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選べない 未来  作者: 秋野 木星
第一章 お互いの思い
6/8

⒌ ニナとの話し合い

二人の思いは・・。

とにかくまずは男から話しかけるべきだよな。

「ええっと、俺は肩が凝るやり取りが苦手だから、なるべく丁寧語じゃなくて普通に話してほしい。」

と言うと、ニナも解ったと言って態度を崩してくれた。


「ニナ、これから長い付き合いになる。俺は自分で歩いたり走ったりするのが好きな変人だ。ニナとは違うところが多いと思う。何か困ったことがあれば、その都度二人で話し合って解決できたらと思っている。どうかよろしく頼む。」

ニナも頷く。

「私もタカオが思っているより変人かもしれないわ。走ることはしないけれど、草原を自分の足で散歩するのは好きなの。話し合いをして家庭の土台を築いていくことには賛成よ。全くの他人同士なのだから少しずつ知り合っていくところから始めましょう。」


よかった。ニナが理性的な人で。

それに「歩く」のか・・これはすごいな。少しは話が合いそうだ。


しかしまずは何から話すべきだろうか・・。そうだな「姓」について相談しておくべきだな。

「ニナ、早速だけど俺たちの「姓」を決めといたほうがいいと思うんだ。大人になって一番に変わることが姓を名乗ることだろう? 俺はあんまり姓についてこだわりがないからニナの希望を教えて欲しい。」

ニナが頷く。

「私の両親の姓も先日教えてもらったけれど、一度も会ったことがない人たちなのでなにかピンとこなかったわ。タカオのご両親の姓は何というの?」

「うちは、キタノとナカヤマだと聞いている。」

「これから日本で暮らすのだから、日本の名前にしたほうがいいんじゃないかしら。ナカヤマだと私の名前の『ナ』が重なるし、担当者のナカムラさんと似ていて紛らわしいから、キタノにしたらどうでしょう。」

「ああ、ニナがいいなら俺もそれでいいよ。でも意外と簡単に決まったな。俺の友達のセブたちなんかは名前を決めるだけで丸一日かかったらしい。」

「・・そんなに。二人に何かこだわりでもあったの?」

「いや、お互いこだわりが無さ過ぎたんだろう。相手に融通し合って決まらなかったそうだ。」

「まあ・・・・。」


二人とも無言になる。

ちらっと顔を見合わせるが、次は何を話したらいいんだ?

ニナが気を使ったのか話題を振ってくれた。


「歴史を勉強しているそうだけど、タカオの研究年代は?」

おっ、こういう話題だとありがたいな。

「俺の好きな年代はコンピューター黎明期以前のアナログ世代なんだ。なので、中世より少し古代よりかな。年代で言うと2000年以前の1900年代だな。」

「私は中世史に差し掛かった2000年から以降の500年間に興味があるの。この頃に出来たものは改良を重ねられて今も使われているものが多いでしょ。でも、タカオと興味のある年代が近いのね。そういうことも今回のマッチングに影響したのかしら。」


そうなのだろうか。「歩く」こともだし、たぶんそうなんだろうな。

それから昼食を食べながらニナといろいろ話をした。たまにお互い無言になってぎこちない時もあったけれど、恐れていたほど相性が悪いわけじゃないらしい。




◇◇◇




 昼食の後、二人で部屋の方へ上がってきた。ビルの中でも高い位置に居住スペースがあるらしく俺たちの部屋も11階にあった。

人体認証システムでドアを開けて部屋に入る。

レストランと部屋を繋ぐカプセル型の移動装置であるシューターに乗り込んだ頃から、お互いの間をまた沈黙が支配している。それはただの話の切れ目ではなく、これからの事への緊張をはらんでいた。


・・・言っといたほうがいいよな・・・しかしどう思われるか・・・。

「ニナ、大事な話があるんだ。ここに座って話そう。」

リビングルームにあったソファに二人で向かい合って座る。


「子づくりのことなんだが・・・俺は十六歳頃から始めたいと思ってる。昔のことを調べているとその年頃で始めるのが自然な感じがするんだ。」

これにはニナも驚いたらしく、暫く俺の顔を見ながらあっけにとられていた。

「・・・えっ・・でも、さすがにそんなことは許されないでしょう。」

そう言いながら、チラリと携帯の方を見る。

常に盗聴・管理されている。このことも俺にとっては苛立ちの一つだ。


俺は心持大きな声ではっきりと聞こえるように言った。

「さっきナカムラさんも自然回帰の試みだとかなんとか言ってたじゃないか。夫婦の事は俺たちの希望も聞いてくれると・・。」

この言葉でニナも俺の本気が判ったのだろう。頭の中で何やら考えているような感じで改めて俺のほうに向きなおった。

「俺たちの希望・・でもそれはタカオの希望であって私の希望ではないわ。」

「それは・・そうだ。君もこのことに関してなにか意見があるのか?」

「そうね。十三歳になったら子供を作るのは当たり前と思ってきたから、それをしないというほうが自然に反するように思えるけど・・・ただ今気になっているのはその事じゃない。・・・タカオ、そういう事をしたくないというのは私が整形手術をしていないからなの?」

これには俺の方が驚いた。何を言い出すのやら。

ニナは続ける。

「タカオも『走る』のだから私の気持ちが少しはわかると思うけど・・。周りの人は取り立てて非難はしなかったけれど、整形をしない私は変わり者だと思われてたの。私としては自分でない自分を毎日鏡で見るのが嫌だった。でも友達はそのことに嫌悪感も何も感じていないようだったわ。私の事は、髪がこんなだからそんな風に主張するのもしょうがないのねっていう感じだった。むしろこちらが、そんな自分の意固地なところに自己嫌悪になったこともある。悩んできたけど、今は整形をしない自分に納得している。ただ、タカオがそういう気持ちになったことは、私のこの容姿に関係するのか確認しておきたい。」

なんてこった。女ってどういう思考回路なんだ。容姿の事なんてなんも言ってないだろ。でも、変わり者の考え方には共感できるな。


「いや、ニナの容姿には何の文句も思うところもないよ。ニナが整形手術が嫌だと思うならしなければいい。むしろ俺としては他の連中と同じような顔じゃなくて助かったと思ったぐらいだ。つんつんした顔の美人は苦手なんだ。・・・さっき言った事はこれまでの生活全部に対する何かわからない苛立ちの中で考えて来たことの一つかな。」

「苛立ち?」


「ああ。自分の健康も未来もずっと誰かに管理され指示され続けてきた。うっかり風邪もひけない。熱でも()そうもんなら市のお偉方まで巻き込む大騒ぎだ。未来だって自分で選べない。今回の事なんかその最たるものだ。誰かと出会うこともコンピューターの思惑の中。別にニナがどうとかいうわけじゃない。ここはまた勘違いしないでくれよ。コンピューターのなかった時代を研究しだして、やっとそれまで自分が感じて来た苛立ちに明確な筋が見えて来た。そんな中で思ったんだ。身体がまだ出来上がってない十三歳と言う年齢で子供を作り始めるのはどうなのだろう。なにを焦って薬や機械に頼ってまで子孫を残そうとするんだ? 滅ぶべき種であるなら何をしようと同じだろう。もし人類がこの地球上に残る種であるなら自然に逆らってまで早くから子どもを作らなくてもいいんじゃないか? そんな疑問の中から導き出した一つの答えがさっきの十六歳頃からの子づくりというやつなんだが・・。」


ニナは俺の主張を聞いて、しばらく考え込んでいた。

こういう話は友達のセブにもしたことがない。わかってもらえるとは思わなかったからだ。しかし、この先の長い生活を共にするニナとは避けて通れない話だ。

それにニナも自分が変わっている考え方をすることで悩んでいたと言っていた。俺の考えの一部でもわかってくれるといいのだが・・・。


「タカオ、タカオの考えはわかった。私も日本史を勉強しているから日本人独特の死生観というのは少しはわかるつもりよ。」

「死生観?」

「そう。タカオは無意識にでしょうが考古学にあるアイヌのような考え方をしているわ。タカオが純正の日本人の容姿をしていることも無関係じゃないのかもしれないわね。自分たちの思いを叶えるために、力づくで目の前の敵をねじ伏せて生きていこうとする西洋の狩猟民族の考え方じゃない。自然と共に自然の思いを受け入れて生きる。そして死をも抗うことなく静かに受け入れる。そんな思考を感じるの。ただ、私は西洋人よ。頭ではあなたの意見を受け止められても、すぐにはそれに順応していけないわ。この問題に関しては、もう少し考えさせて欲しい。」


ふーーん。アイヌの考え方だって?

そういう方向からはちっとも考えてみたことがなかったな。

即座にそうと言えるということは、ニナはだいぶ本気で日本史を勉強しているみたいだ。

俺のように自分の苛立ちの原因を探るために歴史の勉強を始めたんじゃないんだろうな。


それでも、このことに感情的に反論されたり、よくあるように何も考えないで追従されたりしなくてよかった。


ニナは、自分の意見を自分で考えられる人なんだ。


俺の頭の中で保母のアマミさんが、「だから言ったでしょう。会ってみなきゃお互いの相性が合う合わないなんてわからないんだから・・。」と言っている。


ホントだね。

今回はアマミさんに完敗だ。

嫌いなコンピューターのことも少しは見直した。



ニナが俺のパートナーで良かった。


自分の意見がすぐに通らなかったのに、今回初めてくつろいだ安心感を覚えていることを不思議に感じながら、俺はふわふわしたソファの背に頭を置いた。







少しは分かり合えたのかしら・・・。

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