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美少女男子高校生の日常  作者: くろめる
第二章 夏
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ねむと上司

ちょこちょこ裏話

プールから帰り、お風呂に入る。


ちゃぽんっ


……ふー。あー、うーー、あー、


疲れた。


水の中で動くというのがあんなに体力を奪われるとは思わなかったが、悪くない体験だったと言えよう。

特に浮き輪で水の上を漂うのは楽しい。程よい揺れと、適度に冷たい水温により眠気を誘われた。


……しかし、ジャイアントロックスライダーとかいうヤツ。あれはだめだ。

考えたヤツはイかれている。狂人に違いない。何故わざわざ命の危険に晒されなくてはならないのか。


私と富岡があんなに震えていたというのに、他の三人はけろりとしたものだった。

腹ただしい。

それでは私がまるでビビリみたいではないか。

しかも、私の泣き顔まで見られてしまった。

誠に遺憾である。ふんすー。


思い出すと羞恥で顔が赤くなる。

思わずお風呂の水面を平手でペチペチと叩きつけた。


私は決してビビリでもヘタレでもない。


ヘタレといえば、私たちが男4人に絡まれた時の富岡の様子は面白かった。

「怖い」「どうしよう」「助けなくては」という葛藤が目に見えてわかる狼狽ぶりだった。


私はヘタレではないが、あの男はヘタレだ。体格もよくないし、度胸もないし、気概もないし、空気も読めない、顔も整ってはいないし。そのくせ性欲だけは一人前だ。

しかも、腹ただしいことに大きい胸が好きらしい。

あいつは私の「ファン」だと言うくせに、コウの胸ばかりみている。

……け、けど、私だって負けていないし。

いつも私の首筋や腰回りや太ももや脇の下なんかも舐めるように見てくるし。

ていうか視線だけで実際に舐められている気分になるくらいだし。

きっと頭の中では私のことを、い、いやらしい姿にして、口に出せないような目に合わせているに違いない。

あれはそういうやつだ。うん、きっとそうだ。


……だが、たまにはマシなところも見せる。

ミスコンの時や祭りの時は、ヘタレなりに頑張っていたと評価してやらなくもない。

今日は他の女どもと示し合わせて絡んできた男を驚かしてやったが、何もやらなかった場合は立ち向かっていただろうか?


…ないな。


そんなことを考えながら、ふと水面を見ると、微笑んでいる自分の顔が映る。


…?


私は今何を考えていた?

何だろう、この気持ちは。

胸の奥が締め付けられるような、少し息苦しいような、でも不思議と不快ではない。


…よくわからない。私は何か変な病にでもかかってしまったというのか?

などと思考の海で泳いでいると目の前の空間が不意に歪んだ。


『やぁやぁネムリア!元気してるー?今ちょっと大丈夫カナー?』


私しかいないお風呂場に陽気な男性の声が反響する。


「ちょっ!サタン様!お風呂入っている時はヤメテクダサイって言ってマスよね!?」


この方はサタン様。私の上司である。


『あ、ごめーん。お風呂中だったかぁ。……ネムリアの肌は白くて綺麗だねぇ?でへでへ」


「……ヘンタイ……」


ものすごくえらい方なのだけれど女の子が大好きな「ど変態」だ。

ことあるごとにこういうセクハラをしてくる。


「…で?何の用デス?まさかワタシの裸を見るために連絡してきたワケじゃないデスよね?」


『じぃー……はっ!?は、ははまさか!…えーっと……あ、そうそう!実はメー君がキミに接触してくるかもしれなくてね?』


「うげっ」


『うんうん。女の子がそんな声出すモンじゃないよ?』


そう言われても、もはや条件反射だ。

率直に申し上げて私はメー君……メフィスト様が苦手だ。


「…コホン。失礼シマシタ。デスガなんでワタシに?」


『実はキミが行っている高校さ、メー君の縄張りなんだよね。実は。しかも神崎紅を狙っている』


……!!!!?え、えええええ!?


「……ちょ、な、なんで先に教えてくれないデスか!?」


メフィスト様はなにかと私を目の敵にしている。理由は不明だがことあるごとに嫌がらせをしてくる。

そんな人の縄張りに私が勝手に入って、なおかつ獲物を横取りしようとしていると知られたら……


考えるだけで恐ろしい。

あの方の嫌がらせは長く細く地味だ。


たしか以前、私が挨拶せずに目の前を横切ったといったことで100年くらいネチネチネチネチとことあるごとに嫌味を言ってきた。


「これだから若いのはダメなんですよネェ。礼儀を知らないのですから。そんなことだから胸も育たないのです」「おや、これはちっぱいネムリアさんじゃないですカァ」「胸が小さいと心も狭いのですネェ」


……胸は関係ないだろう。胸は!

むしろ心が狭いのは私じゃなくてメフィスト様の方だと思う。

それに挨拶だってたまたま気がつかなかっただけで、わざと無視したわけじゃないし。


……いやだ。ほんっとに会いたくない。


かといって私も引くに引けない。すでにちょっかい出した後だし、今更引いたところであまり効果はないだろう。

しょうがない、本人に釘を刺された時はおとなしく引き下がろう。それくらいの心構えをしておくくらいしか今できることはない。


というかそもそも神崎紅に接触するように仕向けたのはサタン様だ。

このことを知っていたらなぜトラブルを引き起こすような真似を……

…と考えたところで、聞くだけ無駄だと思った。

どうせ「ネムリアが困る顔が見たい」とか「可愛い女の子にいじわるしたい」とか「面白いから」

とかそんなくだらない理由に違いない。


この方は快楽主義者のど変態なのだから。


「…分かりマシタ。ご連絡ありがとうゴザイマス。じゃ」


そう言って私は早々に通信を切ろうとする。


『それとー、ちょっと前の話だけど、人間に力を使おうとしたよね?』


ぎくりっ

ば、バレてる!!

追求されないから知られてないと思っていたのに。


『人前で使っちゃダメって言ったよねー?んー?どうして使おうとしたのかなぁ?』


…サタン様がお怒りである。

こ、これは言い訳のしようがない。お怒りはごもっともだ。

私、いや我々は人間一人程度なら消しとばしてしまうくらい簡単にできる。

だがそんなことができる人間が普通いるだろうか?

いるわけがない。

そのようなことが人目に付けば、我らの存在が明るみになり、下手をすれば、大嫌いな白くてキラキラしたやつらがやってきてしまう。

そうなると活動が制限されるばかりか、最悪全面戦争に発展しかねない。


「申し訳ありませんデシタ」


なので素直に謝った。


『うん。素直でよろしい。今回はあちらさんに助けられたけど、同じ轍は踏まないようにね?』


…そう。今回はなぜか、助けられた。いや、私が消し飛ばそうとした人間を助けたのだと思うが、それならば私をむざむざ見逃す理由にならない。どんな意図があるかはわからないが、警戒だけはしておくべきだな。

私は一人そう結論付け、上司の言葉に返事をすると今度こそ通信を切る。


『えっ!?もう通信切っちゃうの!?もう少しお話しようよ!!」

「お風呂中ですサヨナラ」『そんなー!』


ブッ


一方的に切断してついでに着信拒否した。

ふー。これでゆっくりお風呂に入れる。


パシャリと顔をお湯で流すと、今後の課題に頭を悩ませるのであった。

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