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Episode Ⅱ 「25.回復」

3年ぶりの最新話です。作者も内容を忘れていますが、これを書いたのは3年前なので問題は無いと思います。


 ようやく慣れた雲の上を、一歩一歩慎重に歩んでゆく。

 足を踏み外さないように、落ちるかもしれないという恐怖と常に隣り合わせのまま。

 ドラゴンにしては華奢な足をふわりふわりと雲の上に重ねてゆく。


 いくら行けども、見渡す限り一面の青世界。常にグローガルムの視界には群青色が写り込んでいる。

 そして、向かう先は曇天。

 ――のように見えた、群衆体。

 遙かな黒靄に隠された、雲の上の世界。


 黒闇に近づくほど、靄が薄まってゆく。それと同時に、数多の人影であるという事が克明に映し出される。

 それは、整列された人々の姿。大量の石像が配列されて並んでいるかのごとく、微動だにしない人々の姿。

 もちろん、石化しているわけではない。皆一様に白い薄衣を羽織り、羽衣を纏っている。


 グローガルムがその光景を見た時、まず出てきた単語は――天女、だった。

 その姿は美しく、神ゼンサなぞに比べてもよっぽど天上人らしい。


 ただ、気になる点が一つ。

 誰も彼も、目が一様に濁っている。潤いが欠けているのではなく、奥の奥まで淀み切っていた。誰も口を開かず、ただそこに佇むだけの存在。そんな印象を、グローガルムは受けた。



「そう、彼女らが天空族だよ。この土地に居るけれど、彼女らは決して動かず、喋らず、ただただどこかに向かって祈るだけ。故に、存在意義を見つけられずにこの土地は神ゼンサへと返還された」


 後ろから滔々と歩いてきたヘルロスが、唖然としているグローガルムに対して説明を挟む。説明を聞いたところで、正直良く解っていないというのがグローガルムの本音だ。


「彼女らには話しかけても何も答えないし、反応すらない。恐らく全ての神経が死んでいるんじゃないかなと僕は考えている。何を祈っているのかも分からないし――話しかけたいのなら行ってみるといい」


 背中を押すように、ヘルロスは言葉を切った。

 押された身体は、天空族に向かって歩み出す。


 天空族。

 グローガルムが持っている知識を最大限考えてみると、ヒュミリオールの回想に出てきた程度のものだっただろうか。

 それから――それから?

 それだけだったはずだ。

 グローガルムは思考を打ち止め、一番近くに居た天空族の女性に近づく。


 手を振ってみる。返事はない。声を掛けてみる。返事はない。片を叩いてみる。返事はない。揺らしてみる。返事はない。溜息を吐く。返事はない。足を蹴ってみる。返事はない。振り返って戻る振りをしてみる。返事はない。いっそのこと攻撃をしてみる。


 パキン。


 恐らく何らかの防御壁が働いたのだろう。衝撃がそのままグローガルムの体に還ってきた。

 そして、驚くほど痛みが無い。

 グローガルムの攻撃力の低さがそのまま反映されているのか、それとも。


「ね、言ったでしょ?」

「ああ、その通りだな」

「ちなみに、僕が無理矢理移動させようとした時もそうだったんだよねー。しかもその結界は内側からのエネルギーが原因のようだから厄介なんだよ」


 首を横に振りながら、ヘルロスは諦めのジェスチャーをとった。


「これは、聞こえていない、ってわけではないんだよな?」

「どうだろうね。僕にはなんとも言えないや。もう何年もそのままだしね」

「そうか……」


 それきり考え込んでしまったグローガルムに、

「用が住んだら声を掛けておくれよ。下まで送るから」

 と、ロープレの村長のようなことを言って、ヘルロスは祈り続ける天空族の面々の間を難なく通り抜けて台座に腰掛けた。


 グローガルムは考える。

 この場所を手に入れることの利点とは。

 制空権を手に入れられるのは強みではある。

 だが、この場所を手に入れること即ち制空権を手に入れられることとは違う。それだけの武力を魔族は保持していない。

 手に入れられたとしても、無用の長物に他ならない。

 もしくは、未来への投機と言ったところか。

 ならば、ヘルロスに譲渡するのもまた一興か――。





「今より緊急作戦会議を行う。ヒュミリオール、悪いが幹部全員をここに集めてくれ」

「えっ……は、ハイ! 分かりました!」


 時は過ぎ去り、場所も変わり、グローガルムは魔王城地下、会議室にその身を構えていた。

 ヘルロスとの二度目の密会を終え、空の世界から帰ってきたグローガルムは、魔王城の屋上に送り届けられた。

 魔王城の屋上は、通常立ち入りが出来ない不可侵領域に値する。なのにも関わらずここに辿り着けたというのはヘルロスの成せる業なのか、それとも人間も使用可能なのか、気になるところではあった。

 そこからどうにかして魔王城の城内へ入り込むと、グローガルムを探しているという魔族の召使に遭遇した。

 彼曰く、ヒュミリオールがグローガルムが消えてしまったと焦っているらしい。

 彼女を落ちかせるべく魔王城地下の会議室――対策本部と化していたが――に到着し、ヒュミリオールに『散歩をしていた』という情報のみを伝え、無理矢理納得させた。

 そして、今に至る――。



「それにしても、急にどうしたんですか?」


 幹部――とはいっても、ザスラとクロコリトルとクランシュル、そこに今回はケルチュトスが加わりヒュミリオール含めたったの5名だけだったが――の前でグローガルムは宣告した。


「知っている奴もいると思うが、これから魔族として領地を回復しようと思う」


 略奪、ではなく回復と少しぼやかした形を使う。

 それでも、感の鈍くないヒュミリオール辺りはきちんとその意図を汲みした。

 奪うのではなく、『取り戻す』という表現に隠れた、『非戦闘性』。

 そして、どこから、と言う目的語の不在。

 どちらに気が付いたのかは知らないが、ヒュミリオールは神妙な顔で頷いた。


「誰かそんなこと知ってたんですかねー?」


 空気を読まないクロコリトルが、突っかかりを覚えて言葉に出した。

 後ろに居たヒュミリオールが持っていた紙をくるくると筒状にしてポコンとクロコリトルの頭を叩く。


「そんな野暮なことは訊くもんじゃないですよ」

「はぁーぃ」


 子供らしい無邪気な返事を返したクロコリトルに対して、ヒュミリオールは得意げな顔でグローガルムを見詰める。

 褒めて、と言うことだろうか。

 特に何の反応も見せずに、グローガルムは進行を続ける。


「領地回復に関してもう知っているとは思うが、人族が支配していたと思われる山間地を我々魔族が手に入れた。以後そこに本拠地を構えるつもりだ。そして、狙うはその先」


 グローガルムは先代までの魔王が遺した地図をバッと広げた。その中身に四人の視線が注がれる。

 グローガルムはかつての魔族の城があったところ――現在王都サンタナシアとなっている場所から遙か西に指をツツツと滑らせて、グローガルムが指示して掘らせた洞穴の上をきっちりとなぞってゆく。

 そして山間地帯――吹鳴の里となった湖がある所だ――を通り過ぎ、広く黒で覆われている地図の最西端まで指を運んだ。


「ここに、『海』と呼ばれるスポットがある」


 グローガルムが知っている海は青色だが、生憎この地図では黒く塗り潰されている。他の場所も総じて紫やら灰色やら地味な色しか使われてはいないのだが、黒だけという配色には極めて未開の場所と言う印象が残っている。


「この地点まで、全て西側を我々魔族の領有地とする」


 グローガルムの宣誓に、僅か5人しかいない聴衆ではあったが、それでも彼女たちは興奮していた。

 ザスラの無駄に上手い口笛や、クロコリトルの派手な拍手、そしてクランシュルのエコーなどが混じり合って音声だけなら会議室はカオスに包まれていた。


「クロコリトル、新天地の方はどうだ?」

「もう大半が完成したよ!」

「ならば宜しい。動かせる人員はどれほどのものになる?」


 グローガルムは前相談をせずにヒュミリオールへぶっつけで尋ねる。

 しかしヒュミリオールはうろたえることなくスムーズに数字をはじき出した。


「約600人前後かと思われます。カジノ運営メンバーを除いて、総勢魔族全てを動員した計算です」

「十分だ」


 ヒュミリオールに一言二言賛辞の言葉を述べた後、5人に向き直って、


「作戦は簡単、現地に行って、この土地は自分のものである、我らのものであると強く願え。それだけで、勝手にその土地は我々のものになる!」


 声高々に宣言した。

 そして、5人中4人の対応は。


「――は?」


 皆が皆、口を揃えてそう言った。


 それはそうだよね、と、グローガルムは心の中で呟き、途端にトーンダウンした場の空気を盛り上げようと説明を始めた――。

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