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Episode Ⅱ 「2.repose:休息」

 クロコリトルは了解の旨を残して、早速実行に移ってきますと言って会議室から走って去って行った。善は急げという言葉があるが、それを体現するようだった。

 地図を傷つけないようにして元にあったように折りたたみ、ドラゴンと化した大きな巌のような手で繊細に紐で結ぶ。

 片付け終わったとき、ヒュミリオールの隣に置かれたままだった枕を見て、ふとクロコリトルのことを思い出す。

 そう言えば、枕を返すのを忘れていたな。

 隣を見ると、ヒュミリオールが事務作業に熱中していてこちらを気にしている余裕さえなさそうだ。

 グローは辺りをきょろきょろと見渡して、誰かいないものかと探してみるも、会議室に居るのはグローガルムとヒュミリオールの二人だけだ。会議室から少し廊下に出てみるも、ひんやりとした地下特有の空気が綽然しゃくぜんと流れている。微光の一つすらなく、先の見えない廊下が広がっている。

 だが、この部屋に居てもすることがないのは確かだ。

 ならば――、とグローはクロコリトルが忘れて行った枕を手に取る。

 部下の忘れものを部屋に届けるくらいのことはしてみていもいいだろう。

 グローはそう自分自身に言い聞かせて、ピンク色のもふっとした柔らかい感触を抱えて、漆黒が広がる廊下へ一人で踏み出していった。


 ファン、という何かが反応するような、耳慣れない音がグローの耳元を襲った。

 グローが触ったのは電燈のスイッチだ。グローに向かって近い方から順番に光が灯っていく。ライトアップされた廊下は、やはりうす暗くはあったものの永遠に続くのではないかと言う妄想からは解き放たれて、普通に続く長い廊下と変わり果てた。

 枕を片手に自分の城を彷徨い歩くグローは、デジャヴュの様なものを感じていた。

 少し前に、この魔王城で同じような経験をしたことがなかったっけな……。


「おや、グローガルム様、どうなされマシタでしょウ?」


 目の前の暗闇から薄ぼんやりと声が聞こえてきた。

 グローはびくりと身体を震わせて、右手に持っているクロコリトルの枕を反射的に自分の陰に隠した。

 天井に設置されている蛍光灯が目の前の廊下を明るく照らしてくれているのにもかかわらず、だ。目の前に暗闇なんてあるはずがないのに、暗闇があると思いこんでしまっている自分がいた。

 ただ、恐らくこれは目の前に居るクランシュルの仕業だろう。何かそういう能力――【種族補正】が働いているに違いない。


「いや、これをクロコリトルが忘れて行ったから部屋に届けてやろうと思ってな」


 そう言って、右手に持っている枕をクランシュルに見せびらかすように掲げる。

 クランシュルはそれを見て、ああと頷いた後に機械らしく昨日性を重視した受取口を出してきた。


「その枕を届けるのは私めが承りましょウ」


 クランシュルの胴体上部からは鉄のトレーが出されている。今は二等身バージョンだ。

 彼の体の仕組みがどうもよく解らないが、二等身と八頭身のときでは出来ることも違うのだろう。

 とりあえず、今出されたものは、手ではなくトレーだった。

 受け取りにトレーを出される経験はグローは初めてだったので、どうすればいいかしばらく悩んだ挙句、自身が現在暇な状況に置かれていることも加味してから、


「いや、いいや。クロコリトルの部屋の場所さえ教えてくれないかな?」


 と丁重に断ることにした。

 クランシュルは「分かりました」と頷いてから、口元からシュルシュルと紙を出力する。

 機械族の体は摩訶不思議だなという感想以外をこの状況から求めることは不可能だろう。


「はい、こちらが魔王城の地図となります。赤く塗り潰されているところがクロコリトルさんの部屋となります」

「あ、ありがとう」


 クランシュルはぺこりと頭を下げて、すすすと廊下を移動してゆく。

 二等身しかないのにどうやって頭を下げるんだ、とか関節は一体どうなっているのか、なんて言う質問は野暮なのだろう。グローは礼の様子を一部始終目を離さずに注視していたが、結局その謎は残されたままとなった。



 グローはうす暗い廊下をひた歩き、一つ階段を降りたところにある目の前の部屋――クロコリトルの部屋の前にたどり着く。ここに来るまでにたくさんの部屋があったが、クランシュル以外にすれ違う人物はいなかった。

 皆が皆クランシュルのように姿を隠しながら移動している可能性もあるが――その可能性を考えて、グローは頭を振る。

 そんなことをする必要性がない。ここに居るのは魔族――もとい、グローガルムだけだ。

 グローガルムがこの城の中でそれほど恐れられているのかと言えば――事実、恐れられている。だが、それは未知なるものに対しての恐怖に過ぎない。

 グローガルムとて、気さくな人物と言うレッテルは張りきれないところがある。それどころか、部下と言うことを意識するあまり人に対して時々どう接すれば忘れてしまうところもある。

 しかし、それとこれとは話が別だ。


「失礼しまーす……」


 グローは黄色く照らされた廊下の左右確認をして、空き巣に入る盗人の気持ちでその扉を開ける。

 扉の中心部にはネームプレートが掛かっており、しっかりと『クロコリトル』という名前が差しこまれている。

 これは、ものを返しに来ただけだ。決してやましいことをしようとしているわけではない――とグローは自分の心に言い聞かせた。自分の体内にその言葉が浸透したのと同時、急激に心拍数が上がって来る。

 なんでだよ、とグローは思ったが、土台人間の体なんて――グローガルムの肉体はドラゴンだが――そんなものだ。意識すればするほど逆効果になる。


 ガチャリ、という金属音とともにゆっくりとドアが開く。ドア自身はそれほど軽いものではなかったが、金具がうまく滑ってとても軽く感じられた。

 ご丁寧にベッドまで置きに行く勇気はさすがに無く、玄関口に置くだけ置いて帰ってしまおうと、ドアノブを握りしめながらグローは決意する。目をぎゅっと強く結び、中を恐る恐る窺う。

 暗闇に支配されている空間は、グローの目では何も視認することは出来なかった。そのことに寧ろグローは安堵する。

 胸をそっと撫でおろし、少しばかり手汗をかいていたのを自分の服で拭い、玄関口にクロコリトルの枕をそっと置いた。


「何してるんですか?」

「ひぃ!」


 グローは油がされていない扉の様に首をぎこちなく後ろに回す。

 とりわけ疚しいことをしているわけでもないのだが、何故だか知らない罪悪感がグローを襲う。

 そう、これは親切心だ――そう自分自身に言い聞かせて、背後に突っ立っている人物を見上げた。

 部屋の暗闇と廊下の眩しさのコントラストに挟まれて、網膜がじりじりと悲鳴を上げる。意識をしていないのに、瞼はシャッターの様に重く開かない。

 目が慣れるにつれて――全貌があらわになってくる。

 見知った彼女は、グローが開け放ったドアを足で支えたまま、長い髪をポニーテールで纏めて冷たい眼光をこちらに向けてくる。


「いや……クロコリトルが枕を忘れて行ったから届けてやろうかと」

「クランシュルさんに預ければ良かったじゃないんですか?」


 どことなく、その声には怒気が含まれていた。といっても、ひどく軽微なものだ。

 怒気というよりは、呆れなのか――グローは脳内で思索を重ねる。

 目の前に――グローの後ろに立っていたのは、ヒュミリオールだった。


 はぁ、と溜息を一つ吐いてから、ヒュミリオールは足で押えていたドアを勢いよく蹴り、ドアは約180度程回転した。その挙措によって頭についている尻尾が大きく震えあがり、一昔前のアネゴ系のキャラクターを髣髴とさせる。

 しかし、その内面はただの苦労人に過ぎない。度重なる重労働と文字の見過ぎでゲジュタルト崩壊を起こしている可能性がある。

 グローはヒュミリオールの心境をくみ取り、優しく頭に手をポンと置いて無言のまま撫でてみる。その視線には哀れむ気持ちがありありと込もっていたが、ヒュミリオールは撫でられた瞬間俯いてしまってその視線には気がつかない。

 まぁ、気がつかない方がいいだろう。

 業務分担をしっかり割り振ろう、と考えて、グローはヒュミリオールとともにクロコリトルの部屋を後にした。



「で、何でクロコリトルの部屋に居たんですか?」


 ヒュミリオールの追及は、クロコリトルの部屋を出て暫くした後にまた再開された。



一週間毎に更新出来たらと思います。

文章が少しばかりぶれている気もしますが、いろいろ執筆方法を考えた結果、書きたい結果書いた方法が小説だ、ということに気がつきました。

改善するべきは文章の読みやすさですかね……。

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