第29話 過去の片鱗と重たい空気
やっぱり、空気を読むことって大切ですよね。
自分も、リアルでは空気をできるだけ読んで、影を薄くして生活しています……
「十文字先生のアドバイスはどうだった、誠?」
苦痛とも呼べるアドバイスを終え、誠はスレイヤとパトラの元に戻ると、スレイヤが尋ねてきた。
「あぁ……結構キツく言われたけど、もっと強くなるよ。本気で」
誠はかなりの怒りを抑えながら、必死に会話を成立させていた。だが、パトラはそれを見抜いた。
「誠、どれだけキツく言われたの?顔がこわばっているよ」
別に褒められた二人に、分かってもらおうとわ思わないよ……と、誠は思いながらも無理に笑顔を作って言った。
「そんなことは放っておいて、今はとにかく特訓だ!」
これをを話題転換と分かり、スレイヤとパトラはあえて触れなかった。
「それじゃあアドバイスを元に、3人とも別メニューで特訓しましょう。それじゃあね!」
スレイヤはそう言って、2人のものを過ぎ去っていった。パトラも雰囲気を察したのか、慌ててその場を離れた。
こうして、ドラス奪還作戦の前の強化特訓の幕が上がった。
○○○○○○
「さて……なんか誠、可哀想だったな……まぁ今は、先生のアドバイスを元にした新技『氷剣』を完成させないと!」
誠達と別れてから、スレイヤは独りで演習場に来ていた。
「まず、簡単に氷の剣って言っても造形なんて出来る程、繊細なモノづくりをするのは難しいんだよな……」
と、そう言いながらも模索しながら作ること1時間。中々良い剣が作成できないスレイヤに通りかかったのは、太田 大だった。
「どうしたの?スレイヤさん。そんな、いつにも増して鬼のような顔をして」
スレイヤの張り詰めた空気を察せず、平然と話してくる大に対して怒りを覚えたのか、スレイヤは目つきを鋭くして言った。
「太田くん、貴方殺されるなら串刺しがいい?それとも氷漬けにされたい?」
その目に一切の光はなく、鬼ですら一瞬にして黙らせられそうな程の眼差しを向けられた大は、慌てて弁解した。
「い、いやそうじゃなくて……そ……そうだよ!困っているスレイヤさんを助けたかっただけなんだよー」
大は冷や汗をダラダラと垂らしながら、必死にそう言うとスレイヤは見逃したのか、もとの表情に戻った。
「そう……まぁ良いわ。それより今、ちょっと手が空いてる?氷の剣の生成が難しくて……」
大は汚名払拭のためか必死に案を考えると、やがて思いついたような顔をして言った。
「イメージトレーニングを兼ねて、実物を見るのはどう?」
そう言うと、スレイヤはハッと驚いた顔をした後、1分前とは180度違う眼差しを向け言った。
「それよ太田くん!想像の中でしか見たことのない剣だから作るのが難しかったんだ!
でも、実物なんてどうやって見たら良いんだろう」
「とりあえず、十文字先生に聞いて見たら?あの頼れる先生なら、何とかなる気がするんだ」
大は、神頼みにも近いような考えを元に言ったが、十文字先生の信頼度は底知れなかった。
「そうね。あの先生なら、きっと何とかなるわよね。よし、ありがとう太田くん!」
そう言ってスレイヤは十文字先生の元に行った。
大はスレイヤに声をかけるのは控えようと、心から思った。
そして時間は経ち、スレイヤは十文字先生の元へとたどり着いた。
「十文字先生、1つお願いしたいことがあるのですが」
「どうしたスレイヤ?何か特訓に行き詰まっているのか?俺が出来ることなら、いくらでも力になるぞ」
十文字先生……私は貴方に一生ついていきます!こんな頼れる先生が、この世界には存在していたのですね!
そう思いながらスレイヤは、心酔したような眼差しを向け言った。
「ありがとうございます恩師!それでは、剣を所持していたら、私に見せてくれませんか?」
スレイヤがそう言うと、十文字先生は一瞬動揺した後に言った。
「あぁ分かった。それじゃあ、ちょっと持ってくるから待っていろ」
十文字先生はそう言って、剣を取りに行った。目がダイアモンドのように輝いたスレイヤを置いて。
それから5分後、十文字先生は想像通りのカッコいい剣を持って戻ってきた。
「すまんなスレイヤ。持ってくるのに少々時間がかかった。それにしても何故見たいんだ?」
「それは氷の剣を作成するにあたって、イメージだけでは困難だと気がついたからです。
それにしても先生は、何故こんな剣を持っているんですか?」
スレイヤがそう言うと、十文字先生は若干動揺した後に言った。
「……まぁ、俺がまだ15歳くらいの頃に神様からもらったんだ」
先生が唐突に言ったその言葉は、スレイヤの興味を即座にして掻き立てた。
「先生、神様とはどう言うことですか?物凄く興味があります!」
だが、それとは裏腹に十文字先生は渋い顔をして言った。
「……まぁ、まだこの学校が出来る前何だがな。俺は魔王討伐の為に神様から派遣されて、勇者としてこの世界に来たんだ」
その声は普段からは想像できないほどに低く暗く、その言葉からはこれ以上聞くなと言うオーラが、醸し出されていた。
どうしてこの学校の先生になったか、など聞きたいことはたくさんあったが、空気を察してスレイヤは聞かなかった。
「す……すいません、変なことを聞いてしまい……それでは先生、少し剣を拝見させていただきます」
そう言ってスレイヤは、構造から設計まで細かく見た後に一言、
「ありがとうございます。これで、氷剣が作れそうです」
と言ってその場を離れた。そして、かつてないほどの修羅場の空気を味わったスレイヤは、恐怖で足がすくんでいた。
恐らくここまで怯えるスレイヤは、普段からは想像ができないだろう。
夏なのに更新速度が遅い!こいつ何やってんだよ!と思った貴方(読んでくれている人いない説も浮上しているが)、誠にすいません。
もう少し頑張って見ますので!




