第1回 神崎 紅 デート券争奪戦
第1回 神崎 紅 デート券争奪戦
開催日時:
予選:4月18日(土)14:00~
決勝戦:4月25日(土)14:00~
場所:
F高校体育館
種目:
3on3のバスケットボール
対戦方法:
トーナメント
レギュレーション:
1. 3人一組でチームを組むこと
2. バスケ部はチームに一人まで。
3. 必ず女子を1人以上加えること。
4. F高校在校生であること。
諸注意:
1. 優勝したからといって、デートの可否はコウたん次第である。
2. また個人でのデートは不可。あくまで優勝チーム全員と一緒にデートを実施すること。
3. デート券の有効期日は半年以内に1回限りとする。
4. コウたんに惚れた者たるもの、常に紳士であれ。
運営:
生徒会、コウたんファンクラブ
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これは一体なんなのだろう。
俺の手には一枚のチラシが握られていた。
さっき廊下に落ちていたのをなんとなく拾ったのだ。
可愛らしいイラストと、いつ撮られたのか、制服姿の俺の写真がプリントされていて
中央には「第1回 神崎 紅 デート券争奪戦」と言う文字がゴシック体で大きく表記され、内容のわかりやすい作りになっている。
俺にはさっぱり意味がわからないが。
4月25日(土)って、、今日?決勝戦?
今日この学校の体育館でこんな馬鹿げた催しが開催されるっていうのか?
・・・あっ、くらっとしてしまった。
ていうか運営生徒会っておいいいーー!!!
香織姉!アキラ!!お前ら何やってるんだ・・!!?
大体デート券ってなんだ。なんで俺がデートすることが決まってるんだ・・・!
俺になんの許可もなく何をやろうとしているんだ・・!!
コウたんファンクラブって何!?
・・・はぁはぁ、はぁ、、
くっ、突っ込みどころが満載すぎる。
ぁぁぁ、と頭を抱えていたところで後ろから声がかかる。
「あっ、こんなところにいたんですか、神崎さん!」
む、彼女はたしか生徒会書記の中澤さんじゃないか。
丁度いいところに、、中澤さん、これは一体どういうことなのか・・
「いいから早く来てください!もうすぐ始まってしまいます!」
え?何が。
「もう14時ですよ!神崎 紅 デート券争奪戦の決勝戦ですよ!」
・・・帰っていいですか?あと真面目な顔してデート券争奪戦て。
あ、やめて!お腹痛いの!帰らせて!!
俺は引きずられるように体育館に連行された。
体育館にやってくるとそこは異様な熱気に包まれていた。
道すがら中澤さんに説明を受けていたのだが、すでに予選は先週行われており、
本日は準決勝からの開始となるそうだ。
総参加チーム数36、参加人数108名という、まさに煩悩の数。ていうか集まりすぎだろう。
みんな暇なのか。
チームは東西に分かれてトーナメントで競ってきたらしい。
本日の試合は西の準決勝、東の準決勝、そして東西の代表による決勝戦の3試合だそうだ。
俺が体育館に入ると、みんなが俺のほうを見てきた。
ビクっ
(ざわざわ・・)
「おお、コウたんだ、、」
「女神が降臨されたぞ・・!」
「コウさん、やっぱりかわいいなぁ・・!」
「くそっ、なんで予選で敗退なんてしちまったんだ・・・!!」
「ぁぁ、かわいいですぅうぅ、ぺろぺろさせてくださいぃぃ」
俺は中澤さんに促されて壇上にあげられてしまう。
「では、神崎さんから、激励のお言葉を頂戴します」
え!?激励の言葉!?なんで!?
「ほら、神崎さん、皆さんが神崎さんのお言葉を今か今かと、待ち望んでおりますよ。」
望むなよ。って、くっそうなんでこんなことしなきゃならないんだ、、えーと、、えーと、、
俺はこういう場に立って話すのって苦手なんだ。言葉なんざ出てこない。。
適当でいいかもう。
「・・あ、その、、がんばってください。」
・・
・・・
「「「「うおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」」」」
一呼吸置いて、体育館に大音声が響き渡った。
あつい!こいつらが無駄に暑い!!!
あとその音量がお腹に響く!!!黙れ・・!!
「それでは、本日の参加チームを紹介したいと思います!西Aブロック代表 チーム コウたんファンクラブの皆さんです!」
(うおおおおーーー!!)
歓声が響き渡る。人の波を分けるように黒い布をかぶった三人が歩み出てきた。
「中のひとは一体誰なのか!?謎の黒布チーム!予選では布をかぶって視界が悪いというハンディをものともせず、統率のとれた動きで相手チームを瞬く間に瞬殺してきた、恐るべき実力を持った集団です!
また特徴的なのは女子が2名も参加しているというところでしょうか!
特に巨乳のメンバーのお胸の動きは必見もの!上下左右にブルンブルンと揺れて、相手チームの男子もたじたじだったことでしょう!
しかし、それだけが武器だと思うことなかれ、彼女の動きの機敏さはそのお胸の重量をものともしない、研ぎ澄まされた刃の如し!遠距離からの3ポイントの正確さは恐るべきもの!!
また、もう一人の女子の働きも忘れてはなりません!類稀なるドリブルセンス!まるでボールが手に吸い付いて離れないかのよう!敵陣深く切り込んでは一撃を食らわせていく!蝶のように舞、蜂のように刺す!彼女は一体何者なのか!!
そして黒布男子は何を隠そうファンクラブの会長だーーー!!彼の動きも見事なもの!攻めて守ってバランス良くこなしつつ、常に的確な指示を出し相手の隙をついていく恐るべき司令塔だーー!
ところで黒布唯一の男子はこんな素敵な女子に囲まれているのに、コウたんのお尻ばかり追いかけてていいのだろうかーーー!!?・・・あすいません、睨まないでください。。」
・・3人ともどっかで見たことのあるシルエットだな。。
2人はあいつと、あの人で、、3人目は、、あの子かな。。。。何やってんだこいつら。
それにしても中澤さんノリノリですね。。
「さあ、どんどん紹介して参りましょう!続きましては西Bブロックを勝ち抜いた、チーム囚人!」
しゅ、囚人?うわ、ユニフォームが黒と白のシマシマだ。。
「このチーム囚人の名前の由来は、全員が一度コウたんファンクラブに粛清を受けているというもの!彼らは粛清を受けて以来、すっかり心を入れ替えたそうだーー!
・・・おっと、チームの代表高山くんが一言いいたいことがあるそうですーー!?」
げ、あいつはあの時の新入生じゃないか。。正直なところ顔も見たくなかったんだけど。。
俺は一歩引いて身構えてしまう。
「神崎先輩!!!あの時は大変失礼をしました!!!あの後ファンクラブの皆さんに粛清されて、僕の犯してしまった罪の重さに気づきました!本当に申し訳ありません!
僕、間違ってました!大切なものほど、相手の幸せを思うべきだって、そう気づかされました・・!
もう二度と、あんなことはいたしません!神と、ファンクラブ会長と、神崎先輩に誓います!」
そう言って涙を流しながら五体投地で頭を下げてくる。
土下座でいいだろうそこは。。俺はブッダか。
まぁ、、目を見た限りちゃんと反省している様子だ。
・・・いいだろう許してやるよ。
「・・・っ、ほ、本当ですか・・・!?・・・うううう、ありがとうございます!!YESロリータNOタッチ!!!」
高山は声高く、天に向かってそう叫んだ。
・・死んでこい。
ちなみに他の二人も自分のしでかした罪を懺悔してきた。
キモかったが心を入れ替えたようなので許してやった。
・・・選手紹介でもう疲れてきたんですけど。
「さ〜続きましては〜〜東Cブロックの覇者 チームアキツグだ〜〜〜!」
!!!?
アキツグ!?あいつ見かけないと思ったらこんなとこにいたのか!!
ていうか青山とマコトもいるじゃないか。
「チーミアキツグは3選手とも神崎さんと大の仲良しだ〜!・・おおっと会場からブーイングだぞ〜〜!お前らうらやましいのか〜〜!!?」
((うらやましーーーい!!!))
「そうかそうか〜、だったら勝ち抜いて己を示すことだなーー!!!負け犬諸君は次回開催までにせいぜい腕を磨いておくことだ〜〜!」
次回開催あんのかよ。それにしても中澤さん言いたい放題である。
「さてチームアキツグ、ご存知の方も多いかと思いますが、代表のアキツグ選手は我が高校が誇るバスケットボール部のエースオブエース!1年の時から鳴り物入りで入部し、期待に背くことなく成績を残し続ける猛者だ!また、青山選手も女子ながら機敏な動きで相手を翻弄し、そして鍛えあげた頭脳で的確な指示を飛ばす!彼女は何を隠そう常に学年1位の秀才だ〜〜!
そして謎のヒョロ男子の大鳥居選手!運動神経は決してよくないのですが、なぜか重要な場面にかならず最適な場所にいるという!お前は未来でも見えているのかーー!?」
・・楽しそうっすね。。
「最後のチーム紹介だ〜!東Dブロックの代表、チーム日本世界遺産!」
世界遺産だと・・!?
「世界遺産の由来はチームメンバーが、富岡、知床、姫路だからです!本当にそれだけだー!ちなみに三人とも関東出身だぞ〜〜!」
・・名前だけかい。あ、富岡くん、知床くん、姫路さん、全員うちのクラスじゃないか。
富岡くんは俺の隣の席の彼だ。朝サムズアップしてたのはこういうことか。。
知床くんは柔道部の副主将だ。かなりの実力者らしいけど、バスケ得意なのかな?ガタイはいいからぶつかられると大変だ。
姫路さんは黒髪ロングの和風美人さんだ。だけどよく俺の横で匂いを嗅いで悦に入ってる残念美人だ。チョイチョイいる人だ。本当に残念だ。
「全チーム紹介が終わったところで、早速試合を開始したいと思います!まずは西チームAブロック代表 コウたんファンクラブ 対 西チームBブロック代表 囚人の試合です!」
(((うおおおおおおおーーーーーーーー!!!)))
試合が始まってしまった。
俺はバスケットボールのルールは大して知らないが、大体どっちが優勢かぐらいはわかる。
すごいぞファンクラブ、本当に布かぶってプレイしてる。あれ前見えてんのかな。。
あっ、会長から巨乳女子にボールが!流れるような動きでシュート!・・入った!
すごい、上手だな〜〜。
今度はスレンダーな黒布女子にボールが、、ってダンク!?どんな跳躍力してるんだ・・!!
身長は確かに高めだけど、せいぜい170位だろうに。
チーム囚人もかなり健闘したが、ファンクラブの危なげない攻めには勝てなかった。
つよいなファンクラブ。
次の試合は東Cのアキツグと東Dの世界遺産だ。
アキツグがボールをもらって、攻める攻める!あっ、世界遺産の知床くんが前をふさいでる!
あの巨体はかなり厄介だろう・・。うまい!フェイントをかけて知床くんをジャンプさせて、その巨体の後ろから軽く投げ入れた・・!・・入った・・!!すごい、すごいぞアキツグ!空中であんなボールハンドリングを見せるとは。。
俺の勝手なイメージではもっとこうパワーに頼った戦い方をしてるのかと思ったんだけど、意外に繊細な動きをするんだな。。
姫路さんも意外といい動きをしている。相手の手を躱すのがうまいな〜〜。
おっと、後ろからマコトがくるぞ!気づかれないようにスティール!!忍者みたいだなマコト・・・。
青山にボールが行って、素早くゴール下に入り込ん出たアキツグにパス!!
・・入った!決まった!決勝進出だな〜。つよいなアキツグたち。
あー、世界遺産チームは悔しそう。姫路さんなんて涙を流して悔しがっている。。
「コウさんの、コウさんの匂いを高精度サンプリングするチャンスが失われてしまいましたわぁぁぁぁ」
・・・富岡くんは、、頑張ってはいた。これといって見せ場はなかったが。
「ついにやってきました決勝戦!34チームの屍を乗り越え、やってきたのはこの2チームです!」
(((おおおおおーーーーーーーーーー!!!!)))
ファンクラブとアキツグの勝負になったか。
まぁ予想通りではあったけど。
「よぉ、やっぱりお前らが勝ち上がってきたか。」
アキツグにも黒布三人が誰かわかっているみたいだな。
『ふん、当たり前だ。お前たちこそよく勝ち上がってきたな。』
「はあぁはぁ!コウくんの匂いを嗅ぐのは僕の役目だからね!簡単に譲るわけにはいかないよ!」
『コウちゃんと一夜を共にするのはこの私よ。あなた達には譲れないわ』
「まったくみんな目の色変えて、、でも、これに勝てば1日コウを好き勝手できるんでしょう!?・・そしたら、あんな服やこんな服を着せて・・・うふふふふ」
『コウにーちゃんとのデート券はあたし達のもんだぜ?兄貴にだって譲れねーなぁ!』
「やっぱり遥、お前か。。あんな動きができる女子高生なんてお前以外見た事ねーからな。」
あー、やっぱり黒布3人目は遥か。推測に関してはアキツグと同意見だ。あんな動きあいつしか見た事ない。
会話の内容でわかったかもしれないが、遥はアキツグの妹だ。
今年の新入生だった。昔から俺とアキツグに付いて回ってたからな〜、俺にとっても妹みたいなもんだ。
つーか、あいつ俺が昂だってこと気づいてんな。。。
さすがというか、、なんというか。。
ちなみにファンクラブ会長ともう一人はアキラと香織姉だろう。。多分。
生徒会の重役とファンクラブの重役が兼任って。。大丈夫かこの学校。
後で色々聞きたいことがあるが、、、とりあえずは試合だ。
ホイッスルとともに試合が開始される。
ボールはアキラの手に渡った。
素早く香織姉にパスが行く。青山がカットしようとするが、通った!
そのまますぐに3ポイントの体勢に、いやフェイク!走りこんできた遥にボールが投げるが渡ら、、ない!
マコトが読んでた!ボールはカットされてアキツグの手に
そのままドリブルで切り込んでいくアキツグ。香織姉と遥は戻りが間に合わない。
アキラがアキツグを抑えるが、、いくらアキラといえどアキツグ相手には分が悪い。
アキツグがアキラを避けてシュート!・・しようとしたとろで遥にカットされる!
アキラが抑えた一瞬の間に遥が戻ってきていたのだ・・!
カットされたボールはまた香織姉の手に・・!今度こそと3ポイントシュート!
入った!
先制したのはファンクラブチーム。この1分にも満たない時間の間にあれだけの攻防があるとは・・・。
しばらく一進一退の攻防が続く。アキツグがダンクを決めたと思えば、遥も返してくる!
ボールをカットしたと思えば、すぐにスティールされる!
反応が早すぎる。目で追うのも大変だ!
しかし、残すところあと数分となったとき、試合が動いた。
遥はアキラのパスをそのまま空中で受け取り、アリウープ!点差が開いた・・!
「っち、、、我が妹ながら油断ならねーな。。」
『はぁ、はぁ、、へへ兄貴にだって負けないくらい練習してんだからな!』
だがアキツグの目は死んでいない。あの目はチャンスを待っている目だ。
・・きた!!青山が取ったボールを素早く空きスペースへ!
誰もがなんでそんなところに?と思うところにヤツはいた。
マコトが立っていたのだ。
最後の試合、マコトがこれまでのように絶妙な位置にいるということがほぼなかった。
それもすべてこのタイミングへの仕込みだったのだ!
そのままマコトがシュート!入った!
そしてトドメとばかりに次のボールもアキツグが受け取り、決める!
ピイイイイーー
試合終了のホイッスルが鳴り響く。
第一回 神崎 紅 デート券争奪戦は チームアキツグの勝利となったのだった。
気がつけばお腹の痛みなんて忘れて見入ってしまっていた。
自分が景品にされていたのなんて忘れて楽しんでいた。
みんな全力で、死力を尽くして戦っていた。
いつしか誰が味方だとか敵だとかなく、ただ全力で行われるバスケットボールを楽しんでいたのだった。
こいつら、ばかばっかりだな。
俺のことを好きだと言って無理やり迫ってきた新入生も、匂いを嗅ぐことに必死だった姫路さんも、
チラチラと恋慕してきていた富岡くんも、名も知らない彼や彼女も、いつも一緒にいてくれる友人たちも、俺のことを守ると言ってくれたアキツグも、みんな一緒くたになって暴れていた。
そこにはわだかまりなんて一つもなく、妙な一体感が生まれていた。
そのことを感じ取って、なんだか頬が緩んでしまった。
胸の中につかえていたシコリが、男子に怯えてしまった自分が、何にもできなくて情けないと思った気持ちが、
緩やかに溶けていくのがわかった。
アキツグたちは観戦していた生徒たちに胴上げされている。
みんな自分のことのように嬉しそうだ。
気がつけば隣にはアキラが黒い布をとって立っていた。
「・・迷惑だったか?」
「・・そんなことないぞ。たのしかった。」
笑って答えた。
あとで他の人から聞いた話だが、コウたんファンクラブは俺のことを守るための一環として誕生したそうだ。
あのまま好き勝手に告白だなんだのを許してしまうと、高山のような事件が何度も起こってしまう。
それを避けるために、あえてファンクラブを作り、遠巻きに見守るような流れに持って行ったそうだ。
今回の一件にしても近づきたくても近づけない、やきもきした気持ちを発散させるためのガス抜きの意味があったらしい。
まったく、、アキラには苦労をかけるな。禿げるぞ。
「それでは賞品の授与式へと移りたいと思います!優勝チームは壇上へ上がってください!」
アキツグたちが上がってくる。照れ臭そうだけれど、どこかちょっと誇らしげだ。
・・まったく。
「勝利したチームには女神よりデート券が手渡されます!」
はいはい。わかってますよ。ほれありがたく受け取るといい。
丁寧にデザインされたチケットのようなパネル型のデート券をアキツグに手渡す。
こんな小道具まで作ってたのか。欽ちゃんの仮◯大賞みたいな。。
受け取って大きく掲げるアキツグとマコトと青山。
楽しそうだなー、おまえら。。
「おめでとうございます!!!優勝チームに盛大な拍手をーーー!!!!!」
(((パチパチパチパチ!!!!!)))
割れんばかりの拍手が巻き起こり、今大会は閉幕となったのだった。
この回は書いててたのしかったです。




