表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
神樹の森編1 嵐の夜に
66/256

存亡をかけた

 


 目を覚ましたら牢屋にいた。


「いやなんでだよっっっっ!?」


 ソリューニャの声は反響しながら消えていった。


 両手首に手枷がつけられ、鎖がそれらを繋いでいる。どうやら封魔鉱で作られているようで、魔術で牢を破ることもできない。

 同じ牢屋にいたレンたちも思い思いに怒鳴り散らしていた。


「うおおお! あのフクロウぜってー許さねぇっ!」

「出せーーーっ! コンノヤローーー!」

「う、う……ん。うるさいナァ、もう」


 最後まで寝ていたリリカも目を覚ました。


「おはよーソリューニャ……どうしたの?」

「いやアタシが聞きたい! なんだこれは!」

「ソリューニャがはしゃいでる……。珍しいね」


 ソリューニャが頭を抱える。

 なぜ人間が襲ってきたのか。なぜミュウと知り合いだったのか。なぜ眠らされたのか。そしてなぜ牢屋にいるのか。

 分からないことだらけというか、分からないことしかないというか。しかし次のリリカの言葉がさらなる謎を呼んだ。


「ところでさぁ。おーじょって、何?」

「…………は?」

「いや、最後に聞こえてさ。“ミュウおーじょ”って」

「……………………」


「いや、ちょっと待って。いやいや、ありえないでしょ。いやいやいや、確かにあの高スペックの説明もつくけどさ。いやいやいやいや、だったら牢屋ってなんでだよ」

「どーしたの?」

「くっ! 3バカとはこの気持ちを共有することもできないのか!」

「それあたしも含めてる? ねぇ含めてるよね?」


 と、盛り上がってきたところでぞろぞろと小柄な兵士たちが現れた。

 先頭に立つのは他より少しだけ目立つ格好の、おそらく隊長あたりなのだろうが背は低めの女のダークエルフ。


 その彼女が開口一番に、

「子供ばかりだな」


 名はリエッタ。身長はミュウより少し高いくらい。まだ若くそしてダークエルフの性質に忠実に童顔。

 そんな彼女が、見上げるようにして四人に放った言葉がこれだった。


『いや子供はお前だよ!』


 ツッコミは綺麗に揃った。


「なんだと!? これで25、貴様らより明らかに年上だ!」

「冗談よせ」

「冗談だとぉぉぉぉ!?」

「ちょっと、落ち着いて下さい!」


 白熱するかに思われたが、兵士たちがリエッタをなだめて話を本筋に戻した。


「くっ。いいか、よく聞け。お前たちが善人か悪人か、古くよりフィルエルムにある方法でそれを見極めることになった!」

「その前にアンタが本当に大人なのかを見極めたいんだけど」

「まだ疑うのかっ!?」

「まぁまぁまぁリエッタ隊長」


 いちいちジンや珍しくソリューニャの茶々が入って、話が進まない。また兵士たちがリエッタをなだめる。


「て言うかミュウに会わせてくれよ。なんであいつだけここにいねーんだ?」

「馬鹿か貴様。ミュウ様はこの国(フィルエルム)の王女にあらせられるんだぞ」

「レンの言うことにも一理あるだろう。何のつもりでアタシたちを閉じ込めてんのかなんとなく想像つくけど、それならなおさら直接会うのが早い」

「ふん。子供には分からない事情もあるのさ。子供には、な!」

「大人げないねぇ」


 事情どころか王女の意味すら分かっていないリリカがニコニコと言った。


 すかさずはしゃぎモードのソリューニャ、

「大人でないねぇ」

「な……っ! まだ言うか! 離せーーー!」

「どぉーどぉーどぉー」


  必死に抑えられるその姿はまんま駄々っ子である。


 結局話をまとめると、これから四人はある場所に行って身の潔白を証明しなければならないようである。ちなみにどうやら、ソリューニャたちは誘拐した犯人かもしくはそれと繋がりのある人物である疑いがかかっているらしかった。





 そして連れてこられたのは、何もない、強いていうなら少し広いくらいが特徴の部屋である。あまり使われていないのか、カビ臭くてホコリも溜まっている。


「で、ここがその場所かい? 何、潔白って拷問でもして確かめるつもり?」

「誘拐なんかしてないよっ! だから痛いことしないでーっ」

「それはこれから分かる。では、あとは頼むぞ」

「ああ。俺のわがままを通してもらって、悪いな」

「いいさ。いつも世話になっているからな」


  数人の兵士を扉の前に残してリエッタが部屋を後にし、彼女と入れ替わりに部屋に入ってきたのは、ホムラ=イズモ。レンたちの記憶にも新しい、不意討ち爆撃を仕掛けてきた青年である。


「あーーーっ!」

「てめぇーーーっ!」

「大人しくしていろ。本当に潔白なら、すぐに分かるさ」

「うるせぇ! あんときゃよくもやりやがったな!」

「ふん。人間は同じ人間の方がよく分かる……と言って見に来たが、的はずれだったかな」


 彼が壁の石を手探り、そのうちの一つを押し込んだ。

 すると、部屋の奥の壁が重苦しい音をたてながらゆっくりと開かれた。何か魔導がかかっているのか、真っ暗で奥が見えない。


「この先にあるのは、罪人たちがその真実を透かし見られるところ……」

「待て」


 遮ったのは、いつもの落ち着きを取り戻したソリューニャ。彼女には四人の中で唯一の常識人として聞くべきことがあった。


「アンタ、何でフィルエルムに? ミュウとの関係は? そしてなんでミュウも一緒に眠らせたんだ?」

「うるさい女だ。だが、そうだな。もし潔白を認められたなら、つまり戻って来れたのならその時に説明してやろう。その時に、な」


 取りつく島もない。せめて旅の中でミュウが説明してくれていればよかったのにと思うが、過ぎた話である。


  と、ここで意外な来客があった。


「少し、よろしいでしょうか?」

「おや、あなたはミュウ王女の……」


 入ってきたのは、ホムラにも見覚えのある老人。たしか、アーマングと言ったか。ミュウの専属の執事だ。

 アーマングは背筋をピンと伸ばして、しかしそれでも張ったような感じはなく、完璧な角度で一礼した。隅々まで完璧な執事としての立ち振舞いからはそのしとやかさが滲み出ている。


「はい、ホムラ様。これからこの者たちを“あそこ”に送るところでしょうか」

「ええ。まさに今から。それが、なにか?」

「ふむ。ミュウ様がお帰りになられて、聞けばその四人がついてきたそうで。ですが、“あそこ”に送られてしまえば二度と会えなくなるかもしれません。だからその前に一度、顔を見させていただきたいと思いまして」


 リリカたちは彼のことを知らなかったが、不思議とホムラが入ってきたときのような緊張はしなかった。


「顔を。なぜ」

「長生きすると、見えなくなるもの以上にいろいろなものが見えるようになります。彼らがミュウ様の誘拐に一役買ったのか、それとも単なる善意でここにきたのか、彼らの目を見て、彼らの口から聞いてみたいのです」

「それでこの処遇が変わることはありませんよ」

「承知しております。ただの興味ですから、少しだけお時間頂ければ」


 アーマングはそういうと、自然な足取りで近づいてきた。そしてレンの前まで来ると、その細い目で彼を見つめながら問うた。


わたくしは、アーマング。以前ミュウ様の専属執事をさせていただいておりました者でございます。して、あなたのお名前は?」

「レンだ」


 レンは目を逸らさず、真っ直ぐにアーマングの目を見返しながら名乗った。


 アーマングはその瞳を見ると、あらかじめ考えて考えていた質問を捨て、心にふと浮かんだことをそのまま口にした。いつもは考えてから話す彼にしては珍しいことだった。


「レン殿。あなたは…………いえ、ミュウ様は。ミュウ様は楽しまれていたでしょうか」

「んー? 聞いたことねぇけど、オレは楽しかった。あいつも笑ってた」

「そうですか…………」

「お前……」


 アーマングはそれを聞くと踵を返し、ホムラに一礼すると部屋を出ていった。木の扉がきしんだ音を立てて閉まる。

 ホムラはそれを後ろで聞いていたが、非常に奇妙な会話だった。


(ふん……。どうやら悪人でないとわかった上での会話のようだったが)


「では、進め。その暗闇の向こうは“断罪の森”に繋がっているらしいが、そこに出口はない。心にやましいことのない善人の前にのみ出口が開かれるそうだ」

「出られたら無罪ってことかな? あまり飛躍しすぎてていまいち信じられないんだけど」

「昔からの決まりらしい。実際に出てきた者も、二度と帰らなかった者もちゃんといるようだ」


「お前、出てきたら一発ぶん殴るからな!」

 レンが消えた。


「フクロウにも言っとけ! きっちりお礼はするからな!」

 ジンも消えた。


「あーあー、怖いよ。もぉ……」

 そしてリリカが。


 最後に残ったソリューニャは一寸先の闇の前で立ち止まると、振り返って言った。


「アンタ、何を企んでる?」


 リリカたちはこの大陸にいたわけではないからあまり気にしなかったのだろうが、ソリューニャはずっと引っかかっていた。

 フィルエルムといえば他種族との交流をほとんどしない。ホムラのような人間が国の中枢にも踏み込んでいるのは前代未聞、極めて異常。


「…………」

「…………」


 しばし無言で睨みあい、相手に答える気がないのを理解すると、ソリューニャも闇に消えていった。

 あとに残されたホムラは壁を戻すと、兵士たちとともに部屋をあとにした。


 ◇◇◇






 整頓された部屋の中心に置かれたベッド。ほんのりと懐かしい匂い。この空間を、彼女の体は覚えている。


「んん……。ふぁ~っ」

「お目覚めになられましたか、ミュウ様」

「あれ? じーじ……? みなさんは……」


 寝ぼけ眼をぐしぐししながら、ミュウはきょろきょろと周りを確認した。まだ記憶の端が捕まらない。


「ふむ。レン様たちは断罪の森へ行かれました」

「んー。だんざい……」


 そこでミュウはようやく思い出した。


「そうだ! 私、ホムラさんとフクロウさんに会って、眠らされて!?」

「ふむ、ホムラさんが謝っておられました。侵入者を捕らえようと思ったら気づかぬままミュウ様も眠らせてしまったと」

「気づかない……? よく思い出せないですけど、そんな感じ……なのです?」


 そんなことより、とミュウはアーマングに尋ねた。


「レンさんや、ジンさんたちは!? 無事ですか!?」

「ですから、断罪の森におられます」

「断罪の……!?」


 なぜ、と聞こうとして思い留まった。


(私の、私のせいなのです……。ちゃんと説明しなかったから、誤解を生んでしまったです)


 即座に原因に思い至った。同時に、自分の失敗が苦しくて俯く。


(怖かったのです。私が立場を明かしてしまったら、関係が変わってしまうのが……)


 じわりと目頭が熱くなったところで、アーマングがミュウに切り出した。


「ミュウ様」

「じーじ……」

「少し、大事なお話がございます。今はとにかくやるべきことがあります」

「……そう、なのです。みなさんへの誤解をといて助けなきゃ。そうなのです……!」


 勇んで立ち上がったミュウだったが、アーマングがそれを制止した。


「いえ、お話というのはもっと大きな、フィルエルムの存亡に関わることです」

「え? そ、存亡?」

「はい。この国にはもう時間がございません」

「!?」


 唐突のことに混乱するミュウに追い討ちをかけるように、アーマングはきっぱりと言った。


「全てはホムラたち…………いえ、盗賊団アルデバランの筋書き通りだったのでございます」

封魔鉱。魔力を通さない鉱物で、特殊な加工をすると魔法を封じることができる。魔法を封じるため、強力な魔術師や魔導士の無力化が可能。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ