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異世界に飛ばされたら神様がオタクだった  作者: 戦国長男
第一章
4/6

3話 森を抜けて

前回の投稿よりかなりあいだが空いてしまい申し訳ありません。これからもかなりよ不定期になると思いますが、なにとぞ応援の程よろしくお願いします。

…ううむ…さて、どうしたものかな?


思考を現実に引き戻し、視線を少女足から外した俺は思案した。

異世界に飛ばされたのは確定。今のところ帰る手段も無い。異世界こっちに来てからやたらと身体能力が強化されてる。それも原因不明。


そして、俺は今、謎の少女を肩車している…


うん、とりあえずなんだこれ。

何だこのシチュエーションは。

謎だ、謎すぎる…

というか、何で抱っこやおんぶすっ飛ばして肩車?いや、抱っこにおんぶは良しってわけじゃ無いけども…


「ねぇ〜僕の話聞いてるの?」


そんな事を考えていると頭上から澄んだ声が降ってきた。

話?何の話だっけ?というか、とりあえず降りてもらっていいですか?


「え〜やだよ。地味に乗り心地いいし…というか話やっぱり聞いてなかったね?」


…え?もしかして、俺今心読まれた?ウッソ何これ怖い。


「正確には読んだのはミミーだよ。このツノには感情を受信する力があるんだ」


ミミーとはこの少女が頭に乗せている眉間にツノの生えたウサギのことだ。このウサギ…えっと、たしか『ナルウェール・ラビット』とか言ったな。コイツには読心能力があるらしい。地味に高性能だ…

というか、本当に何の話だったけ?

すると、頭上から呆れたと言わんばかりのため息が落ちてきた。


「はぁ…人の話は聞こうよ…ただでさえ君は今異世界転移にあっていて、見知らぬ美少女を肩に乗っけてるんだよ?状況判ってるの?」


いやいやいやいや…肩に乗ってきたのはそっちだろうに…俺が自分から乗せたみたく言うなよ…。それに自分で美少女とか言うか普通…


「…余計な事考えてるなら、今すぐ目ん玉くり抜くけど…?」


「すみません」


ミミーさんやっぱ怖いわ…いや、この場合怖いのは少女こいつか…?


「…まぁいいや、とりあえず最初から話すから、今度はちゃんと聞くように」


「はい…」


まるで、手のかかる生徒をたしなめるような口調で言う少女に何とも言えない違和感を覚えながらも、俺は少女の言葉に耳を傾ける。


「…えーと、まず僕は人間の姿をしてるけど、正体はミミーと同じで魔獣だよ。ミミーたちよりもっと高位だけどね。一応人間には『森の守護獣』って呼ばれてる。まぁ、守護獣なんて言ってもただ単にこの森で一番長寿ってだけなんだけどね…人間がこの森に入らない理由の一つに、僕を脅威に思ってるからってもの有るんだ…」


と、苦笑した。

魔獣て…マジかよ…それにこんな感じに変身出来るのか、スゲェな。どこからどう見ても人間だってのもあるけど、守護獣なんて呼ばれ、恐れられるほどの強者には見えないんだがなぁ…。

にしても、名前が無いってもの不便だな…いちいち守護獣とか…いや、様付けた方がいいのか?まぁどっちにしろめんどくさいな…。なら…


「シロは?」


「は?」


俺の唐突な提案に少女は素っ頓狂な声を上げる


「名前だよ、名前。無いと不便だし…いちいち守護獣様なんて呼ぶのめんどくさいし」


「え?あ、あぁ…そうゆうことか…好きに呼ぶと良いけどさ…それにしたってもうちょっとなんかないの?少し捻ってみるとか…君ってネーミングセンス皆無だよね…」


「えー、いいと思うけどなあ…なんかこう…神聖と言うか…綺麗な感じがしてさ。というか、ウサギにミミーと名付ける奴にネーミングセンスとやかく言われる筋合いはなっってイテテテテテッ!ごめんなさい!すみません!いっだぁぁぁ!!」


突然両側頭部に強烈な圧迫感が加わる。少女がそのか細い腕からは想像もつかない力で締め付けているのだ。流石守護獣…その名は伊達ではない。

数秒の押し置き──文字通り──の後、少女は何事もなかっかのように話を続けた。不満はあるがここで余計なことを考えるとまた地獄万力を食らう可能性があるのでスルーする。


「ふぅ…まぁ、とりあえず話を続けるよ。この森のことだけど───」


それ以降のシロ──もとい森の守護獣──によると、この森はハーレイン王国という国の東方に位置する、ノトムの森と言われる場所らしい。さらに数十キロ東に行くと、ハーレイン王国と敵対するアテンス帝国との国境がある。この両国は戦争真っ最中で、国境近くのマダンサス平原で衝突を繰り返しているという。

まだこの王国の周りにはいくつかの国が有るらしいが時間がかかると言うことで省かれた。しかし、両国については少し詳しく聞かせてくれた。

まず、ハーレイン王国はその国土の4割近くをセノーラ湖という大きな湖が占めており、その豊富な水資源のおかげでこのあたりの国では最も農業が発達しているという。さらに国土の西には巨大な山脈が連なり、南東には国境に沿うように山地が形成されていてその辺では放牧も盛んらしい。北方は僅かだが海に面しており、もちろんそこでは──湖でも──漁業が栄えている。つまりこの国は第一次産業により発展してきた国と言える。

対してアテンス帝国だがこちらは王国とは打って変わって工業──つまり第二次産業──の国だという。鉄鉱石や石炭等の地下資源が豊富にあり、かつ国そのものの工業水準は他国と比べてもなかなかに高いが、痩せた土地が多く農耕に向かないため度々食料問題に悩まされているのだと言う。そのため帝国は、農耕の発達した王国の領土を求め、ハーレイン王国に戦争を仕掛けた。以来8年間この戦争は続き、今に至るということだ。

何故ここまで戦争が長期化したのかと言えば答えは地形にある。ハーレイン王国は大雑把に言えば『N』に肉付けしたような形をしている。その西側を大山脈が、南を友好国が、南東を山地が、北を海が取り囲んでいる状態であり、実質的に帝国との国境は東から北東にかけての部分しかないと言える。しかもたとえ国境を超えたとしてもそこに待っているのは縦に長く伸びた形をしたセノーラ湖である。王都マグダレナは湖を挟んだ真反対にある。つまり、そこまで進軍するには湖を渡るか、南を迂回するしかない。帝国は海を持たないため、水軍を有していない…そのため帝国軍は南を迂回するしかない。しかし、そうすると山地と湖の間を通らなくてはいけない、問題はそこにある。とにかく狭いという事だ。最も狭い場所で山地と湖との間──傾斜の緩い平野──が十キロにも満たない場所があり、そこには国内最大規模のガルドルフ要塞がある。そのため王国は劣勢の際、そこまで防衛戦を下げ、帝国軍を迎え撃つ。この場合、帝国軍の領土内かなり深くまでの侵攻を許してしまうが、そうなったことは今までの衝突の中でも最初の数度のみだった。なぜかといえば、挟み撃ちにあってしまうからだ。深くまで誘い込んだ帝国軍の後方を湖より上陸した軍で塞いでしまう…これが王国の戦法であった。この戦法により当初帝国軍は甚大な被害を被った。そのため大規模な衝突は最初の一年のみで、その後は国境付近での小競り合い程度で、現在はちょっとした──ちょっかいを掛けつつも──両者睨み合いの状態が続いているという。


「──と、まぁ、周辺の現状はこんな感じかな…何か分かりにくいところとかあった?」


「いや、かなり分かりやすかったよ。教師のセンスあるかもな」


と、俺は笑う。

実際かなり分かりやすかった、俺が混乱しないようになるべく簡単な言葉で言ってくれているのが伝わってきたし、何より途中で俺の方から降り、立ち止まってまで図示してくれたくらいだ。


「それは良かったよ。他に聞きたいことはあるかい?少年」


「少年って…俺はわたるだ。古海渉こうみわたる。歳は17、元の世界では学生だ」


「なるほど、ワタルか…よろしく頼むよ」


俺は苦笑し、シロに右手を差し出すとシロも笑って握り返してきた。どうやらこちらにも握手という文化はあるらしい。

そして、俺が今最も気になっていることを口にした。


「聞きたいことといえばそれだ。その言葉、俺の国の言葉と同じだ…全くな。何で日本語がこの世界で話されている?これが共通語なのか?」


すると、シロは少し考える素振りを見せた後口を開いた。


「それは分からないなあ…というよりも、僕にとっては君がこの世界の言葉…そっちではニホンゴと言うのを話していることが不思議だったくらいだからね…一つだけ言えるのはこの言葉は少なくともこの国の共通語であることは確かだよ」


と、申し訳なさそうにいう。


「そうか…単なる偶然…なんてことは何と思うが、今は考えても仕方ないか…。いや、でもまぁこれから先、情報を集めるのに言葉が同じっていうのはかなり有利に働くから、これはこれで良かったのか」


そう、俺に今一番必要なのは情報だ。最終的にこの世界から元の世界へ帰るための手段へ繋がる情報…。集めるためには先程の話に出てきた王都とやらに行くべきか?だが、ここからかなりの距離があるようだし、まずは交通手段の確保…いや、その前にその交通手段を利用するための金が必要か。今俺は日本円で7000円程持っているが流石に使えないよな…

と、そんな事を考えているとシロが話しかけてきた。


「王都へ向かうつもりかい?」


「あぁ、何より情報が欲しいからな…でも、遠いんだろ?」


「うん、直線距離でも500キロはあるかな?南路を取るとなると、1000キロは軽く超えるね」


マジかよ…さらっととんでもない数字言ったぞ今…一気に現実味消え去ったわ。しかし、まいったな…王都と言うからには国の中心だし、情報もいろんなものが集まってくるだろうから調べやすいと思ったんだけどなあ…。こうなったら一番近くの街とかから当たっていくしかないか、時間がかかりそうだな…帰れるのか?これ…

すると、何事か考えていたシロが口を開いた


「じゃあ、冒険者になるというのはどうだい?」


「…は?冒険者?」


シロは「うん、そう」とでも言うように首を縦に降る。

彼女によると、冒険者になるといくつかのメリットがあるらしい。まず、様々な街や都市に簡単に入ることが出来るということ。ある程度の街や都市には関所があり、そこで出入りの度に審査がいるのだという。一応は落ち着いているとはいえ、今は戦時中、敵のスパイなどを警戒しての措置という事だった。冒険者は身元がはっきりしており、冒険者ギルド──冒険者の組合みたいなもの──が発行した証明書は偽装不可能な作りになっているため、至極簡単な審査で関所を通過出来るという。二つ目に比較的安定した収入──やはり日本円は使えなかった──を得られるからだ。冒険者はギルドが発行する依頼、クエストをクリアすることで難易度に応じた報酬を得られるということ。クエストにはE〜SSというランクがあり、ランクが上がるほど難易度も上がるが報酬ももちろん上がる。これは冒険者本人のランク──同じくE〜SS──に応じて受けられるものが変わるらしい。三つ目は、冒険者同士の繋がりである。冒険者ランクが上がるほど様々な依頼があって舞い込んでくる。そのため、自身のランクを上げるか、ランクの高い冒険者とつながりを持つ事などで入ってくる情報の量も質も上がるということだ。これらの他にも交通機関の使用料金が割引されたり、宿の宿泊代が割引されたりと、なかなか良い待遇なのだそうだ。


「なるほど…。でもやっぱりそのクエストってモンスター狩ったりとかそういうの?」


「うん、クエストには主に三つのタイプがあって、それぞれ討伐系、採集系、手伝い系とある。もちろん、討伐系が一番報酬はいい…」


「ですよねー…俺モンスターなんて狩れませんけどねー…必然的に安い仕事しか出来ませんねー…あはは…」


と、少し自嘲気味に言うと、少女は「何言ってんだコイツ」とでも言いたげな表情をし、そして小さく笑う。腰まで伸びた真白い髪がふわりと揺れ、花のような甘い香りが舞った。


「な、何がおかしいんだ?事実だろ?俺にモンスターとか狩れねーぞ?」


「ふふっ…何を言っているんだい?君はさっき、襲ってきたスライムを見事屠ったじゃないか。自信を持ちなよ。君は強いよ?」


そう言われ、俺は例の酸性スライムとの一戦を思い出す。確かにあのスライムを倒したのは事実だが…あれはほぼまぐれというか…それにアイツ弱いんじゃないの?

そういえば、あの突然身体能力が高くなった事について聞いてなかったな…。あれは、いったい何だったのだろう…

すると少女はおもむろにスッと左手を前に出した。見ると手は親指を立てそれ以外を握っており──俗に言うgoodの意味を指すあれだ──それを手首を回すように振った。


「って、ええ!?」


シロが手を振った瞬間、その胸の50センチほど前に半透明のスクリーンのようなものが浮かび上がった。一辺が30センチほどの正方形だ。驚きの声あまり、続く言葉が出ず口をパクパクさせていると、シロは苦笑混じりに言った。


「あー、これを見るのも初めて?まぁ、魔法が無いならそうだよね…ごめん。驚かせちゃったね。」


シロの謝罪に少し落ち着きを取り戻した俺は数度深呼吸をし、シロに尋ねた。


「えっと…それは何なんだ?何か書いてあるようだが読めないな…」


シロが出したスクリーンには何やら文字のようなものが書かれているのだが、それが何を意味する語なのかまでは分からなかった。日本語ではないのだろうか?


「えっとね…これはウインドウと呼ばれるもので、自分の各種パラメータや保持スキル、保有アイテムなどを見ることが出来るものだよ。文字が読めないのは、そういう風になってるからだよ。他人のパラメータやスキルをよこから盗み見ることが出来たら自分より弱いものを見つけてキルすることだって出来る。それらを防ぐためのものじゃないかな?渉もさっきの僕みたいにやってご覧、出るはずだよ」


えっと…え?パラメータ?スキル?ウインドウ?何そのゲームチックなものは!?ここって異世界じゃなくてどっかのゲームの中とかか!?あ、ありうる!!いやいや、待て俺落ち着け…。と、とりあえず一回試しに…

俺は手をgoodの形に握り、おそるおそる手首を回す…すると…


「うわっ!なんか出た…えっと…英語か?『Menu Window』?」


俺の前にシロのものと同じような半透明のスクリーン、ウインドウが浮かび上がる。30センチ角の正方形で右側には何も表示されておらず、代わりに左側にいくつかの項目があった。上から『Status』『Skill』『Magic』『Item』他にもいくつか枠のようなものがあるが、そこは空白になっている。日本語の他にも英語まで使われているとは、ますますこの世界はなんなのだろうか?

俺が困惑しているとパチパチと拍手する音が聞こえた。見るとシロが満面の笑みで手を叩いていた。


「おめでとう!よかったね、ちゃんと出たじゃないか。それじゃあっと、とりあえず使い方説明するから僕の言うようにやってくれる?」


「あ、あぁ…わかった。どうすればいい?」


「うん、それじゃあまずは…一番上に『Status』ってあると思うから、そこをタップしてみて」


俺は言われるままに文字に触れる。すると新しいウインドウが表示された。なにやら細々とした数値が書かれている。若干驚きつつもそれに目を通す。


名前 古海 渉

種族 人間族ヒューマン

性別 男

Lv 1

HP 1050/1050

MP 1500/1500

STR 12

DEF 10

INT 8

AGI 13

DEX 10


「…なんだこれ」


これを見て一番に思うのは「ゲームかよ」である。いろいろと日本と似通っているようだから、この数値の意味もおそらくそのまんまなのだろう。まぁ、良いのか悪いのか…というか強いのか弱いのかのは皆目検討がつかないが…多分あんまり強くは無いんじゃないかなぁ…

少し落ち込み気味になった俺にシロが軽く説明してくれた。


「簡単に言えば、そこに表示されてる数値が君の強さだね。名前やら種族やらは説明しなくても分かるだろうから省かせてもらうよ。えっと、じゃあまずは───」


シロの説明を聞く限りやはりこれらの数値の意味は、ゲームなどと変わりなかった。1つ言うならば『Lv』は、ゲームなどなら経験値等を貯めることで上がったりするが、この世界には経験値なる概念は無かった。ならばどうやって上げるのかと聞くと、本当に様々なことで上がるのだそうだ。畑仕事や薪割り、食事を作ったりする事でも上がるらしい…ただこれらの様な日常生活の中ではかなりペースは遅いという。早いのはやはりモンスターを狩ったり、高い技術を要する仕事などだ。それもレベルが上がるまでに何をやっていたかでステータスの上昇幅も種類も変わるそうだ。だから同じレベルでも農夫と戦士ではそのステータスが大きく違うので、その個体の強さをレベルで判断することは出来ないと言う。


「なるほど…殆どゲームと同じだな…。てことは、他の項目もゲームと遜色無いと思っていいか…次行ってもいいか?」


「どうぞどうぞ、ちなみにウインドウは指二本揃えて横に切ると消えて、手を開いて、ウインドウにそれて動かせば好きなところに配置出来るから」


そういって、自分のを動かしたり消したりして見せた。

俺は頷くと、取り敢えずステータス画面を消す。そして、次に『Skill』と表示された項目をタップした。するとまた新しいウインドウが表示される。


保有スキル

ユニークスキル

・異世界者

・スキルホルダー

・良成長

アクティブスキル

・身体強化EX

・ターゲットサイト

・アタックスタンス

・スピードスタンス

パッシブスキル

・冷静沈着


うん、わからん。思ってたよりも多かったのは嬉しいけど、いったいどのような効果を持つのだろうか?ステータスが大して良さそうではない分、何かしら強力なスキルがあったらいいな…。

すると、俺が微妙な表情をしているのを見たシロがすぐに補足説明をしてくれる。スキル名をタップすると効果を確認できるらしい…もういよいよ先生だなコイツ…

そう思いながらも俺は取り敢えず『異世界者』なるスキルをタップする。すると、また新たにウインドウがポップする。


『異世界者』

・別世界から現れたイレギュラーな存在。今までの環境と全く異なった環境で鍛錬することで、より強く成長することが出来る。また、適応力に優れどれほどの過酷な環境においても順応することが可能。

・成長系スキル

・常時発動系スキル


おぉ…これは…。なかなか強そうなスキルじゃないか…何より『異世界者』なんて響きが既にカッコイイ…!これでスキルまでもがしょぼいとかなったらどうしようかと思ったけど、これは他のにも期待できそうだな…!

と、次々にスキル名をタップしていく。


『スキルホルダー』

・スキルを取得しやすくなる

・常時発動系スキル


『良成長』

・レベル上昇時、通常よりステータスが伸びやすくなる。また、物覚えがよく、魔法を取得しやすくなる。

・常時発動系スキル


おぉ…!これも、なかなか良さげじゃないか!特に『異世界者』と『良成長』の二つなんてどちらにも『成長しやすい』的な表記があるじゃないか…これは俺もしかして強い?

自然と顔がにやけていくのが分かったが、これはにやつかざるを得ないだろう…存分ににやつかせてもらおう。

すると、前を行くシロが振り返り言った。その表情は見るからに好奇心の色が浮かんでいる。


「どうだい?満足するものはあった?」


「あぁ、なかなか良さそうだ。でも、この『成長系スキル』って言うのはどういう事なんだ?」


なんの気無しにした質問だったが、シロは目を大きく見開き驚きの色を隠せないようだった。

あれ?俺なんか変な事言ったかな?

困惑する俺にシロは少し緊張したような声で答えた。


「『成長系スキル』だって…!?って事は君、ユニーク持ちなのかい!?それも、かなり希少なスキルを…!すまない、人のスキルを聞くことはルール違反なんだけど…その、良かったら教えてもらえないだろうか?」


「あ、あぁ…」


俺はものすごい形相で詰め寄ってきたシロにビビりつつも、俺の持つスキルと、『異世界者』についてシロに説明した。するとシロは突然俺の手を取り、震える声で言った。


「凄い…凄いことだよそれは!ユニーク3つ持ちってだけでも仰天ものなのに、『異世界者』なんてこの僕でも知らないスキルを持っているだなんて!しかも効果が尋常じゃないよ…あぁ、凄い!」


「そ、そうか…そんなに凄いのか?これ…」


自分の持つスキルがかなり強力なものと知って喜びたいのは山々だが、シロの興奮ぶりに圧倒され最早それどころでは無くなってしまった。その興奮ぶりは傍らのツノうさぎをも引かせるものだった。

それにしても、こいつこんな熱く語るようなキャラだったか?もっとこう…落ち着いたやつじゃなかったか?もしかして、スキルマニアとかそういうの?

俺が固まっているあいだに俺の手を離し、落ち着くための深呼吸を済ませたシロは再び歩き出し、まだ少し興奮の色が窺える声で話し始めた。


「いいかい?まずスキルというのは『ユニークスキル』と『アクティブスキル』そして『パッシブスキル』と言うものに分けられる。『ユニークスキル』は個人が生まれ持ったスキルでレアな効果を持つものが多く、これは他人には取得し得ないんだ。まぁ、同じスキルを持って生まれた者なら別だけどね。次に『アクティブスキル』は様々な人が取得することの出来るごく一般的なスキル…といっても、取得出来るかどうかは運しだいだし、効果の善し悪しもピンキリだけどね。そして、そのスキルの中でも強力なのが『EXスキル』だ。君の場合だと『身体強化』のEX版だね。これは通常の『身体強化』の上位にあたるスキルで効果もより強力なんだ。そしてアクティブスキルには効果時間があるものが多いから、そのへんはよく確認しておくことだね…。そして『パッシブスキル』だけど、これらは戦闘中に自動的に発動するスキルだ。より具体的にいえば、君の敵意や殺意、その他諸々の好戦的な感情に反応すると思ってくれていい。あとは『成長系スキル』と『常時発動系スキル』だけど…まぁ、後者についてはそのまんまだよ。常に発動状態にあるスキルだ。そして問題は前者…『成長系スキル』だ。これは所有者と共に成長していくスキルだ…つまり、強力なスキルがさらに強力になる可能性を秘めている…ということだよ。効果がより強力なったり、さらに新しい効果が付与されたりね。と、まぁこんな感じだね…分かったかい?そして、1つ忠告だ…今回は別として、これからは自分のスキルは人には絶対に話さないことだね。特に強力なものは尚更…ね」


「あぁ、気を付けるよ…」


…なんというか、とんでもないスキルだって事は分かった。

下手に周りに話して恨み妬みを買うのはゴメンだし、今後スキルについては喋らないようにしないとな…

それよりもこれだけ強力なスキルなら、もしかしたら冒険者としてもやっていけるかもしれないな。まぁ、見た感じレベルアップやステータス上昇に関わるものみたいだから、訓練が必要かもしれないけど…

今後の事を考えていると、シロが明るい声で言った。


「あ、見て見なよ渉。森を抜けたよ。」


見ると、今まで俺たちの行く手を阻むかのように立っていた木々は途切れ。視界が大きく拓けた。今までとは打って変わり、背の低い木がポツポツと地面から生え、膝ほどの背丈の草が一面を覆っている。小さく盛り上がった丘がいくつか見受けられる。遠方には山々が連なっている、恐らくあれが南東にある山地なのだろう…左に行くにつれ低くなっているということはその先に平原があり、帝国との国境があるという事か…。見上げるとよく澄んだ青い空に小さな綿雲がプカリプカリと浮いていた。その中を大きな鳥が滑空している。穏やかな風がほのかな草花の香りと共に俺を撫で行く。暖かな日の光がなんとも心地よい…穏やかな、落ち着く風景だ。


「気持ちのいい所だな…」


素直な感想だった。こんな穏やかな気持ちになったのはいつ以来だろうか?日本では草木の代わりにそびえ立つビル群に、草花の香りの代わりに排気に汚れた空気に包まれていたから、こんな気持ちになったのは本当に久しぶりだった。

シロはそんな俺に日の光と同じ暖かな笑顔を向け、穏やか口調で言った。


「さぁ、ここでお別れだね。近くの村までくらい案内してあげたいけど、森の最高権力者である僕がこの森を離れるわけには行かない…すまないね…」


「そうか…いや、ここまで案内してくれただけで十分だ。本当に色んなことを教えてもらったし感謝してるよ」


と、俺は頭を下げる。

すると、シロがふわりと笑った。


「そう言ってもらえるとありがたいよ…。それで、ここから南へ行くと小さな村がある。まずはそこを訪ねてみるといい、村長は気のいい人だからきっと迎え入れてくれるよ…さて、そこにいるのは分かってるよ。隠れてないで出てきたらどうだい?」


と、近くの茂みに向っていった。つられてそちらに目を向けると、その茂みがガサリと揺れ中からそろそろと何かが出てきた。青く、プルプルとした体を持つそれはピョインと飛ぶと俺とシロの間に着地した。


「なっ!?お前は!」


それはまさしく俺が最初に戦った相手…スライムだった。思わず身構える俺にシロが言う。


「大丈夫だよ。この子に戦意は無いよ。ずっとつけて来てたんだよ?君に謝りたかったんだってさ…突然襲っちゃったことを。この子は少し臆病な性格でね…渉とあった時も驚いて攻撃を仕掛けちゃったんだよね?」


するとスライムは肯定するためか数度体をプルプルと震わせた。その姿に俺は警戒を解き、スライムの前にしゃがみこむ。


「そうだったのか…こっちもすまなかったな。成り行きとはいえ1回殺しちゃったろ?」


俺の謝罪を受け取ってくれたのか、スライムはそのまんまるい目をきゅっと細めた。どうやら笑っているらしい。

俺たちを愛おしそうに見ていたシロはそうだ、とてをパンと打ち合わせた。俺とスライムは同時にそんなシロを見上げる。


「実は村まではそこそこ距離があってね。歩くにしては少し遠いかなって思ってたところなんだよ。ちょうどいいし、渉、この子に乗っていきなよ」


いかにも名案だと言わんばかりにニッコリと笑う。

俺はシロとスライムを交互に見たあと苦笑した。どう見ても大きさが足りないからだ。直径30センチほどのスライムに俺が乗るなど無理な話だ…そう言って断ろうと思った時、目の前のスライムに変化が生じた。みるみるうちにその体積を増大させ、馬のような形をとっていく…俺が唖然として見上げるうちに、あっという間に体表の色までも馬のそれと同じにしたスライムが軽く俺をつつく、まるで早く乗れと言わんばかりに


「ははっ…彼はその気満々みたいだ。スライムの得意技の一つに擬態があるんだよ?覚えておきなよ。馬には乗れるかい?」


「あぁ、一応乗馬経験はあるが…走られると自信無いな。」


俺はおっかなびっくり馬と化したスライムに触れる…質感も全く同じとは全恐れ入る。それどころか手綱まで付いているではないか…


「乗れるならそれで十分だよ。この子は賢いから人の言葉もちゃんと理解するし、これでもユニーク持ちだから何かあった時でもなんとかしてくれるさ」


「そうか、なら安心だな」


スライム馬に乗りながら俺は笑う。俺に負けたではないかとは言わない。


「これも持っていきなよ」


ウインドウを操作したシロは突然現れた植物で編まれた籠とそれに溢れんばかにり詰め込まれた果物を俺に差し出した。

なんかもう、こんなことじゃ驚かなくってきた…やはり慣れとは恐ろしい…

そう思いながらシロの好意を受け取った


「わざわざありがとう…あー、でもどうすっかな…?」


受け取ったかごはなかなかの大きさで俺のショルダーバックには入らない、どうしたものかと思っていると、シロから声がかかる


「せっかくウインドウがあるんだ。活用しなくちゃ。」


左手をgoodの形にしてシロが笑う。俺もつられて笑い、手を振ってウインドウを呼び出し、『Item』をタップ。現れたウインドウには一番上に『0%』とあるだけでそれ以外は空白だった。どうやって入れるんだろうか?と思った瞬間、手からかごが消え失せ、同時に空白だったところに『果物かご』と表示され、一番上の数字も『2%』となっていた。どうやらこの数値はアイテムストレージの容量を示すものらしい。物をしまう時は念じるだけで良いのだろうか?

俺はウインドウを閉じ、シロを見た。


「なにから何までありがとうな…」


「いいや、久々のお客さんだもん。これくらいのおもてなしはしなくちゃね…ね?ミミー」


シロの問いかけに傍らのミミーはキュウと越えを上げる。

うん、ほんとにお前には世話になったよ…いや、別に恨んじゃいないよ?殺されかけたけど…


「ははっ…じゃあ、そろそろ行くわ」


俺はスライム馬の腹を軽く蹴る。すると、スライム馬は軽快に歩き始めた。

後ろから声がかかる。


「向こうに帰る前には一度顔を見せてくれるかい?」


「おう、もちろんだ。なにせ恩人だからな!」


そう言って振り返ると、シロは満足そうに頷きながら手を振っていた。俺も手を振り返し前を見据えた。これから行くのは正しく未知の世界だ。なにがどうなるのかさっぱり分からないが、とりあえずの目標は南にあるという村に行き、この世界の情報を集め、その後冒険者ギルドのある街まで行き冒険者になる…と言ったところか。その後どうするかは冒険者になった後に決めるとしよう。最終的に元の世界に帰れるならばそれまでの過程がどんなものであろうが構わない…そのくらいの気持ちで行かなきゃな…と、己に言い聞かせる。

ふと、後ろを振り向くとかなり小さくなったがシロはまだ手を振っている。俺はそんな彼女たちに向かって言った。


「シロォ!ミミー!この世界で最初に会えたのがお前たちでほんとに良かったぁー!!」


シロの手の動きが若干大きくなったように見えた。俺は笑うともう一度未知の世界に目を向けた。

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