合宿3
マネージャーの仕事はなかなか忙しかった。
練習のパス出しをしたり、ドリンク作って渡したりと。
忙しくも充実した時間を過ごしていたわけだが、練習中気になることがあった。
部員の人たちに時折、熱い視線を向けられるのだ。
喉が乾いて死にそうだから助けてくれ。ということだと思ってドリンクを手渡したら
「女神のエキス!女神のエキスゥゥゥゥ!!」と叫んで一気飲みしていた。
ドン引きした。
そしてまた熱い視線を向けてくる。どうやら喉が渇いていたわけじゃないらしい。
あとでアキツグに聞いた話だが、みんな俺にいいところを見せようと思って練習に励んでいたらしい。
だからシュートを決めた後などに俺の方を見てきていたのか。
中でもPRが激しかったのが、バスケ部のキャプテンで3年の森永光雄先輩だ。
若干濃い目の背の高いイケメンで、部員からの人望も厚い、良いキャプテンだ。
あだ名はミッチー。もちろん(?)得意技は3Pシュートだ。
後輩からも親しみを込めてミッチー先輩と呼ばれている。
前からバスケ部に顔を出すたびに、熱のこもった眼差しで見つめられてたんだけど今日はまた一段と目力が強い。熱視線で日焼けしてしまいそうだった。
休憩時間に入ったのでドリンクとタオルをみんなに配っていく。
ミッチー先輩にタオルを渡すと、軽く立ち上がり、耳元で何か囁かれた。
「今晩9時、宿舎の玄関出たところで待ってる」
え?と思ってミッチー先輩の方を見るが、すぐ走り去ってしまった。
なんだろう。呼び出し?……ま、まさか締められる!?俺そんな機嫌損ねるようなことやったっけ!?
その日のマネージャー業務はビクビクしてしまい身が入らなかった。
そして夕食が終わり、約束の時間になったので玄関へ向かう。
そこにはすでに背の高い人影があった。
「呼び出して悪かったね」
「……いえ……」
……
気まずい沈黙が流れる。
なんなの!何か用があったんじゃないのか!
ちらりと先輩を盗み見ると何やら深呼吸をして、両手で頬をはたいている。
そんなに気合い入れないといけない用事なのか。
「よっ、呼び出した理由はだね!」
「はっ、はいっ!?」
先輩はガシッと俺の両手を掴んで、睫毛の濃い瞳を目一杯見開いた。
「僕と付き合ってほしい!」
……なんだ、そわそわしてると思ったら、告白しようとしてたのか。
って、告白!?
な、なんだって!?
告白されるとか高山ぶりなんですけど!?
しかも手紙とかじゃなくて面と向かって言われたのは初めてでかあっと顔が熱くなるのがわかる。
えっと、ど、どうしよう!?
どうしたらいいんだ?
いや、答えは決まってる。俺は男だし、男と付き合うつもりなんてない。
それにしてもどうやってお断りしたらいいのだろう。
この後もまだ合宿は続くし、気まずくなるのはなぁ……
といってもズルズル答えを長引かせるのも男らしくないな。
よし。スパッと…
「やっぱダメか……」
俺の喉元まで「ごめんなさい」が出かけた時に先輩は諦めの言葉を口にした。
「はは、言われなくてもキミの顔を見ればわかるよ。そんな困った顔をさせたかったわけじゃないんだ」
そんなに顔に出ていただろうか。
恥ずかしくなって両手で顔を掴む。
「キミが誰のことを好きなのかくらい、見ていればわかるさ。…それでも自分の気持ちには嘘はつきたくないからね」
俺が誰を好きかだって?何をいっているんだろう。俺は別に好きなやつなんかいないぞ?
とそこまで考えて一人の親友のことが頭をよぎった。
いやいやいや、違う違う。あいつはそういうんじゃ……
「キミも自分の気持ちはちゃんと伝えたほうがいい。後悔したくなければなおさらだ。時間を取らせて悪かったね。それじゃ」
ニコリと先輩は笑うと宿舎の中に入っていった。
俺が振ったのやら振られたのやらよくわからない告白だったが、先輩が納得したみたいなのでよかったのかな?
それにしても何やら意味深なことを呟いて行きよって……
俺はその後しばらくそこで難しい顔をしていた。




