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美少女男子高校生の日常  作者: くろめる
第二章 夏
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閑話-ねむとねこ-前編

知られざるねむのプライベートなお話です。

ねむは困っていた。

学校の帰り道。いつも通る、やや街から外れた住宅街で、ある光景を見つけてしまった。


目の前には小さな子猫。

そしてそれを取り囲んでいる中学生くらいの男子が3名。

どうやら子猫にいたずらをしているようだ。

彼らは薄く意地の悪い笑顔を浮かべており、いかにも悪戯好きなクソガキという感じだ。

手にはサインペンを持っており、猫に眉毛を書き足そうとしていた。

このままでは、太眉子猫が誕生してしまう。

それはそれで可愛いかもしれないが、子猫にとっては迷惑極まりない話だろう。


子猫はジタバタと男の子の手を逃れるように暴れているが、子猫程度の力では成長期にある彼らの握力に反発することは叶わなそうだ。


見たところ捨て猫のようだ。近くには静かに寝ていたであろうダンボールがある。

親猫の助けは期待できない。


そんな光景、これまでだったら目にすら入らなかったであろう。

別に無類の猫好きというわけでもない。動物は好きでも嫌いでもない。


今日は定期報告を行わなくてはならない日だ。

さっさと拠点に帰り、自分の上司に進捗を伝えねばならない。


なのに、捨てられた子猫という、誰にも助けてもらえないという小さな獣の現状が気になってしまった。


自分自身のよく分からない感情に彼女は困惑していた。


「…チッ…」


逡巡したが、彼女は中学生男子の元に近づいていき、声をかけた。


「こら、ガキ共、止めるデスよ」


不意に声をかけられて、ビクっとする少年たち。

恐る恐る振り向くと自分たちと同じくらいか、もっと背の低い女子が立っていた。

サラサラとした金髪と青い瞳、整った容貌にどきりとしてしまい、顔を赤くする。


「な、なに?なんか用?」


ドギマギしながら手前の丸刈りの少年が答えた。


「子猫に悪戯するのは止めナサイ」


思春期の少年が期待する答えではないことに落胆し、そして同時に悪さを咎められたことに対する気まずさが湧き上がってきた。


「…うるせーな、お前にはカンケーねーだろ」


全くもってその通りだった。ねむ自身もそういえばそうだと思ってしまった。

ならばなぜ予定があるにもかかわらず、彼らに声をかけてしまったのだろう。

そう考え込んでねむが黙ったのを少年たちはニヤリと笑い、再び子猫へのいたずらを再開しようとした。


その瞬間ねむはハッとし、よくわからない何かに突き動かされ大きな声を上げた。


「きゃーーー!少年たちに乱暴されそうデスーー!助けて下さいーー!」

「ちょっ、お前…!?」


辺りの住居からは少女の声に呼び寄せられるように住人が顔を出した。

それを見た少年たちは泡を食ったように退散していった。

その姿を見送り、ふんっと鼻息を吐く。

すると足元に暖かな感触が伝わる。


子猫がねむの足元へと擦り寄り、小さくニャアと鳴いた。

彼なりのお礼らしい。


「…何をやってるんでショウ…ワタシは…」


自分の行動を振り返り小さくため息をつく。

らしくない。よくわからない。なぜこんな行動を。

その疑問に答えるものはいない。


余計な時間を使ってしまった。

10分も満たない時間であったが、いつもよりも少し遅いことには変わりない。

気の短い上司は怒るかもしれないな。そう思うと少しだけ気分が滅入る。


彼女は小さな生き物をそっと抱き上げ、八つ当たりをすることにした。


「怒られたらお前のせいデスよ!」


よく見ると左の眉あたりにサインペンが不恰好に走ってしまっており、妙ちきりんな表情になっている。

その顔のままおおきくあくびをした。


「…ぷっ」


不覚にも笑ってしまった。

こんなことでうっかり笑ってしまうなんて。

作り笑いは幾度となく浮かべてきたが、愉快になって笑うなんて、初めてのことかもしれない。

少し自分が自分で信じられなかった。


「サテ、ワタシはもう行くので、お前も家にーー…」


そうだった。こいつは捨て猫だ。帰る家なんてない。

そこの小汚いダンボールくらいのものだ。

今は夏だから放っておいても平気かもしれないが…。


子猫を見るとまた小さくニャアと鳴いた。


「…本当に今日はどうかしてマスね…」


彼女は小さな友人を自分の右腕に優しく抱いて家路についたが、現在住んでいるアパートがペット禁止だったのを思い出して頭を抱えたのだった。








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