相談1
お風呂から出た俺は、洗面所の棚からバスタオルをとって体を拭いた。
「ふー。さっぱりした。」
湯気で曇った姿見には非常に女性らしい体つきをした少女がぼんやりと映っている。
・・・スタイルいいな俺。。背はちっちゃいけど。
自画自賛である。
個人的な趣味でいうと、俺は背の高い女性が好きだ。
多分、自分に持ってないものを持っているからなのか、憧れがある。
けれどなかなかどうして、この体も悪くないではないか。
こう、特にお胸が、大変よろしい。
腰もしっかりくびれていてなかなか色っぽい。
あれ?もしかして俺、イイ線いっちゃってる?
って、んなことないか。こんなロリ巨乳に好意を寄せるような奴は
きっと変態ばかりだろう。
俺だったらこんな中学生にしか見えないやつに手を出そう何て思わない。
俺はもっと大人っぽい女性が好きなのだ。
・・・こんな中学生にしか見えないやつ・・・
。。うう。俺は女になってもお子様顔か、、くそう。中学生料金で映画とか見てやる!
なんてことを考えながらタオルで体を吹きつつ、風呂場を出た。
同じ制服を着るのもいやだったので、さっと部屋に戻って、私服に着替えることにした。
部屋に戻るまではタオル一枚のあられもない姿だったが、そんなの気にするやつは今、家にいない。
無難にジーパン、Tシャツ、薄手のパーカーという色気のないスタイルである。
女の服なんてないし着るつもりもない。
俺はすぐに男に戻るんだからな。
若干ダボついた感じになるが、さほど問題はない。
着替えて一息ついて、弟の部屋に向かう。
今後のことを相談するためだ。
さしあたっては、こう男に戻るヒントみたいなのが見つかるといいんだけど。。
コンコン。
右手で弟の部屋の扉をノックする。
どざざざ!という音とともに、扉が開いた。
「ユウ?何やってたんだ?大丈夫か?」
ちらりと部屋を覗くと積み上げられていた漫画雑誌が倒れていた。
だめだぞ、ちゃんと縛っておかないと。そうやってなんでも床に積んではいけない。
「あ、あ、ちょっと突っかかっちゃって。。で、アニキ、なんか用か?」
「うん。まぁちょっと、相談っていうか。。」
「そうか、、わかった。入ってくれ。」
俺はユウに促されて部屋のクッションの上に座った。
「えっと、その、ユウは俺が女になったっていつ気づいた?」
これはなるべく詳細に俺が女になった時間を特定するためである。
詳細な時間がわかれば原因も絞りやすいはずだ。
「俺が気づいたのは、アニキが朝部屋に来た時だな。」
うーん。やはりそうか。ということは昨日の時点では男だったかな。やっぱり。
あ、ていうか、大事なことを聞くの忘れてた。
「変なこと聞くんだけど、俺って昨日いつ帰ってきた?昨日の夕方くらいからの記憶がなくてさ。」
「記憶が無いって、、大丈夫か?」
心配そうにこちらを見てくるユウに、ひらひらと振った手と苦笑いを返して大丈夫だから続きをどうぞと、促す。
「・・・昨日は俺は出かけてたからな、、ちょっと帰るのが遅くなって、10時くらいになっちゃってな。お袋には結構文句を言われてた。その頃にはアニキは部屋にいたんじゃないのか?寝息のようなものが聞こえたし。」
そうか10時には家に帰っていたのか。
ていうか寝息とか聞こえるほどこの壁薄かったっけ?それともユウの耳がいいのかな。
「母さんはなんか言ってた?」
「そうだな、、帰って来るなりすぐ寝ちゃったって言ってたかな?」
・・・帰って来るなり、、だって、、?俺は自分の意思で家に帰ってきたのか?
誰かに部屋まで連れてってもらったりではなく?
アキツグか誰かが家まで送ってくれたならそのことに関して何かしら言葉があっただろう。
それがないということは、普段通り帰ってきたということか。
うーん。謎は深まるばかりだ。夢遊病者なのだろうか俺は。
よし仮説を立ててみよう。
フラフラ寝ぼけて歩き回った俺はどこかに息子をぶつけて落としてしまった。
そうして女になった。
Q.E.D.
アホか。
そんなんで女になるか。
どうにも頭が回らない。朝ごはんでも食べるか。
冷蔵庫には母が作り置きしてくれている朝ごはんがあるはず。
弟も朝ごはんがまだだと言うので、二人で1階に降りて一緒に食べた。
シャケおにぎりとお味噌汁だった。
しばらくぼけっとしてたら8時になった。
そろそろ友人にも電話をしてみるか。何か知っている可能性が一番高いのがあの4人だ。
毒島 昭次、青山 美代、高遠 哲、進藤 香織。
・・・何も知らなかったらどうしよう。
俺女の子になっちゃいました!って言って信じてもらえるだろうか?
ユウは一発で信じた(というかむしろあっちが先に気づいた)けど、そんなの稀だよなぁ。
普通は他人の空似の偽物だと思うだろうな。
声も若干高くなっちゃったし、電話するのが少し怖いな。。
・・・LINEにしとこ。
手始めに俺はアキツグに猫がキックをしているスタンプを送信した。
すぐに返信がきた。
(いきなり蹴られる覚えがないぞ)
だと。
俺が大変なことになっているとも知らないで。。。
なんとなく腹が立ったのでキックスタンプを連投しといた。
(なんだよ、なんかあったのか?)
あったよ、ありましたよ!昨夜の記憶がなくて、朝起きたら女の子になってたんだよ!!
・・なんて、どう説明したらいいんじゃい!
とりあえず昨日のことだけ聞いとくか。
(昨日、カラオケ行ったあとから、記憶がないんだけど、なんか知らない?)
(記憶がないなんて、マジかよ?大丈夫か?)
(大丈夫、、ではないけど、まあ、大丈夫だ)
(なんだよ(笑) 気になる言い方だな)
(それより、俺どうやって帰ってきたか覚えてないんだけど、アキツグはどこまで一緒だった?)
(ん〜、そうなのか。俺は昨日はみんなとカラオケ行った後はお前と一緒に駅まで帰ってきたぜ?)
駅までアキツグと一緒だったのか。ぜんっぜん記憶にない。ここまで覚えてないと不安になってくる。
記憶が欠落しているってかなり恐怖だ。
(ま、まあ、お前ほとんど寝てたみたいなもんだしな、覚えてないのもしょうがないんじゃないか?)
たしかに俺はカラオケに入ったあと、しばらくして眠ってしまった気がする。
それから寝ぼけた状態で家まで帰ってきたというのか。。
納得はできないけど、とりあえずそれはいい。それより俺の体のことだ。
(アキツグ、今日、今から会えないか?)
メッセージでやりとりするよりも直接あったほうがいい。
付き合いの長いアキツグならば、見た目が若干変わってても、俺だとわかってくれるはずだ。
(あ、ああ、いいぜ。ていうかお前は覚えてないかもしれないけど、また今日集まることになってるんだよ)
なんだと。
(昨日、マコトがカラオケ来れなかっただろ?今日から春休みだし、せっかくだから全員で集まろうって話になってたんだ)
そうか、そういえば昨日はマコトが用事があるとかで参加できてなかったな。
・・・うーん。。ちょうどいいか。下手にバラバラ会って話を聞くのも要領が悪い。
この際全員に現状を説明して、話を聞いてしまおう。
(わかった。で、何時にどこいけばいいんだ?)
(いつもの喫茶店に11時だ)
いつもの喫茶店か。OKわかった。また後で。
そう打って俺はメッセージを終了した。
ところで夏コミの準備がさっぱりです。