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13/20

終盤も最高潮!!

現在アトレビドはギガントヘッドの上に乗っている。そして空を高く飛んでいた。

ガリレオ要塞に突入したアトレビドはトールヘッドを倒した。

 そして額に埋められていたプリンスヘッドを救出する。

 その後パラディンヘッドと共に脱出し、追っ手を振り切った。


 だが最後の最後で、エビルヘッド教団の幹部、ベルゼブブが追ってきたのである。

 アトレビドはパラディンヘッドに乗っていたのだが、落とされた。そこでギガントヘッドに乗り移ったというわけだ。

 相手は黒い豚である。イベリコ豚だ。かなりでかい。アトレビドより二回りの大きさである。

 身に付けているものは首にぶら下げている真珠の首飾りと白いパンツ一丁であった。


 この人が蟲使い《ドクター・バグ》。ベルゼブブ先生である。


「よくもトールヘッドを殺し、プリンスヘッドを奪ってくれたな。

 もう俺様はエビルヘッド教団に戻れない。このままでは残酷な方法で処刑されるからだ。

 だからお前を殺す。ミンチにして豚の餌にするのだ。そうすれば偉大な私は再び高貴な地位へと返り咲くことができる」


 ベルゼブブは自分勝手な理屈をこねた。その割に彼の表情は冷静そのものだ。

 欲望にまみれた醜いものではない。先ほどの言葉はリップサービスなのかもしれない。


「悪いがあんたの都合を聞くつもりはない。邪魔をするなら容赦はしないぜ」


 アトレビドは構えを取る。だが正直勝算がない。

 なぜなら錬成するための脂肪が底をつきかけていたのである。

 補給のための揚げバターはすでにない。いかにベルゼブブを効率よく倒すかが問題となる。


「まずは私の力を見せつけてやる。いくぞ!!」


 ベルゼブブは高く飛びあがった。こんな不安定な足場で、しかも飛行中のギガントヘッドの上で飛ぶのは自殺行為である。このまま落ちて地上へ落ちればトマトのように潰れるのは必然だ。

 アトレビドは油断しない。ベルゼブブの危険性は知っている。昔学校で習ったからだ。エビルヘッド教団の幹部であるベルゼブブはちょっとした有名人なのである。

 ベルゼブブは右腕を前に突き出した。すると右腕の表面から疱疹のようにぶつぶつと穴が開き始める。そこから薄緑色の還虫が一斉に出てきたのだ。


 還虫はロープのようにまとまり、ギガントヘッドの翼に突き刺した。いや、正確にはまるでとりもちのようにくっついたのである。

 そして還虫のロープを手繰り寄せ、体当たりをかましてきたのだ。

 アトレビドの体は吹っ飛んだ。内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた感覚である。鉄の臭いが漂ってきた。脂肪が少なくなっているのでダメージを受けやすくなっているのである。


 ベルゼブブは左手で還虫のロープを引き抜いた。それをぽいっと捨てる。

 右腕は還虫が抜けた穴がぽこぽこ開いていた。まるで蜂の巣みたいである。

 するとベルゼブブは腕に力を入れた。すーっと息を吸うと、気合を入れる。

 穴は一気に塞がってしまったのだ。


「ふっふっふ。どうだ。私の力は? 驚いただろう?」


 ベルゼブブは不敵な笑みを浮かべる。確かに驚愕した。そして観察する。


「なるほどな。あんたの力は自分の身体、脂肪で虫を育てていたというわけか」

「ふん」


 ベルゼブブは答えない。鼻で笑うだけだ。だがそれこそ肯定した証拠である。

 おそらくベルゼブブは皮膚の表面に虫の卵を埋め込んだのだ。虫は脂肪を餌に成長する。

 虫の中には生き物に産卵するものがいる。ジガバチなどがそうだ。地面に巣穴を掘り、ヨトウムシやシャクトリムシを狩る。これに産卵して幼虫の餌にするのだ。


 もちろんただ卵を埋め込んだだけではないだろう。そこまで都合のいいものはない。


「そして念呪草の力でもあるわけだな」


 そう、すべては念呪草だ。念呪草を定期的に摂取し、蟲を自在に操る力を得たのだ。

 ベルゼブブは不敵な笑みを浮かべたままだ。否定はしないし、肯定もしない。

 なんとなくだがアトレビドに対して感心しているようだ。例えるなら今まで逆上がりができない生徒が努力の末にできるようになり、それを微笑ましく見守る教師のようなものに近い。


 ☆


 突如足元がふわりと浮き上がった。ギガントヘッドがいきなり急降下を始めたのである。

 これはいかんと、アトレビドは脂肪の糸を出し、翼に巻き付けた。

 身体は凧のように舞い上がる。風速で息継ぎが難しい。

 ベルゼブブも還虫でロープを作り、くっつけていた。


 ギガントヘッドはまるで墜落するかのように地上へ向かっている。

 毛皮に覆われているがさすがに寒くなってきた。骨身にこたえる冷たさだ。


「はっはっは。どうかね、とても寒いだろう。そして糸の方はどうかね。気温の低下でもろくなり始めてはいないかね?」


 ベルゼブブが嘲る。もっとも相手の声は届かなくとも危惧していた。

 アトレビドは糸に意識を集中している。まさに蜘蛛の糸だ。誰かが背中におんぶをしたら一気に切れてしまうだろう。

 意図的に糸を太くしているから切れずに済んでいる。一方でアトレビドの腹部はどんどんしぼんでいった。


 錬成に必要な脂肪が少なくなっているのだ。

 さてギガントヘッドは黒蛇河へ突っ込んでいく。そして川面ぎりぎりで浮上したのだ。

 その際水しぶきが上がり、雨のように降っていた。


 アトレビドは川に叩き付けられぬよう、着地する。

 まずは両足をまっすぐ伸ばす。そして水面に叩き付けられる瞬間、両足を曲げるのだ。

 そうすることによって衝撃を逃がすのである。


 毛に覆われた足の裏が水上スキーの板替わりになっていた。

 それはベルゼブブも同じである。

 ギガントヘッドは再び上空へ飛んでいく。身体を無理やり引っ張られるので、負担が重い。


 腕が千切れそうである。目も開けていられない。

 ギガントヘッドは雲の中に突進した。周りは真っ白い世界であった。霧の中を走行している気分である。

 そして雲を突き抜ける。ひたすら見渡すのは雲の海であった。


 やがてギガントヘッドは落ち着いてきた。アトレビドは改めて翼の上に乗る。


「はっはっは。よく振り落とされなかったものだ。ほめてやろう。だがもうお前に戦う力など残っていないはずだ」


 ベルゼブブの指摘に内心悪態をつく。今のアトレビドはスリムな豚であった。

 脂肪を使い果たし、頭がくらくらしてくる。餓死一歩手前の状態だ。

 人は体脂肪がないと死ぬ。


(くぅ~。視界が歪んでいやがる。このままではあいつと戦うより、ここから落下して死ぬ方が早い。はてどうすればいいか……)


「うるさい。あんたに心配される筋合いはない。俺はお前を確実に殺す。覚悟していろよ」


 強がりである。本当は死にかけているが、ハッタリはかまさなければならない。


「ほう? いいのか。いますぐ謝るなら許してやってもいいぞ?」

「謝るのはお前だ。死にたくなければ俺に謝罪するんだな!! 泣いておもらしをすれば許してやるぞ!!」


 ベルゼブブのこめかみがピクピク動いている。あまりな暴言にプッツンしかけているようだ。


「おもらしだと? なぜ俺がおむつを愛用していることを知っている?」

「知らねぇよ!! あんたの事情なんか知ったことかよ!!」


 アトレビドはキレかける。すぐにそれが相手の計略だと気づいた。

 餓鬼の挑発など最初から流していたのだ。さすが幹部を名乗るだけのことはある。


「はっはっは。さすがは我が息子だな。

 そう私はお前のアイム・ユア・ファーザーだ」


 ☆


 あまりにも唐突な展開にアトレビドはついていけなかった。

 いきなり父親宣言するとはどういうわけだろう。わけがわからない。


「息子よ!!」


 ベルゼブブは両手を広げ、アトレビドに抱きついた。まるで父親が幼児に抱きつくようであった。

 力加減もそれと同じである。身体がひしゃげそうである。

 アトレビドが身体を動かすと、いつの間にか還虫が巻き付いていたのだ。まるでロープでグルグル巻きにされた感じである。


「はっはっは!! まんまと騙されたな!! 私に息子はいないのだ!!」


 ベルゼブブが高笑いを上げる。左腕に出ていた還虫たちを右手で引き抜いて捨てる。


「騙されねぇよ!! 俺の父親は人間なんだよ!!」


 アトレビドは一瞬母親の顔を思い出す。彼女はイノブタの亜人だった。

 父親の人間に拾われて暮らし始めたのである。彼女は自分の過去を一切話さなかった。

 父親は亜人と結婚したため村八分になった。父親の死後は母親と二人でひっそり暮らしていた。


「クックック。お前は不幸だな。人間のおやじのせいでお前の人生はめちゃくちゃだ。

 だが我らエビルヘッド教団ならお前を幸せにしてやれるぞ。

 それに今の自分は幸せだと思っているのか? フエゴ教団はお前ら亜人を利用しているのだぞ。

 司祭の杖とかもっともらしいことを言っているが、それは自分たちに都合のいいように操りたいだけなのだ。

 さあ、死にたくなければ我らの仲間になれ。このワームロープで絞殺されたくなければな」


 結局は脅迫だ。あまりにも身勝手な言い分に腹が立った。

 そもそもベルゼブブはエビルヘッド教団に帰れないと言っていた。

 なのに自分を教団に誘うなど矛盾している。この男は狂っているのだ。

 アトレビドは腕に力を入れる。ワームロープはちっとも動かない。まるで鉄でできているようだ。


「はっはっは!! どうだ、苦しいだろう。早くこの苦しみから逃れたいなら我らの仲間になれ。ついでにお前の恋人も仲間にしてやってもいいぞ。

 虫の亜人たちにたっぷり可愛がらせてもらうがな!!」


 ベルゼブブは下品な笑みを浮かべた。アトレビドの怒りが爆発する。


「てめーは言っちゃあいけないことを言っちまったな!!

 それをグラモロソが聞いたらてめーは地獄を見るぜ!!」


 アトレビドは顔を真っ赤にしている。そして自らギガントヘッドの上を飛び降りた。


「はっはっは!! 自殺したいのか。よかろうそのまま潰れて死ねばいい!!」


 ベルゼブブが笑い飛ばした。だが異変が起きる。

 ベルゼブブの頭のてっぺんと股間に痛みが走ったのだ。

 まるで何かに締め付けられている感覚である。


「あっ、あっ、あーーーーー!!」


 ベルゼブブは縦から真っ二つになった。ギガントヘッドはそのまま飛行していく。

 一体何が起きたのか? 実はアトレビドは脂肪の糸をベルゼブブに仕掛けていたのだ。

 ベルゼブブが抱きついた瞬間、糸を縦に巻き付けたのである。


 そして落下の力で哀れベルゼブブは真っ二つになったのであった。

 あるじがいなくなったのか、ワームロープの力が緩んだ。解放されたがアトレビドは落下するだけであった。


(あー、こりゃ死ぬな。死んだらグラモロソの奴怒り狂うだろうな)


 漠然と考えていた。そしてすぐに考えを改める。

 このまま墜落して死ぬのはだめだ。最後まで生きることを諦めないこと。同じ死ぬにしても抗い続けることが大事なのだ。

 アトレビドは自分の腹の皮を広げた。肥満体の人間は痩せると皮が余ってしまうのだ。


 余った皮を両手で広げる。ムササビやモモンガのような滑空動物の要領で飛ぶことができた。

 皮肉なことだが脂肪を使い切ったことでできた裏技である。


「初めてやるけど、結構気持ちがいいな」


 アトレビドは自在に空中を飛んでいる。だがあくまで余った皮だけなので細かいコントロールはできない。黒蛇河まで飛ぼうかと思ったが、なかなか向かえない。

 地上へあわや墜落しかけそうになった。その時声がした。


「大丈夫ですか!?」


 それはプリンスヘッドであった。彼の手がアトレビドを掴んだのである。

 そのプリンスヘッドはパラディンヘッドの足に掴まっていた。ダメージから回復して救出に来てくれたのである。

 こうしてアトレビドは無事地上へ降り立った。


 そして向こうから声が上がる。

 グラモロソと薫風旅団たちであった。アトレビドは手を振りながら応えるのであった。

次回で最終回です。よろしくお願いいたします。

思うことがあって、18時に掲載します。

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