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選べない 未来  作者: 秋野 木星
第一章 お互いの思い
7/8

⒍ 初めての夜

タカオ、困っているようです。

 シャワールームを譲り合ったり、一緒に夕飯を食べたりするのは自然にできた。

だが寝室に入ってからがまずかった。

今まで同年代の仲間たちと一緒に施設で暮らしてきたのだ。同居と言う形でニナと暮らせばいいじゃないかと単純に考えていたけれど・・・女性と一緒に寝るということはこんなにも気を遣う事なのかと今非常に悩んでいる。



今日は疲れたから早く寝ようということになり二人で寝室にやってきた、しかし寝室のドアを開けると当然のことにベッドは一つだった。ラージサイズではあったが、ダブルベッドだった。そうか、そうだよな。一応今日から夫婦というわけだものな。

お互いにドアのところで足を止めたが、戸惑っている俺をそのままにしてニナはさっさとベッドにもぐっていく。

布団から顔を覗かせて、こっちを見ていたずらっぽく笑った。

「タカオ、なに突っ立ってんの。早く寝ましょう。明日は私の育ったところを見に行くんでしょ。早く寝ないと寝坊しちゃうわよ。」


こういうことに順応するのは女の方が早いよな。

薄闇の中のニナを見ていると、教育ビデオで習ったあれやこれやが思い浮かんでおかしな気分になって来る。

やばい。

子づくりは三年後からなんて言っといて、俺のこの下半身だけは違う意見を主張し始めている。

そういうことをする前の薬も飲んでいないのに、この状態はどういうことなんだ?学校で聞いていたのと違うじゃないか。

とにかく布団に入らないと見た目が困ったことになるぞ。


何とか歩いてベッドまで来ると、ニナが寝ているのとは反対側に寝転んで布団を直ぐに掛ける。

いやー困った。

困るということは、俺の意見のほうが不自然なのか?

ニナの言うようにすぐに子づくりに取り掛かったほうがいいのだろうか?


傍らでニナがゴソゴソ動いている。どうも寝る時の体制を決めようとしているようだ。

そういえば誰かと同じベッドで寝るのは初めてだな。

セブとは旅行の時に同じ部屋で寝たことがあるが、あの時もちろんベッドは別だった。


ちらりとニナの方を見ると向こうを向いて横向きに丸まっている。どうやら寝る体制に入ったようだ。

俺は普段上を向いて寝るタイプなので、どうしても視界の隅にニナが入ってしまう。

そうするといらぬ妄想が湧き出て落ち着かない。

目をつぶりゃあいいんだと思って目を閉じると、今度はニナの温もりや規則的な息遣いが気になり始める。


うーーん。

こういう状態を甘く見てたな俺。

薬も飲まないでこんな状態になるなんて知らなかった。

今まで女が苦手であんまり接してこなかったから、こうなったこともない。

これはこのままだと痛いというか何かに突撃したくなるというか、とにかく寝るどころじゃないな。

衝動を煽る方法は学校で嫌になるほど習ったけど、これを静める方法は教えてもらってない。

どうすりゃいいんだ?


とにかくなんか違うことを考えなきゃな。

ええっと、上田さん、そう上田さんだ。あの人ナカムラの爺さんに言わせると精鋭なんだな。

これは笑える。

のほほーんとしたあの顔で、精鋭。名前もサミュエルだったっけ。似合わん。あの顔はサミュエルというより・・・ヤナギって感じか。うん、風に揺られてユラユラしてる柳だな。


あのナカムラの爺さんも一見のんびりと落ち着いてニコニコしてたけど、仕事の段取りや精度はすごかったな。上田さんもそんな感じなんだろうか。こっちに来る短い間しか会ってないからあんまりわからんけど。

俺たちの望みをある程度聞いてくれると言ってたけど、ある程度ってどのくらいだ?

・・・見晴山のコテージか、ニナも「歩く」と言ってたし俺も「走るし歩く」そんなことも考慮されての高原の住まいなんだろうな。いいところだといいけど。


セブとパートナーのタルは、・・・あれ?・・タリーだったっけ?・・・えーっと、いややっぱりタルだ。

あの二人はどうしてるんだろう。あいつら町の中心部の優良住宅だったよな。近くに住もうって言ってたけど離れちゃったな。まぁオーブバスに乗ったら三十分もかからないか。落ち着いたらニナと一緒に尋ねてみよう。


そんなことをつらつら考えていたら、やっと眠気がやって来たのだろう。

俺は薄れかけていた煩悩と共に意識を手放した。




◇◇◇




 翌朝、目を覚ますとニナはもう起きているようだった。

シャワールームから水の音が聞こえる。・・・そうかニナは朝もシャワーを浴びるんだ。

俺は朝はシャワーを浴びたことがない。こういうところも人によって違うんだな。


だが今日は俺もニナの後にシャワーを使わせてもらおう。

朝方俺の知らぬ間に息子が暴れていたようだ。ズボンの中が気持ち悪い。


ニナが居間の方に行った音がしたので、俺も着替えを持ってシャワー室に行った。

中に入ると花のような香りがする。湯気もまだ室内を漂っている。

そうか二人で暮らすというのはこういう事なんだ。

お互いがいつもすぐ側にいる。匂いや音まで。


壁のパネルにタッチすると、全方向からお湯が噴出してくる。

今まで住んでいた施設の自室では、方向によってお湯の強弱を調整して自分の好みに合わせていたが、ここではそういうわけにはいかない。

ニナはどうしているんだろう。新居では二人分の水流調整がシャワーパネルに記憶できるようになっているんだろうか?

こんなことも二人分考えなきゃいけなくなるんだな。



 シャワーの後居間に行くと、室内シューターで朝食が届けられていた。

代り映えのしないモーニングセットだ。外国でも同じ会社を使っているんだな。

ただ昨日登録をし忘れていたので、予備のジャムのセットがパンについて来ていた。今日は二人の好みをシューターのパネルに登録しといたほうがいいな。

「おはよう、タカオ。朝食が来てるわよ。何のジャムを付ける?」

「おはよう。・・そうだな、オレンジピールってある?」

「へー、それ食べる人あんまりいないよね。あら、でもこのセットにはついて来てるみたい。さすが用意がいいわね。ハイどうぞ。私は今日はムーンミックスにしようかな。」

ニナは月面都市で開発されたジャムを食べるようだ。そういえば保母のアマミさんもよくこれを食べてたな。女の人に人気があるらしい。


俺はコーヒー、ニナはミルクを用意して朝食をたべる。

「タカオ、よく眠れた?」

外人同士の挨拶なのだろう。答えを気にしない感じでさりげなく聞かれたが、前半よく眠れなかった俺としては答えるのがぎこちなくなる。

「・・ああ、枕が変わるとやっぱり少し寝ずらいな。」

それを聞いてニナが目を輝かせた。

「わぁっ、それって日本人っぽい答えーー。」

「そうか?」

「うん。日本人の枕へのこだわりって半端ないよね。枕を製造している会社も日本の企業でしょ。私が育った施設にも日本人の血が濃い人が一人いたけれど、旅行に言った時に今のタカオと同じようなことを言ってたわ。」

「へぇー。顔かたちは世界中同じような感じになっても、まだそういう日本人っぽいところも残ってるんだな。血って、不思議だな。」

「そうね。考え方の深い所には、まだ民族の意識が眠っているのかもね。ほら、ナカムラさんもそうじゃない?あの完璧主義で合理的な仕事の仕方、いかにも日本人の血を引いている感じ。」

「そうか?そういう風には見ていなかったな。仕事ができる人だとは思ったけど。」

「タカオは自分と同じ国の人だからわからないのよ。西洋人から見るとアジアの血を引いてるような特徴がそこかしこにみられるの。」

「ふーん。それはそうと今日の事だけど、ニナのいた施設までは何で行くの?オーブバス?」

「いいえ、車よ。ここから近いの。南の山側に少し入ったところだから、バスより車の方が便利がいいと思うわ。ここの職員の人が連れて行ってくれるらしい。さっき携帯に連絡があったから。」

「じゃあ出かける時間までゆっくりできるな。」

「ええ。私コンピーターの2000年問題についてタカオに聞いてみたいことがあったのよ。・・・・・」



それから出かける時間まで、日本史の話をニナと続けた。

同じものに興味があるというのは有難い。お互いの事をよく知らなくても話ができるもんな。

この調子なら今日も何とか間がもちそうだ。


何とか新婚?一日目が無事済んだようですね。

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