新学期1
春休みなんてあっという間だった。
今日から新学期である。
休み中にもしかしたら、フッと男に戻らないかな〜なんて思っていたが、
さっぱりだった。
なので俺は女子の制服を着て高校2年をスタートする羽目になったのだ。
やったぜJKだ!・・・はぁ・・・。
ウチの高校の制服はブレザータイプだ。
濃い緑色を基調としたデザインで、おとなし目に見えるが可愛いと結構人気がある。
俺は家の姿見の前でくるりと一回転してみる。
・・ちょっとスカート短くはないですかね?
俺が調節したわけではない。母と青山と香織姉がやったのだ。
ひざ下なんて野暮ったい!膝上20cm!・・だそうだ。
これ屈んだらパンツ見えません?
ひざ下スカートもぼかぁいいと思うなぁ?
地元の駅で待ち合わせをしていたアキツグに意見を聞いてみる。
「・・わるくねぇんじゃねえの。」
満更でもなさそうだ。
でも、もうパンツ見せないかんな。
こいつには一度見られているからな。そうそう何度も見せてたまるか!
そんなことを言ったら心外そうな顔をされた。
うそうそ、別にお前のことを信じてないわけじゃないぞー?
うちの高校は駅から緩やかな長い坂を登ったところにある。
坂に沿って植えられた街路樹は桜だ。
あー、すっかり満開だなぁ。
去年この坂を登った時は、なかなか感動したもんだ。
桜並木を歩きながら俺は自分の抱える大問題をどう乗り切るか思案する。
いや、一応対策は家族や友人の助けを借りて立ててあるのだが。
大問題とは、去年は男だったのに今年から女だってこと。
こんなことをクラスメイトに説明したところで、納得を得られる自信はない。
俺だってなんでこんなことになっているか分からないんだから。
だから神崎昂は今年から女になりましたー!なんて言うつもりはない。
じゃあ、どうするのかと言うと、、
「はい、皆さん注目してください。編入生を紹介します。神崎 紅さんです。」
2年A組担任の岡崎先生が編入生を紹介すると、クラスはどよめいた。
(えっ、なにこの美少女・・・)
(すっごい綺麗・・・)
(足綺麗〜・・)
(顔ちっちゃい。モデルみたい・・)
(おつきあいしたい。)
(・・おっぱいおっきい・・)
(でも中学生くらいに見えるな)
(ロリ巨乳・・・!)
(ああ、いい匂いがする!(すはすは))
いくつか失礼な囁きが聞こえたが気にしない。
で、この編入生が誰かと言うと・・お分かりだろうが。
俺である。
名前が違うじゃないかって?
そう。神崎 紅は神崎 昂の双子の妹の名前だ。
紅は病弱で入院生活だったが、最近容体が回復したので復学する。
そして、昂は海外へ急遽留学することになった。
・・・という設定だ。
女体化の辻褄を合わせるためにみんなで考えたのだ。
だから当然神崎 紅などという双子の妹は実在しない。
・・・いたらちょっと嬉しかったかもしれないが。
「神崎 紅です。おr、・・私の双子の兄が以前こちらに在籍しておりましたが、都合により休学になりました。本日からは入れ替わるような形で、妹の私がお世話になることとなります。よろしくお願いします。」
あぶねあぶね、いつもの癖で俺っていうところだった。
自身のことを俺という女子というのもいなくないが、そういうところで悪目立ちはしたくないので気をつける。
そしてさりげなく兄と妹というところを強調しておく。
ウチの高校の普通科は2年になるとクラス替えがある。
なので昂のことを知らない人もいるが、当然顔見知りもいる。
顔見知りの連中は微妙な反応をしている。
だってそうだろう、昂とそっくりの少女が急に編入してきたら何か作為的なものを感じてしまうかもしれない。
今まで妹がいるなんて言ったことないしな。
かといって俺が春休み中に女体化したなんて誰も思うまい。だからこれでいいのだ。
せいぜいボロを出さないようにしよう。
バレてしまうと説明が面倒だからな。
ちなみにアキツグと青山も同じクラスだ。
事情を知っているメンツがいるのはありがたい。
・・・あれ?マコトは別クラスだよな?一瞬いたような気がしたぞ?気のせいか。
一応一部の先生方には正直に話している。信じてもらえるとはあんまり思っていないが、信じてくれたらラッキーくらいで話してみたところ、さらりと受け入れてくれた。
なんでそんな簡単に受け入れてくれるのか返って怖かったが、都合がいいので気にしないことにした。
なので内部的には俺は相変わらず神崎 昂である。なので卒業すればちゃんと昂が卒業したことになるはずだ。
さて、俺は先生に促され、空いている席に座る。
隣には初めて見る男子が座っている。ウチの学校は男女隣同士で座るのが基本となっているのだ。
第一印象が大切だよなー。と思っていたので軽く微笑むように「よろしく」と言ったら
顔を赤くして俯かれてしまった。
おいおい、挨拶したらちゃんと返すもんだぞ。
まぁ小さい声だが「よ、よろしく」と返ってきたので許してやる。
ホームルームが終わって、先生がいなくなるとクラスメイトが集まってきた。
「ねえ、コウくんの妹さんなんだって!?そっくりだね〜。美少女具合なんか特に」
「コウに妹がいたなんて知らなかったぞー!こんな可愛い妹さん隠してやがって・・!くっそうー!・・・まあ俺はコウでもよかったんだけd」
「俺ずっと、コウが女の子だったらな〜って思ってたんだよな〜〜、コウさんはまさにそれ!是非仲良くしてほしい!」
「私も仲良くしてー!」
「おっぱい揉まして!」
大人気か。
あと最後のやつ自重しろ。
若干引きつった笑顔で返事を返す。
あ、始業式始まるみたいだ移動しよう。
だから、散って!
げっそりしながら移動する列に続く。
俺の様子に気づいたのか、心配そうに青山が近寄ってきた。
「コウ、大丈夫?」
「ああ、一応覚悟はしてたからな、、問題無い。」
周囲に聞こえ無い音量で言葉を交わす。
今日さえ乗り越えてしまえば、あとはなるようになるだろう・・。
体育館に全校生徒が集合し、校長先生のありがたいお話を聞き、クラスに戻って解散となった。
今日はこれで帰れるぞー!と思ったら、また人だかりができてしまった。
女子も男子も一緒に帰ろうと誘ってくる。
言っちゃなんだが、男の頃にもこういうお誘いはちょいちょいあった。
しかしこれは、、男の時の比じゃないなぁ・・・。
どうやって断ろうかと考えていたら、アキツグに腕を掴まれて
「かえるぞ」
何このアキツグ。イケメン。。
クラスメイトに会釈して席を立つ。
じゃ、そゆことで。
そそくさと教室をあとにした。
後日、俺とアキツグは付き合っているという噂が流れたのは言うまでもない。
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*とある男子高校生のつぶやき
あーあー、春休み終わっちゃったな〜。今日から高2の新学期かー。
正直なところ、僕はあまり学校に行きたくない。できればずっと家に引きこもってゲームをしていたいくらいだ。
当然そんなことをしたら母に怒られてしまうし、世間体的にもマズイので我慢して通っている。
別段特技もなければ顔も普通だし、ガタイがいいわけでもない非常に一般的などこにでもいる16歳男子っていうのが僕自身の自己評価だ。
この高校にはガラの悪い連中は少ないけれど、まったくいないっていうわけでもない。
エンカウント率でいうとはぐれメ◯ルみたいなもんなのに、なぜか僕はよく遭遇してしまう。
やだなー、怖い奴らとか絡まれたくないよ。
去年もちょいちょいそういうことがあったので、今年こそは良い一年になることを願いたい。
そんなことを考えながら2年の教室に入ったら、バスケ部のスーパースターがいるじゃないですか。
中学から頭角を表し、全国優勝したやつだ。高校でも当然のように大活躍をしている。
思わず凝視してたら睨まれてしまった。
なんかもうこれは一波乱ある気がしてしょうがなかった。
それにしてもそろそろホームルームだってのに、僕の隣の席の人はやってこない。
誰だろう。。遅刻常習犯のヤンキーとかじゃないよね?ビクビク
そんな鬱々とした気持ちでのスタートであったが、担任の先生が連れてきた編入生を見て、頭上の暗雲は綺麗さっぱり吹き飛んだ。
びっ、美少女。。
すごく可愛い女の子がそこにいた。
顔だけじゃなくスタイルもすごくいい。
また童顔で背も低いので中学生だと言われても信じてしまうくらいの幼さに見える。
なのに胸はしっかり大人サイズ以上だった。
うわ、こんな子がいるんだ。。
・・正直、どストライクだ。
ぼくは綺麗系よりも可愛い系のほうが好きなのだ。
それも妹系というか年下の幼い子が好きというか。。。
胸の鼓動が早くなるのがわかる。
・・・ドキドキしすぎて死んでしまう。
その子が紹介を終え、こちらに向かって歩いてくる。
あ、え!?
な、なんだろう、いきなり僕に一目惚れしちゃったとか!?
と思ったら僕の隣の空いている席に座った。
この子の席だったのか・・・
って僕はなんて勘違いしているんだ。恥ずかしい。。
穴があったら入りたい。
そんな僕に向かって、お隣さんとなったどストライクの少女は天使の微笑みでよろしく、と挨拶をしてくれた。
その笑顔に魅了されて、言葉を失ってしまった僕は、顔を真っ赤にして小さく返事するのが精一杯だった。
その日一日は彼女のことで頭がいっぱいだった。
校長先生の話?あったっけ?
始業式を終えて、解散となった。
これは声をかけて一緒に帰るチャンス・・!
そして仲良くなって、ゆくゆくはお付き合いしたりして、、それで夜景の見えるデートスポットで初めての、、なんちゃって!なんちゃって!
一緒に帰りませんか!と言おうとしたら、もう既に何人にも彼女は声をかけられていた。
・・・倍率高すぎる。
当たり前だ。こんなに可愛いのに誰も声をかけないわけがない。
しかし僕は引かないぞ!学校公認のカップルに僕はなる!
めげずに話しかけようとおもったら、バスケ部のスーパースターがやってきて、彼女の手をとって出て行ってしまった。その堂々とした佇まいに気圧されてしまい、誰も文句の一つも言わなかった。
残された僕たちの誰もが「あ、勝てないわこれ」という顔をしていた。
だが、僕は諦めない。。彼女の隣の席になれた幸運を生かして、きっと良い関係になってやる・・!
見ていろ、スーパースターめ!
隣の席の男子の今後の活躍に期待です。活躍するかわかりませんが。




