表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
神樹の森編1 嵐の夜に
71/256

VSアルデバラン 3

 

 


 その頃、ソリューニャは森の散策をしながら現在その身が置かれている不可解な状況について思考を巡らせていた。


(ミュウは王女で、カキブで捕まってた? 帰って来て早々に眠らされて……政争か? 邪魔だからカキブに? いや、守られるために逃がされた、とか?)


(うーん、とにかく今は脱出が最優先かな。清い心の持ち主のみがって言い伝えがよく分からないけど……)


 すると急に視界が開けて、円く拓けた場所に出た。


「あれ? レン?」


 そこで見つけたのは、真顔で一直線に走ってくる仲間の姿。


「おーい無事だったかー、レン」

「……」


 手枷も外れているし、見えているはずなのに返事もしない。ソリューニャが不審に思ったとき、レンの背後に剣を持った男の姿が見えた。


「ここは一つ、美しい気遣いとして苦しまずに殺してやろう」

「!?」

「哀れな少年よ、さらば!」

「────っ!!」


 状況は全くもって謎だが、男は今にもレンの首を落とそうと上段に構えている。

 考えることをやめて、ソリューニャは動いた。レンを蹴り飛ばし、二つの手枷を繋ぐ鎖で剣を受け止める。


「どういう状況だっ!?」

「おぉ、美しい!」

「いきなり口説いてんのかな!?」

「いてて。あれ……ソリューニャ?」


 蹴られて催眠が解けたレンが頭を掻きながら立ち上がった。

 同時に、ソリューニャと男も離れる。


「訳がわからん! ちょっと説明して」

「知らねー」

「手枷はどうした? 外せるのか?」

「あ、そーだ。コレ、鍵だ!」

「どこで手に入れたんだこんなもの? それにあいつは? みんなは?」

「そうだ、リリカはいねぇのか!? まさか、一人であいつと……!?」


 ソリューニャの両手が自由になった。これで全員の拘束が解けた。


「お取り込み中、失礼するよ。おれを無視するのは気に入らないんだなぁ」

「っ、うぉっ!」

「レン、ここは任せて出口を探せ! ミュウが危ないかもしれない!」

「どーいうことだ!? 出口あんのか!?」

「いいから早く! とにかく探せ! 見つけたらすぐにミュウを探せ!」

「わけ分かんねぇぇぇ! けど分かった!」


 うまく剣をかわしたレンが、隙を突いて逃げ出した。


(こんなタイミングで敵に襲われるとは……。あっちも思った以上に切羽詰まってるのかもしれないな……)


 わざわざこんなところに送られた上、さらに敵に襲われる理由などないはずである。つまり何者かがソリューニャたちを始末したいということだ。

 問題はソリューニャたちと知った上なのか、ただミュウについてきたからなのか。


(後者。そしてこいつはホムラの仲間。こんなところに来れるのがその証拠)


 吉報は、これで出る手段の存在が明らかになったことだ。


「……追わないんだね」

「ああ。おれは君とやりたくなった」

「アタシと? 女なら安心かい?」


 男はレンを追わずに、ソリューニャに向き直った。


「さっき見た君の手に、剣士の証のタコがあった。つまりこの円い広場で、剣士が二人。美しい舞台だろう?」

「確かに剣は使うけど、あいにく今は取られちゃっててね。剣士としては闘えないよ」

「おれはいつも二振りの剣を持っている。自分ではなく、相手のための予備としてな」

「ふーん」


 男は一度剣を鞘に納めると、左右の腰から鞘ごと剣を引き抜くとソリューニャにつき出した。


「選ぶがいい」

「別にいらないけど?」

「そう意地を張るな。剣士は剣士として殺してやるのがおれなりの流儀さ。選ばぬならおれが選んでやるが」

「そこまで言われちゃ、そうだな。じゃあさっきまでアンタが握っていなかった方を」


 投げられた剣を片手で掴み取ると、ソリューニャはゆっくりと刃を抜いた。上品な装飾がなされ、よく手入れされた白い剣だ。


「アンタ、騎士みたいだね。その格好に、この剣。華ってやつかな?」

「ああ。おれは騎士だ。……騎士の決闘の流儀を知っているかな?」

「…………ソリューニャ、参る」

「我が名はニース! 参る!」


 ◇◇◇






 一方、ジンは。


「おおおおおお!」

「にゃっ、はぁぁぁぁ!」


 猫の獣人、マーキィと激しい攻防を繰り広げていた。マーキィの爪をトンファーで受け止め、トンファーの一撃は受け止められ、実力は拮抗しているかに見える。


「だぁっ!」

「にゃあっ!」


 だが、不利なのはマーキィの方だった。ジンが魔術を使うことでパワーの差は逆転し、身のこなしも今や互角。


「ぐぐぐ、にゃああ!」

「逃がすか!」


 マーキィは飛び上がり、木に爪を立ててぶら下がった。それを追うジンも木に向かって跳ぶ。

 が、体の軽さはマーキィに分があり、ジンの手は届かない。


「にゃにゃん! 惜しいにゃ!」

「まだまだっ」

「にゃ!?」


 ジンは両手にナイフを創造してそれをマーキィと同じように突き立てて木にへばりつくと、さらにそこから体を持ち上げてマーキィの足に手を掛けた。

 そして、無理矢理マーキィを地面に投げつける。


「うぉらああああ!」

「にゃ、ああああああ!」


 マーキィは空中でくるりと回転すると、四つん這いで着地した。そしてすぐに体勢を立て直すと、空中のジンを睨み付ける。


「うお、やべ!」

「にゃは! 隙ありにゃ!」


 これを予想していなかったジンは空中で顔をしかめた。さすがのジンも空中では無防備になる。


「はぁああ!」


 マーキィのムチのようにしなる脚がジンを捉えた。蹴り飛ばされたジンは、ゴロゴロと地を転がって木に衝突する。


「があああっ!」

「これは、入ったにゃ……!」


 力勝負になればマーキィが不利。だからマーキィは勝負どころがここだと判断した。

 とどめを刺すべく猛スピードでマーキィが迫る。


「今なら呼吸も危ういはずにゃ!」

「………………」

「にゃ……っ!」


 野生の勘、だろうか。致命的ななにか、嫌なものを感じてマーキィのスピードが緩んだ。

 しかしすでに遅い。


「お返しだコルァ!」

「うにゃっ、げぼっ!?」


 先程のダメージなどなかったかのような動きで、ジンはマーキィの目の前に来るとマーキィを思い切り蹴りあげた。

 高く舞い上がるマーキィの体。


「げぼぇっ、かはっ!」


 呼吸ができない。しかしその危機感が逆にマーキィに残された道を照らした。


(やばいっ! けど、空中での姿勢制御は猫の専売特許! 上手くやれば追撃は防げるにゃ!)


 敵は下で待ち構えていることだろう。だが、マーキィにはまだ上手くガードできる可能性が残っている。

 マーキィはくるりと回って地面を見下ろした。


「……にゃ?」


 そこにジンはいなかった。


「どこっ……」

「だぁあああ!」

「上にゃ!?」


 直後、背中にかかる重圧。

 ジンはあの一瞬で木を伝ってマーキィの上に回り込んでいたのだ。


「にゃああああああ!」


 綺麗な着地などできるはずもなく、マーキィは地面に叩きつけられて伸びてしまった。すかさずジンがさっきまで自分に嵌められていた手枷をマーキィに嵌める。


「にゅ~~~~ん」

「さて、これを腕に嵌めてと。大人しくしとけ」


 ただここで勝ったからといってここから出られるわけではない。ジンはレンたちを探して歩きはじめた。

 ふと思い付いて、レンが投げた手枷も拾っておく。


「ふぅ、こりゃ便利でいいな。もらっとこ」


 それをポケットに無理矢理押し込むと、ジンはまた歩きはじめた。

 レンを探して、レンの消えた方角とは真逆へ。


 ◇◇◇






 各地で様々な思惑が飛び交う中、ミカゲはタイヤーを連れて神樹の元へ向かっていた。

 最後の仕事が神樹の破壊というのは分かりやすくてとてもいいと思う。ミカゲは必要に応じて知謀も使いこなすが、盗賊らしく力押しも好んでいるのだ。


「おや、ミカゲさん。どうも」


 見張りの兵士がニコニコと挨拶をしてきた。

 個人的な面識はないが、今ではもう誰からも信頼されているということだ。


「滑稽なものだな。裏切りも、信頼も」

「ミカゲさん?」

「寝てろ」


 ミカゲの手から炎が吹き出し、兵士を吹き飛ばした。

 もう信頼を積み上げる必要はない。ミカゲは群がってくる兵士たちを淡々と倒しながらまっすぐ神樹を目指して歩く。


「タイヤー。魔導水晶を用意しておけ」

「……うす」


 ここから先は、ミカゲも入ったことのない聖域。


「……素晴らしい」


 ただ立ち尽くした。


 ほんのりとエメラルドグリーンの魔力が満ち、淡い光の珠が地面から昇っては消えていく。まさに幻想的と呼ぶに相応しい世界。


 通常、魔力とは人の精神により生み出されるもの。自然に発生することなどないものだ。

 このような場所は、世界中を探しても滅多に存在するものではない。


「なるほどな。フィルエルムの奴らがこの樹を神聖視するのもよく分かった。この俺が思わず躊躇うほどに、美しい」

「団長……あれ」


 タイヤーが指差したところで魔力が集まっていく。

 それはみるみるうちに密度を増し、人の姿を象った人形になった。


「俺たちの邪気にあてられたか。タイヤー、お前は樹の破壊に専念しろ。あれは俺が引き受けた」

「うす」


 魔力の人形は数を増し、小さな獅子、巨大な虎などと動物も象っている。


「神樹よ、俺を恐れるか」


 ミカゲは静かに笑うと、一直線に駆け出した。


「ならば抗ってみろ! 俺は盗賊、求むるは宝のみ!」


 迎え撃つエメラルドグリーンの人形。その数は百を超える。

 ミカゲは両手に炎を纏わせると、一斉にそれを解き放った。


「百火繚乱!」


 無数の炎の弾丸が敵の第一陣に襲いかかった。

 弾丸を受けた人形たちは悲鳴を上げながら崩れていく。


 ミカゲの魔導は炎を創造するというもの。それもただの炎ではない。

 炎というより、炎に近い魔力。炎だからこそ物理に干渉し、魔力だからこそ魔力に干渉できる、質量のある炎。


「炎蛇、火具土!」


 手から伸びた数匹の炎の蛇が人形を串刺しにした。胸を貫かれた人形たちの体は為す術なく崩壊していく。

 それだけにとどまらず、蛇たちは地を這って人形の一団を囲む。


「炎陣」


 ミカゲが指をくいと曲げると、囲まれた人形たちが一斉に、球状に膨れた炎に包まれた。


「シャラァァァ!」

「ふん」


 猛攻をかいくぐって、女性型の人形がミカゲに迫る。

 ミカゲはつまらなそうに鼻を鳴らすと、腕を人形の胸の中心に突っ込んだ。魔力の体には普通の物理法則は適用されず、ミカゲの腕はズブズブと胸に沈む。


「弾けろ、百火繚乱」

「キェェェェァァァァァァ!」


 人形の体が爆散した。断末魔の叫びが響く。


 まさに一方的。ミカゲは団長の肩書きに恥じない戦闘力で神樹の軍勢を蹂躙していくのだった。

 質量のある炎。通称、典型的ファンタジー火魔法。

 物を壊せる。人をふっとばせる。形も変えられる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ