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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
神樹の森編1 嵐の夜に
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VSアルデバラン 2

 

 

「ぬぅおおおおお」

「にゃーー! 待つにゃーー!」


 ジン対マーキィ=マーティーの一方的な戦いは今もなお続いていた。

 しかし様子は少し変化しており、ジンが逃げ、マーキィがそれを追うという構図だ。


「とっととおまいら始末して、だんちょの所に行くのにゃ! だから大人しくするにゃ!」

「うるせぇ! てめぇの事情なんか知るかボケぇ!」

「うにゃにゃにゃーー!」


 言うまでもないが、スピードの差は歴然。ジンの逃げ方がうまいためまだなんとか凌げてはいるが、足なら圧倒的にマーキィに分がある。


「追い付いたにゃー!?」

「くっ……ららっ!」

「お前、人間のくせに速すぎにゃ!」


 追い付かれるジン。だがマーキィの攻撃は当たらず、するりとジンに抜けられてしまう。


「止まれにゃ!」

「止まらないにゃ!」

「にゃー! 腹立つ、腹立つのにゃ!」


 だが、やはりそういつまでも続きはしない。やがてジンは道を塞がれるように追いつかれた。


「うにゃぁ~~っ! ストップにゃ!」

「はぁ、はぁ……っ、そろそろキツい……か!」

「ふふーん。もう逃がさないにゃー」


 マーキィのひっかく攻撃。ジンは封魔の手枷でそれを受けながら、じりじりと後退していく。

 しかしマーキィも伊達ではない。徐々にジンの動きや呼吸を読むようになり、鋭い体術でジンを追い詰める。


「にゃはは、なかなかいい猫目だったにゃ」

「はっ、はっ、ああそうかい──っ!」


 爪が肩のあたりを掠め、服と薄く皮膚が切れる。

 そして傷に気を向ける余裕もなく大振りの回し蹴りが頭上を過ぎ、片手を地に着けたマーキィがそれを支えに後ろ蹴りを放つ。

 マーキィには当たるという確信があったが、果たしてそれは手枷で防がれていた。


「にゃにゃ! お前本当にただの子供かにゃー? 生身でなんて動きをするにゃ」

「はぁっ、はぁっ、くそ……」

「思ったより時間かかったけど、そろそろ終わりかにゃ。……向こうももう何人かは終わってるかもにゃー」

「向こう、だ?」


 向こう。つまりマーキィとともに断罪の森に来ているニースとフクロウのことであるが、ジンは初耳である。


「にゃ。他に二人来てるにゃ」

「そいつぁ、穏やかじゃねぇなオイ……」

「自分の心配してろーにゃ!」


 これ以上長引かせないためにマーキィがとった策は魔導だった。

 マーキィがジンの周りを動き回り、その途中の瞬間を切り取ったような残像を生み出す。瞬く間にジンの周りは静止した像でいっぱいになった。


「カツオ分身にゃ!」

「魔導……! けど、本体は動いてる!」


 動く本体があり、その後に途中の動きを切り取った残像が残る。というのがこの魔導のようである。だがしかし、


「残念、さーよなーらにゃ」

「しまっ」


 ジンの失敗は像を生み出しながら動くマーキィを目で追いすぎていたこと。いつの間にすり替わったのか、ジンの死角にあった像が背後から襲いかかった。


「たぴゅ!?」


 マーキィの横っ面に石が突き刺さった。

像を残してマーキィが吹き飛ぶ。


「うにゃ~~!!」

「わーはははは! 命中~!」

「レン!?」


 ジンの窮地に現れたのは、レンだ。

 レンは遠くで高笑いすると次々に抱えた石を投げ始めた。石は渦巻く風に包まれて回転しながら襲いかかる。


「くらいやがれぇーー!」

「にゃにゃにゃ!? 誰にゃあの危ない奴!」


 風の力でただならぬ威力を持った石に狙われて、マーキィはあわてて身を隠した。

 だが、お構い無しにレンの投石は続く。そのいくつかはジンの近くも通り、ジンの肝を冷やす。


「バ、バカ! こんなの当たったら死ぬって!」

「わはは、おーいジン! 上に注意~」

「え、どぅわぁあ!? てめ、今のはマジで…………!?」


 何かがジンの足元すれすれに落ちてきて、ずんと腹に響く振動がその重量を物語る。どっと吹き出す冷や汗。

 文句を言いかけたジンだが“それ”が何なのか理解すると同時、言葉に詰まった。

 鈍い光沢のある輪が二つと、それらを繋ぐ鎖…………


「……サイコーだぜバカ野郎」


 いつの間にか石は止んでいた。

 マーキィは姿を隠し、残された像もただそこで動かずジンを囲んでいる。


「ん?」


 静まり返った森でふと気づく。最後に残された像はマーキィが顔面で石を受けた瞬間の表情を映していて、


「ぶっ、あははははは!」

「ど、どうしたんだ? ……ぶはっ!?」


 急に笑いはじめたジンに驚いたレンも、たちまち笑いはじめる。

 まつげが長いアーモンド形の目の黒目は上を向いている。さらにもっちりとした頬にはくっきりと石の痕。そして直前まで笑っていたのだろう、だらしなく開いた口の端が微妙につり上がったまま歪んでいる。

 美人も台無しである。


「ばーーっはははは! ちょ、なんで残ってんだよぎゃはははは!」

「ひーひー! 苦しいーー!」


 これを笑わずして何が笑えるか、というくらい凄まじい威力だった。

 するといたたまれなくなったマーキィが顔を真っ赤にさせ、像を掻き消して飛びかかってきた。


「うにゃぁぁぁぁぁぁああ! 忘れろにゃーーーー!」


 乙女のハートを粉々にした敵を前にしてかつてないスピードを出したマーキィの一撃だったが、ジンはそれを見切り、その腕を掴むと力任せに投げ飛ばした。


「にゃにゃにゃっ!? お前なんで、手錠が外れてるにゃ!」

「にひひひ」

「まさか、あのときの……!」


 ジンが外れた枷をジャラジャラと鳴らして不敵に笑う。

 あのときレンに投げ寄越された手枷に、鍵が差さっていたのである。


「サンキュー、コレは返すぜ。レン」

「なんか分からねーけど、手ぇ貸さなくていいのか?」

「こいつにゃ借りがあってな。俺がやる。そっちはリリカとソリューニャを頼む。あと二人、敵が来てるらしい」

「マジでかおい! 分かった、なら先行くぞ!」

「ああ、頼んだぜ!」

「逃がすかにゃ!」


 背を向けて走り出したレンを逃がすまいと、マーキィが動く。

 鋼鉄の爪がレンの背中に振るわれ、直後。金属どうしがぶつかる甲高い音が響く。


「まぁ待てや。借りは返させてもらうからよぉ、変顔猫」

「乙女の純情を蹴散らした代償は軽くないにゃ。てめーらの命、この恥ごと消してやるにゃ」


 ◇◇◇






 セレナーゼの部屋の扉の前にたどり着いたフェイルは、兵士たちに指示を飛ばした。


「伝達!」

「先程、二階まで突破されました!」

「速い……っ。くそう。犠牲者たちよ、すまない!」

「王子! 装備一式、ただいまお持ち致しました!」


 ここに来るまでに幾分か頭も冷えた。フェイルは現在、この国のトップなのだ。


(自分がしっかりしなければ……! 母さんにも妹にも、会わせる顔がない!)


 かちり、と装備のベルトを締めて、王子は一つ深呼吸した。


「よし、三階を指揮する者に連絡を繋げ!」

「はっ、こちらです!」

「おい、聞こえるか? こちらの準備は整った……」

『おや、これはこれは。ちょうどこちらも突破したところですよ』

「リカルド!!」


 これはいくらなんでも早すぎる。驚きで声も出ないフェイルを知ってか知らずか、リカルドは自らそのカラクリを説明した。


『声も出ないようですけど? そうですね、殺しをやめただけです』

「こ、殺しを?」

『ええ。一人一人急所を狙って殺してってやっているとやっぱり時間がかかりますからね。だいぶスッキリしましたし、そろそろ急ぐことにしたんですよ』

「こっ……!」


 今度は別の意味で声が出ない。フェイルはここまで淡々と、当然のように狂っている者を見たことがなかった。

 だが、そのおかげで犠牲者は減るかもしれない。


『ああ、でも運が悪ければもちろん死ねますよ? 複雑な表情なんてしなくても、絶望しててもらえればいいのですが』

「…………!」


 フェイルは覚悟を決め、ある命令を下した。


「射撃隊は私の後方支援にまわり、他のみんなは怪我人の救護に向かえ!」

「王子! それではあなたが!」

「ああ、分かっているさ! だが、同時に責任者でもある!」

「……了解しました。第七小隊はここで待機! それ以外は生存者の救護に向かう!」



 準備が整ったところで、フェイルは腰に差した剣を抜いた。


「おやおや、どういった心境の変化ですか?」

「うるさい、リカルド。ようやく僕も覚悟が決まったよ。ここで君を止める、殺してでも」

「そうですか」


 ニコニコと、相変わらずの表情である。数人の兵士たち、フェイル、そして遠くで構えている後衛兵。リカルドはその細い目で順に見ていくと、ベルトからナイフを引き抜いた。


「行きますよ」

「来い……!」


 リカルドが駆ける。

 左右から飛びかかる兵士たちを適当にいなし、一直線にフェイルの懐に。


「撃て!」

「む、さすがにダークエルフといったところでしょうかね」


 後衛の撃った魔力のビームが、リカルドの行く手を阻む。リカルドは素早い身のこなしでそれらをかわすと、魔力のナイフを投擲した。


「クイックウォール!」

「ほう、いいじゃないですか。王族、侮れませんね」


 ナイフは、フェイルが展開した魔力の壁にぶつかってその勢いを殺された。

 フェイルは次の行動に移る。


「ブレイズストーン!」


 石が赤熱しながらリカルドに放たれる。リカルドはこれもまた上手くかわしたが、着弾した石が弾けて死角からリカルドに傷をつけた。

 フェイルも王族の血筋。その才覚は紛れもない本物。故にその破壊力は並々ならない。


「くふふふ、やりますね。では、これで!」

「っ、クイックウォール!」


 リカルドは魔力のナイフを連続して投擲してきた。だが、何発投げようとバリアは抜けないはずだ。

 そう思った矢先。


「ホーミング」

「な! 危ない!」


 ナイフはその軌道を変えてバリアをかわすと後衛兵たちを襲った。


「うぁぁぁ!」

「ぎゃあ! 痛い!」

「お前たち! くそ、やられた!」


 フェイルはあわててバリアの面積を広げる。


「思い通りです」

「うっ、速い!」


 リカルドはそれを読んでいた。手に握ったナイフに魔力の強化を施し、面積が広がった分だけ薄くなったバリアに突き立てる。バリアは耐えきれずに刃の侵入を許した。


「二発目です」

「!!」


 おもむろにリカルドがナイフを残して離脱。

 その直後、ナイフが大きな爆発を起こした。


「うあああ!」

「くっ、刃に魔法陣が刻まれていたのか!」

「正解です。これで半分は片付けましたかね」


 フェイルはいいように翻弄されていることに焦りを禁じ得なかった。


(勝てるのか? 僕に……っ!)


 この短時間で味方の過半数がやられ、人数的な戦力差も埋まってきている。そして最後に自分だけが残ったとき、果たしてここを守りきれるのか。

 フェイルは弱気になる気持ちを抑えて、剣を構えるのだった。


 

新亜人族、獣人族。獣ベースのポピュラーな亜人。残念アへ顔少女。

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