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聖騎士との出会い

「ふぅ、ようやく黒蛇河くろへびがわにたどり着いたか」


 アトレビドはヤギウマのひく馬車の上で安堵の息を吐いた。

 それはそうだろう。先ほどから彼は息をする間もないほどの危機に襲われたのだ。

 一時的とはいえ、休息できる時間を満喫し、満足しているのである。

 現在アトレビドがたどり着いたのは、船着き場であった。


 ここから上流には村はなく、橋は存在しないため、向こう岸にわたるためには船が必要なのである。

 ただ渡し舟なら数隻あるが、上流へ行ける船はここにはないのだ。

 無線連絡で下流の村の司祭に船を用意する手はずを整えている最中である。


「現在、下流から船を用意している最中です。もうしばらくお待ちください」


 騎士が答えた。

 黒蛇河というのは比較的新しくできた河である。

 二百年前のキノコ戦争において天候は激変したのだ。

 核の冬により、世界は分厚い雪に覆われてしまっている。


 その後、世界各地で火山活動が活発化し、地形は大きく変動してしまった。

 黒蛇河の上流には被爆湖アトミック・レイクというものがある。

 元は大きな谷であったが、地殻変動により、崩れてしまっていた。

 そこに核の冬で生まれた雪解け水が溜まり、天然のダムが出来上がったのである。

 ちなみに放射能濃度はすでに自然界にある数値に落ち着いていた。


 被爆湖には大勢のビッグヘッドが飲み水として利用していたのだ。

 ビッグヘッドは放射能に汚染された土や水を好む。

 さらに崩壊した文明の遺物を食し、鉄や銅などの鉱石を浄化しているのだ。

 それらは涙鉱石るいこうせきと呼ばれており、向こう百年は放射能に汚染されないのである。

 基本的にビッグヘッドは涙鉱石を岩山に保管する習性があるが、たまに黒蛇河に流れる場合があった。


 黒蛇河の上流ではこぼれた涙鉱石を採取する人間がいるのである。

 無論大した稼ぎではないが、村一つ潤うほどの量が確保されるのだ。


「しっかし、なんだって教団の連中はグラモロソを誘拐したんだか」


 アトレビドは周りを見ながらぼやいた。

 連中の狙いは自分であると自覚している。

 彼らの目的はアトレビドを新しい英雄として擁立するためであろう。

 エビルヘッド教団は数十万人の信者がいる。


 エビルヘッドを信じれば永遠が約束される。働かずとも食べていけるなど甘言で誘っているのだ。

 実際は神の手助けという名目で信者に労働をさせているらしい。

 もっとも本人たちは働いている自覚はなく、神のための行為と認識しているらしいのだ。

 現在、エビルヘッドは死亡している。アトレビドの幼馴染であるフエルテが倒したからである。

 そのため教団ではフエルテ抹殺計画が盛り上がっているそうだ。


 フエルテを殺すべし、そしてエビルヘッド様を復活させよと声を荒げているらしい。

 だが幹部たちはフエルテ抹殺に興味はない。

 大事なのはエビルヘッドと敵対する者の存在なのだ。

 アトレビドを含め、司祭の杖は例外なく額に神応石しんおうせきを埋め込まれている。

 神応石は自身や周囲の人間の精神に呼応する物質の事だ。


 アトレビドがラード・スキルを使えるのも、自身が脂肪分で物を錬成できると思い込んでいるからである。

 思い込みの力が何より強いのだ。

 エビルヘッドは確かに倒された。だが教団ではエビルヘッドが倒されても復活すると教えにある。

 信者たちの狂信的な精神がエビルヘッドの死骸から抜き取られた神応石に影響するのだ。

 敵は多い方がいい。アトレビドはそのために利用されたと理解していた。


「おそらく俺がグラモロソの杖だからだろうな。まあ、あいつにとっては迷惑な話だろう」


 アトレビドは騎士からもらった揚げバターをむしゃむしゃと食べている。

 減った脂肪分を増やさなくてはならないからだ。

 それと携帯用の揚げバターも大量にもらっている。


「ああ、あれはなんだ!?」


 その内騎士の一人が大声を上げた。


 ☆


 騎士は右手で大空に向けて指をさす。

 それは空からやってきたのだ。

 後光で見えずらいが、猛禽類のように大きな翼を広げているのはわかる。

 問題はそれが鳥にしては大きすぎたからだ。

 そいつは近くにある木の枝に止まった。


「ビッグヘッド……」


 騎士の一人が独白した。そう相手はビッグヘッドだったのだ。

 両腕の部分は真っ白な翼で、足は鳥の足である。

 顔は美しい女性のものだった。

 金色の鶏冠に切れ長の眼にすらっと高い鼻。そしてふっくらした愛嬌のある唇である。


「皆さまお初にお目にかかります。パラディンヘッドと申します」


 ビッグヘッドが身体を傾け挨拶する。透き通るような声であった。その様子に騎士たちは驚愕した。

 しゃべるビッグヘッドなど初めて見たからである。

 だがアトレビドは冷静なままであった。そのままパラディンヘッドの元に行き、頭を下げる。


「ご無沙汰しています。パラディンヘッド殿。お元気そうで何よりです」


 なんとアトレビドは目の前にいる鳥のような異形と知り合いだったようである。


「こちらこそご無沙汰しております。アトレビド様。五年ぶりでございますね」


 パラディンヘッドは柔らかな笑みを浮かべた。


「あっ、アトレビド様。これはいったい……」


 騎士の一人が恐る恐る声をかけた。目の前にいる光景が信じられないのである。


「彼女はパラディンヘッドだ。キングヘッドの聖騎士を務めているのだ」


 キングヘッド。それは人間に味方するビッグヘッドの王だ。

 かつて荒廃したこの地に外来種を持ち込んだのである。

 ヤギやイノブタ、インドクジャクなど家畜や家禽の代用品をもたらしたのだ。

 現在フエゴ教団には牛や豚、鶏はいる。だがオルデン大陸にばらまくほどの個数はない。


「しばらく見ない間にアトレビド様は美しく成長なさいましたね」


 目の前にいる豚を見て、聖騎士様は真顔で褒めた。


「おいおい、俺を見て美しいはないだろう。たぶんグラモロソの方が美しいと思うだろうな」

「いいえ、そのようなことはございません。わたくしにとってアトレビド様の方が美しいと思います」


 その表情は真剣そのものであった。

 彼女にとってアトレビドは美形に映っているのである。

 ビッグヘッドは顔が歪んでいるものが多い。逆にパラディンヘッドは端正な顔だ。

 彼女にしてみれば自分の顔は常人より劣っていると思っているのだろう。


「ところで緊急事態でも起きたのか? あんたがこうして人里まで下りてくると言ったらそうだろう?」

「はい。その通りです。我が王子がエビルヘッド教団に誘拐されました」


 パラディンヘッドは隠しもせずぶちまけた。聞いた方も驚いている。

 王子とはキングヘッドの息子、プリンスヘッドのことである。

 身体はスイカ並みの大きさだが知性は人間以上のものを持っていた。


「プリンスが誘拐されただと? 教団の奴ら何を考えているんだ?」

「わかりません。教団が王子を誘拐する理由はありません。ですがそれは置いておきましょう。

 早く王子を救いに行かねばなりません」


 パラディンヘッドは思考を切り替える。相手が事情などどうでもいいのだ。起きた結果をどう解決するかが問題である。


「連中はギガントヘッドを使い、あっという間に王子を網で捕らえたのです。

 わたくしはスグサマ追跡しましたが、敵の妨害に遭い、遅れてしまいました。

 相手は霧を操る能力を持っています。わたくしを妨害されたのはそのためでした」


 彼女の言葉にアトレビドは首を傾げる。

 霧を操る能力とはいったい何だろうか。

 そもそもフエゴ教団にしろ、エビルヘッド教団にしろそのような能力者はいない。

 大抵人体の機能を特化させたようなものしかいないのだ。

 アトレビドのように脂肪分で道具を錬成するのもあくまで身体機能の延長である。


「これは陛下から聞いた話ですが、エビルヘッド教団は最近あるものを発明したそうです。

 その名も念呪草ねんじゅそうというもので、食べると司祭の杖のような力を得るそうです。

 これはグラモロソ様たちがお尋ねしたら話す予定でした」


 こう話したのはアトレビドの事情を知っているからだ。

 本来アトレビドとグラモロソは猛毒の山に住むキングヘッドの元へ謁見するはずだった。

 決まったコースはないが、目的地と逆方向を進んでいたことに疑問に思っていただろう。

 それに肝心の司祭がいないのだ。何かあったと考えるのがふつうである。


「あんたは空を飛んできたんだろ? 巨人ほどのビッグヘッドを見なかったかい?」

「はい。見ました。黒蛇河の上流を目指しておりましたね。おそらく我々の目的地は同じかと」


 真剣なまなざしで見つめてくる。

 二人の意見は一致しているのだ。同行することに問題はない。


「船が来ましたぞー!!」


 騎士が叫んだ。アトレビドは待ちくたびれていたのでほっとした。


「あんたに捕まって飛ぶのは危険すぎる。船の周辺を守ってほしい」

「了解しました」


 こうしてアトレビドとパラディンヘッドは手を結んだのであった。

 今回は息継ぎの回として書きました。

 パラディンヘッドのモデルはコナミのグラディウスをイメージしております。

 どこがだよ!! とおっしゃる人もいるでしょう。

 なんとなくです。後付けですがデータイーストのザ・グレイトラグタイムショーな力を持ってます。

 ますますわけがわからなくなるでしょうが、それを文章化することが面白いと思っていますね。


 ブクマと評価をいただけるとますますハッスルできます。

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