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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

腸内転生

作者: 都築優

 直腸ガンで死んだ後、神にこう言われた。


「お前は生前、ゴミクズ糞オタニートで、せっかく与えてやった貴重な人間としての人生を無駄に消費したな。次はお前にふさわしい、虫ケラ以下の一生を与えてやろう」


 俺は大腸菌になった。

 スキルは適温で、一時間で二倍に増殖する事と、タンパク質をアミノ酸に分解する事。炭水化物をグリコーゲンや糖アルコールに分解する事。


 はじめは突然変異の片割れとして、空気中に産まれた。食べ物もなく、ふわふわ漂うホコリに乗って、世界を旅した。


 塩素や酸やアルコール、高温にも弱く、除菌されたら一瞬で消滅してしまう。

 埃は川に落ち、俺は水の流れに身を任せた。動くための鞭毛もなく、成り行き任せだ。

 だが仮に時速100nmでうごけたところで、何になろう。

 そのまま流されて下流へ向かう。岩や流木にあるバクテリアの街、バイオフィルムにたどり着けば、安定した増殖が可能だったがそれも叶わず、このまま『水の一生』に付き合わされるのか。とその時、危ない! 取水場だ。


 濁流とともに取り込まれたのち、沈殿層で砂利や泥を沈められる。俺は上層を浮いたままだ。

 いけないこのままでは塩素消毒されてしまう。

 俺は流された末、やっと必死で塩ビパイプの壁にしがみついた。


 塩ビの壁はナノ単位の凹凸があり、小さなバクテリアのコミュニティがあった。先輩の排出するアミノ酸を分けてもらい、窒素と二酸化炭素に分解する。僕はそこで細細(ほそぼそ)と増殖した。


 安定していると思っていたのは30回ほど分裂した頃迄だった。適温ではないし栄養もごく僅かなので分裂にはずっと遅い時間がかかる。

 やっと十億個程までに増えたのに突如ブラシがやってきた。何度も往復するその毛先に掻き出され、しがみついたパイプからまた離れてしまったのだ。

 たまたま清掃の日だったのかわからない。

 再び流され、最後に添加された塩素によって俺はどんどん殺されていった。


 俺の一片が生きたまま蛇口から出され、コップに移れたのは万に一つどころかまさに十億に一つの僥倖だった。

 そのまますぐに飲まれていたら、胃酸で瞬殺だっただろう。しかしそのままつけ置き洗いかものぐさか、一日放置されたのも運が良かった。ある程度の数まで増殖出来たのだ。


 飲み込まれ、胃酸や胆汁で殺されながら、数片の俺だけが生き残り、とうとう大腸フローラまでたどり着けた。定着出来るかどうかは腸相の良し悪しに掛かっている。俺は悪玉菌だ。

 健康でなくても、抗生物質なんか飲まれた日には最悪だ。

 大腸フローラの場末に取付き、先輩のビフィズス菌やらウェルシュ菌やらに挨拶し、またその排泄物を分けてもらう。俺はうんこ野郎のそのまたうんこ野郎だ。


 多糖類やセルロースをブドウ糖に変える真面目っこもいれば、トリプトファンからビタミンBを合成するような働き者も沢山いる。そのおこぼれを頂戴するのだ。


 宿主がヨーグルトなどを食べた日は、胃酸で死んだ乳酸菌が辿り着く。この肉体は悪玉菌優勢で安定しており、急に善玉菌を投入されるとバランスがおかしくなって荒れる。新参者の正義の味方気取りが偉そうな顔してのさばってんじゃねえよ、と古株のウェルシュ菌といざこざが起き、じきに排除されるのだ。その時の加勢に呼ばれて、俺はなんとかうまいこと取り入ることが出来た。


 俺はグラム陽性非運動性偏性嫌気性で、タンパク質を主に分解してイプシロン毒素を放出する。

 そこで次第に力をつけ、増殖し、最終的には調子に乗って俺Tueeeで無双してしまった。

 即座に急性食中毒になったというわけではない。

 同盟した日和見菌たちの援護を受け、白血球やナチュラルキラー細胞との戦いを日々繰り広げ、勢力を拡大していった結果。


 …宿主が直腸ガンにかかり死んだのだ。

 死体は検死ののち火葬され、俺も他の菌も全滅した。

 再び神に呼び出された俺は、今度は褒められた。


 宿主はずっと捕まらずに逃げ回っていた凶悪犯罪者の殺人鬼で、救いようのない極悪人だったそうだ。

 悪人の中の善玉菌は、善でなく、悪玉菌こそが悪を滅ぼしたという話。


 次は虫ケラに転生させてくれるそうなのでとても楽しみである。

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろいです。
[一言] 俺は分裂して増殖するということは、同じものであっても一個体ではなくなるし、俺の意識というのが集合体としてどこまで統一してるのか気になりました。 極悪人以外の体にも入ったかもしれないし(保菌者…
[一言] 土壌転生や、泥土転生も気になります。
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