第25話 真実と虚実
遂に模擬戦編のラストです!ちなみに最初の何行かだけは、誠視点ではありませんのでご注意下さい。
私は生涯誰にも話すことはないと思っていた。それに誰にも聞かれることはないと思っていた。
でも彼らは聞いてきた。本気の目で、真実を追い求めようとする目で、私の事を。
だから私は話す。もしかしたらこれは、彼らをこちら側の戦いに巻き込むかもしれない。
でも私は話したい。彼らに真実を告げたい。
龍と共に生きてきた才女は、独り虚しく生きてきた幼き女の子は、生まれて始めてだれかに頼りたいと思った。
☆☆☆☆☆☆
「ふっ……全く私ったら、独りで目的を果たそうって思ってたのにね。
まぁいいわ、じゃあ1回しか話さないから、ちゃんと聞きなさいよ」
「あぁ、お願いするぜ。ドラス」
ドラスは本気の目で、誠たちが本当に本気かどうか確かめるような目で見た。
すると誠達も本気の目で見てきたので、ドラスは真剣な顔で言った。
「まずミラの話の前に、『魔王の家』について話すわ。
まず端的に言ってしまうと、魔王の家っていうのは、魔王軍幹部候補生を育成するための施設なのよ」
そうドラスが言うと、誠がふと尋ねた。
「おいドラス、お前は何でそんなこと知ってるんだ?」
「それは……正直に言うわ、それは私が『魔王の家』に住んでいた人の中の1人だったからよ……」
言う予定じゃなかったのに……とドラスは悔しみながらも、心のどこかで欲していた理解者が現れるかもしれないと思い、話を続けた。
「今から話す事は、ミラや魔王の家について端的に話すより、時間がかかるわ。それでも聞いてくれないかしら?
いえ、聞いて!誰かに打ち明けたいの、私の秘密を。もう独りで抱え込むのはもう限界なのよ!」
すると目の前の3人が笑って言った。
「当たり前じゃないか!俺たちはこれから、助けて合わないと行けないんだからよ!」
「私たちでよければ聞くわよ。当然の礼儀じゃない」
「一緒に問題を共有しましょう!そしてみんなでその問題に、立ち向かいましょう!」
「3人とも……ありがとう!それじゃあ話すわね」
そう言ってドラスが話し始めた内容は、本当に衝撃的な物であった。
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「まだ私が10歳の時だったわ。今考えれば殺害かもしれないけど、唐突に私の両親は死んだの。そして私は、当時8歳だった弟と共に路頭に迷ったわ。
両親の親戚も行方不明、さらに警察が出動しない中、当時の私達は理由すら分からず、ただただ泣き合っていたの。
そんな中、まるでタイミングを見計らったように出てきたのがミラだった。そして彼女は、自分なら君達に食べ物を与えられる、面倒を見てあげられる。
だから私についてきてくれないかしら?と言ったわ。
普通だったら怪しむはずだけど、まだ幼い私達はそんなことを知る由もなく、差し伸べられた悪魔の手を簡単に掴んでしまったわ。
そして私達2人は不思議な施設に入れられたの。その施設の名前が『魔王の家』、ミラはそこで『マザー』と呼ばれていて、魔王の家の設立者だった。
そしてそんな施設で私達を最初に待っていたもの、それが異能測定だったの。
でも異能測定は、まだ幼い子には負荷が大きすぎるために、16歳になるまで測定をしては行けないってなっているけれど、そんなことを私達は知らなかった。
だから辛くても痛くても、生きる為と本能的に認識して、私達は異能測定を行った。
その結果幼くして私と弟は異能を手に入れてしまったのよ。
そしてその後私は、今の2人のチームメイトとチームを組み、『生きる為』だけに異能を鍛え、たくさんの応用技も習得して実戦経験も積んで、とにかく強くなったわ。
そんな日々が延々と続いていたある日、私は間違えてマザー室を覗いてしまったの。
そしてそこで、私はとんでも無いものを目撃してしまった。それは私の大切な弟が、手術台の上でもがき苦しんでいる姿だったの。
そしてそれを執刀しているミラ。私は怖かったけれど、勇気を出して中に入って言ったわ。『なんでそんなことをしているの?やめて』って。
そうしたらミラが笑って言ったわ。
『この家で、幹部になる素質のない者。異能が弱いと判断された者は、仕方がないから下っ端になるのよ』と。
すると私の最愛の弟が言ったわ。『逃げて!お姉ちゃん』ってね。だから私は逃げた。
本当に臆病だわ、私は。弟が苦しんでいる中逃げるなんてね。
いや、もしかしたら見たくなかったのかもね。体が緑に変色して行き、まるでゴブリンのようになってしまっている弟を。
そして私はそんなミラを倒す為に、あえてこの学園に入った。全ては彼女を倒す為に……そして強くなる為に……」
そこまでドラスが話すと、誠達は顔を真っ青にしていた。そして落ち着くとスレイヤがドラスに聞いた。
「じゃあ要するに、ミラって言うのは魔王軍を作る組織にいながら、この学園のような魔王軍と戦うための組織にもいるって言うことなの?
じゃあそれってどう言うこと……?」
するとドラスはより一層険しい顔になった。
「それは、ミラが……グハッ!」
急に何が起こったんだ!おい、ドラスが……ドラスが紅に染まっている!
そう思いながら誠は上を見ると、そこに見えるのは、最悪の悪魔であるミラだった。
「御機嫌よう3人とも。本日はドラスが私たちの邪魔をしようとしたので殺しておきました。何かお困りでしょうか?」
「え?おい、何……言ってるんだよ?夢……だよな?」
「誠!しっかりして!現実から目を背けても何も始まらないわよ!」
スレイヤ……そうだな。俺が今やらなきゃいけない事はただ1つ!それは
「ミラーーーーーーー!!!俺がテメェをぶっ殺す!『時間停止』!」
殺さないと!スレイヤの村を崩壊させ、ドラスの弟をゴブリンにし、そしてドラスを殺した悪魔を!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!
誠の頭の中には、この言葉しかなかった。そして止まった5秒間の間に、誠はミラの後頭部に回りそして5秒間が立った時叫んだ。
「俺はテメェを許さねぇ!『鬼人流武術 壱の型 白虎拳』」
そう言って放った拳は、ミラの目が捉える事はできず、後頭部を殴った……はずだった。
「まだまだね。動きが遅いわ」
くそっ、避けられた!どれだけ強いんだよ!
「それではまたお会いしましょう。さようなら」
その刹那、恐ろしいほどの轟音と光がミラを包み込み、消えてしまった。
その時、この騒ぎに気づいたのか、保健室の先生が飛び込んできた。
「何事なの!……ってせ、せ、生徒が殺されている!あ、貴方達が殺したの⁈」
は?そんなわけないだろ!そう誠は思い、思わず叫んだ。
「違います!俺たちじゃありません!ドラスを殺したのはミラ校長です!」
するとスレイヤとパトラも弁明してくれた。
「私達はやっていません!私達は、ただ話し合っていただけで、そこにミラ校長が入ってきたんです!」
「そうです!そもそも私達はあの強いドラスを殺せるだけの力はありません!」
ありがとう2人とも……これで容疑が晴れるといいんだが……
「ミラ校長?嘘をつかのも大概にしなさい!だってミラ校長は今、校長室にいるのよ!先ほど会ってきたばかりですから!
それにあの生徒は今憔悴しきっているわ。殺すのは容易なことだったと思うわ」
そ、そんな……俺たちが容疑者?ありえないだろ!
「この事はミラ校長に報告します。殺人事件なんて、魔王軍の出現以来一度もなかった事だから、どうなるかわからないけど、覚悟しておきなさい」
そう言って保健室の先生、『ユリウス先生』はドラスを集中治療室に連れて行った。
ただ唖然としていた誠達を置き去りにして。
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「ではこれより、第52回職員会議を行います。よろしくお願いします」
薄暗い校長室の中で、金髪の少女とその執事と思われる男。そして70代ぐらいの女と血気盛んな男。その他たくさんの職員が集まっていた。
「それでは本日の議題について、それは学園のある生徒達が『魔王の家』などについての情報を知ってしまった事についてです」
すると70代ぐらいの女を除き他の全員が慌て、いくつかの質問が出た。
「誰に知られたのですか?」
「誰が教えたのですか?」
「今どのような状況ですか」
「えぇ……1つ目の質問の答えとしては、1年3組の伊達 誠、スレイヤ、パトラの3人です。
2つ目の質問の答えとしては、魔王の家からの脱獄者である、ドラスです。
3つ目の質問の答えとしては、ドラスに至っては魔王の家に強制送還して、伊達 誠ら3人としては現在殺人の冤罪を着せ、ある程度は問題ないと思います」
するとミラ以外の全員が真っ直ぐ見た人物は、血気盛んな男だった。すると彼は言った。
「では私が魔王の家の中まで連れて行くフリをして、彼らを消去致します」
すると皆が途端に落ち着き、口々に言った。
「かつて勇者と呼ばれた男が消去するとなれば、安心この上ない。それじゃあこれで、会議は終わりだな」
そう誰かが言い出すと、皆次々と帰っていった。そして残った金髪の少女は執事に言った。
「私の計画は、貴方以外誰にも知られてはならない。
だからクラル、計画を知ってしまった者は直ちに消去しなさい。まぁドラスとスレイヤは別だけど」
「かしこまりました。それで私の娘が殺されないのであれば、私はどんな命令も遂行致します」
そうクラルが言った途端、薄暗い校長室の中で静かな笑い声が聞こえてきた。
その笑い声はまるで新たな始まりを合図する、魔笛のようだった。
模擬戦編が終わりましたが、如何でしょうか?少しでも楽しんでくれてもらえたら嬉しいです。
ちなみにミラって何歳なんでしょうか?幼女設定は作者としても困ります……