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美少女男子高校生の日常  作者: くろめる
第一章 春
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返事

今日は朝から天気が悪い。

分厚い雲に覆われた空だった。


まるで俺の気持ちを代弁しているかのようだ。


俺は今、1年生の教室の前に来ていた。


何の為かというと、ラブレターをくれた高山くんにお返事をするためだ。

行きづらいからと先延ばしにしそうになったんだけど、後にやらなきゃいけないことを残すのも辛いし、返事をもんもんと待つお相手も辛いだろう。


というわけで、すっぱりと振ることにした。


本当は人気のなくなった放課後とかのほうがいいんだろうけど、名前とクラスは書いてあったのにメアドも電話番号も書いてなかったので、連絡がつかなくなる恐れがあった。

なので仕方なくお昼休みを返上してやってきたのだ。


談笑している近くの1年生に話しかける。


「あの、高山コウジくん、いますか?」


1年ボーイはびくっとし、大急ぎで教室に入って行った。

そんな取って食べたりしないぞ。


「おい!高山!女神が来てるぞ!!!」


女神て。

そして、もうちょっとこっそり伝えてあげて。


ガタガタと机にぶつかりながら大慌てで出てくる高山くん。はぁはぁと息が荒い。

落ち着きたまえ。


「あっ、あの、高山です!」


知ってる。


「ここではちょっとなんなので、外いきましょうか」


慌てる高山君を宥め、校舎裏に連れ出す。やはりこういうことをするなら校舎裏だろう。

リンチとかでなく。


昇降口の下駄箱で外履きに履き替え、ぐるっと回って校舎裏にやってくる。

うむ。誰もいないな。ここなら丁度いいだろう。

そう思って足を止め、振り返る。


「それで、その、昨日のお手紙読ませてもらいました。」


ビクッとなる高山くん。判決を待つ囚人の気分だろう。背筋を正して息を殺している。


「気持ちは嬉しいのですが、ごめんなさい」


そう言って頭をさげる。

長々と言い訳してもしょうがない。振るなら振るでハッキリ言わないと。



・・・


・・・・


反応が無いな。。


そのまま頭を下げて反応を伺ってたのだが、何もレスポンスがない。

もしかして高山くん帰った?


ちょっと頭をあげて様子を伺うと、棒立ちになって固まっていた。


・・まぁ振られた後じゃしょうがないか。。


なんとなく気まずくなってそそくさと立ち去ろうとする俺。

じゃ、そういうことで。


人を振るのって心が痛みますな。


踵を返したところで後ろから手を掴まれた。


・・えっ?


「・・ぼ、僕のどこがダメなんですか!!?僕は神崎先輩のことすっごい好きなんです!なんでダメなんですか!?」


必死の形相で迫ってくる高山くん、ちょっと怖い。


どこがダメといわれても、、そもそも俺は君のことよく知らないし、君だって俺のことを知らないだろう。


「そんなことないです!神崎先輩は可愛くて、スタイル良くて、声も綺麗で、おっぱいが大きくて、それで、それで。。」


完全に外見だけじゃん。

正直ちょっとがっかりしてしまう。


結局見た目だけなんだなぁ。こうなると完全に俺のほうは冷めてしまう。・・もともと熱かったわけじゃないが。なんかこう、冷ややかな目で見てしまうのだ。


思わずため息をついて、冷たい目で彼のほうを一瞥すると、一瞬体を竦ませたが、なにを思ったのか、そのまま俺の両手を抑えて壁に押し付けてきた。


って、痛い!何をする!



「・・・はぁ、はぁ、、神崎せんぱい、、」



・・・っ、、目が怖い。

高山くん、いや、高山は自分の両手で俺の両手を抑えたまま、顔を俺の胸元に押し付けてきた。


ぞわっ


な、何してるんだこいつ!?自分が何やってるのかわかってるのか!!?

このままじゃダメだ、くっそ、


俺は相手の股を蹴りあげようとするがうまく足で抑えられてしまう。

全然ビクともしない、、


高山は俺の両手をうまいこと左手で押さえつけ、自由になった右手で俺の体を(まさぐ)ろうとしてきた。

その行動に背中にひやりとした汗が流れる。

嫌な想像をしてしまう。


「や、やだ・・・!」


情けない声がでてしまう。

その時だった。


『やめたまえ!』


凛とした声が辺りに響く。

突如高山の背後に黒い布をかぶった集団が現れたのだ。

数にして30人以上はいるだろうか。

黒い布の中心には天使のような輪っかと「紅」の文字を組み合わせた刺繍が施されている。


ぽかーんとする俺と高山。


その隙に高山は黒布2人に左右から取り押さえられてしまう。

高山を完全に地面に縫い付けたところで、黒布たちが次々に口を開く。


『我らのコウたんに乱暴を働くなど言語道断。恋するいち高校生のままであったならば見逃してやろうと思ったが、こうなっては仕方がない。』


『我らのコウたんに手を出した罪、償ってもらうぞ。』


『罪状を読み上げる!』


『コウたんへの迷惑行為、およびコウたんへの乱暴!コウたんのお胸を堪能した罪!コウたんを怖がらせた罪で、貴様を裁く!!』


『判決!』


『『『『 死刑!!!! 』』』』



黒布の集団が一斉に高山に襲いかかる。

ほんの数秒でロープでぐるぐる巻きにされてしまった。


『それじゃ、会長、先にいっていますよ。』


女性らしき人が黒布のリーダーらしき人に向かってそう言った。

彼女がパチンと指を鳴らすと、黒布に担がれて高山は運ばれていった。


それを見送るようにしていた黒布リーダーが俺に近づいてくる。


『コウ、怖がらせてすまなかった。・・あとはアイツに任せよう。』


どこかで聞いたことのある声だ。手には竹刀を握っている。・・まさか。

そういって彼は校舎影のほうを見た。俺もつられてそっちを見ると見たことのある背の高い影がやってきた。


アキツグだ。


大汗をかいて全力で走ってくる。


「コウッ!!!」


側までくると俺の肩を抱いた。


「大丈夫か!?怪我してねーか!?・・くっそ、もっと早く気づいていりゃあ、こんなことには・・・」


苦い顔をして大きく息をしているアキツグ。大丈夫だ、ちょっと胸に顔を埋められたくらいだ。


「・・・あとで殺す。」


ほどほどによろしく。


襲われたが謎の黒布集団に助けられたことを伝えると、アキツグは微妙な顔をしていた。

あれ、いつの間にか黒布たちは全員いなくなってる。


アキツグが来てくれて安心したのか、力が抜けてきてしまった。

思わずアキツグの方へ倒れ込んでしまう。


「・・お前、震えてるぞ・・?大丈夫か?」


あれ?俺震えてるのか。。?

はは、情けない。ちょっと絡まれたくらいで。。こんな。。。


若干躊躇したように手を止めたが、俺のことを抱きしめてくる。


「・・次は絶対、助ける。一番に駆けつけてやる。。だから、、泣くな。」


優しく、でも離さないように強く抱きしめてくれた。

おいおい、男同士で抱き合うなんて、変態みたいだぞ・・・。

だけど俺は別に抵抗はしなかった。

しばらくアキツグの体温を制服越しに感じていたかったんだ。


・・・気がつけば俺の頬を涙が伝っていた。


「あっ、、ぅ。。」


小さく嗚咽が漏れる。ダメだ、涙が我慢できない。こんなことで泣くなんて。。


・・そんな・・



・・怖かった。


酷いことされてしまうと思った。


なのに抵抗できない自分が情けなかった。


もっと俺は強いと思ってた。


喧嘩は得意じゃ無いけど、いざとなったらどうにかできると思ってた。


ただ助けられているだけの自分が情けなかった。



「・・ぅぅう〜〜〜・・・うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


涙がとめどなく溢れてくる。

どうしようもなかった。



アキツグは黙って胸を貸してくれた。


俺はしばらくそのままアキツグの胸で泣いていた。

何年振りだろう。こんなに全力で泣いたのは。


「・・・あーあ。5限目サボっちゃったな。。悪かったなアキツグ、、付き合わせて」


泣きはらした顔をあげてアキツグに言う。

午後の授業はすでに始まっており、今から行ってもロクに受けられ無いだろう。


「気にすんな。それにシャツがベトベトでこのままじゃ授業になんて出れねえ」


「うっ、悪かったな。。」


やっべ、涙と鼻水押し付けちゃったかも。。ごめんね。とりあえずハンカチで拭いとくから我慢して。


「もう大丈夫か?」


「ああ。大丈夫だ。・・それにこのままじゃ終われ無い。」


女になったからといって、簡単に暴力に屈するつもりはない。

俺は、この姿で、強くなる方法を学ぼう。

2度とこんな醜態を晒すものか。


そして、大切な人ができたときに、その人をちゃんと守れるようになるのだ。


体が女になったからといって、心まで男を止めたつもりはない。守られるばかりなんて真っ平御免だ。

俺はヒロインではなく、ヒーローになりたかったんだから。


顔をあげて空を仰ぐと、厚い雲はどこかへ消え去っており、青々と澄み渡っていた。


どこかすっきりした気分で俺たちは歩き出した。


ひとまず6限目をちゃんと受けるために。。





こんな展開になるはずじゃなかったんですけど、書いてたらこうなりました。

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