暮らしたい」
親友は大きな理想を抱いている。それは今まで他の者達が考えなかった事で、理解者は少なく、名を上げて今の地位に就いたからこそようやく実現への第一歩を踏み出せる程に困難な道。
その理想を良いと思ったからボクは親友を手伝ってきたし、これからも手伝いたいと思う。
だからこそボクは親友の元を離れるつもりだ。
「出来れば俺の物になって欲しいんだがな」
「気持ちはありがたいけど、周囲からも催促され始めたのが面倒くさくなったんだよ」
「ちっ。仕方ねえ。今回は引き下がろう」
そのまま諦めてくれ、とまでは言えない。
普通に考えると断る方がおかしい話だ。
「まったく。折角魔王になったってのに、サキュバス一人口説き落とせねえとか酷え冗談だぜ」
何しろ彼は泣く子も黙る魔王様。
そしてボクは淫魔サキュバス。
どう考えても分不相応で、口説いてくれるだけで御の字だけど。
ボクはそれに応えられず、更には彼の元から去ろうとしている。
「とにかく、もう行くよ。早く動いた方が良い」
「解った。お前ならとは思うが、気をつけてな」
彼の理想を叶える為に。
そしてボク自身の為に。
彼の元を去り、同じ道を違う場所で進む。
ボクはアイラ。
自分をボクと呼んでいるけど、サキュバスなだけあって女。
サキュバスとしては上玉と呼んで良い外見だと思う。艶やかに輝く長い黒髪。魔力の強さを物語る角は長くは無いけど羊の様に巻いて太く黒く輝いてる。つり目気味なのが賛否両論だけども自分では気に入ってるし、顔全体で見ると自分以上の同族は片手でも足りる程しか見た事が無い。背丈はサキュバスとして理想的だし、体型だって自他共に認める極上の物。魔王たる親友から真面目に口説かれるくらいには上玉だ。
だからこそ困るのが変わり者と言う点で、ボクは自分の事を女だと認識出来ないで居る。
いわゆる性同一性障害と言う奴だ。
これはサキュバスとして致命的な事。だってそうだろう?サキュバスと言うのは男から精を搾り取るのが生業なのに、ボクからすればそれはホモとかヤヲイとか呼ばれる事になるんだから。
それでも精を吸わなきゃ死ぬんで、これまではそう言う行為に及ばずエナジードレインと言う精を吸い取る力を使ってこっそり少しずつ周囲から吸って細々と生きてきた。
親友が自分の理想を叶える為に魔王を目指し、それを手伝う様になってからは変わったかな。
親友の敵を排除する際に全力でエナジードレインを掛けて吸ってきたからね。おかげでサキュバスの域を超え、親友が属する悪魔族に匹敵する程の力になってる。
精の蓄えが出来た事や親友が先代魔王を殺して魔王になった事、そして親友の理想に添えるからと親友の元を離れて旅に出た。
行き先は手頃な町か村。出来れば町になりそうな規模の村が良いな。
そこでのんびり暮らすのが目的だ。