第17話 本来交わることのないもの
宜しくお願いします。
「勝った……のか?」
誠は、突然聞こえた十文字先生の言葉の意味が理解できなかった。
「そう見たいね。この試合は私たちの勝ちよ」
一方スレイヤは、完全に理解を把握しているようだ。
「そ、そんなわけ無いだろ……俺たちの方に敵はこなかった。つまり……パトラが3人全員倒したって言うのか?」
まさか、そんなはずは無い。それとも、俺がパトラを過小評価していたと言うのか……
「誠、貴方はまだパトラのことを何も知っていない。あの子は誰よりも優しく温厚で、そして誰よりも裏のある子なのよ」
「スレイヤ……お前は何を言っているんだ?」
裏?パトラに裏?わけが分かんねぇよ!
「まぁいいわ。今から反省ミーティングをするから、その時に話すことにしましょう」
そう言ってスレイヤは、困惑した誠を引きずって、演習場を出た。
○○○○○○
模擬戦を終えたチームには、二つの選択肢が与えられる。
観戦室に行って、他のチームの模擬戦を観戦するか、教室に戻って、ミーティングをするかのどちらかだ。
そして普通なら観戦室に行き、他のチームを分析するのだが、誠たちは今教室にいた。
「おいパトラ、教えてくれ。一体どうやって、1人で3人の敵を倒したんだ?」
誠がミーティングが始まるや否や、直球にそう質問すると、パトラは真面目な顔になって言った。
「誠、実は私……二重人格なの」
「二重人格?一体どういうことだ?」
誠がそう聞くと、今度はスレイヤが答えた。
「パトラって昔から、怒りを感じたらその怒りの対象が降伏するまで、荒っぽい人格になるのよ」
パトラが荒っぽく?駄目だ、想像がつかない。まぁ、とにかく聞きたいことは山ほどある。
「その怒りモードのパトラって、パトラ自身でコントロールできないのか?」
すると今度は、パトラ自身が言った。
「それが出来ないの……でもいつもの自分の意識はあるの」
「つまり、怒ってないモードのパトラの意識か?」
「そう。例えば金縛りみたいな感じかな?まぁ私はなったこと無いんだけど。金縛りに」
いや安心しろ、普通の人はないから。と思っていると、スレイヤが突然言った。
「え?私はしょっちゅうなるんだけど?」
おい!スレイヤはどんだけ霊感強いんだよ。って質問から脱線しちまったし。
話を戻さないと……
「まぁでも、その怒りモードのおかげで今回は勝てたから、その力を制御できるようになれば、パトラは超強いな!」
誠がそう言うと、パトラが笑って答えた。
「そうだね、この力ともっとちゃんと向き合ってみるよ!」
そして3人の間に、和やかなムードが訪れ……
「姉貴!どうか俺たちを子分にしてくだせぇ!」
なかった……
「おい誰だ!この和やかになりかけたムードを壊したのは……って矢久座達じゃねぇか!」
なんでよりにもよって、矢久座達がこのムードの中に入ってくんだよ!
「お前は伊達 誠か!貴様には用がねぇ!とっとと消え失せろ!」
「おい!何このムードの中に勝手に入ってきて、勝手に言ってんだよ!」
俺は結構いまキレてるぞ!
「まぁお前はどうでもいい。それより姉貴!俺たちを子分にしてくだせぇ!」
すると今度はスレイヤが言った。
「姉貴って誰のこと?もし私のことだったら、お断りよ」
すると矢久座達はスレイヤに言い返した。
「あ?テメェじゃねぇよ。この口のうるさい銀髪ババァめ!」
するとスレイヤもこの3人に、俺同様にブチギレたようだ。
「貴方達、私のことをそんな風に呼ばないで!私はスレイヤよ!」
「へいへい。分かったよ。それより姉貴!俺達を子分にしてくだせぇ!」
するとパトラが困惑しながら言った。
「あ、あの……姉貴って私のこと?」
「そうっす!パトラさん!」
おい、姉貴とか意味がワカンねぇよ!と思って、俺は矢久座達に尋ねた。
「おい、なんでパトラが姉貴ってなってるんだよ!」
「そりゃ俺たちがパトラさんに、ボッコボコにされたからだ!なんか文句あんのか?」
いや、ドヤ顔でそれを言われてもな……
「じゃあなんで、お前らをボッコボコにしたパトラのことを姉貴って呼ぶんだ?」
「あぁ?それは俺たちを、軽く潰すような強さのボスが欲しかったからだよ!
何それ?結局ボコボコにされたから、ボスになってくださいって、それ……
「どMだッ!」
「ど、どMじゃねぇし!」
そう言いながら、顔の赤くなっている矢久座達を見て、パトラは言った。
「まぁ、私で良ければボスになってもいいよ。だけど、誠とスレイヤとも仲良く接してね」
「は、はい!姉貴!」
おいおいおい……これから俺は、矢久座達とも関係を持たないといけないのか!
そんなことしたら、さらにクラス内での立ち位置が……
「そう言うわけだ!宜しくな、伊達、スレイヤ!」
いや、いきなりそう言われても……
「と、取り敢えず名前を教えてくれ」
「おう!俺は矢久座家の長男、矢久座 岩だ!異能は『岩石落下』。宜しくな!」
おい、名前がそのまんまだな!
「おっす!俺は矢久座家の次男、矢久座 磁力だ!異能は『磁力増幅』。宜しくな!」
お前も名前が、そのまんまだな!この双子の親はどうなってるんだ!
「よお!俺は矢久座家の三男、府領 霧弥だ!異能は『周囲濃霧』。俺ら三つ子を宜しくな!」
「おい!矢久座家の間で何があった?なんで名字が違うのに、お前ら三つ子設定なんだ!」
そう聞くと目の前の三つ子は、真面目な顔で言った。
「「「それ、聞いちゃいます?」」」
なんかまずい!なんか開いてはいけない扉を開いてしまったようだ。ここは話題転換を……
「あ、改めて……俺の名前は伊達 誠。異能は『時間停止』。3人とも宜しく」
するとスレイヤとパトラも、空気を察してくれたのか自己紹介をしてくれた。
「私の名前はスレイヤ。異能は『氷結』。宜しくお願いするわ。
ただ、私と関係を持つなら、もっと真面目に授業を受けなさい!」
うわ〜まぁスレイヤっぽいけどさ、それ3人から反感を買わ……
「分かりました!姉貴の友達となれば、そのくらいの要望は聞きましょう!」
なかった……って言うか、さっきと全然態度が違うし!誰だよ、さっき『口のうるさい銀髪ババァ』とか言った奴。
「私の名前はパトラ。異能は『威力増加。宜しくね」
「は、はい!我らが姉貴!」
もうお前ら、パトラに心酔してるな。
「まぁ、とりあえずこれから宜しくな矢久座3兄弟!」
「おう!宜しくな!」
今ここで、本来交わることのないはずの、不良グループとぼっちグループが、ひとつになった。
今回は、人物紹介が多めになってしまいましたが、この後も燃え上がる展開を作ろうと思いますので、次もお楽しみに〜