エピローグ
ゆっくりとアキツグが遠ざかっていく。
この病院はやたら大きいみたいで、なかなか地面には到達しなかった。
と言ってもあと3秒と経たずに俺は死ぬことだろう。
悔いが残らないと言えば嘘になるが、これが俺の運命だったんだ。
仲間を信じられなかった罰なのだろう。
…だけど、できれば、
……もっとあいつらと、一緒に居たかったな……
「まあ、待ちなよコウくん」
!!!?
頭の中に能天気な声が響いた。
「おっと、余計な質問は無しだ。何せ時間がない。引き延ばしているとはいえ、あまり猶予はないよ。だから、一つだけ聞くよ?」
声に対して心の中で頷いた。
「たとえ、どんな姿になっても、まだ生きていたいかい?」
俺は一も二もなく即答した。
だって、あいつらなら俺がどんな姿だって受け入れてくれる。
あいつらと一緒にいられるならば見た目なんて構うものか。
「生きていたいっ!!!!」
「オッケー」
その瞬間、俺のことをまばゆい光が包んだ。
俺の体から黒い何かが抜け出ていく。
それとともに、俺の体が変化していくのを感じた。
やがてすべての黒い靄が消えうせると同時に、改変は完了した。
そして、間も無くやってくる衝撃に備えようと体を硬くしたところで、ぼふんっと俺の体を柔らかい何かが受け止めた。
「…え?」
俺は、地面に到達したにも関わらず、なぜか生きていたのだった。
「えええええええ!!!!?」
あれ?なんで!?なんで俺生きてんの!?
よくわからない。あれ?ここ地面じゃないの?
自分の下敷きになっているものをよく見ると、ふわふわとした大きな緑色のマットだった。
陸上選手なんかが使うようなやつだこれ…。
…これのおかげで助かったのか。
なんていう奇跡だろう。
あんな高いところから落下して、たまたま運良く競技用のマットが敷いてあるなんて。
ぽかーんとしていたら、病院の先生やらアキラや青山や香織姉やら果てはうちの弟や母親までやってきて、叱られつつも無事でよかったと泣いて抱きしめられてしまった。
青山がこちらを見ていた。
「…心配した…」
う。そ、そうですよね…。
心配かけて、ごめん…。
それと、
「信じなくて、ゴメン」
「…うん」
青山は目尻に涙を浮かべていたが、微笑んでくれた。
◇◇◇
俺が女の子になってしまったという、前代未聞の騒動の原因は、結局のところ、俺の運命力とかいう物の問題だったらしい。
男の時の俺は成長とともにそれが減少し、怪我や病気や、不運に見舞われやすくなっていたそうだ。
そのため、悪魔に目をつけられた。不運に見舞われたところに発生する負のエネルギーを頂戴しようと画策していたらしい。
それが女になることで逆転し、運命力が強くなるとのことだった。
なんで男の頃の俺がそんなことになったのかといえば、これまた悪魔の仕業だったそうだ。
全部悪魔が悪い。
…具体的にはメフィストとかいう奴が悪い。
「で、結局俺はこの通りか……」
二学期が今日から始まる。
そして俺は女子の制服に袖を通していた。
一時的に男に戻った俺だったが、あのままでは不運に見舞われ死んでしまうところだった。
そこで急遽、マコトの魔法により、再び女へと変化した。
そのため運命力が戻り、奇跡的に生き延びることができたのだった。
そんなになんども女にしたりできるのかと聞いたところ、通常同じ人に同じ魔法はかけられないと、
なのでどうしたかというと
マコト曰く
「最近知ったことなんだけど、そもそもキミは女の子として生まれてくる運命にあったみたいなんだ」
そこを悪魔に呪いをかけられ、男として生まれてしまった。そのため齟齬が生じ、運命力が弱まるという結果になったと。
最初俺を女にしたのは、マコトの魔法によって、無理やり変化させたものだった。
だけど今回は逆に、マコトの魔法によって、「男になる呪い」を解いたのだそうだ。
なので
「もうキミが男の子になることはない」
らしい。
命があっただけよしとするべきか…。
まぁ、もともと女だったと言うのであれば諦めも…つく…かなぁ…?
姿見の前で服装に乱れがないか、寝癖はついてないかを最終チェックをする。
なんだかんだで5ヶ月も女子をやってきたわけで、今更戸惑うこともない。
「…よし」
小さく気合をいれて階段を降り、玄関の扉を開く。
まだ暑い日差しに目を細め、いつもの通学路を歩き出した。
これからも困難や壁に突き当たることもあるだろう。
だが側には俺のために自分の心を痛めながらも優しい嘘をつき通した仲間がいる。
己の命さえ顧みず俺を救おうとしてくれた親友がいる。
きっと大丈夫。
そう思えるからこそ、俺はこの姿になっても生きていけるのだ。
これが俺の日常なのである。
本編はひとまず完結となります。
もしかしたら、単話を書くこともあるかもしれません。
青山の決着やらアキツグの中間テストの結果、マコトとねむのお話、アキラと兄弟子の話なんかもありましたね。などなど色々語り足りないこともありますし、表現しきれなかったこともあります。
可能であれば、彼らのお話を紡いでいければと思いますが、それはまた書くべき時にかければと思います。
ここに来るまで展開に悩みました。そもそも見切り発車で始めた作品でしたので。
なんども、なんかやりたいことと違うなぁ、面白くならないなぁと右往左往しておりました。
それでも未完のままこの世界を残していくことに申し訳なさと悔しさがありました。
間が空いてしまえばしまうほど、キャラクターの感情が思い出せなくなっていきますし、何がしたかったのかも忘れていきます。だから無理やりでもなんでも結末までたどり着かせたかったのです。
読者様によっては「思っていたのと違う」「これじゃない」といった感想を持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、現在の私の力量ではこれが精一杯でありました。申し訳ありません。
それでも、このような拙作を最後まで読んでくださった読者様に最大限の感謝を。
ブクマ、評価、感想。とても励みになりました。
本当にありがとうございました。
願わくば、再び筆をとったときに皆様に出会えますよう。
それでは。




