第11話 とっとこデブ太郎
よろしくお願いしま〜す
「風呂場は、このまだ完全にはよくわからないこの世界においての、俺の1番の楽しみだ…」
誠はそう言いながら、1人孤独に風呂に浸かりながら疲れを癒していた。
熱々の蒸気、ちょうど良い温度のお湯、そして色々な場所から聞こえてくる、会話…
「おい!なんで風呂場にまで来てこんなに喋ってるやつばっかりなんだよ!」
ついに誠はそう叫んだが、誰も彼の言葉に耳を傾ける者はいなかった。
「風呂場で体すら癒せないなんて…」
と言いながら風呂場を去る誠の目には、絶望の色以外は写っていなかった。
☆☆☆☆☆☆
「それじゃあお前ら!今からホームルームを始める!」
「「はい!ボス!」」
「今日の連絡は2つ。
1つ目は異世界出身の者には朗報だ!それは…今日で勉強は終わりだ!」
「マジか!」
その言葉に、誠を含む異世界出身者、全員が雄叫びをあげた。
でも俺の中には疑問があった。なので思い切って質問してみた。
「何故、3日で終わっていいんですか?」
「それは、今日で一通り知っておくことは教えたからだ」
するとその言葉に、クラス全員が驚きを隠せなかった。
だがそんな誠らをよそに、十文字先生は話を続けた。
「お前達がここで勉強する内容は3つ。
1つ目は初日に教えた、魔王軍の始まり。
2つ目は昨日教えた、キルタ村について。
そして3つ目は今日教える、異能の全貌についてだ」
なるほど。俺たちは単に、魔王軍を倒すために呼ばれたわけだから、それ以外は知らなくてもいいのか。
と、誠は1人で納得していた。
「では二つ目の、連絡!それは、これからいつでも演習場を使って良いと言うことだ!」
マジか。それはつまり、いつでも異能使用可能ということか!でも俺の異能は、使って強くなれるわけじゃないけど…
ただ、そんな誠に比べて周りは…
「おっしゃー放課後行こーぜ!」
「私たちは今すぐ行こう!」
飛びっきりの笑顔に満ち溢れていた。
「それではホームルームは終わり。今から授業を始める。この世界出身の者は早く出て行け!」
その一言で、スレイヤ達、この世界出身者はこの教室を出た。
「それでは始める!まずは保健室の先生の言っていた4つの異能の復習!」
あぁ、あのお婆ちゃんなのに、無駄に若く見せようとしてるユリウス先生の言っていたやつか。
「それでは…伊達!お前が答えろ!」
ていうか俺が言うことになってるし!まぁ、いっか。
「1つ目は発動系統。炎や氷の発動ができる。
2つ目は召喚系統。自分の召喚獣を一体召喚できる。
3つ目は強化系統。自分や他人の特定の部分の身体能力を上げられる。
そして4つ目が、魔王系統。魔王の作り出した5つの異能」
あぁ、なんとか言えた。周りからの視線超怖かったー。特に魔王系統って言った時…
と、ほっと一息ついている誠をよそに、先生は話す。
「そうだ。よく出来たな。だが、実はもう2種類あるんだ」
そう先生が言うと、クラスはざわついて、やがて1人の生徒が質問した。
「ではなんで保険の先生は教えてくれなかったのですか?」
「それは、特殊なケースであるからだ。勿論、その異能を手にしてしまった奴には、きちんと教えている。
その5つ目の異能は…」
「異能は⁈」
もはや俺たち全員は、先生の話に眠気も忘れて釘付け状態だ。
「その異能の名は、その他系統だ!」
「………」
「そのまんま過ぎんだろ!おい!」
誠が先陣を切って言ったのと同時に、他の生徒も口々に、
「先生そのまんま過ぎ!」
「ボス…そのネーミングセンスは…」
今各地で気を失っているものが続出中です!とでもアナウンサーがいいそうな光景となっていた。
だがそんな中でも先生は話す。
「ま、まぁ、それは俺もわからんではないがな。ただ、仕方がないんだ。それつけたの俺じゃないし。
ち、ちなみにその異能の例としては、空間転移や、回復異能、変身異能などがそうだ」
確かに、名簿の中にはこれ何系統だろうと思わせるようなものをあったっけ。
と、誠は1人で考えていた…と、その中…
強烈な睡魔が誠を襲う。
あれ?まだもう1種類の異能について聞いてない…まぁいっか…俺には関係ないし…
そう言って、誠はまるでN極と、S極のように引きつけあっている瞼を閉じた。
「…ろ …きろ…起きろ!伊達!」
「…はっ!また寝てた!」
「ちゃんとしろよ!ではこれで授業は終わり。
今日まで3日間、ご苦労だった。まぁずっと寝てるやつもおるが」
はい、すいませんでした。俺氏、渾身の謝罪。
「だが、後は魔王と戦えるようにしっかりと異能を練習しろ!いいか、異能は使えば使うだけ慣れて、上達するんだからな!」
「はい、わかりました!ボス!」
「ふっ、そのノリも、悪くねぇな」
マジカッ!ボスがついに、十文字先生公認の呼び名になった!
「それでは、解散!」
その言葉と同時に、俺たちは檻から解き放たれた獣のように、寮へ向かった。
☆☆☆☆☆☆
「おじさん!今日も唐揚げ定食!」
「すまんな坊主。今日はもう売り切れだ」
お、お、おい…う、嘘だろ。ここの唐揚げ定食の為に、授業終わってからダッシュで戻ってきたのに…
「いや…だってよ、そこのでっかい坊主が唐揚げ定食あるだけ下さいって言うんだから、仕方ねぇだろ」
誰だよ、そいつ…殺したろうか!
「どこにいますか?その野郎は」
「そ、そこにいるが…」
「そうですか。有難うございます」
もはや誠の目には殺意しかない。
あいつは確か俺と同じクラスのやつ。太ってるくせに何故かすばしっこいから、あだ名は、「とっとこデブ太郎」だっけ。
と思いながら、誠は近づいていった。
「おいお前、何でそんなに唐揚げ定食注文すんだよ!
他の人の気持ちも考え…」
「唐揚げ定食、ここにあるのまだ口つけてないけど、一ついる?目が欲しそ……」
「はい。お願いします。有難うございます」
『伊達誠、戦意喪失!勝者、とっとこデブ太郎!』
良いんだ。脳内でどんなコールが流れていようと、俺は唐揚げ定食が食べれればそれで良いんだ!
と、思っていると、向こうが急に話しかけてきた。
「ところで君、僕とおんなじクラスのデビルキングだよね」
「何だ?そのデビルキングって?」
「知らないの?君のあだ名だよ?」
おい、つけた奴調子乗ってんな。
「じゃあお前のあだ名も教えてやるよ。その名もとっとこデブ太郎だ」
「えーなんか残念だな…」
「まぁ、そりゃそうだよな。残念だよな」
「うん…イケメンハンサム君とか、スリム君とか、ライザップ行ってたの?君、とかかと思った」
「お前、さすがに現実を知れ」
「君もね。デビルキング。いつまでも魔王の異能を理由にして、現実逃避してたらダメだよ」
「うっ…まぁ確かにそうかも知れないな…
なんかお前とは仲良くなれる気がするよ。宜しく、とっとこデブ太郎」
「おう。僕の方も宜しくね。デビルキング。
いや、長いからデビキンでいいや」
「良いのかよ!」
「「ハハハハ」」
俺は、今この世界で初めて、同年代の男友達を作った。
次もお楽しみに〜