表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選べない 未来  作者: 秋野 木星
プロローグ
1/8

はじまり

S・F? どなたかが言っていた、

す(・)こし、ふ(・)しぎな、未来のお話です。

 タカオは走っていた。

はぁはぁと息を切らして。

心臓がドクドクと限界を知らせている。

額から、脇から汗がにじみ出て獣臭い臭いをまき散らしているが、

目をキッと前方に見据えてひたすら走り続けていた。



 今の世界ではもう自分の足で走る者などいないのではないかと思う。

しかし、走らなければならないのだ。誰に言われたわけでもない、なんの理由もないが、でも「走れ!」と本能が告げている。



◇◇◇



 昨日の土曜日はパートナーが発表される日だった。


国民が十三歳になった日に、政府から生涯を共にするパートナーが発表される。


 五月三日の朝ベッドから起きだしてみると、

タカオの携帯には、パートナーの名前・住所・携帯のアドレス・写真などが添付されたマッチ・メールが来ていた。


「とうとう来たか。」


気が重い。


意識の奥底には、どんな子だろうというかすかな興味もあったが、

会ったこともない女の子と生涯を過ごせと一方的に命令されることに、途轍もない苛立ちを感じていた。


これは、周りに言わせると異常らしい。


友人のセブなどは一か月前にパートナーが決まり、もう二人で暮らし始めている。

なんの疑問も憤りも感じないらしい。

そう教育されてきたからか、いや人類が皆、従順になってしまったのか。とにかくタカオのような自己主張の強いタイプは周りに全然いない。

タカオは異端児扱いされているものの、周りが白い目で見るとか、特別に社会によって矯正されるとかの措置もない。


みんな特に興味がないのだ。


タカオは珍しい純血種だからちょっと変わってるんだよね、というぐらいの認識だ。

黒人・白人・黄色人種、過去にはいろいろな人種がいたらしいが、今では混血が進み世界の殆どの人が黒褐色の肌をしている。髪の色もくすんだ茶色の人が多い。たまに遺伝変異で鮮やかな色の髪をしている者もいるが、一つの街に二・三人でとても稀だ。


黒い目、黒い髪、黄みがかった肌。

何千年も前の日本人らしい日本人には自分の他に会ったことがない。

自分の両親は純血種だったのだろうか・・と考えても、これもまた会ったことがないのだからどうしようもない。


 人類は急激な人口減少の過渡期にある。

子どもの生まれる数が減り、生まれても十三歳の成人まで生き残る数が減り、

人類滅亡の危機を迎えた各国政府は対策を取らざるを得なくなった。


そこで二百年ほど前に世界的に制定されたのが「マッチング・システム」だ。

健康な成人にできるだけ多くの子孫を残してほしい。

出会う出会わないだの、結婚するしないなどと言っている場合ではないのだ。

すぐそこに人類の終わりが見えている。


自己成長のできるスーパー・コンピューターを使って男女の相性、健康状態、趣味、学力などを考慮させ、世界を視野に入れてマッチするカップルを探す。


そして十三歳の成人でカップリングした者たちを、生殖器官が衰える三十歳まで政府保証の優遇住宅に入れる。

仕事を始めるのは普通住宅に移る三十歳からだ。

勿論、三十歳を過ぎて珍しく妊娠した夫婦も優遇住宅に戻ることが許されている。


そこで生まれた赤ちゃんは特別に保護された無菌施設で育てられる。



社会全体が支える福祉システムだ。



これが世界的に施行されたことで混血が進み、タカオのような純血種はとても珍しい存在となった。遥か昔の言葉で言う絶滅危惧種だ。


なのでタカオたちの何世代も前から親の顔は知らない。

成人したら出来るだけの子供を作ることが、生き残った者の務め。

というような、生き方になった。


どんな職業に就きたいとか、何を勉強したいなどということは二の次なのである。

皆、粛々と教えられた義務を果たそうと健康に過敏なほどの注意を払い、十三歳になるとパートナーと共に子作りに励む毎日を過ごしていく。


 タカオは子供の頃からそういう意味では変わっていた。


古代史が好きでオタクっぽく凝って勉強していたし、その研究者になりたいとも思っている。

決められたことを強制されるのが嫌で、自分が考えて納得したことしかしたくない。

少々鼻水が出ようと外に出て走ったり歩いたりするのをやめようとしない。


特にその外出が好きなことが一番変わっていると思われているようだ。

身体の中の抗体が完成する十歳をすぎて、自然の中に遠足に行くようになると、

みんなが嫌がる泥や川の水、日に焼けることや海の塩辛さ、それらすべてにときめいた。

そしてケガをしようと病気になろうと許されうる限りの時間を外で過ごした。


今でもセブ達をあきれさせていることがある。

誰もが、オーブという反重力サイクルに乗って移動するのだが、

タカオは自分の足で歩くのが好きだったし走るのはもっと好きだった。

オーブに乗ることなどめったにない。


 周りに合わせようとしない、いや合わせることのできないそんな頑固なタカオだが、歴史を研究するものとして社会の意義や重要さはよくわかっている。

自分がなすべき義務も心えているつもりだ。人類を滅びさせたく無ければすることは一つ。



 明日は、パートナーと会わなければならない。



相手は国内の人なのか、ゲートをくぐって海外に行かなければならないのか。


こちらの意思の確認はない。

すべて政府に決められた流れの中で動くしかない。

義務を潔く負うつもりでいるのだが、言われるがまま動かされる。

それが嫌で嫌でたまらない。


生き残った者の務めは重々承知している。

タカオだってわかっているのだ、そうしなければならないことは。



だからよりいっそう走りたくなるのかもしれない。

限界まで。

自分の力が尽きるまで。





学生の頃に原案がありました。

何度か書いてみたのですが、何度書いても少し違う物語になり、

ずっと放置していました。


今回また書いてみましたが、どうなるのか主人公次第です。

訪れて頂いた方、作者と一緒に、今度はどんなお話になるのか・・楽しんでみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ